日韓スワップ巡る「麻生発言」と韓国の反応
私がこのウェブサイトで精力的に追いかけているテーマの一つが「日韓スワップ」です。今月2日に麻生太郎副総理兼財相が「日韓スワップの再開に向けた交渉が停滞中」であることを示唆する発言を行いましたが、これに関連する韓国メディア側の報道や過去の日韓スワップの概要を振り返るとともに、日本国民の一人として、安倍政権に対して最低限「求めたいこと」について明らかにしておきたいと思います。
やはり日韓スワップ交渉は「停止中」
麻生副総理の重要発言の意味
麻生太郎副総理兼財務大臣は12月2日の閣議後の記者会見で、「日韓通貨スワップ取極」(以下「日韓スワップ」)の状況について、「交渉のしようがない」と述べました。ようやく、財務省のウェブサイトに正確な会見記録が掲載されましたので、本日は「日韓スワップの最新状況」として、麻生副総理の見解を加えておきたいと思います。
麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成28年12月2日(金曜日))(2016/12/02付 財務省ウェブサイトより)
問)韓国のパク・クネ大統領が辞任の意向を表明しました。経済政策の面では日韓スワップの協議の開始を8月に合意していますが、こうしたところへの影響について御所感をお伺いしたいと思います。併せて中国の財政部長も以前交代していますけれども、年内の日中財務対話などへの、経済政策への影響についてもお伺いしたいと思います。
答)パク・クネ大統領の政権移譲という話なので、誰が話を決めるのだか、全然わかりません。したがって交渉のしようがないのだと思います。楼継偉については、日中財務対話をやろうとしていたところ、3週間ぐらい前にいきなり退任すると言ってきましたので、後任の部長が来られるかという話をしたのですが、もう少し職務をある程度やってから、という話になるのでしょうか。向こうの話ですので、そこのところはよくわかりません。
上記以外にも他にも質疑はありましたが、とりあえず本日は割愛します。
重要なことは、8月27日に韓国側の提案で開始された日韓スワップの協議状況について、麻生副総理ご自身が12月2日時点で「誰が話を決めるのだか、全然わからない(ので)交渉のしようがない」、と述べた、という事実です。
おそらく、麻生太郎副総理はご自身が総理大臣だった2008年12月に、韓国との間で当時の日韓スワップの規模を大幅に拡充した時に、韓国が「支援が遅い」だの、「金額が少ない」だの文句を言いまくったことを、よく覚えていらっしゃるのではないでしょうか?
麻生副総理は今年8月27日の「日韓財相対話」以前に記者団に対し、日韓スワップについて、
「あれは韓国が必要とするもの。(だから)韓国が要請して来ないと(日本としては応じる必要がない)。」
などと常々公言されていました。また、財務省ウェブサイトで公表されている今年8月27日の「日韓財相対話」の議事録上も、日韓スワップ再開の「提案」は韓国側から行われていることが確認できます。
これらのことを総合的に判断すれば、麻生副総理としては、おそらく、日韓スワップを再開するとしても、そのプランの詳細については韓国側に考えさせようとしているのではないでしょうか?もしそうだとしたら、韓国が今や完全に「司令塔」を喪失している状況にあるため、スワップ交渉は完全に停止しているとみて間違いなさそうです。
韓国側の報道から見える「ホンネ」
ところで、日韓スワップについて見るときに、重要な点が二つあります。一つは、過去に締結されていた日韓スワップは、全て日本が韓国を一方的に救済するものだったという点で、もう一つは、韓国政府が韓国国民に対し、「韓日スワップは韓日双方にメリットがある」とウソをついていた、という点です。
ところが、麻生副総理の発言(日韓財相対話が行われた8月27日以前、あるいは12月2日の発言)から判断する限り、麻生副総理は
- 日韓スワップは韓国に対する一方的支援である
- 日韓スワップの交渉は韓国の要請に基づいて開始した
という二点を、強く示唆しています。そして、これについて「戸惑い」を見せる韓国のメディアの記事を発見しました。それが、次のリンクです。
チェスンシル事態に国格墜落?… 韓日通貨スワップも「萎縮」(2016-12-02 16:01付 NEWS1より【※韓国語】)
記事のタイトルにある「国格」とは、日本語にはありませんが、韓国のメディアに良く出てくる表現で、いわば「国としてのプライド」のようなものです。つまり、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権が事実上、「司令塔」を失っている状態である現在、日韓スワップの交渉も難航している、という意味でしょう。
リンク先は韓国語であるため、そのままでは読めません。そこで、翻訳サイトなどを活用して、私の文責で日本語により要約しておきます。
- 韓日通貨スワップ交渉を巡り、崔順実事態発生後、交渉に支障が生じているとの発言が出てきた
- 共同通信によると、麻生太郎・日本副首相兼財務長官(※原文ママ)は記者懇談会で「(韓日通貨スワップ)の交渉を誰が仕上げるのか見積ることができない」「(韓国と)交渉する方法がない」と述べた
- しかし、実際の日韓実務協議は継続中であり、副首相の交渉パートナーであるユイルホ経済副首相が職を維持しているため、この副首相の発言は、交渉相手国に配慮していない言動に見える
- 企画財政部の関係者は、「日本当局と実務的な協議を続けており、最近も日本と接触した」と明らかにした
- 日本は8月に通貨スワップ再開を発表した時にも「韓国側の要求により交渉を開始する」という点を公表している
- また、過去の韓日通貨スワップでは日本の引出限度額が韓国のそれよりも少なかったが、それは日本が助けを多く必要としないことを意味しており、表面上日本が私たちに助けを与え、私達が助けを受けているかのように見せたりもした
- 今回の交渉で、韓国は、両国の引き出し限度のバランスを合わせて均一な立場でスワップを締結しようと努力しているが、日本がこのような条件を受け入れるかは未知数だ
…。いかがでしょうか?この記事に、韓国政府と韓国国民の本音が詰まっているように思えるのは私だけでしょうか?
確かに、過去の日韓スワップでは、日本の方が不利(韓国の方が有利)な協定(つまり日本から韓国への一方的支援)となっていました。しかし、NEWS1の記事によれば、韓国政府側は現在、新たに締結される日韓スワップを、(見た目は)「日韓対等」な協定にしようと躍起になっているようです。
この記事の内容が事実なら、「韓国は日韓スワップを必要としているものの、それと同時に韓国側は『国格』にこだわっており、『日本から韓国への一方的支援』という形ではなく、(名目上は)『日韓対等のスワップ』にしたがっている」、ということです。金融危機・通貨危機が間近に迫っているというのに、メンツばかりにこだわるとは、韓国政府は本当に愚かだというほかありません。
もっとも、麻生副総理が「日韓対等なスワップ」を受け入れるかどうかは、私には定かではありませんが…。
過去の「轍」を踏まないために
では、過去に存在した「日韓スワップ」の実態は、どのようなものだったのでしょうか?ここで簡単に振り返っておきましょう。
日韓スワップの経緯①米ドルを提供するスワップ
1997年から98年にかけてアジア地域を襲った「アジア通貨危機」では、投機筋などによって多くの国(特にタイ、インドネシア、韓国など)の通貨が売られ、これらの国では経済・国民生活が破綻寸前にまで追い込まれました。
こうした「通貨危機」の再発を防ぐために、タイのチェンマイで2000年5月に行われた「第2回ASEAN+3財相会議」では、地域の安全網として通貨スワップ協定を多数成立させることで合意されました。これが「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」です。
CMIでは、日本とASEAN諸国、中国とASEAN諸国など、多数の国々の間で通貨スワップ協定が成立しました。日韓スワップもこの文脈の一つに位置付けられます。
CMIスワップの特徴は、「資金援助国」が「通貨危機国」に対して、「通貨危機国の通貨」と引き換えに米ドルを提供する、というものです。実際、2001年7月に締結された最初の日韓スワップは、
「日本(財務省の外為特会)から韓国(韓国銀行)に最大20億ドルを提供し、韓国がそれに相当する韓国ウォンを日本に担保として提供する」
というものでした。当然、韓国ウォンは、当時(あるいは今でも)国際的な通用力などありませんから、これは明らかに日本から韓国に対する「一方的な金融支援」だったのです。
日韓スワップの経緯②CMIスワップの双方向化
ただ、この「20億ドルのCMIスワップ」は、明らかに日本から韓国に対する「金融支援」であり、このことは韓国にとっては「プライドが許さなかった」のかもしれません。このCMIスワップについては、2006年に、次のように改定されます。
- 【条項1】韓国が要請した時に日本は韓国へ米ドルを100億ドル提供し、担保として韓国から日本へ韓国ウォンを提供する
- 【条項2】日本が要請した時に韓国は日本へ米ドルを50億ドル提供し、担保として日本から韓国へ日本円を提供する
もちろん、この「条項2」については、日本が米ドル不足に陥って韓国に支援を要請する、ということであり、現実には考えられない話です。ただ、この「条項2」を入れた理由は、おそらく、韓国政府が韓国国民に対し、「韓日スワップは韓日双方にメリットがある協定だ」と強弁するためでしょう。
ただし、2012年12月に成立した安倍政権下で副総理兼財相に就任した麻生太郎氏は、「日韓スワップは韓国のためのものだ」と公言するなどしたため、それに怒った韓国側が「継続」を要請せず、このスワップ協定は2015年2月に失効しています。
日韓スワップの経緯③日本円を提供するスワップ
日韓スワップにはもう一つの種類があります。それは、CMIと無関係に締結された、「日本円と韓国ウォンのスワップ」です。
2005年5月に日本は韓国と、「自国通貨同士のスワップ協定」を締結しました。この場合、日本側の契約当事者は財務省ではなく、日本銀行です。その内容は、
「日本(日本銀行)から韓国(韓国銀行)に最大30億ドル(相当の日本円)を提供し、韓国がそれに相当する韓国ウォンを日本に担保として提供する」
というものです。ただ、このスワップは「米ドル」を提供するものではありませんが、日本円自体、米ドルには劣るものの、国際的な資金市場ではかなりの通用力があります。このため、このスワップも韓国に対する「一方的な金融支援」であるといえるでしょう。そして、このスワップはリーマン・ショック直後の2008年12月に200億ドル相当にまで拡大され(ただし2010年4月にいったん30億ドルに戻る)、さらに2011年10月には、当時の野田佳彦政権下で韓国の大統領だった李明博(り・めいはく)との間で、300億ドル相当(つまり「10倍の規模」)にまで膨張しました。
ただ、李明博の島根県竹島不法上陸事件を受けて日韓関係が急速に悪化。300億ドルへの「増額措置」は2012年10月に失効して金額は30億ドルに戻り、2013年7月には30億ドルの中央銀行スワップ自体が失効し、今日に至ります。
日韓スワップの経緯④300億ドルの「野田スワップ」
日韓スワップで最大の「問題」だったのは、野田佳彦政権が李明博政権との間で成立させた、「300億ドルのスワップ」(通称『野田スワップ』)です。
これは、2011年10月に電撃的に成立したもので、上記②③のスワップに加え、
「韓国が要請した時に日本は韓国へ米ドルを300億ドル提供し、担保として韓国から日本へ韓国ウォンを提供する」
というものです(ただし2012年10月に失効済み)。つまり、
- 「②CMIスワップ」100億ドル(米ドル)
- 「③中央銀行スワップ」300億ドル(日本円)
- 「④野田スワップ」300億ドル(米ドル)
の3本で、実に700億ドル(!)という巨額のスワップラインが韓国に提供されていたのです。
ところで、余談ですが、日本からのこの潤沢な信用保証を受けた韓国は、その後、日本に「感謝」したでしょうか?実は、現在も日韓間の「懸案」となっている「慰安婦像問題」(韓国の日本大使館前の公道上に、日本を侮辱する目的で慰安婦の銅像が設置されている問題)が発生したのは、「700億ドルスワップ」締結直後の2011年12月のことです。また、2012年8月には当時の韓国大統領だった李明博が島根県竹島に不法上陸したほか、天皇陛下を侮辱する発言まで行っています。つまり、2011年から2012年にかけて行った、日本を貶める様々な行為は、まさに「恩を仇で返す行為」です。私は日本国民の一人として、この韓国のやったことを絶対に忘れるつもりはありません。
まとめ:いずれも日本から韓国への「一方的援助」
というわけで、過去に存在した4つのスワップは、いずれも日本から韓国への「一方的援助」だったと結論付けることができます。そして、こうした「一方的支援」に対して韓国が日本にやったことは、日本大使館前に日本国と日本国民を侮辱する「慰安婦像」の設置や、韓国の現職大統領による日本固有の領土への「不法上陸」だったのです。
もちろん、二番目のCMIスワップ(日⇒韓100億ドル・韓⇒日50億ドル)については、見た目こそ「韓国も日本に米ドルを提供する義務がある」かのように見えますが、実際に日本が日韓スワップ締結以降、「国として」米ドル不足に陥ったことはなく、今後もそうなるとは考え辛いのが実情です。
日本は財務省・外為特会を中心に100兆円を超える外貨準備を保持しており(その多くは米国債などで運用)、これに加えて日本銀行がFRBニューヨーク連銀との間で、期間・金額が無制限の「米ドル・日本円為替スワップ取極」を保持しています。このため、わざわざ韓国から日本円を担保に米ドルを借りる必要があるとは、私には到底、思えないのです。
韓国の要請、日本の必要性
以上の議論をまとめておきましょう。
喉から手が出る韓国側の事情
まず、韓国は外貨不足に陥りやすい国です。ただでさえ外貨調達が多いのに、外貨準備の中身も怪しいのが実情です(詳しくは『韓国の外貨準備の75%はウソ?』もご参照ください)。
こうした状況に加え、韓国を含めた新興市場(EM)諸国は、現在、資本流出リスクに怯えています。なぜなら、米国のトランプ次期政権が財政支出を拡大すれば、間違いなくEM諸国から投機資金がから引き揚げられるフローが発生するからです。
さらに、韓国は「日本相手であれば、『歴史問題』を持ち出せば、道徳的優位に立てる」と勘違いしています。その意味でも、韓国は何としても、「日本との間で」、「米ドルか日本円(などのハード・カレンシー)を手に入れることができる」スワップが欲しくてたまらないのです。
くどいようだが日本に「経済的」メリットは皆無
ただし、くどいようですが、日韓スワップには日本にとっての「経済的メリット」など、皆無です(詳しくは『老獪な菅官房長官の「日韓スワップ」発言』の『2.日本にどのようなメリットがあるの?』あたりをご参照ください)。
また、私自身、「金融評論家」である以前に「日本国民」、「日本国の主権者」の一人でもあります。感情論だけで申し上げるならば、これまで散々、従軍慰安婦問題などのウソで日本国の名誉を傷つけてきた韓国という「国自体」を、好きになれと言われても無理な相談ですし、ましてやその「嫌いな国」をわざわざ助けるための協定などは「論外」です。
ただ、こうした「感情的な思い」とは別に、日韓スワップ協定も「うまく使えば」、日本の国益に役立つことも事実です(あくまでも「うまく使えば」、ですが…)。これを踏まえ、安倍政権が万に一つ、韓国との通貨スワップ協定を再開させるつもりなのであれば、私は日本国の主権者の一人として、少なくとも次の3点を求めたいと思います。
- 日韓スワップ協定は韓国側から「必要だ」と懇願させ、それを国際社会に対しても明らかにすること
- 日本から韓国への一方的支援であることを明示するために、敢えて「米ドル・韓国ウォンの交換」という「一方向スワップ」とすべきであること
- 普通の国とのスワップにはない、「一定額以上を引き出すとIMFとリンクする条項」や、「反日行為をした場合、日本側からの一方的破棄が可能」などの特約を付けること、あるいはスワップの契約期間をうんと短くすること
スワップ不可避なら、うまく使って「政治的」メリットを引き出せ!
そして、万が一、日本が韓国に対して日韓スワップ協定を再開すれば、逆に日本は韓国に対し、「金融面」からの支配力を持つことができるかもしれません(もちろん「うまく使えば」、という前提付きですが…)。これが日韓スワップの「政治的メリット」です。
繰り返しになりますが、安倍政権がどうしても日韓スワップを「再開する」のなら、少なくとも私が上で示した3点は絶対に守ってほしいと思います。そして、日本政府がこれをうまく「政治的に」使いこなせるというのであれば、あわせてそのことをきちんと国民に向けて説明してほしいと思います。安倍総理や政権関係者がこのウェブサイトをご覧になられているかはわかりませんが、是非ともお願いしたいところです。
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