「為替スワップは長期支援に不適」と今さら気付く韓国

当ウェブサイトでは当初から一貫して、韓国が米国と結んだ為替スワップは「通貨スワップではない」と申し上げて来たのですが、当ウェブサイトに4ヵ月前に掲載した『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』という議論に、やっと韓国メディアが追い付いてきたように思えます。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、「米国との『通貨』スワップは中・長期的な危機に役立たないのではないか」という指摘が出て来たからです。

為替スワップの現状整理

米FIMA為替スワップ

武漢コロナ禍のさなか、3月上旬から金融機関の米ドル資金調達が困難になる、という現象が、世界的に発生しました。そして、この手の「米ドル流動性不足」という現象、国際的な経済ショックが発生した場合にはしばしば発生しているものでもあります。

こうした状況を受け、米国の事実上の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は3月19日、世界の9ヵ国の外国中央銀行・通貨当局(FIMA)とのあいだで、臨時に為替スワップ協定を締結しました。

FRBは日英欧加瑞5ヵ国・地域のFIMAとすでに期間・金額無制限の為替スワップ協定を保有していたのですが、3月19日にあらたに設けられた為替スワップは、この5ヵ国・地域以外のFIMAとのあいだで、期間は最低6ヵ月、金額上限付きという限定的なスワップを設けるものです。

米FRBとのFIMA為替スワップ
  • 常設・金額上限なし…日本、英国、欧州、スイス、カナダ
  • 期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
  • 期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド

直近の借入額

ただ、現時点における各FIMAの為替スワップに基づく借入残高は、日銀が圧倒的に多く、それ以外の中央銀行の借入額は、大したことはありません。

これについてはニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” で、3月2日以降のすべての入札実績を確認することができるのですが、その最新残高は図表1のとおりです。

図表1 FIMA別・為替スワップの借入実行残高(7月8日入札・7月9日スタート分以降)
FIMA名残高平均金利/平均日数
日本銀行1119.71億ドル0.32%/71日
欧州中央銀行170.26億ドル0.31%/82日
シンガポール通貨庁50.10億ドル0.32%/84日
メキシコ銀行49.10億ドル0.35%/84日
スイス国民銀行48.32億ドル0.31%/84日
韓国銀行47.12億ドル0.33%/84日
ノルウェー銀行35.50億ドル0.33%/84日
イングランド銀行3.95億ドル0.32%/84日
デンマーク国民銀行3.00億ドル0.34%/84日
豪州準備銀行0.20億ドル0.30%/84日
カナダ銀行なし
ニュージーランド準備銀行なし
スウェーデンリクスバンクなし
ブラジル銀行なし
合計1527.26億ドル0.32%/74日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

全体で1527.26億ドルのうち、日銀の借入残高が3分の2を超えており、事実上、日本の金融機関が低利で米ドルの3ヵ月までの短期資金を取るための手段となってしまっている状況です。

役割を終えたFIMA為替スワップ

当初、米FRBがこのスワップを始動した目的は、米ドル流動性不足により外国金融機関が経営破綻し、そのことで米国自身も多大な被害を蒙る、といった事態を避けることにあったと考えられます。

しかし、日本以外の各FIMAの借入残高は非常に少なくなっており、借入総額も1500億ドルあまりと最盛期の約3分の1に落ち込んでいるため(図表2)、今回の為替スワップはもうその役割をほぼ終えたと考えて良いでしょう。

図表2 FIMA為替スワップの残高推移

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

また、各FIMAの借入額が最大だった時点と、その時点における借入額を一覧にしたものが、図表3です。

図表3 FIMA為替スワップの最大借入額
借入主体最大額その時点
借入額合計4489.46億ドル5/25(月)~5/29(金)
日本銀行2258.39億ドル5/25(月)~5/29(金)
欧州中央銀行1449.81億ドル6/8(月)~6/12(金)
イングランド銀行376.95億ドル3/31(火)~4/4(土)
韓国銀行187.87億ドル5/6(水)~6/26(金)
スイス国民銀行114.03億ドル4/18(土)~4/22(水)
シンガポール通貨庁100.28億ドル5/25(月)~6/4(木)
メキシコ銀行65.90億ドル4/6(月)~6/27(土)
ノルウェー銀行54.00億ドル4/25(土)~6/23(火)
デンマーク国民銀行52.90億ドル4/15(水)~5/8(金)
豪州準備銀行11.70億ドル4/29(水)~6/20(土)

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

日本単独で20兆円以上にも相当する金額を借り入れていたというのも凄い話ですが、この理由については以前の『日米為替スワップ「本当の意味」と国債372兆円増発』あたりでも詳述していますので、適宜ご参照ください。

やっと気づいた?

通貨スワップとは別物

さて、この為替スワップの正体、いったい何なのかといえば、米FRBが外国中央銀行・通貨当局(FIMA)を経由して、相手国の民間金融機関などに対し、直接、米ドルの短期資金を貸し付ける取引のことです。

この為替スワップ、見た目は通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Arrangement)と似ていますが、実際には通貨当局が米ドルを外貨準備的に使う、といった使い方はできません。そもそも為替スワップ自体、金融市場に提供される流動性供給手段のひとつだからです。

こうした通貨スワップと為替スワップの違いについては『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』で報告したとおりですので、本稿ではとくに繰り返すことはしません。

ただ、この為替スワップの締結相手国に韓国が含まれていて、韓国メディアがこれの米韓為替スワップのことを「米韓通貨スワップ」だと誤記し続けている、という話については、『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』で指摘しました。

つまり、実際には通貨スワップではないにも関わらず、韓国の中央銀行である韓国銀行自身が、今回の米韓為替スワップをあたかも「米韓通貨スワップ」であるかのごとく報道発表したのです。

現在のところ、この武漢コロナ禍は世界的な金融危機に発展せずに済んでいますが、おそらくこれはあくまでも結果論に過ぎません。もしも韓国からの資金流出が本格化した場合、この600億ドルの米韓為替スワップだけでは間に合わなかったという可能性があります。

この点、巨額の米ドル建て通貨スワップを外国と結ぶことができる国は、北朝鮮と並んで米ドル紙幣を刷ることができる米国以外には、巨額のドル建て外貨準備を保有する日本くらいしかありません。

だからこそ、もし今回の米韓為替スワップが予定どおり9月に満了すれば、韓国メディアからは再び、「韓日両国のために韓日通貨スワップが必要だ」、といった妄言が出て来ることでしょう(韓国が「お互いに」と言い出すときは、たいてい、メリットが韓国にしか存在しないときでもあります)。

「米韓『通貨』スワップは中・長期的に役立たない」

こうしたなか、当ウェブサイトの議論から約4ヵ月遅れて、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されているようです。

韓国経済学教授「韓米通貨スワップ、強力だが限定的かも」

韓国の大学の経済学教授が韓国の外為市場で韓米通貨スワップは強力に作用するが、その意味は限定的かもしれないと警告した。<<…続きを読む>>
―――2020.07.13 11:47付 中央日報日本語版より

これは、延世(えんせい)大学校経済学部の教授が韓国経済誌に寄稿したコラムで、今回の「通貨スワップ」(※原文ママ)が基本的に「短期的な流動性支援」に過ぎなかった、という点を指摘したうえで、「財政危機と結びついて通貨危機が発生した場合の効果は限定的だ」などと述べたのだそうです。

通貨スワップと為替スワップを混同している時点でいまひとつですが、この記事が述べる「今回のスワップは効果はあくまでも短期的な流動性の支援にあり、中・長期的なファイナンスには適さない」という指摘は、当ウェブサイトですでに4ヵ月以上前から述べて来たことです。

もちろん、そもそもの通貨スワップ協定にもさまざまな種類のものがありますし、通貨スワップのなかには「ローカル通貨建て通貨スワップ」(BLCSA)のように、結果的に為替スワップに近い機能が期待されるものもあります。

しかし、FRBが韓国と結んだスワップは、FRB自身が “Liquidity Swap” (流動性スワップ)と明言しているとおり、一般には為替スワップの範疇に属するものであり、FIMAに直接、外貨を提供するという「通貨スワップ」ではありません。

基本的な用語を大事にしない人たち

さて、この「通貨スワップ」「為替スワップ」の問題にしてもそうですが、基本的に韓国は用語をあまり大切にしない、という傾向が見受けられます。韓国政府、韓国メディアがなかば意図的に誤用している例としては、ほかに、日本政府が昨年7月1日に発表した輸出管理の厳格化・適正化措置があります。

韓国政府や韓国メディアは日本の措置が「強制徴用工問題に対する報復措置」であり、「不当な輸出規制だ」などと批判しているのですが(『中央日報「韓日関係悪化の責任の大部分は安倍政権に」』等参照)、前後の文脈を無視して切り取る手法は、どうにもいただけません。

ただし、冷静になって思い返してみると、日本にも、「基本的な用語をわざと捻じ曲げる」という人たちがいることに気付きます。

たとえば、2015年9月に成立した安全保障関連法制を巡って、日本共産党をはじめとする一部の政党はこれをいまだに「戦争法」などと誤った用語で呼んでいますし、福島第一原発における処理水のことを「汚染水」と呼ぶメディアもあります。

そういえば、自称元徴用工問題にしても、韓国側では「強制徴用問題」と誤った用語で呼んでいますが、わざと誤った用語でレッテルを張るのは、韓国という国も、日本の特定勢力も、事情は似たようなものなのかもしれませんね。

次のテーマは「国債の分析」

さて、リンク先記事には、こんな記述もあります。

彼はラテンアメリカの国のように財政危機と結びついて通貨危機が発生すれば、米国がドル流動性を提供する可能性も限定的で、根本的な債務不履行のリスクを減らしにくいと話した。

このあたり、当ウェブサイトでは以前から何度も申しあげている、「ハード・カレンシー建て・自国通貨建ての国債」と「それ以外の国債」の大きな違い、という論点とも直結する、非常に重要な指摘です。

とくに、日本円という「米ドル以外では世界最強クラス」の通貨を持つ日本が、なぜ自国通貨建てでもっと積極的に国債を発行しないのか、という論点とも関わるため、これについては近日中に、別稿でじっくりと取り上げたいと思います。

読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    韓国は国中挙げて基本的な用語を大事にしません。いつまでも「為替スワップ」を「通貨スワップ」と言い張る。ワザとでは無く、『細かいことは気にしない』『言葉なんか少しぐらいどうでもいい』、、如何にもルーズな国民の現れですね。

    「韓米通貨スワップは強力に作用するが、その意味は限定的かもしれないと」やっと気づいた?遅いわ。

    1. めがねのおやじ より:

      あ〜私も間違えてましたね。韓米通貨×、韓米為替○でした。

  2. イーシャ より:

    中央日報の記事、私も見ました。
    印象は「もう気づいたの? 韓国人にしては上出来じゃない」でした。
    9月の終了期限が延長されず、そのとき初めて慌てるとばかり思っていました。

  3. カズ より:

    通貨スワップは二国間の信頼に基づく通貨交換
    為替スワップは民間代金決済のための通貨融通

    獲得した外貨の使い道が限定されてるか否かの違いって認識でいいんでしょうか?
    *****

    日:通貨スワップ締結に信頼構築は必須
    韓:通貨スワップ締結は信頼構築に必須

    *前提条件の認識が違うから相容れることはないのかもですね。
    *だから、痛貨スワップを要請されても通過(スルー)すればいいのだし、為替スワップを要請されても躱せばいいだけのことなのかと・・。

  4. WLT より:

    お疲れ様です。

    今気づいても、本格的に国民が騒ぎ出しそうなら後でまたごっちゃ状態に戻りますよ。
    ついこの前の「日本G7拡大反対」と同じで、その時は日本を絡めるでしょう。
    あれも、6月4日の中央日報では既にトランプ一人だけの考えで
    他は皆反対している旨の報道してたのにもかかわらず
    6月28日の中央日報記事では日本だけが反対しているような報道に変わりましたからね。

    そういう気質なんです。

  5. 匿名 より:

    通貨スワップにしろ為替スワップにしろ、経常赤字が続くと思われれば通貨危機に陥るってだけ。
    そもそもイギリスみたいな金融立国ですら通貨危機に陥るのに、いわんや韓国おや。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。なお、コメントに際しては当ウェブサイトのポリシーのページなどの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。