仏像返還しない韓国…通貨スワップの「正しい使い方」

日本政府は昨年、韓国との間で通貨スワップ協定を再開し、また、韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」に戻しました。このことは、視点を変えれば、「じつは良かった」のかもしれません。結果的に、日本としては韓国に対する制裁の手段としての手ごまを増やすことにもつながったかもしれないからです。もちろん、これも日本政府がそれらを「手ごま」としてうまく活用できたならば、という前提がつきますが…。

まったく解決していない日韓諸懸案

日韓諸懸案は、すべて解決した」――。

最近、そんな誤解が蔓延しているフシがあります。

先日の『世論調査での韓国への親近感上昇を牽引したのは高齢者』でも指摘しましたが、内閣府の最近の世論調査でも、韓国への親近感が好転していることが確認できます(「とりわけ高齢層を中心に」、ですが)。

しかし、日韓諸懸案がすべて解決したかのような考え方は、じつは大きな間違いです。

たとえば昨年の『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』などでも指摘したとおり、韓国政府が打ち出してきた自称元徴用工問題の「解決策」は、そもそもの解決になっていません。韓国の大法院(最高裁に相当)が出してきた違法な判決をそのままにしているからです。

そんな解決にもなっていない「解決策」を打ち出してくる韓国政府も韓国政府ですが、なにより、そんな解決策を「日韓関係を健全な関係に戻すものとして評価する」と述べてしまった岸田首相も岸田首相です。

岸田文雄首相の「解決策」は、結局、未来に向けて日韓関係破局の種を撒いただけのことだったのだ、という言い方もできます。

韓国側に恩恵まで与えた岸田政権

ただ、問題は、それだけではありません。

岸田政権は、あろうことか、韓国に対し、▼輸出管理上の「(旧)ホワイト国」に戻す、▼2018年12月の火器管制レーダー照射事件を不問に付す、▼日韓通貨スワップを再開する――、といった譲歩まで行いました。

まったく、どこまでも人が好い政権だ、などと思わざるを得ません。

しかも、韓国政府による「解決策」自体も、早くも破綻の危機に瀕しています。

以前の『【外交のキシダ禍】早速行き詰まる自称徴用工「供託」』などでも指摘したとおり、そもそもこの韓国政府の「第三者弁済」案を拒絶する加害者もいますし、先日の『日立造船供託金差押=自称徴用工』でも取り上げたとおり、被害企業の在韓資産の差し押さえ案件も、絶賛進行中だからです。

ちなみに韓国政府が一方的に破った、2015年12月のいわゆる日韓慰安婦合意に関しても、日本政府としてはその着実な履行を求めているフシはありません。岸田首相自身が当時、外相としてこの合意に関わった当事者であることも踏まえると、これは何とも不可思議です。

いずれにせよ、懸案がまったく解決していないのに、日本の側からこれでもかという恩恵を韓国に与えたことが正しかったのか。

対馬仏像返還問題

じつは、これについては「考え様」です。

あくまでもひとつの異見を述べておくならば、韓国が日本の言うことをきかないときに、日本としてはスワップや「(旧)ホワイト国」待遇などを持ち出す、という外交カードに使おうと思えば使えるからです。

こうしたなかで、昨年は日韓諸懸案のひとつである、対馬の観音寺から韓国人窃盗団が盗み出した仏像「観世音菩薩坐像」を巡る問題で、日本側に有利な判決が出た、とする話題がありました。

といっても、『韓国最高裁「仏像の所有権は日本に」→日韓関係改善?』などでも指摘したとおり、そもそも論として、「韓国人窃盗団が対馬の寺社から文化財を盗み出したこと」、「盗み出された文化財が韓国国内で不当に留め置かれたこと」などを考慮すると、「韓国が日本に何か良いことをした」という話ではありません。

そもそも一方的に不法行為を仕掛けて来たのは韓国側であり、「仏像の所有権は日本にある」とする昨年の韓国大法院判決も、「出して当たり前の判決」であり、韓国側の一方的な不法行為という状態を元に戻したに過ぎず、これを「韓国の日本に対する譲歩」と見るには無理があります。

ただ、これに関連し、さらに呆れた話題があるとすれば、その後、仏像自体が日本に返還されていないことでしょう。

これに関連し、産経ニュースには30日付で、こんな記事が掲載されました。

上川陽子外相、韓国人窃盗の仏像「早期の返還を働きかける」

―――2024/1/30 16:11付 産経ニュースより

産経によると上川陽子外相は30日の記者会見で、仏像が返還されていない問題についてこう述べたそうです。

早期の返還に向け韓国政府への働きかけを継続し、観音寺を含む関係者と連絡を取り、適切に対応したい」。

正直、もはや「働きかけを継続」する段階ではありません。やはり、これもれっきとした、韓国の日本に対する不法行為状態ですので、日本政府が本来やるべきことは「韓国に対する何らかの懲罰」ではないでしょうか。

ただ、以前の『人権法制定より外為法10条1項改正を優先すべき理由』などでも繰り返し説明してきたとおり、現在の日本政府にとって、「相手国が日本に対して違法なことをしている」という理由で経済制裁を発動することは困難です。外為法などには、そのような規定が存在しないからです。

スワップ停止/スワップ破棄でいかが?

では、どうすれば良いのか。

真っ先に考えられるのは、日本が昨年12月1日に再開した韓国との間の通貨スワップ協定を停止ないしは破棄することです。

このスワップ自体、上限がわずか100億ドルで、現在の韓国の経済規模に照らし、通貨危機の発生を食い止めることができる規模ではありません。

ただ、いったん通貨スワップ協定を開いておけば、韓国が危機に陥ったときに上限を拡大することが可能ですし、なにより国際投機筋に対し、「韓国の後ろには日本がついている」との牽制としても機能します。

こうした状況を踏まえるならば、韓国が日本の言うことをきかないときには、通貨スワップ協定の停止ないしは破棄を持ち出すというのは、ひとつの考え方ではないでしょうか。

もちろん、これは日本政府がスワップなどを交渉材料として賢く使うことができれば、という話です。

ほかにも、韓国人の入国ビザ免除制度を再び停止する、といった対抗措置が取れるかもしれませんが、日本経済への打撃の少なさなどを考えるならば、やはりせっかく開いた通貨スワップを交渉材料に使うなどの賢明な手法を日本政府には求めたいところです。

今の日本政府に、それができるかどうかはわかりませんが。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    立憲も、「対馬仏像返還で、岸田総理は韓国との外交能力がない」と批判すれば、岸田内閣支持率を下げることができるのではないでしょうか。

    1. クロワッサン より:

      『対馬仏像返還で』ではなく『対馬仏像返還でも』だと思うのですが、立憲がそれを言っちゃうと献金や選挙支援に不安が出て来そうですね。

  2. 伊江太 より:

    シンシアリー氏が今日のブログで、韓国紙が、元外交通商部長官の肩書きを持つ外交専門家が、寄せた記事を掲載していることを紹介していますね。

    曰く、
    『ある韓国の外交専門家が見た日米韓関係・・「米韓関係のため、日本とFTAしましょう」』

    ウ~ン、日韓FTAねぇ。

    CPTPPにしてもそうですが、そんな話、東北地方の水産物禁輸、自発的に引っ込めた後でなけきゃ、鼻も引っかけてもらえないことくらい、「元外交通商部長官」なら分かってない方が不思議というものなんだが。

    相手にしてもらえないタネと言ったら、「仏像」に限らず、山ほどあるよ。
    とりあえず、日本大使館前の例の「邪神像」。
    「アレ撤去してみたら」と言ってみたところで、

    できねえだろうなぁ。
    なにせ、「脳内妄想の世界」に生きている人達ですから(笑)。

    1. クロワッサン より:

      伊江太 さん

      韓国の手口は「嫌がらせをやめて欲しかったら何か寄越せ」ってヤツだから、韓国側が嫌がらせを止める事はあり得ないし、日本が何か譲歩したからと言って嫌がらせを止める事もあり得ないですね。

  3. 元雑用係 より:

    >通貨スワップ協定を停止ないしは破棄すること

    財務省案件なので外務省自身からはめんどくさくて言い出さない、に一票。
    役所をまたがり得る政治が、その意図を持たない限り始まらないのでは。

    官僚が言い出さないこと、マスコミが言い出さないことを、岸田氏が思いつくか。

  4. クロワッサン より:

    日韓スワップは外務省ではなく財務省の管轄だからって事で、上川外相単独では停止や破棄を出来なさそうですね。

    岸田文雄が英断を下せるか…期待しても無駄っぽいですね。

  5. 雪だんご より:

    スワップで脅しつける事が出来れば良いんですが、誰もが仰る通り
    「そんな事岸田政権にできるのか?」と言う不安が……

    それでもあえて好材料を探すのなら、今回の震災で岸田首相がXを利用して
    役立つ情報を拡散している事。これは間違いなく功績ですし、本来オールドメディアが
    やるべき事をやっていないという証拠にもなります。

    オールドメディアは年々衰弱する一方で、「エビデンスなんて大嫌いだー!」
    「最高裁判で勝つのは卑怯だ!」と泣きわめくばっかりになってきました。
    ここで起死回生で支持率回復する為に、韓国に厳しくするのはいかが?と言いたい。
    もちろん野党やオールドメディアは憎しみたっぷりに反発してくるでしょうが。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告