韓国元金融当局者「韓米日スワップメカニズムが必要」

現在の韓国の対日外交は、李明博(り・めいはく)政権時代に似てきました。日韓関係の「改善」を演じることで、日韓通貨スワップや日韓安保協力などの実利を引き出す、という、一種の「現実主義的な外交」です。ただ、この李明博政権時代の末期には、「現実派」の金泰孝(きん・たいこう)企画官がGSOMIA締結失敗に失望して政権を去り、李明博大統領自身が「暴走」して竹島不法上陸や天皇陛下侮辱などの対日狼藉行為を行った事実を忘れてはなりません。

韓国で復活する「現実派」

以前の『鈴置氏「米韓は二流の同盟、日韓関係も極めて不安定」』などでも取り上げたとおり、韓国観察者の鈴置高史氏は、韓国政府内で最近、親中派(あるいは「伝統派」)が力を失い、親米派(あるいは「現実派」)が力を得ていると指摘しています。

尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領の「外交チーム」から、「伝統派」である金聖翰(きん・せいかん)国家安保室長が更迭され、かわって金泰孝(きん・たいこう)第1次官らに代表される「現実派」が力を得ている、というのです。

ちなみに「伝統派」「現実派」は、もともとは鈴置氏の論考で出て来た用語ですが、何かと便利であるため、当ウェブサイトでも今後、使わせていただこうと思っている次第です。

  • 伝統派…米中二股外交、日本に対しては謝罪要求
  • 現実派…親米派、日本に対しては謝罪を要求しない

現実派外交の顛末

現実派の方が却って日本にとって厄介

さて、この「伝統派」、「現実派」のどちらが日本にとって望ましいのか。

「日本にとって日米韓連携は大事だから、韓国で伝統派が力を失い、現実派が伸長する方が望ましい」、などと主張する人もいるかもしれませんが、そのような考え方は、正直、甘すぎます。国際政治の現実をまったく理解していないと思われるからです。

そもそも論として、韓国は絶対王政国家ではなく、(いちおうは)民主主義国家です。

そして、韓国国民に原理・原則が存在しないためでしょうか、大変に不安定な国でもあるのです。

「国民に原理・原則が存在しないにも関わらず民主主義国家である」というのは、考えようによっては非常に大きな脅威です。ときの政権次第で、外交も内政も、方針が大きくブレるからです。

現在、「現実派」が韓国で優勢になっているのは事実かもしれませんが、「現実派が韓国で今後も力を維持する」という前提条件を勝手において対韓外交を決定するのは、あまりにも危険です。

例えば輸出管理上も、下手に韓国に「(旧)ホワイト国」待遇を与えてしまったあとで、文在寅(ぶん・ざいいん)政権のように極端な反日・反米・親北外交を取るような政権が再び出現すると、日本から輸出された物資が第三国などに大々的に横流しされる危険性が生じるなど、日本の安全保障の脅威となりかねません。

その意味で、韓国の「日本に譲歩(?)しよう」とする現在の動きは、むしろ日本にとって大変に危険な状況ではないかと危惧されます。

金泰孝氏は李明博政権時代に外交を企画した人物

ところで、「金泰孝氏」で思い出すのは、この人物が李明博(り・めいはく)政権時代に大統領府対外戦略企画官として、日韓GSOMIAの推進を含め、さまざまな外交安保政策を企画・設計したという事実でしょう。

防衛省ウェブサイトに掲載されている『海幹校戦略研究』2014年12月号の『日韓軍事情報包括保護協定(日韓GSOMIA)締結延期の要因分析』というPDFファイルの17ページ目(印刷面のP92)以降に、こんな記述があります。

金泰孝企画官は、李明博大統領がまだ候補として2006年の大統領選において選挙対策委員会を発足させた直後の勉強会で李明博と親しくなり、2008年に李明博が大統領に就任した直後、大統領府秘書官になった」。

前廬武鉉政権で崩壊した韓米同盟の修復、北朝鮮への無条件支援の破棄、自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)による経済政策推進などは、金泰孝企画官のアイデアであり、李明博政権の外交安保政策の随所に深く関与してきた」。

ちなみに金泰孝氏は、当時から「日米同盟や日米韓防衛協力は、北朝鮮にとって南への侵略を思いとどまらせる効果がある」などとする論考を公表するなど、「日本の役割を肯定的に評価」してきた人物なのだそうです。これに加え金泰孝氏は、こんな趣旨の政策提言もしていたそうです。

  • 漠然とした反日感情に基づいた排日主義は、韓国の外交安保利益に害になる
  • 日本の普通国家化に対する心理的不安状態を克服し、日本の国力に見合った日本の国際平和の役割が普遍的で妥当な原則に基づいて行われるよう、日韓で緊密な協議体制を構築し、相互信頼努力を行うべき

金泰孝氏が去った直後に何が起きたか

ただし、2012年6月、韓国政府はGSOMIA署名式を1時間前になって土壇場で延期し、金泰孝氏は7月5日に辞意を表明して青瓦台を去ってしまいます。その直後の8月、李明博大統領本人が島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下(現在の上皇陛下)を侮辱する発言を行ったことは、周知の事実でしょう。

ちなみに2011年10月には、日本(当時の野田佳彦首相)は韓国に対し、日韓通貨スワップの規模を700億ドル(ドル建て400億ドル、円建て300億ドル)に拡充するという恩恵を供与しましたが、この日韓通貨スワップによる恩を、李明博大統領は仇で返したわけです。

岸田文雄・現首相が尹錫悦大統領との間で日韓関係「改善」を嬉々として演じているなかで、少なくない日本国民がこの12年前の「スワップ供与→韓国の反日政策転換」という流れを覚えているはずであることを、宏池会政権は少しくらい気に留めた方が良いのではないでしょうか。

「日米韓スワップラインを!」

リーマン・ショック時にも日本はスワップを拡充した

さて、こうしたなかで、その「李明博・竹島上陸事件」に先立つ4年前にも、日本は韓国に対し、通貨スワップを拡充したことがあります。

同年9月、世界的な大手投資銀行だったリーマン・ブラザーズが経営破綻し、全世界のデリバティブ市場、証券化市場などが大きな打撃を受けるなどし、金融機関のリスク許容度が低下し、結果的に国家財政破綻に近い状態に追い込まれる国も続出したのです。

日本では2006年に就任した安倍晋三総理大臣(第一次)、その後継者たる福田康夫首相(当時)がともに1年で退陣し、2008年9月に麻生太郎総理大臣が就任しました。麻生総理は就任直後、さっそくこの金融危機対応に忙殺されることになります。

そして、麻生総理のもとで、日本は同年12月に、当時の日韓通貨スワップを300億ドルに増額する措置を実行。韓国は中国からの通貨スワップ、米国からの為替スワップとあわせて主要国からのスワップによる支援を受けたこともあり、曲折はあったにせよ、2009年夏ごろには危機はほぼ終息したのです。

リーマン時の責任者が「日米韓スワップ・メカニズム」を提唱

そして、2008年の世界金融危機で陣頭指揮を執った人物が、韓国金融監督委員会(FSC)の初代委員長を務めた全光宇(ぜん・こうう)氏です。

その全光宇氏が先週、「ヘラルド創業70周年記念フォーラム~韓米同盟70・アライアンスプラス」のテーマ発表で、「日米韓通貨スワップ・メカニズム」の創設に言及したのだそうです。

全光宇世界経済硏理事長「韓米日通貨スワップ制度など協力定例化しなければならない」【ヘラルド70年フォーラム】【※韓国語】

―――2023.05.24 17:31付 ヘラルド経済より

韓国メディア『ヘラルド経済』によると、全光宇氏の発言は、こんな具合です。

市場のボラティリティに対応するためには、韓国、米国、日本の3ヵ国が『通貨スワップメカニズム』を含む金融安定網を拡充することが非常に重要です。特に金融政策の効果を発揮するためには、韓米日三国の協力を定例化させることが絶対に必要です」。

「日米韓スワップメカニズム」とは、また大きく出たものです。

韓国の立場からすれば、そうしたスワップメカニズムがあれば大変に有用でしょうが、少なくとも日本にとっては不要です。なぜなら、日本は世界最大規模の外貨準備を保有しているだけでなく、自国通貨・円が国際的な市場で通用するハード・カレンシーだからです。

それに、日米両国はすでに、英国、欧州、スイス、カナダとともに、期間・金額無制限の為替スワップメカニズムを構築済みであり、米国としても外国とあらたなスワップ(通貨スワップ、為替スワップ)を締結する必要性に乏しいのが実情でしょう。

また、韓国自身は中国と上限4000億元(!)という巨額のスワップを締結していますし(『中華スワップ残高増から考察する中華金融のお寒い実態』等参照)、ASEAN10ヵ国、日中韓、香港が参加する「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定」も存在します。

どうしてここで「日米韓通貨スワップ・メカニズム」なるものが出現するのか、いまひとつ理解に苦しむ点です。

そういう言い方にカチンとくるのだが…

ちなみにヘラルド経済によると、こうしたスワップの必要性の論拠として、全光宇氏はこう述べたそうです。

韓国を含む一部の国家がグローバル経済危機とパンデミック期間中に活用した特別通貨スワップ制度は、外国為替市場の安定性を維持して回復するのに大きな効果を発揮した。したがって(韓米日3国間通貨スワップなど)先制的措置を通じて韓国の金融システムを復元することが米国と日本にも有利であり、さらにいわゆる逆波給付効果を緩和できる」。

これも、まったく理由になっていません。

たとえば米国にとって、日本との為替スワップは「ウィン・ウィンの関係」にあります。米銀が日本円不足に陥った時に、日銀から直接、円資金の貸与を受けることができるからです。

しかし、韓国ウォンの場合、そもそも国際的なハード・カレンシーとは到底呼べませんし、米銀もウォンで資金調達することはほとんどありませんので、米韓為替スワップは米国にとって、正直、ほとんどメリットはありません。

ただ、それ以上に正直、カチンとくるのは、こんな発言です。

韓米日三国の協力でデジタル時代不安定で脆弱になる金融システムを備えていかなければならない。金融市場がグローバル相互接続性を維持し、各国経済の金融安定性と整合性を維持するためには、韓米日三国間の積極的な協力が何より重要だ」。

日米と韓国は、少なくとも金融・通貨面では、対等な立場ではありません。

すなおに「我が国の金融システムは脆弱だから日米両国に助けてもらいたい」といえば良いのに、下手にこうやって「韓米協力」だ、「韓日協力」だ、など、まるでお互いに対等であるかのごとき発言をするからこそ、日本国民の多くが韓国の識者らの発言に不快感を覚えるのではないでしょうか。

韓国が破壊してきた日韓の信頼関係

いずれにせよ、通貨スワップなどの金融協力は、お互いに信頼関係がなければ成り立ちません。

そして、日本と韓国には、信頼関係は存在しません。少なくとも李明博政権時代、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代、文在寅政権時代を通じ、日本の信頼をぶち壊し、踏みにじってきたからです。

十数年、いや、数十年単位で踏みにじられてきた信頼関係が、たった2~3ヵ月、両国の首脳が「シャトル外交」を行ったくらいで回復できるはずなどないでしょう。

なお、韓国を「(旧)ホワイト国」に戻す政令改悪案に関連し、もうすぐパブコメの期日が訪れます。

入力方法については、詳しくは『パブリック・コメント大募集!入力方法を解説します!』でも説明したとおりであり、もしコメントにご協力いただける方がいらっしゃるなら、入力した内容と「595123034」で始まる「受付番号」を、当ウェブサイトの読者コメント欄にフィードバックしてくださると幸いです。

私たち日本国民にとっては、まだまだ油断できない日々が続くでしょう。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    日本にスワップをお願いしたなど口が裂けても言いたくない。
    ではどうするか?
    まず「米国」や「グローバル」という言葉をまぜて韓国対日本だけの問題ではないと問題をぼかす。
    次に「為替市場の安定性」「米国や日本にも利がある」と言ってメリットを受けるのは韓国だけではないと論点をずらす。
    いつものこと。
    要は「金がないから貸してくれ」と言いたくないんだね。

    1. ぬい より:

      結局はドルが必要なんでしょうから、仮想敵国の日本など絡めず、アメリカと交渉して欲しいですよね。

  2. すふちゃん より:

    当時の麻生太郎副総理に「日本がどうしてもというのならスワップを延長しても良い」と言い放ちゃん「誰がアタマを下げてまでカネを貸すか」と言われた韓国。

    「歴史を忘れた民族に未来はない」のではないですか?

    これをやりたいのなら「被害者がもう良いと言うまで謝罪し続ける」のがスジでしょう。

    そうでなければ、韓国社会とはネロナムブル(ダブルスタンダード)社会との証明にしかならないですね。

  3. はにわファクトリー より:

    Youtube で
     「麻生太郎 スワップ 証言」
    をキーワード検索したところ、ぞろぞろ掛かりました。どの動画も興味深いです。
    大きな出来事のあった G7 サミット終了で国威掲揚感を味わっていた日本国民に冷や水を浴びせた岸田ジュニア。彼はひとことでいうと国の面汚しでした。尹大統領との信頼関係などと軽い言葉を弄ぶ首相は上記動画を覆せるのでしょうか。

    1. 伊江太 より:

      はにわファクトリー様

      親切心から「本当に大丈夫か?」と問われて、
      「どうしてもと言うなら、スワップ受けてやっても良い」などと、
      つい口走って、すべてをオワにしちまった某国高官。

      いまさら、「あれ、こちらが悪うござんした。何卒お許しを」
      なんて言ったら、恥の上塗り(どこが? でもそう思うのがアチラ流)。
      口が裂けても言わない。

      色々批判に曝されながらも、
      将来の跡継ぎ養成のつもりで、主席秘書官の座に着けた御曹司。
      この調子なら、だめ息子の烙印押されて、オワコン寸前。
      でもここで引っ込めたら、まさに恥の上塗り。

      なんか、どこかで響き合うような(笑)。

  4. 匿名 より:

    反対意見パブコメしました7497

  5. naga より:

    「精神的にスワップを締結した」でOk

  6. クロワッサン より:

    朝貢が鮮ない(少ない)から朝鮮って名前を支那から授けられたりと、日本相手だけじゃなく大国相手に集るのが生きる術な乞食民族なんだから、日本や米国相手にスワップを求めるのは当然ですね。

  7. taku より:

    日韓スワップの可能性はありません。
    麻生副総裁が2013-14年ごろの話とした「(どうか)借りてくださいと(日本が)言うなら、借りることもやぶさかではない」という韓国側の言葉がある限り、日本側にその意思はありえません。
    逆に、韓国側もこの言葉がある限り、今更日本に「貸してください」とは言えないでしょう。
    日本にとって、何のメリットもないしね。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告