「人民元、カナダドルに追い抜かれる」産経報道の真相

本日2本目の配信です。中国の通貨「人民元」を巡り、事実関係があやふやになってしまっている報道がありましたので、いちおう、補足しておきたいと思います。

人民元の「実力」

産経報道も正しくないことがある

今週、『オフショア人民元市場でいま何が起きているのか?』の中で、国際的な銀行間決済電文システムを運営するSWIFT社が公表する「RMBトラッカー」について紹介しましたが、本日の産経ニュースに、同じデータを引用したニュースが掲載されています。

人民元、カナダドルに追い抜かれ「決済通貨」6位に転落 成長鈍化で国際化戦略に急ブレーキ(2017.2.4 10:50付 産経ニュースより)

リンク先の産経ニュースは

中国の人民元が貿易や対外投資の決済に使われる通貨として昨年12月、カナダドルに追い抜かれて6位に転落した

として、人民元の決済シェアが急速に落ちているというニュアンスで報じています。

ただ、国際的な決済市場では、通貨の決済電文シェアは、比較的動いています。以前の記事で紹介したグラフを、もう一度紹介しておきましょう。

図表1 SWIFT上の「通貨別決済シェア」ランキング

図表2 米ドルとユーロと英ポンドを除く決済シェア推移

産経のニュースを読む限りは、2015年8月に日本円を抜くほどのシェアを達成した人民元の決済高が、昨年12月に入って急に落ち込んだかにも読み取れます。しかし、2015年8月に人民元の決済電文シェアが日本円を抜いたことが「瞬間風速的」で「一時的」な現象に過ぎず、その後は「鳴かず飛ばず」の状況が続いている、という方が実態に合っているのではないでしょうか?

人民元の為替・資本市場は未成熟

一方、産経ニュースは、人民元について、次のようにも述べています。

元をめぐっては、SDR入り後も為替相場の形成を市場に委ねる通貨改革は進まず、国際通貨としての信頼性や利便性は向上していない。さらに中国を「為替操作国」に指定すると主張したトランプ氏による米政権の動きも不透明で、環境は一段と悪化している。

この下りはおおむね実情に沿っていると考えて良いでしょう。中国当局が人民元の「国際化」を狙っていることは間違いないと思われるものの、実際に人民元の国際的な流通高は伸びていないどころか、むしろ減少しているからです。

オフショア人民元市場でいま何が起きているのか?』でも指摘したとおり、人民元の為替・資本市場には、「中国本土で流通する市場」(いわゆるCNY)と、「香港をはじめとするオフショアで流通する市場」(いわゆるCNH)が併存しています。

市場が「CNY」と「CNH」で分断されている理由については、ここでは繰り返しません。ただ、人民元建のSWIFT送金シェアが低迷している理由は定かではありませんが、主要な「オフショア人民元市場」の一つでもある香港で、人民元建て預金の金額が急減していることも事実です。

次のFTの記事によれば、2014年から15年にかけて1兆元にも達していた「香港の人民元建て預金」の額が、現時点で半減してしまっているとしています。

Renminbi internationalisation remains elusive(英国時間2017/01/30(月) 10:06付=日本時間2017/01/30(月) 19:06=付 FTオンラインより)

いずれにせよ、人民元の通貨・為替市場、資本市場、あるいはデリバティブ市場は、非常に未成熟です。国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨に入ったからといって、必ずしも「人民元が国際通貨になった」というものではないということは、改めて指摘するまでもないでしょう。

明日の予告

さて、トランプ政権下で国防長官に就任したジェームズ・マティス氏は、2月2日から本日までの日程で、韓国と日本を相次いで訪問しました。韓国政府との間ではTHAADの早期導入で合意したほか、日本でも稲田朋美防衛大臣などと会談を行い、尖閣諸島に日米安保条約が適用されるとの言質を引き出すなど、非常に大きな「成果」が出ています。ただ、その反面で、私は今回のマティス氏の日韓訪問とそれに対する日本政府の対応については、ごく一部には問題も含まれており、したがって、手放しでは絶賛すべきでないと考えています。そこで、マティス氏の訪問について取りまとめるとともに、日本と韓国、中国との関係などについても振り返っておきたいと思います。どうかご期待ください。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 非国民 より:

    中国もSDRに入ったなら、お金の移動は自由にする義務はあるだろう。権利には義務が伴うのだよ。それと中国はアメリカにケンカ売っているみたいだけど、中国の製品をいっぱい買ってくれるのはアメリカだよ。重要顧客にケンカ売るのはどうかな。日本はアメリカがいろいろ日本製品を買ってくれるから、思いやり予算とかでお返しをしているよ。日本は産業が発達しているから艦船の修理とかもできる。日本に基地がないと、わざわざアメリカ本国までいかないとだめだからね。ハワイもグアムも産業という面ではいまいちだしね。昔は、日本にはオンボロ空母が割り当てられていたもんだ。あちこち故障するけど、日本の修理技術は一流だからね。日本の米軍基地の住宅もかなり贅沢だよ。きっと、日本の米軍基地は米軍にとって保養地になっているよ。貿易赤字が問題なら、日本はアメリカ国債をどんどん買うしかないかな。今でもあまりあるほど買っているけどね。お互い商売しているんだから、お客さんの要望もある程度はきかないとだめだよ。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告