SWIFTランキングで人民元が急伸し再び4位に浮上

国際送金における人民元の決済高が急増し、再び日本円と逆転しました。なぜ人民元決済が増えているのかについては、理由は明らかではありません。ロシア要因にしても、なぜこのタイミングで伸びるのか、説明がつかないからです。ただ、国際送金の世界においてユーロのシェアが急落していることも間違いなく、これに加えて中国がスワップ戦略を強化し、貧困国を中心に人民元の使用が拡大しているという事情もあるのかもしれません。

人民元決済シェアが急伸!

国際送金における人民元の決済高が急増。日本円と再び逆転しました。

SWIFTが日本時間の22日までに発表した『RMBトラッカー』のデータによると、人民元はユーロ圏を除いて日本円に次いで世界5位、ユーロ圏を含めた国際送金の世界では日本円を抜いて4位に浮上したのです(図表1)。

図表1 2023年11月時点の決済通貨シェアとランキング

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成。カッコ内は前月とのランキングの比較。黄色マーカーはG7通貨、青マーカーはG7以外のG20通貨)

人民元はどうなっているのか

人民元が4番目の決済通貨となるのは、2015年8月と、ウクライナ戦争直前の2021年12月、2022年1月に続き4回目のことで、とりわけユーロ圏、非ユーロ圏ともに人民元の決済シェアは過去最大となっていることが確認できます(図表2)。

図表2 国際送金における人民元(CNY)のシェア

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成)

いったいなにが発生しているのか――。

ロシア要因なのか?→このタイミングで伸びるのは不自然

ひとつ考えられる仮説があるとしたら、ロシア関連の貿易決済で、ロシアに経済制裁を発動している国の通貨を避ける必要性から、人民元決済の量が急伸した、という可能性です。

ロシア制裁参加国は48ヵ国だが金融面の影響力は絶大』でも指摘したとおり、ロシアが指定する「非友好国」は、国の数としてはさほど多くありません。

しかし、非友好国に含まれる米国、欧州連合(EU)、英国、日本、カナダ、豪州、スイス、シンガポールといった諸国の国際金融の世界における支配力は抜群であり、SWIFTランキング上位常連国の中でロシアに経済制裁を加えていない国の通貨といえば、人民元、香港ドルなどに限られます。

したがって、ロシア関連取引の急増により、人民元決済が急増したとする仮説は、一見すると説得力があります。

ただし、このように考えると、不自然な点が2つあります。

ひとつめは、主要国によるロシアに対する金融制裁が始まったのは2022年3月のことであり、その直後に人民元の決済シェアが急伸したという事実は認められないからです。つまり、この仮説は、「なぜ、2023年11月に人民元の送金シェアが急伸したのか」という疑問に答えるものではありません。

また、ふたつめは、「人民元の」送金シェアが伸びた理由として、ロシア関連の要因では説明がつかないことです。もしロシアが国際送金通貨を制裁逃れで選ぶならば、人民元よりも、国際的な金融市場でより使い勝手が良い香港ドルあたりを使う可能性の方が高いでしょう。

しかし、香港ドルについては決済シェアは上下動を繰り返していて(図表3)、シェアが伸びた月もあるものの、人民元の急伸ぶりと比べれば、過去と比べて顕著にシェアが伸びているとまでは言い難いのが実情でしょう。

図表3 国際送金における香港ドル(HKD)のシェア

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成)

ユーロの決済シェアが落ちている

ただし、国際金融の世界で何らかの変調が生じていることは間違いありません。

その確たる原因については依然としてよくわかりませんが、手掛かりがあるとしたら、国際送金の世界における米ドルのシェアの急増と、ユーロのシェアの急落です。

図表4は、国際送金における米ドルとユーロの決済シェアを比較したものですが、米ドルのシェアが急伸する一方で、ユーロのシェアが急落しており、その傾向はユーロ圏を除外したデータにおいてとくに顕著であることが判明します。

図表4 国際送金シェア・2通貨比較(ユーロ/米ドル)

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成)

これまで米ドルとシェアを分け合っていた通貨であるユーロの決済シェアが顕著に低下しているということは、その分、ほかの通貨の決済シェアが伸びていると考えるのが自然であり、米ドルとともにシェアを伸ばしたのが人民元だったのだ、と考えると、何となく辻褄はあいます。

日本円の事例

また、他の通貨に関していえば、たとえば日本円が最近、国際決済におけるシェアを、一時的に急伸させたという事例もあります(図表5)。

図表5 国際送金における日本円(JPY)のシェア

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成)

このように、何らかの要因で一時的にその通貨の決済シェアが急伸することは、ときどき発生しています。

ただし、人民元と日本円の両通貨を比較しておくと(図表6)、ここもとの人民元の決済シェアはたしかに急伸しており、とりわけ人民元決済のシェアが今後も伸びていけば、ユーロ圏を除外したデータでも日本円が人民元に抜かれるのも時間の問題でしょう。

図表6 国際送金シェア・2通貨比較(日本円/人民元)

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに作成)

貧困国を中心に…人民元使用が増えているのか?

なお、人民元決済の割合が増えていることは間違いないにせよ、べつに中国が外国人に対し、中国本土での人民元建ての投資を完全に自由化したという事実は、現在のところはありません。

ということは、アルゼンチンやトルコなど、一部の国が米ドルやユーロなどを使うことができなくなり、やむなく中国からスワップで調達した人民元(『【資料公開】今年9月時点における中華スワップ一覧表』等参照)を使った決済が増えている、という可能性を疑った方が良さそうです。

すなわち、貧困国などを中心に、人民元の使用が増えている、という仮説です。

いずれにせよ、人民元決済がこれからも増えていくのかどうかについては、引き続き気になる論点のひとつであることは間違いありません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. さより より:

    これは、ユーロ圏での、ユーロ決済が減少し人民元決済が増えたということだから、EUが中国との取引で、元を使いだしたということを表しているのではないのか?
    ただ、ユーロ除外でも増えているのだから、米ドルやユーロを使えない国が元を使っているということではないか?
    又、全体の通貨取引量の推移のグラフもあれば、更に傾向が見やすいように思います。

    1. カズ より:

      >米ドルやユーロを使えない国が元を使っているということではないか?

      仮に、それらの国々から人民元が米ドルへの換金目的で市場に売り出されると、中国は(保有米国債を売ってでも)自ら買い支えるよりほかないのかもですね。
      ・・・・・
      もしくは、ロシアが中露通貨スワップ枠を使い切ったか、ルーブル相場の下落を嫌った中国側が「両建決済」さえも受け付けなくなったりとかでしょうか?

      1. さより より:

        そうすると、人民元決済が増えたことは、何処かの国にとっては、喜ばしいことではないということなの?

        1. カズ より:

          *中国の思惑を以下に仮定して・・。

          ①国際社会における「人民元の影響力」は拡大したい。
          ②「資本の移動を管理」しないと不胎化できなくなる。


          個人的には、彼らの目指すものは「対中決済における人民元の基軸化」にすぎず、中国を介さない流通(取引)の拡大は「どうなのだろうか?」と思っています。
          無法国家が発行する ”中国人民元” の通貨信用は「米ドルへの換金能力(保有米国債等)」によるものであり、為替の安定のためには、”それ”を損なう方向への介入(ドル売り人民元買い)を余儀なくされると考えるからです。

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