現在のTVに数千万~数億円のCM料の価値はあるのか

時間帯によっては、スポンサー料は数千万円から数億円(!)―――。放送コラムニストの高堀冬彦しによる、そんな指摘を目にしました。ただ、正直な感想を申し上げるならば、地上波のテレビ局、正直、広告媒体として見て、そこまで高額のスポンサー料を支払う価値があるものなのでしょうか?やはりちょっと高すぎやしないか、という気がするのですが…。

オールドメディア、とくにテレビの落日

当ウェブサイトでは数年前か、新聞やテレビを含めたマスメディアのことを、「オールドメディア」と呼ぶようにしています。

これには、著者自身がウェブ評論家としてウェブ評論サイトを運営しているという立場上、「これからの時代はネットも事実上のニューメディアとして、民主主義社会の根幹を担うべき存在となってほしい」という願いが暗に込められています。

ただ、今朝の『「税の取られ過ぎ」に気付いた国民がSNSを手にした』などでも触れたとおり、その時代は案外早くやってきたようです。誰もが簡単に、極端な話、SNSなどを通じて、情報の発信者になれるようになったからです。

そして、テレビの「つまらなさ」、新聞の「役に立たなさ」などを指摘する人も、めっきりと増えてきました。先日の『オールドメディアという表現が一般化…生き残る道は?』でも触れましたが、ニューズサイトなどを見ると、連日のようにテレビ業界の苦境を伝える記事が目に付くのです。

当たり前でしょう。

テレビだと放送される時間が事前に決められていて、しかも番組を見た感想をフィードバックする仕組みもないですし、その番組を見た他の人がその番組を見てどう感じたかを知ることができないからです。

もちろん、録画視聴という手段もありますが、そもそも現在のテレビに「録画してまで視聴したいコンテンツ」があるのかはよくわかりません(スポーツ中継くらいでしょうか?)。

テレビ局の再放送は儲からない?

裏を返せば、テレビは次第に視聴者から見放されつつある、ということです。

とくに地上波のテレビ局(※NHKを除く)のビジネスモデルといえば、まずは番組を(無料で)流し、それにCMを付けることでポンサーからの広告料が売上となる、というものであり、言い換えればスポンサーが付かなければ売上が亡くなってしまう、ということです。

もちろん、テレビ局によっては「過去に放送したドラマやアニメなどのDVDなどを販売する」、「テレビ放送しているドラマやアニメなどをもとにした映画を作る」、といった形でコンテンツをマネタイズしているケースもあるようです(練馬区の青狸に養われている特定意志薄弱児童を主人公にした映画などがその典型例でしょう)。

しかし、多くの場合は地上波で放送したコンテンツの再利用はなかなか難しいようです。

この点、会計士的発想だと「地上波は再放送をもっと行えば良いのではないか」、といった気もするのですが、こうした「会計士的発想」に対し、「放送コラムニスト」を名乗る人物から、こんな指摘が出てきました。

テレビ、2つの誤解 「ドラマの再放送」はちっとも儲からない 「TVer」は新たな収益の柱にはならない

―――2024/12/13 06:12付 Yahoo!ニュースより【デイリー新潮配信】

記事を執筆したのは高堀冬彦氏で、文末のプロフィールによると、こうあります。

放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員

その高堀氏によると、再放送はどれほど視聴率を得ようが、「儲からない」、というのです。

テレビ業界の商慣行はよくわからないが…

その理由は、いったいなにでしょうか?

高堀氏によると、そもそも再放送番組のスポンサー料には番組制作費が含まれておらず、テレビ局が得るマージンも減ってしまうからなのだそうです。

たとえば、プライム帯で制作費3000万円の1時間ドラマをつくると、局にはスポンサーから1億円以上のスポンサー料が入る」。

ところが、再放送は制作費がゼロだから、高額のスポンサー料を受け取れない。支払うスポンサーもいない。マージンも安くなる。『再放送での売上高は通常の番組のせいぜい10分の1程度』(民放幹部)」。

このあたりはテレビ業界の商慣行に詳しくない身からすれば、なんだかよく理解できませんが、きっとそういうものなのでしょう。とにかく、事実としては再放送をしても儲からない、ということらしいのです。

ちなみに記事によると、日本テレビもTBSも、最近はドラマなどの再放送を行わないのだそうですが、これは「儲からない」のに加えて、たとえば日テレの場合だと「再放送はステーションイメージが良くならない」などの事情がある、などとしています。

じっさい、フジテレビやテレビ朝日がドラマの再放送を行ったところ、どれも視聴率は芳しくなかったのだそうですが、問題はそれだけではありません。

テレビ番組をネットで再放送するTVerの場合も、やはり「民放の新たな収益の柱」にはなっていない、ということだそうです。

TVerのCM売上高は各局とも地上波のCMの20~30分の1程度に過ぎない。TVerの売上高はもともと少なかったので、右肩上がりで伸びているが、地上波のCMの売上高に近づいたり、逆転したりすることは構造上、あり得ない」。

記事によれば、その理由もやはり、再放送が儲からないこととよく似ている、ということです。

CM出稿で4000万円~3億円!?

ただ、もっと興味深い記述は、これかもしれません。

地上波のスポンサーがプライム帯でネットタイムCM(番組の提供スポンサーが全国で流すCM)を出すと、30秒のものが26本で4000万円~3億円程度する。ここから制作費が出る」。

これに対し、TVerにCMを出すための最低費用は50~100万円程度であり、「だから大きくは儲からない」というのです。

ただ、著者などはこの記事を読んで、真逆の感想を持ちます。

各スポンサーが数千万円から数億円という広告料を負担していて、果たして費用対効果は見合っているのでしょうか?

スポンサーにとっては、ドラマだけでなく、報道バラエティ番組、歌番組、クイズ番組など、さまざまな番組におカネを出しているはずなのですが、一般にテレビは表示する広告を視聴者に合わせてアレンジすることはできませんし、ネット広告と比べ、広告の効果はさほど高くないと考えられるからです(※著者私見)。

とくに上場会社などの場合、株主説明責任上も、費用対効果が低い広告支出は、今後、説明が難しくなっていくのではないでしょうか。そして、スポンサー離れ、視聴者離れなどが進んでいけば、やがてはクリエイター離れも生じて来るかもしれません(『無限スパイラルのTV業界を見限る優秀なクリエイター』等参照)。

このあたり、テレビ業界について調べれば調べるほどに不可解な部分が多いわけですが、それにしてもスポンサーが「なぜ」、地上波にここまで巨額のスポンサー料をいままで支払っていたのか、そしてそれが今後も続くのかどうかに関しては、興味深いところだと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. しおん より:

    TVの広告料は、みかじめ料だと思います。
    費用対効果が悪いとわかっていても、今までのシガラミ(場合によっては権益)があって、なかなか費用削減(TV広告⇒ネット広告)に動けないのではないかと推測しています。
    ただ、TV広告からネット広告に重心を移した会社が業績を伸ばせば、大企業でも動かざるをえないと思います。
    そしていったん動き出せば、新聞の発行部数が激減したように、TVの広告収入が激減しだすとおもいます。

    1. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話しを。
      テレビ局:「TV広告からネット広告に重心を移した会社は叩こう。もし、その会社にネタがなければ、業界ごと叩こう」
      「もし、ネットがなければ、ネットへの広告料が、こちらに回っていたはずだ」と思っていたりして。
      蛇足ですが、(何のYouTubeだったか忘れましたが)「大手芸能事務所の強みは、テレビ番組の出演枠を持っていることだった」と言ってました。

    2. たらお より:

      >TVの広告料は、みかじめ料だと思います。
      卓見ですね。
      あるタレントの娘が輸送トラックにひかれて亡くなった際、輸送会社の名前は一切メディアに出ることはありませんでした。CMの大手スポンサーだったからです。詐欺商法を行った会社も同様。一方、オールドメディアにCMを出さない新興企業は攻撃の対象になり易いと想定されます。メディアからの攻撃を避けるための「みかじめ料」と言う表現は納得感があります。

      1. 匿名 より:

        最近大手企業の一部がTVコマーシャルを減らす。またはやめるところが多くなってきたのに気が付きました?「そう言えば良く見たCMが・・・」

        コマーシャルは電通や博報堂がスポンサーを引っ張ってきてTV局に「こんな番組を作って。スポンサーの意向だから」

        なので、クイズ番組や、トーク番組、グルメ情報など製作に金のかからない方法を取りますが、視聴率が取れずに、どんどん離れていくのです。

        財務省や与党にさえすり寄っていけば、国から補助金や幹部は天下り先が用意される特典がありますので、財務省には特に気を使います。

  2. 引きこもり中年 より:

    宣伝の手段としてのテレビのビジネスモデルは、「お茶の間のテレビを家族全員で視る。チャンネルはガチャガチャなので、CMのたびにチャンネルを変えられない」のままではないでしょうか。
    すでにテレビ画面のライバルは、スマホに、それも負けつつあるのに。
    蛇足ですが、昔は「テレビばかり視ているとバカになるぞ」と言ってましたが、「バカになったので、スマホばかり視るようになった」と、テレビ番組で言ってくれないかな。

  3. neko より:

    新宿会計士どのにお願いします。日銀をはじめとする政府系金融機関が保有している国債を除いた政府の本当の借金の額について調べてもらえないでしょう。

    1. CRUSH より:

      「本当の借金」の定義は、なんですかね?

      1. いねむり猫 より:

        財務省が国民から搾り取った税金を、どこに隠しているのかの問題ですね。
        国家予算で、使わなかった補助金?をためているのが何かわからない。
        財務省が自分の予算枠を隠していても誰にもわからないので蓮舫みたいな、切り込み隊を一時的にも野党連合を結成してほしい。
        今であれば与野党亀甲しているのでやれるかもしれない。
        国民民主は蝙蝠みたいで、あてにならない。

      2. neko より:

        実は政府系金融機関が国債を保有しているため実態以上の数字出ることはあり得るので。

    2. CRUSH より:

      過去に、
      銀行にとっての借金
      TOYOTAの借金

      についての解説記事がありましたので、まずそれを読まれてみては?

      それでもなお、本当の借金という設問が大事に思われますかねえ。

  4. 丸の内会計士 より:

    完全にOnetoOne になりつつあります。AI で広告が限りなく無料に近づき、今より広告効果が格段にアップしそうです。最適な人に最適な広告をAI が低コストで実現という感じだと思います。

    1. 匿名 より:

      早く自動広告にはもっと賢くなってもらいたいもんです。誤タップさせられた気持ち悪いソシャゲや胡散臭いEC商材のターゲティング広告に延々付きまとわれるのはもうこりごりなので…

  5. sqsq より:

    テレビを見ていると「この番組はxxxの提供でおおくりします(しました)」という。
    スポンサーが多い時は「この番組はごらんのスポンサーの提供でおおくりします(しました)」
    複数スポンサーの間で序列があるときは「この番組はxxxと、ごらんのスポンサーの提供でおおくりします(しました)」という。
    番組の製作費はこれらのスポンサーが出しているという意味だ。
    原価にどれだけ上乗せしているかしらないが、そこから電通が代理店手数料をテレビ局から取っている。さらにコマーシャルを必ず流すから、その電波料もとる。
    映画放映の場合は放映権料をスポンサーに請求する。
    ハリウッド映画の場合はバカ高い放映権料になるので、スポンサーの数も多い。
    古いドラマの場合は放映権料(著作権使用料?)は安いので1社でも提供できる。
    この仕組みは番組であれば、ニュースでも、天気予報でも、野球中継でも同じだと思う。
    これがタイムの仕組み。
    番組とは無関係にコマーシャルを流す仕組みがある。これがスポット。
    TBSのIRを眺めているとタイムとスポットの収入金額が拮抗している。
    基本的に全国ネットだが、スポットコマーシャルで「京阪名」だけでいいよというスポンサーも存在すると読んだことがある。ウーバーイーツなどは地方都市にはないからだろう。
    すると地方局は自分で(実際は地域の電通支店)スポンサーを探すか、ACジャパンでもいれるかということになる。

    最近ワールドカップのアジア予選の放映がない理由は高い放映権料を負担する価値がないとスポンサーが考えているからだろう。

  6. CRUSH より:

    有名なところでいえば、サイゼリアがよい例ですかね。

    サイゼイリアのユニークなところは、
    「広告宣伝を一切しない」
    「リピーターの顧客満足度だけに集中」

    1品300円のパスタでTVコマーシャル15秒数百万円を穴埋めするのは大変でしょう。
    だからTV広告は切りすてる。
    その分は仕入れや値下げに投入する。
    その戦略は、どうやら上手く回っているように見えますね。

    そういえばサイゼリアだけでなく、僕の好きな餃子の王将とか天下一品とかも、有名なのにTVコマーシャルやらない店、なように思われます。

    どことは言いませんが、歴史のある街では美味い店ほど
    「一見さんお断り」
    「広告も食べログもお断り」
    常連さんだけで回せているので、余計な観光客で常連さん達が来店できなくなる事を避けよう避けようとしますね。

    勝手な言い草ですが、広告の店に行く人たちは、自分自身では
    「美味いのか不味いのか判断できない」
    から、広告を頼りに食べに行くんじゃないのかな。
    そういう人たちには、TVコマーシャルは実に意味がありますね。

    棲み分けになるから、これはこれで悪くない、とは思います。

  7. 農民 より:

     TVCMは高額で最高の効果とステータス、CMを流している企業は超一流で信頼できる(ことにできる)。そのお金で面白い番組を作り、視聴率を占有して更に広告効果を高めて更にスポンサーを募る。よく出来たモデルだったのでしょうが、残念ながらもうどう足掻いても復権は無理です。
     で、「再放送が儲からない」って?ノーコストで1/10も儲けが出るなら素晴らしいじゃない。まだ10/10出せるつもりでいるの?
     今後は”低質で低効果だけどローコストで気軽な広告媒体”を目指せば良いのですよ。いつまでも過去の栄光にしがみついていないで。
     「あの会社、TVCMやってるなんてよっぽど困ってるのね……」なんてイメージがつくようになったらしらんけど。

  8. はにわファクトリー より:

    広告を出す仕組みをネットに完全に巻き取られてしまって勝負はほぼついてしまっている。
    偽広告まで簡単に出せるようになってしまっている現状は早々に改められるべきだが、広告に文句を言う仕組みが新聞雑誌 TV の世界にこれまであったか。もはやそんな不毛な議論してもせんないことだが。

  9. 匿名 より:

    何の宣伝なのか、よくわからないコントやドラマ仕立てのCMは、日本独特のモノだったらしいですね。日本のCMを集めたYouTube動画は、数年前までは物凄い再生回数で、世界中からコメントが付いていました。

    では、なぜ日本だけ、そのようなCMが多かったのかを考えると、やはりテレビのチャンネル数が少なかったからでしょう。衛星放送やケーブルテレビが実用化した時点で、海外では数十チャンネル無料視聴があたりまえになっていたのに、日本では地上波・BS・CSの切り替えをわざと面倒臭くして、普及しないようにしていましたから。

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