昨日、『毎日新聞英語版「日中韓とASEANが新たなスワップ検討」』のなかで、水曜日に行われた「ASEANプラス3」の実務者会合で、ローカル通貨建ての通貨スワップ(あるいは為替スワップ)の議論が行われたらしい、という話題を紹介しました。これについてもう少し調べてみたところ、現地・タイのメディアもこの話題を報じているらしく、あらためて現地メディアの報道を読むと、これらのスワップは、どうもCMIM(チェンマイ・イニシアティブの多国間協定)の改革の一環として検討されているようです。そこで本稿では、ローカル通貨建てのスワップの長所と短所、注意点について、私見を述べてみたいと思います。

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ローカル通貨建てスワップ

昨日、『毎日新聞英語版「日中韓とASEANが新たなスワップ検討」』のなかで、『毎日新聞デジタル』(英語版)に掲載された、共同通信が配信した次の記事を紹介しました。

ASEAN, China, Japan, S. Korea eye more local currency swaps(2019/04/04付 毎日新聞デジタル英語版より)

内容をかいつまんで申し上げると、「ASEAN+3」(東南アジア諸国連合、つまりASEAN10ヵ国に、日本、中国、韓国を加えた13ヵ国)の財務省・中央銀行の実務者らが水曜日、タイのチェンライで「米ドルに過度に依存した通貨スワップの仕組み」の是正について検討した、とするものです。

タイ財務省のLavaron Sangsnit局長(※)は13ヵ国が「(為替変動のある)米ドルへの依存を減らし、ローカル通貨の使用頻度を高めること」で合意し、これが木曜日から金曜日にかけて開催される13ヵ国財相・中央銀行総裁会合の議題とされる、などと述べているというものです。

(※原文の肩書は “director general” ですので、便宜上、「局長」と訳しています)

ただし、昨日も申し上げましたが、現実に「ローカル通貨建て通貨スワップ」を締結したとしても、それが使い物になるとは限りません。

「ASEAN+3」諸国の通貨は、国際的に広く通用する「ハードカレンシー」である日本円とシンガポールドルを除けば、いずれも国際的に通用しない「ソフトカレンシー」です。

仮に「ASEAN+3」諸国でローカル通貨ネットワークができたとしても、通貨危機を防ぐどころか、下手をすると危機が伝播してしまうという可能性すらあります。

現地メディアの報道は?

ただ、これについては共同通信だけでなく、昨日付で、現地メディア『チェンライタイムズ』も記事にしています。

Association of Southeast Asian Nations to Avoid Over-Reliance on the U.S. Dollar(2019/04/05付 チェンライタイムズ英語版より)

これも昨日紹介した共同通信の報道(※毎日新聞デジタル英語版に配信した記事)と同じく、水曜日のASEAN+3実務担当者会合について述べた記事ですが、どちらかというと「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)」の多通貨化について議論した、というニュアンスです。

何度も同じ図表を貼って申し訳ないのですが、CMIMとは、「ASEAN+3」に香港を加えた14ヵ国・地域が参加する、多国間の通貨スワップの枠組みです(図表1)。

図表1 CMIM
拠出額引出可能額
日本768億ドル384億ドル
中国768億ドル405億ドル
 うち、香港84億ドル63ドル
韓国384億ドル384億ドル
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン各 91.04億ドル各 227.6億ドル
ベトナム20億ドル100億ドル
カンボジア2.4億ドル12億ドル
ミャンマー1.2億ドル6億ドル
ブルネイ、ラオス各0.6億ドル各3億ドル
合計2400億ドル2400億ドル

(【出所】財務省『CMIM 貢献額、買入乗数、引出可能総額、投票権率』より著者作成。ただし、中国については香港との合算値。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」の額は他の国と異なる)

図表1を見ていただければわかりますが、CMIMは米ドル建ての多国間通貨スワップです。

チェンライタイムズの報道を読むと、どちらかというと、今回の構想はCMIMにローカル通貨での引出枠を併設する、というニュアンスに読めますが、もしそうだとすれば、これは悪い話ではありません。

つまり、「ASEAN+3」諸国に通貨危機が発生し、米ドルが必要になった場合には、米ドルで引き出せる一方、隣国通貨などでも引き出せるようにしておけば、新たな通貨スワップの創設にはなりません。

なにより、いざというときに相手国通貨を引き出せるという「為替スワップ」的な仕組みがあれば、域内決済通貨として、たとえばタイバーツや日本円などの使用が、今以上に促進されるという側面もあります。

ローカル通貨とは?

ところで、前提条件として、ASEAN諸国同士と日中韓(+香港)が採用している通貨と、昨日夜時点における1ドル当たりの為替相場を示すと、図表2のとおりです。

図表2 ASEAN+3と香港の通貨と対米ドルレート
通貨1ドルあたり
タイバーツ(THB)31.9
インドネシアルピア(IDR)14125
マレーシアリンギット(MYR)4.0904
シンガポールシンガポールドル(SGD)1.3551
ブルネイブルネイドル(BND)1.3551
フィリピンフィリピンペソ(PHP)52.109
ベトナムドン(VND)23217.3
カンボジアリエル(KHR)4025
ラオスキープ(LAK)8602.5
ミャンマーチャット(MMK)1365.6
日本円(JPY)111.71
中国人民元(CNY)6.7179
香港香港ドル(HKD)7.8495
韓国韓国ウォン(KRW)1137.35

(【出所】著者作成。なお、為替相場はWSJなどから参考値を取得。なお、現時点においてシンガポールドルとブルネイドルは等価であると定められているため、ブルネイルの相場は便宜上、シンガポールドルのものを示している)

ASEAN諸国10ヵ国は、経済発展の段階もまったく異なりますし、公的債務GDP比率もインフレ率も失業率も異なっています。このため、各国が独自の通貨を使わざるを得ない状況にあるといえます。これが欧州連合(EU)との最大の違いであり、重要な前提条件です。

こうしたなか、国境をまたぐ商取引として、たとえばマレーシアの企業Aがタイの企業Bから商品を購入し、決済通貨としてタイの通貨・バーツを選んだ場合を例に挙げてみましょう。

このとき、A社は期日までにB社に対してバーツを準備しなければなりませんが、決済日直前になってタイで政情不安が発生し、突然、バーツが手に入らなくなったとすれば、最悪の場合、A社はバーツを用立てることができず、債務不履行(テクニカル・デフォルト)を起こしてしまいます。

これこそ、域内通貨の決済が進まない重大な理由でしょう。

逆に言えば、このようなときに、A社の取引銀行であるマレーシアの銀行が直接、タイの中央銀行からバーツを借り入れる仕組みがあれば、A社は取引銀行からバーツの緊急融資を受けることができます。

そこで、CMIMにローカル通貨建ての通貨スワップ(というよりも為替スワップ)を併設するという考え方であれば、確かに今回の構想には検討の余地がありそうです。

日中韓とASEANのスワップとは?

現状、日中韓とASEANはCMIMの枠組みに加えて、限られた契約ではありますが、いちおう、二ヵ国間通貨スワップ(BSA)ないしは二ヵ国間為替スワップ(BLA)を保持しています。

日本はインドネシア、フィリピン、タイ、シンガポールの4ヵ国(うち、シンガポールについては通貨スワップと為替スワップの2本建て)、中国はタイ、マレーシア、シンガポールの4ヵ国、韓国はインドネシア、マレーシアの2ヵ国であり、都合11本のスワップが存在しています(図表3)。

図表3 日中韓とASEANの通貨スワップと為替スワップ
ASEAN諸国日中韓ASEAN側の引出条件
インドネシア日本227.6億米ドル(円、米ドル)
中国1000億元
韓国5兆ウォン
フィリピン日本30億ドル(円、米ドル)
タイ日本30億ドル(円、米ドル)
中国700億元
マレーシア中国1800億元
韓国5兆ウォン
シンガポール日本30億ドル(円、米ドル)
日本1.1兆円(為替スワップ)
中国3500億元(失効済み?)

(【出所】各国中央銀行・通貨当局ウェブサイト等より著者作成。なお、日本と中国は(通貨スワップではなく)為替スワップ協定を保持している)

これを見ると、ASEAN諸国はすでに日中韓3ヵ国との間で、ローカル通貨建てスワップを締結していることがわかります(※ただし、中国とシンガポールの為替スワップについては失効済みの可能性がありますが、これについては機会があれば、後日、別稿にて説明します)。

これらのうち、日本との通貨スワップについては、事実上、日本からの支援です。というのも、日本のスワップは米ドルでも日本円でも引き出すことができるうえに、日本円という通貨自体が国際社会で広く通用する「ハード・カレンシー」であるからです。

しかし、中国と韓国の通貨は、いずれも国際社会で広く通用する通貨ではありません。たとえば、インドネシアが再び通貨危機に陥った場合、中国や韓国からそれぞれの国の通貨を貸してもらったとしても、危機を乗り切るうえでまったく役に立ちません。

それどころか、中国や韓国が通貨危機に陥った場合、これらの国はスワップで中国に自国通貨を貸し出さねばならなくなり、かつ、これらの国が中国や韓国に貸し出した自国通貨が国際的な為替市場でドルに換金されれば、これらの国の通貨が暴落し、通貨危機が飛び火するかもしれません。

なぜこれらの諸国が中韓両国とスワップを締結したのか、私自身にとっては極めて理解に苦しむ点なのです。

ローカル通貨建てスワップは「CMIM」か「為替スワップ」で

つまり、今回、報道されている「ローカル通貨建てのスワップ」には、いくつかの長所と短所があります。

まず、長所(あるいは期待される効果)としては、いざというときに近隣諸国通貨をすぐに手に入れられるというインフラが整うため、域内通貨建ての取引が活発化する効果があります。

反面、短所としては、ある国が通貨危機に陥った場合、その危機が容易に近隣国に伝播していくという事態に陥りかねません(これが当ウェブサイトで昨日指摘した点です)。

つまり、もし「ASEAN+3」でローカル通貨建てのスワップが推進されるならば、「危機が伝播しやすい」という弊害を防ぎつつ、「域内の通貨建ての取引が活発化する」という効果を発揮しなければなりません。

したがって、もしローカル通貨建てスワップを新たに創設するならば、

  • 既存のCMIMの条件を書き換えて、各国が米ドルだけでなく、指定する域内通貨でも引き出せるようにする(つまり多国間通貨スワップ協定を米ドル建て・ローカル通貨建てに変更する)
  • 域内通貨を必要とする国同士が、新たにスポットで(通貨スワップではなく)為替スワップを締結する(たとえばカンボジア、ラオス、ベトナムがそれぞれ、タイとのあいだでバーツ建ての為替スワップを締結する、など)

という、2つのソリューションが思いつきます。

いずれにせよ、今回の新たな構想が実現するにせよ、「ローカル通貨建て取引の安全網を拡大し、米ドルへの過度な依存を改めること」、「通貨危機が他国に伝播しないように工夫すること」という2点については、くれぐれも留意して頂きたいものです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

取ってつけたように申し上げておきますが、今回の「ローカル通貨建てスワップ」は、あくまでもASEAN諸国が主体となるべきものです。私は日本国民の1人として、現在は存在しない「日中通貨スワップ」や「日韓通貨スワップ」を復活させる、という方向に迷走しないよう、議論を見守りたいと思います。

※本文は以上です。

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    破局の原因を作った側が「韓日関係破局させるな」とのたまう (43コメント)
  • 2019/07/31 05:00 【時事
    パブリックコメントのルールを確認する (14コメント)
  • 2019/07/30 16:15 【時事|韓国崩壊
    【速報】「破棄するなよ、絶対に破棄するなよ!」 (44コメント)
  • 2019/07/30 15:00 【時事|金融
    韓国メディアが国際金融統計を報じるも間違いだらけ (9コメント)
  • 2019/07/30 12:00 【マスメディア論|時事
    新味のない「請求権協定資料公表」、むしろマスコミ対策か (11コメント)
  • 2019/07/30 10:00 【時事|韓国崩壊
    鈴置論考「米韓同盟終焉見透かし周辺国が韓国を袋叩き」 (49コメント)
  • 2019/07/30 06:00 【時事|韓国崩壊
    もしかして韓国の議員団は日韓関係を破壊しに来るのですか? (29コメント)
  • 2019/07/30 05:00 【時事|国内政治
    丸山議員がN国党参加の一方、NHKはネット課金目論む? (19コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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