<用語集>国際通貨・主要通貨とは?

定義について

2016年10月頃、新聞・テレビなどが「人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)を構成する通貨となったため、人民元は『世界の5大通貨』の一つとなった」などと華々しく報じ、また、人民元が「国際通貨」(あるいは「主要通貨」)になった、などとする報道が相次いでいる。しかし、「国際通貨」「主要通貨」には国際機関(例:BISやIMF等)による明確な定義はない。なお、当ウェブサイトではこれまで何度も、「人民元がIMFのSDRを構成する通貨となったから、人民元が国際通貨の仲間入りした」とする議論が誤りであると指摘しているが、詳しくは次のリンクも参照されたい。

国際通貨とは?

 

「国際通貨」とは、次の読売新聞の記事が出所であり、その名の通り、「国際的に通用する通貨」のことを意味しているものと思われるが、これについても厳格な意味合いは不明である。

人民元、国際通貨入り…構成割合は円を上回る(2016年10月01日 11時20分付 読売新聞より※リンク切れ)

仮に「国際通貨」が「国際的に通用する通貨」だとすると、「どの程度まで通用すれば国際通貨といえるのか?」については不明であるが、たとえば「外国の街の両替商で両替を受け付けてくれる」というレベルであれば、北朝鮮ウォンやジンバブエ・ドルなどの例外を除けば、世界中の大部分の通貨が「国際通貨」である。

また、「その通貨がどんな国でも通用する」という意味であれば、そんな通貨は地球上には存在しない。たとえば、世界の「基軸通貨」である米ドルは、政情が不安定な発展途上国などで事実上の通貨として通用しているケースもがあるものの、日本やヨーロッパなどの先進国の街中では使えない。

主要通貨とは?

「主要通貨」も同様に、日本の新聞社が勝手に作った造語である。「従軍慰安婦問題を捏造した」ことで知られる朝日新聞は、人民元のSDR入りを巡り、「これによって人民元が主要通貨(あるいはメジャー通貨)になった」などと報道し、市場関係者の失笑を買った。

人民元、IMFの主要通貨に 専務理事「重要な一歩」(2016年10月1日12時32分付 朝日新聞デジタルより)
人民元が「メジャー通貨」に IMFが「妥当」と報告書(2015年11月14日15時27分付 朝日新聞デジタルより)

ここで「主要通貨」という用語も、朝日新聞社の記者による主観がかなり混じった表現であるが、敢えていうならば「国際的な取引量が多い通貨」という意味だろうか?これも意味不明である。

「通貨の実力」:3つの統計

ところで、「通貨の実力」を計る尺度として、代表的な統計が三つ存在する。

  • 「SWIFT」が公表する「RMBトラッカー」
  • 国際決済銀行(BIS)が公表する「外為市場統計」
  • IMFが公表する「公式外貨準備統計」

RMBトラッカー

まず、「RMBトラッカー」については、民間金融機関の国際送金の通貨別シェアを示したものである。これでみると、人民元のシェアは確かに世界で5位につけている(図表1)。

図表1 SWIFT「RMBトラッカー」のランキング
順位通貨比率
1位米ドル42.50%
2位ユーロ30.17%
3位英ポンド7.53%
4位日本円3.37%
5位人民元1.86%
6位加ドル1.72%
7位豪ドル1.67%
8位スイス・フラン1.44%
9位香港ドル1.25%
10位スウェーデン・クローネ1.11%

(【出所】SWIFT「RMBトラッカー」より、2016年8月末時点の数値)

しかし、決済シェアとしては人民元が「とびぬけて多い」という訳ではなく、加ドルや豪ドル、スイス・フランなどと並んでいるのが実情だ。これだけを見ると、IMFが

「なぜ加ドルや豪ドル、スイス・フランでなく、人民元『だけ』を自由利用可能通貨に加えたのか」

について、説明する義務があるだろう。

外為市場統計

次に、SWIFTが公表する統計よりもかなり広範囲にわたる外為市場全体の統計は、国際決済銀行(BIS)が3年に1度公表する“Triennial Central Bank Survey”がある(図表2)。

図表2 OTCデリバティブ含む外為市場統計
通貨2010年2013年2016年
米ドル84.9%87.0%87.6%
ユーロ39.1%33.4%31.3%
日本円19.0%23.0%21.6%
英ポンド12.9%11.8%12.8%
豪ドル7.6%8.6%6.9%
スイス・フラン6.3%5.2%5.1%
加ドル5.3%4.6%4.8%
人民元4.0%
その他24.9%26.4%25.9%
合計200.0%200.0%200.0%

(【出所】国際決済銀行(BIS)が公表する“Triennial Central Bank Survey”のP7より。なお、2016年のものは4月時点の数値(ただし通貨ペアを統計としているため、合計すると200%になる))

これで見ると、今回の統計値から「人民元」が別建てで集計されるようになったが、デリバティブ等の商品が不足しているためか、人民元のシェアは日本円と比べて5分の1に留まっている。

外貨準備統計(COFER)

「通貨の実力」という意味では、国際通貨基金(IMF)が公表する「COFER(公式外貨準備統計)」がある。これは、世界の大部分の国がIMFに対して提出している外貨準備統計を通貨別に集計したものであるが、必ずしもすべての国が通貨別内訳を開示しているわけではないが、内訳が判明する部分(7.5兆ドル)に対する比率だけで見ると、米ドルが63%、ユーロが20%と、この2つの通貨だけで全体の8割をこえていることがわかる。また、英ポンドと日本円は、ここでも他の通貨を引き離して存在感を示している(図表3)。

図表3 IMFのCOFER
通貨/区分金額Aに対する比率
米ドル4兆7598億ドル63.39%
ユーロ1兆5150億ドル20.18%
英ポンド3521億ドル4.69%
日本円3406億ドル4.54%
加ドル1490億ドル1.98%
豪ドル1430億ドル1.90%
スイス・フラン215億ドル0.29%
その他の通貨2281億ドル3.04%
小計(A)7兆5091億ドル100.00%
内訳不明分3兆4841億ドル
合計10兆9931億ドル

【出所】「世界公式外貨準備構成」(World Currency Compositions of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)の2016年第Ⅱ四半期末の数値

新聞記者らへの苦言

これらの実態を一切踏まえずに、「人民元がIMFのSDRに入ったから、人民元は『国際通貨』(あるいは『主要通貨』、『メジャー通貨』)だ!」などと決めつけるのは、不勉強極まりない。不正確な記事は社会に対して無益なだけではなく、有害だ。新聞記者らは、少なくとも通貨に関して記事にするときには、最低限のことを自力で学ぶか、それすらできないならば通貨の専門家に話を聞くなりして記事を執筆すべきであろう。

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  • 2019/05/04 05:00: 「CMIMローカル通貨化で人民元が基軸通貨化」報道の怪
  • 2019/04/25 05:00: 中国の国際金融戦略の現状は鳴かず飛ばずだが、警戒は必要だ
  • 2019/04/10 05:00: 日中関係の重要性は意外と低かった!中国の有効な使い方とは?
  • 2019/04/07 07:00: じつは中星為替スワップが失効?事実なら、「大ニュース」だ
  • 2019/04/06 07:00: ASEAN「ローカル通貨」スワップ構想の続報と検討課題
  • 2019/04/05 14:45: 毎日新聞英語版「日中韓とASEANが新たなスワップ検討」
  • 2019/04/04 05:00: 通貨・為替スワップに関する雑学:人民元建てスワップの伸長
  • 2019/03/25 05:00: 通貨スワップのメッセージは「誰と結ばないか」がむしろ重要
  • 2019/03/11 11:11: 語るに落ちる中国人民銀行総裁発言 資本自由化できない中国
  • 2019/03/08 05:00: 「バスに乗り遅れた日本」と鳴かず飛ばずのAIIBの現状
  • 2019/03/01 05:00: 日印通貨スワップ協定成立の意味と予想される某隣国の反応
  • 2019/02/28 21:40: 【速報】インドとの750億ドル規模のスワップを締結
  • 2019/01/28 05:00: 日韓スワップ「持ち上げて、落とす」のも立派な「経済制裁」
  • 2018/11/29 08:00: 河野太郎外相の個人ブログの「為替スワップ」、行間を読む
  • 2018/11/14 08:00: 総論:国債のデフォルトと通貨の関係について考えてみる
  • 2018/11/04 08:00: 通貨スワップと為替スワップを混同した産経記事に反論する
  • 2018/10/31 05:00: 日中スワップと日印スワップ、性質も目的もまったくの別物
  • 2018/10/26 21:30: 【速報】やはり中国とのスワップは「為替スワップ」だった!
  • 2018/10/24 05:00: 通貨スワップと為替スワップについて、改めて確認してみる
  • 2018/10/21 05:00: パンダ債と日中スワップ、そしてとても残念な読者コメント
  • 2018/10/13 05:00: 怪しい通貨・人民元の下落が意味するもの:窮地に陥る中国
  • 2018/10/10 08:00: 米国の利上げと新興国不安 中国と韓国に危機は波及するのか?
  • 2018/08/29 12:15: 日中スワップの「不都合な事実」、要点は「円・元」の交換
  • 2018/08/23 05:00: 日中通貨スワップを必要としているのは、残念ながら日本の側
  • 2018/08/06 14:00: ラオスのダム決壊、遅まきながら事故調査委が立ち上がるか?
  • 2018/07/11 07:00: 【朝刊】米中貿易戦争はルール主義を無視する中国への鉄槌
  • 2018/06/28 16:00: 【夕刊】AIIBと中国に開発援助の資格はあるのか?
  • 2018/06/03 12:00: 【夕刊】アフリカ諸国「人民元が基軸通貨」?どうぞご勝手に。
  • 2018/05/10 09:00: 【昼刊】日中スワップとQFIIと利権の匂い
  • 2018/05/10 00:00: まったく予想通りの日中韓会談と「最善のお付き合い」(追記あり)
  • 2018/05/07 00:00: 危険なパンダ債と「日中為替スワップ構想」
  • 2018/04/18 09:00: 成果に乏しい日中金融対話
  • 2018/04/11 00:00: AIIBの現状整理・2018年4月版
  • 2017/10/12 00:00: 金融庁よ、AIIBにゼロ%リスク・ウェイトを適用するな!
  • 2017/08/06 00:00: 為替介入についての基礎知識
  • 2017/07/01 00:00: AIIB格付問題と銀行規制を考える
  • 2017/06/19 00:00: 華々しいAIIB、実態は「鳴かず飛ばず」
  • 2017/06/04 00:00: 日本は通貨スワップでAIIBに対抗せよ!
  • 2017/05/29 00:00: 【逆説】日本がAIIBに入る「目的」とは?
  • 2017/05/24 00:00: ドイツと中国の意外な類似性
  • 2017/05/20 00:00: 今週の振り返り:朝日捏造、慰安婦、AIIB
  • 2017/05/17 00:00: 成果に乏しい一帯一路フォーラムとメディアの「虚報」
  • 2017/05/16 06:00: AIIB巡る時事通信の「虚報」?
  • 2017/05/14 13:30: AIIB「参加意思表明国」増加の真相
  • 2017/05/13 07:15: 【速報】AIIB加盟論「再浮上」報道を検証する
  • 2017/05/12 00:00: 専門家が見る、中国金融覇権の「無謀」
  • 2017/05/07 00:00: ADBとAIIBの「役割分担」の時代
  • 2017/05/06 17:30: AIIBと通貨スワップ・最新版
  • 2017/05/06 00:00: 人民元のお寒い現状
  • 2017/04/21 00:00: 金融から見た中国の「3つの夢」
  • 2017/03/31 00:00: AIIBとISDAマスター・アグリーメント
  • 2017/03/26 00:00: 「AIIBにカナダが加盟」?だからどうした!(追記あり)
  • 2017/03/04 00:00: AIIBと人民元―失敗しつつある中国の金融戦略
  • 2017/02/10 00:00: 中国の外貨準備統計は信頼に値するか
  • 2017/02/07 00:00: 鳴物入りのAIIB、どうなった?
  • 2017/02/04 17:00: 「人民元、カナダドルに追い抜かれる」産経報道の真相
  • 2017/02/03 17:45: AIIBの参加国は約60か国のままで全く増えていない!
  • 2017/02/03 00:00: 人民元やAIIB巡るダイヤモンド記事への反論
  • 2017/02/01 00:00: オフショア人民元市場でいま何が起きているのか?
  • 2017/01/26 00:00: インドネシア高速鉄道案件とAIIBの現状
  • 2016/12/26 00:00: 中国人民網から見える「ホンネ」
  • 2016/11/25 00:00: 日本はAIIBに参加すべきか?
  • 2016/11/21 00:00: AIIBの現状整理
  • 2016/10/24 00:00: 銀行経理的に見た中国の外貨準備の問題点
  • 2016/10/12 17:00: SDRとは?
  • 2016/10/09 00:00: SDRと人民元と「国際通貨」
  • 2016/10/02 00:00: 人民元「主要通貨」報道のウソ
  • 2016/09/14 00:00: <保存版>ハード・カレンシーとは?
  • 2016/09/07 00:00: 人民元のハード・カレンシー化という誤解
  • 経済・金融に関する用語集

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