トルコとの通貨スワップに期待するマレーシアメディア

以前から「脆弱通貨同士の通貨スワップ」については当ウェブサイトで指摘してきたとおりですが、これに続報が出てきているようです。具体的には、「トルコとマレーシアの通貨スワップ」です。脆弱通貨同士のスワップは中小企業同士の融通手形にも似て、危機を世界にばらまくという機能があります。こうした危険性を踏まえるなら、場合によっては日本政府としても、マレーシアとの30億ドル分の通貨スワップ協定についても見直す必要が出てくるかもしれません。

通貨の通用力

世界に通用する日本円

日本円は、「ハード・カレンシー」、つまり「世界中、どこでも通用する通貨」です。

そして、日本のようにハード・カレンシーを発行している国の場合、基本的に、「外国からモノを買ってくることができなくなる」という事態は、あまり発生しません。なぜなら、自国の通貨については、いつでも外為市場で外貨に両替可能だからです。

たとえば、日本円を持っていれば、石油を買おうと思った場合、その石油を買うための米ドルについては、その時点の相場ですぐに購入することができます(厳密にはスポット市場、フォワード市場、ベーシスなどの議論もあるのですが、このあたりについての詳細は割愛します)。

また、ケースによってはわざわざ外貨に両替しなくても、日本円のままで外国からモノを買ってくることができます。海外旅行をしたことがあれば、もしかしたら「海外で日本円をそのまま使うことができた」という経験をしたという方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけではありません。

もっと大きな額の取引、たとえば貿易取引なども、円建てでなされるケースがあります。

円建て取引は輸出の36%、輸入の23%を占める

たとえば、財務省が半期に1度公表している『貿易取引通貨別比率』によれば、2022年上半期(1-6月)においては全世界との貿易高は、米ドルが輸出取引の50.8%、輸入取引の71.2%を占めていますが、日本円もそれぞれ輸出取引の36%、輸入取引の22.7%を占めています(図表1)。

図表1-1 2022年上半期・輸出(全世界)
通貨コード比率(%)
1位:米ドルUSD50.8
2位:日本円JPY36
3位:ユーロEUR5.8
4位:人民元CNY2.3
5位:豪ドルAUD1.3
その他3.8
合計100
図表1-2 2022年上半期・輸入(全世界)
通貨コード比率(%)
1位:米ドルUSD71.2
2位:日本円JPY22.7
3位:ユーロEUR2.9
4位:人民元CNY1.4
5位:タイバーツTHB0.5
その他1.3
合計100

(【出所】財務省『貿易取引通貨別比率』を参考に著者作成)

日本の貿易高に占める中国の通貨・人民元の割合は、近年、徐々に高まってきてはいるにせよ、中国が日本にとっての最大の貿易相手国であるにも関わらず、2022年上半期において輸出取引の2.3%、輸入取引の1.4%を占めるに過ぎない、というのも興味深いところです。

過去の推移でみても日本の貿易における円建て取引は多い

ちなみに日本の全世界との貿易高に占める日本円の割合は輸出が40%前後、輸入が20%~30%でほぼ安定しています(図表2)。

図表2-1 日本の貿易における通貨(全世界・輸出取引)

図表2-2 日本の貿易における通貨(全世界・輸入取引)

(【出所】財務省『貿易取引通貨別比率』を参考に著者作成)

もちろん、日本円の地位はかつてと比べてずいぶんと低下したことは間違いないにせよ、それと同時に依然として世界の決済通貨ランキングでは米ドル、ユーロ、英ポンドに次ぎ4番目の地位を保持しています(『国際決済でルーブルに代わって浮上した「意外な通貨」』等参照)。

また、国際通貨基金(IMF)が公表する世界の外貨準備高の通貨別構成(COFER)で見ても、日本円はやはり、米ドル、ユーロに次ぎ、英ポンドと常に3位争いをしているような通貨でもあります(『IMF最新統計:世界の外貨準備は3700億ドル減少』等参照)。

このように考えていくならば、凋落傾向にあるとはいえ、日本円は依然として、世界に関たるハード・カレンシーであり続けているのでしょう。

広く通用する通貨は必ずしも多いとはいえない

ただ、世界で広く通用する通貨というものは、じつは、それほど多くありません。

通貨の数をどうカウントするかは難しいところですが、著者自身のカウントに基づけば、世界には約170前後の通貨が存在しています。そしれ、これら約170の通貨のうち、国際的な貿易決済などで使用される通貨はせいぜい20~30程度であり、残りの通貨は、いわゆる「ローカル・カレンシー」です。

ではなぜ、多くの通貨が「ローカル・カレンシー」の地位にとどまっているのでしょうか。

これについてはさまざまな理由が考えられますが、その最たるものは、通貨自体が自国民からもあまり信頼されていない、というケースが多いようです。

たとえば東南アジアのミャンマー(ビルマ)では、過去に3回、流通していた紙幣を無効にする措置(いわゆる「廃貨」)が実施されたことがあるそうです(財務省財務総合政策研究所総務研究部『ミャンマーにおける金融市場の現状と中小企業金融の課題』P21等)。

このときには紙幣を「タンス預金」にしていた庶民が大きな損害を被ったであろうことは想像に難くありませんが、似たような廃貨は、北朝鮮でも「デノミ」を名目に2009年11月末に実施され、北朝鮮全体で大混乱を起こしたこともあります。

こうした通貨の信任の崩壊事例は、意外と数多いのですが、たいていの場合は経済や金融の知識が乏しい軍事独裁政権などのもとで紙幣の無効化措置などが強引に実施されたすえに生じています(あるいは紙幣の乱発なども通貨の信任が崩壊する契機となり得ます)。

したがって、この地球上の通貨は、もっとも信用力が高いとされる基軸通貨である米ドルに加え、純基軸通貨としてのユーロ、ハード・カレンシーとされる英ポンド、日本円、スイスフラン、加ドル、豪ドル、NZドルなど、といった具合に、階層構造になっていると考えて良いでしょう。

  • 基軸通貨…米ドル
  • 準基軸通貨…ユーロ
  • ハード・カレンシー…日本円、英ポンド、スイスフラン、加ドル、豪ドルなど
  • 準ハード・カレンシー…NZドル、デンマーククローネ、スウェーデンクローナ、香港ドル、シンガポールドルなど
  • 地域大国の通貨…人民元、インドルピー、ロシアルーブル、ブラジルレアル、メキシコペソなど
  • (…)
  • 何かと問題がある通貨…北朝鮮ウォン、ベネズエラボリバルなど

スワップ模索するトルコ

スワップ協定あれこれ

こうしたなか、当ウェブサイトでときどき触れる話題のひとつが、通貨当局間のスワップ協定です。

著者自身の分類に基づけば、スワップ協定には大きく「二国間の協定」と「多国間の協定」があり、また、交換する通貨の条件に応じて「ハード・カレンシーとの通貨スワップ」、「ローカル通貨同士の通貨スワップ」、「為替スワップ」などの違いがあります。

二国間通貨スワップ協定

二国間の通貨当局がお互いに通貨を交換することを定めた協定。交換する通貨の種類については、ハード・カレンシー(米ドル、日本円など)と自国通貨を交換する協定に加え、自国通貨同士を交換する協定などが含まれる

為替スワップ協定(外為流動性スワップ協定)

二国間の通貨当局が緊急時にお互いの市中金融機関に対し直接短期資金を融資することを定めた協定。A国がB国の中央銀行に担保としてA国の通貨を差し入れ、これと引き換えにB国がA国の市中金融機関に対し、直接にB国通貨を貸し付ける、といった取引が一般的

多国間通貨スワップ協定

二国間通貨スワップの枠組みを多国間に拡大したもの。アジアでは「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定」(CMIM)などが有名

これらのうち、先進国同士が締結しているのが為替スワップ協定であり、たとえば日本(日銀)は米国(FRB)、欧州(ECB)、英国(BOE)、カナダ(BOC)、スイス(SNB)の各中央銀行との間で、期間も金額も無制限の為替スワップ協定を締結しています。

これらの協定は通貨当局が直接おカネを借り入れるものではありませんが、たとえば日本国内の金融機関がドル資金不足に陥った際には、その金融機関は日銀に適格担保(JGBなど)を差し入れ、日銀がニューヨーク連銀に日本円を担保として差し入れ、ニューヨーク連銀がその金融機関に短期資金を貸してくれます。

つまり、為替スワップは先進国同士、市場から外貨流動性が枯渇するのを防ぐための協定であり、金融市場の安定に非常に効果があるものです(実際2020年のコロナ禍の際にも、日本、欧州などは米ドル資金をずいぶんと借り入れていました)。

通貨スワップは発展途上国と先進国が結ぶ場合が多い

これに対し、通貨スワップについては、発展途上国が先進国と結ぶ、というケースが多いです。

たとえば日本の場合、財務省が作成する『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』と称するPDFファイルによると、ASEAN諸国5ヵ国(インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシア)およびインドとの間で、通貨スワップ協定を結んでいます。

これらのスワップ協定は、相手国からの要請があれば、日本の財務省が(おそらくは1.3兆ドルを超える外貨準備のなかから)あらかじめ合意された上限までの金額を相手国の中央銀行等に貸し付ける、ということが定められています(ただし、うち4ヵ国については、相手国は日本円での引き出しも可能です)。

このあたり、諸外国の通貨スワップの多くは「自国通貨同士の交換」ですが、日本が提供する通貨は米ドル・日本円という、どちらも世界で非常に強い通用力を有している通貨です。日本の提供する通貨スワップ自体が、いかに破格の条件であるかが伺えるでしょう。

脆弱通貨同士のスワップ:たとえば「D8スワップ」

こうしたなか、少し前から著者自身が気にしている話題があるとしたら、「弱小通貨国」同士で通貨スワップを設けようとする動きが広まり始めていることです。

「D8諸国」、すなわちバングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコのの8ヵ国が、相互に通貨スワップを結ぼうとする構想が提唱された、とする話題については、先月の『バングラデシュで「D8スワップ」構想=現地メディア』でも取り上げました。

そして、その「続報」として、じっさいにトルコとマレーシアの2ヵ国がスワップを結ぼうとしている、とする話題が、今月の初旬に現地メディアで報じられたのです(『融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性』等参照)。

ちなみにトルコといえば、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が「金利は悪」という不思議な価値観を持っていることでも知られており、「利下げでインフレに対処する」という、世界でもおそらくトルコくらいでしか見られない政策が行われている(『インフレなのに利下げで通貨安のトルコと通貨スワップ』等参照)国でもあります。

そのトルコが現在、通貨スワップを結んでいる相手国は、▼UAE(180億ディルハム≒49億ドル)、▼中国(350億元≒51億ドル)、カタール(150億ドル相当のリヤル)、▼韓国(2.3兆ウォン≒17億ドル)の4ヵ国です。

UAE、カタールなどの湾岸諸国の場合、産油国でもあり、米ドルともペッグ制度を取っている国ではありますが、中国や韓国との通貨スワップは、下手をすると相手国を道連れに、国際的な通貨危機を世界にばらまきかねないという意味では、非常に危なっかしいものです。

マレーシアのメディア「トルコとのスワップは有益」

こうしたなか、マレーシアのメディア『The Star』に昨日、こんな記事が出ていました。

Currency swap initiative a win

―――2022/08/22付 The Starより

同記事は冒頭で、こんな趣旨の内容を主張します。

マレーシアが世界各国と積極的に通貨スワップ協定を引き受けようとする動きは、短期的には同国に利益をもたらすことが期待される。とくに、世界経済におけるインフレ圧力が高まり、景気後退リスクが増大するなかにも関わらず、通貨スワップは貿易と投資を促進するからだ」。

…??

なんだか、意味がよくわかりません。

リンク先記事自体、通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Agreement)をデリバティブ取引としての通貨スワップ(Cross-Currency Swap)と勘違いしていると思しき記述もあるなど、記事執筆者が国際金融に詳しいのかどうか自体が怪しいところです。

ただ、この記事では「今月初め、マレーシアとトルコの中央銀行が通貨スワップの締結に向けて最終調整中であると報じられた」ことを受け、とある銀行のストラテジストのこんな発言を紹介しています。

通貨スワップのような国家間合意はお互いの通貨での取引決済を容易にし、貿易や投資の流れにおける流動性不足などの混乱を避けることができる」。

そのうえで、マレーシア自身も中国、韓国、インドネシア、日本の4ヵ国と通貨スワップを締結しており、CMIMの加盟国でもあるとしつつ、「このようなスワップは短期的な流動性不足の需要に焦点を当てており、スポット外為市場に影響を与えることはないだろう」、などとも述べたのだとか。

はて、そうでしょうか?

正直、もしもマレーシアとトルコがスワップを締結すれば、中国、韓国の両国を巻き込んだ形での国際的スワップ網が構成されますが、それと同時に中韓両国はどちらもハード・カレンシー国ではありません。さらには、トルコの通貨が現在、1ドル=18リラを超えるなど、米ドルに対して史上最低水準を更新中でもあります。

トルコとマレーシアの通貨スワップの規模にもよりますが、正直、トルコが外国との通貨スワップ協定を推進している理由は、同国が現在、通貨危機の瀬戸際にあるからでしょう(「金利は悪」と騙るエルドアン大統領自体、トルコ経済のガンのようなものかもしれません)。

馬土スワップは危機を広めかねない

いずれにせよ、トルコというG20にも参加しているほどの「地域大国」が、おなじイスラム教国とはいえG20加盟国でもないマレーシアとのスワップを推進する理由も、やはり、自国通貨の急落を防ぐための安全弁を少しでも備えておこうとする試みではないでしょうか。

このように考えると、「馬土スワップ」は、トルコの通貨危機をマレーシア、ASEAN、韓国などにばらまく可能性がある、といった点で、非常に懸念すべき材料でもあります。トルコが通貨危機に際しマレーシア・リンギットを引き出し、外為市場でドル転すれば、通貨暴落がマレーシアにも波及しかねないからです。

日本とマレーシアの間の通貨スワップの規模はせいぜい30億ドル程度ではありますが、それと同時に、「馬土スワップ」発足のあかつきには、マレーシアとの通貨スワップについても見直す必要があるのかもしれません。

このあたりも、今後の国際金融の世界における「隠れたテーマ」のひとつではないかと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. たか より:

    >凋落傾向にあるとはいえ、

    題意とは直接関係なくて恐縮ですが、もう少し適切な表現はありませんでしょうか?

  2. カズ より:

    通貨スワップの繋がりの強さは一番強い環の強さで決まります。
    だから日本としては、意図せぬとばっちりの回避のためにも、無分別な繋がりの拡大を抑止するための仕組みが必要なんだと思います。

    ローカル通貨同士のスワップ協定は、風船のように中身が軽いのが実態です。
    ”飛んだ イスタンブール” みたいなオチにならなきゃいいんですけどね・・。

  3. 古いほうの愛読者 より:

    > トルコというG20にも参加しているほどの「地域大国」が、おなじイスラム教国とはいえG20加盟国でもないマレーシアとの…
    経済の健全性や発展性では、トルコよりマレーシアのほうが若干上かもしれません。どちらの投資信託を買うかと聞かれたら、個人的にはマレーシアのほうを選びます。

  4. Tokyo Guy 東京原住民 より:

    私の知る限り、イスラム教は利息を禁止しています。従って、エルドアン大統領の言う「金利は悪」という考えは、イスラム教徒の間でそれほど「不思議な」価値観では無いのです。ご存知のように、彼らから見れば、「金利」は西欧先進国の「害悪」のひとつです。

    一橋大学、加藤博先生によると・・・「シャリーアとよばれるイスラム法に基づいて、リバー(利息)が禁止されています。イスラム銀行は『金利なき銀行』と言われ、無利子が前提となっているため、利子を取って貸付けする通常の銀行とは異なります。しかし、儲けることを否定していないため、銀行は投資などで利潤を得ています」 とのことです。 

    互いに通貨スワップを目指す「D8諸国」のバングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコのの8ヵ国は、ナイジェリアを除いてほぼすべてイスラム教国です(ナイジェリアだけが、イスラム教とキリスト教がほぼ半々)。だから互いに理解できるのでしょう。いつかは国際金融を牛耳る邪悪なユダヤ・キリスト教徒(イスラム教徒から見て)を追い落としたいという遠大な野望(妄想?)があるのでしょう・・・。そういう意味では、中国も理解し合えるはずです。

    現在、トルコが通貨スワップを結んでいる相手国は、UAE、中国、カタール、韓国の4ヵ国とのことで、その内UAEとカタールは同じイスラム教国です。中国は、自らの世界戦略狙いでトルコやイスラム諸国に接近しているのでしょうが、韓国は何を狙っているのか?イスラム教国でもないし、どうも理念がなさそうだ。

  5. 迷王星 より:

    いつもためになる記事を読ませて頂き有難うございます.
    この記事もとても興味深く読ませて頂きましたが,結論部分の

    >「馬土スワップ」発足のあかつきには、マレーシアとの通貨スワップについても見直す必要があるのかもしれません。

    に関して少し意見が異なりますので,コメントさせて頂きます.(以下「通貨スワップ」は単に「スワップ」と略す)

    会計士様が上記を書かれた理由は存じませんが,私なりにこれを書かれた会計士様のお考えを勝手に推察させて頂くと,要するに

    エイドリアン政権になってからのトルコは従来の世俗主義からイスラム教の価値観等に基づく宗教国家化および(中露等の東側諸国の如く)権威主義化が進んでおり,日本を始めとする西側諸国の価値観とは相容れなくなって来た.だからトルコリラ急落によって馬土スワップがトルコによって使われると通貨危機がマレーシアリンギットに飛び火し,その結果として,日馬スワップが使われることになれば,間接的には日本が価値観では相容れなくなって来ているエイドリアン政権下のトルコを救済することになり,それは故安倍総理が協力に推進して来た価値観外交に反するので,馬土スワップが締結された場合にはマレーシア(に限らずトルコとスワップを結ぶソフトカレンシーの国々)に対して日本はスワップを結ぶべきでない.

    といったお考えだったのではないかと推察する次第です.

    確かにエイドリアン政権下のトルコは上に書いた問題を孕んでいますし,日本だけにとって見れば(明治時代の日露戦争や日本沿岸で遭難したトルコ軍艦の乗員を現地の日本人が救助した件など歴史的な経緯から親日的な国民が多いといった点を除くと)地政学的にトルコはさほど重要な国ではと私も思います.

    (実際,現実に日土スワップを結んでいない理由は日本にとってのトルコの地政学的な重要性の乏しさにあるのでしょう.またトルコは地中海東部を押さえる位置にあるので,地中海からスエズ運河への航路の安全にも影響を与え得ますが,トルコが軍事力によって地中海東部の海運を妨害・支配しようとすれば,どの国よりもユダヤ国家のイスラエルが黙っておらずイスラエルが怒るということはアメリカが激怒することですし,ペルシャ湾から原油を運ぶ紅海ルートの安全がトルコによって脅かされる事態は欧州諸国にとっても無視できないでしょう)

    他方,どのような理由であれ日本から日馬スワップを切れば,マレーシア政府の対日観が悪化するのは避けられません.地図を見れば明らかな通り,日本がペルシャ湾から原油輸入する海上ルートに関して,マレーシアの位置はインドネシアとシンガポールに次いで重要な位置(チョークポイント)に存在しています.つまり,マレーシアは日本にとって地政学的に大変重要な位置にあり,間違っても北京側に行かれては困る(日本にとって死活的な問題となる)国の一つです.

    実際,ジョコ政権になってからのインドネシアは共産チャイナにも擦り寄り高速鉄道計画の件など幾つかの件で日本に対する裏切りを行いましたが,とても多額の日尼スワップを日本は提供し続けています.また,インドは反中で一応は西側的な民主制国家ですが,国民の心に巣食うカースト制的な階級意識は現在も払拭からは程遠く更に非同盟国家として建国後の早い時期から軍備を西側(米英)ソ連に頼っていたこともあり今回のウクライナ戦争でも日米欧中心の対ロ制裁には参加していません.それでも日本はインドとも多額の日印スワップを締結しています.日本から見れば問題の多いこれら二国に対して多額のスワップを提供している理由は,両国が共に地政学的には日本の死命を制し得る国だからだと私は考えます.

    それに,そもそもマレーシアは以前から韓国とスワップを結んでいます.そして,その韓国は地政学的には確かに重要な半島それも例えば共産チャイナ側に対日攻撃用ミサイルを配備されると少なくとも西日本への迎撃はリアクション・タイム的にほぼ不可能となる半島南部に存在するにも拘らず,韓国の官民からの非公式なスワップ再開の要望の声に対して文政権による日本への目に余る国際法違反に対するサイレント制裁としてでしょうが,日韓スワップ再締結は許していません.

    それを考えれば,現状において日韓両国とスワップを結んでいるマレーシアを介して日本は間接的に韓国ウォンの下支え役を担っている状況にあります.確かこのブログでも「第三国Xとの日Ⅹ,韓Ⅹの両スワップによって生ずる間接的な日韓スワップを避けるべし」といった趣旨の記事があったと思いますが,その点からすればこの度結ばれる馬土スワップよりも馬韓スワップの存在こそ日馬スワップを避けるべき理由となりましょう.

    ですが,マレーシアとのスワップを日本は終了させていません.それは恐らく日本にとってのシーレーン沿岸国としてのマレーシアの地政学的価値がかなり高いから,間接的に韓国を利する可能性があろうと,マレーシアとの良好な関係を維持する手段としてのスワップは維持すべきだという判断によるものと推測できます.ですから,韓国とは異なり露骨に反日的で嘘で塗り固めた誹謗中傷など日本に害を与える行為をしている訳でない単なる権威主義化しつつあるトルコとのスワップを結んでいるからと言って,日馬関係を悪化させるリスクを冒すような行為(日馬スワップ終了)の実施可能性を検討する必要はないと愚考します.

    そもそも,トルコは日本一国にとっては地政学的にさほど重要な国ではありませんが,西側諸国の(国数で大半を占める)EU諸国にとっては極めて重要な国です.それは黒海への唯一の出入り口であるボスポラス・ダーダネルス両海峡の管轄権を握っているからです.

    例えばですが,現在は西側の各種軍事同盟の大きな比重を占めるNATOの一員として,黒海艦隊の旗艦でかつ最大の打撃&防空戦力であったモスクワを喪失したロシアが新たな軍艦を黒海に入れるのをトルコは規制してくれています.

    (私の想像では,例えばトルコが完全に権威主義枢軸側の国となり,北海艦隊や極東艦隊の多数の戦闘艦や多数の巡航ミサイルを撃てる大型の攻撃型原潜…現状の黒海には小型の通常動力潜水艦しか配備されていないので一気に発射できる巡航ミサイルの数もかなり限定される…が黒海に入るのをトルコが黙認すれば,未だロシアからの攻撃に耐えてウクライナ側が支配し続けているウクライナ南西部の諸都市(オデッサ等)の防衛は極めて困難になり,遠からず東部などと同様にロシアに占領される事態となり,最終的に北・東・南の三方向からの圧迫によってウクライナという国家が崩壊する=プーチンの妄想が実現する可能性が大きい)

    後は余談ですが,そもそもずっと世俗国家で一応は民主制や自由主義を尊重し我々西側と価値観を共有しNATOにも非常に早い段階(米英仏伊などによる49年のNATO発足から僅か3年後の52年で西独の加盟よりも早い)で加盟していたトルコでエイドリアンのようなトンデモ大統領が誕生してしまった(そして宗教国家化・権威主義化=反西側的価値観化を始めてしまった)責任の大半は,私の考えでは英仏伊などの西欧諸国にあります.

    西欧諸国が同一通貨による市場の一体化や人々の移動の自由を掲げてEUを結成した後の早い段階から,既にNATOの一員として西欧防衛の責務を担い続けて来たトルコはEU加盟を望み続けて来ました.ですが,それより後に加盟申請した旧ワルシャワ条約機構諸国の加盟は認める一方で非キリスト教国のトルコの加盟は様々な難癖をつけることで承認せずに遅延させて来た訳です.つまり西側の一員として旧ソ連やロシアからの軍事的圧迫に耐え黒海を守護することで西欧防衛の重責をきちんと果たしてトルコに対して,西欧諸国は宗教の違いによる露骨な差別をして来た訳です.

    まあこれでトルコ国民がEUに対して頭に来ないほうが不思議ですね.

    ですので,実質的にキリスト教経済圏と言うべきEU加盟は無理にしても,NATOという実質的にEU圏防衛のための軍事同盟に貢献しているトルコに対して,EU(というか締結の主体はECBでしょうが)は百億か二百億ユーロほどのスワップを供与しても罰は当たらないと,私は常々思っています.しかし,それを与えなくて当然と考えて経済的な困難にあるトルコを放置しているのは,やはり地球上で殆どの自然災害から解放され気候的にも農業や牧畜には最適な気候を地球によって与えられ,その潤沢な農業生産力によって世界の中で最も早く大きな経済力を蓄えそれを基に強大な軍事力を整備することで世界の大半を支配し植民地化した白人キリスト教徒の傲慢さの為せる業と言うべきでしょう.

    (私の場合,世界史を俯瞰して考えると欧米諸国は大嫌いだが,現在の世界で日本が歩調を合わせて外交をするべきと考えるのも,民主制・資本主義・自由主義の3つの基本的価値観・制度を共有できる欧米諸国だと考えています)

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