最近、連日取り上げている、ラオスのダム事故の話題については、続報が乏しい中でも、少しずつ事故原因の調査に向けた動きが出て来ました。ラオス政府としてはついに肚を固めて真相究明に向けて舵を切ったのでしょうか?こうした動きは注目に値します。

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ついに事故調査委を組織へ?

相変わらず続報が出てこないダム事故

ラオス南部で先月23日に発生したダム事故を巡る話題は、当ウェブサイトでも連日のように取り扱っています。その理由は何といっても、事故からすでに2週間が経過するにもかかわらず、いまだに被害の全容が明らかではない点にあります。

とくに、日曜日に更新した『ラオスのダム決壊事故の続報はなぜ出てこない?』のなかで私は、ラオス政府や韓国企業などが事故の隠蔽、証拠の隠滅などを図る可能性に警戒しなければならないと申し上げましたが、現時点で死者数が20人少々、行方不明者が100人少々というのは少なすぎる気がします。

ラオスのダム決壊事故の続報はなぜ出てこない?

ただ、日曜日の時点でも議論しましたが、ラオスは山岳地帯が国土の8割を占めており、タイやベトナムなどと異なり、海外からの投資で経済発展を図ることが困難です。しかし、こうした地形を逆手に取り、ラオスが戦略的に進めてきたのが、水力発電施設の開発です。

独立行政法人国際協力機構(JICA)のウェブサイトによると、ラオスは電化率90パーセントを達成することを政策目標として掲げており、日本のODAをはじめとする外国の協力を得て、国中にダムと水力発電所を設置しています。

いわば、豊富な水系を活用し、国民の9割に電気を供給したうえで、さらに余った部分を周辺国に輸出するという「インドシナのバッテリー」戦略ですが、裏を返して言えば、今回の事故原因について隠蔽しようとすれば、今後の外資によるラオスへの投資が滞る可能性もあります。

ついにラオス政府が「肚を固めた」のか?それとも…

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝掲載された記事に、興味深い内容が報じられています。それは、ラオス政府がダム事故原因の調査委員会を立ち上げる準備を始め、韓国政府に対してもそれに参加することを要請した、とするものです。

ラオス政府、ダム事故原因調査委員会を構成…韓国政府にも参加を要請(2018年08月05日09時26分付 中央日報日本語版より)

事故から2週間も経過して、やっと事故調査委員会が立ち上がるのか、という対応の遅さには驚きますが、それでも正式に事故の原因を調査することを決断したこと自体は注目に値します。

中央日報は現地メディア『日刊ビエンチャンタイムズ』の4日付の報道を引用する形で、同国政府のエネルギー高山省の担当局長が次のように話したとしています。

  • 事故調査委員会には株主として参加した企業が属する国も招請し、現場点検などの調査を進める
  • 世界銀行と国際的に公認された他の独立専門家らも調査に参加する
  • 洪水被害を受けた住民に最高の補償をすべく、補償が公正に行われるよう最善を尽くす

この報道をどう見るべきでしょうか?

ラオスは「韓国への責任転嫁」に自信を持っているのか?

日曜日の議論の繰り返しですが、そもそもラオスは社会主義に基づく「人民革命党」による事実上の一党独裁国家であり、かつ、アジアの最貧国という状況から抜け出せていません。一般的に、このような国において大事故や大災害が発生した時には、得てして政府は情報の隠蔽を行います。

もちろん、自由・民主主義国であっても、2011年3月の日本のように菅直人元首相のもとで福島第一原発の爆破事故が発生するなど、担当する政権が無能であれば、防げたはずの事故も防げない、というようなことが発生します。

しかし、旧ソ連でチェルノブイリ原発事故が発生した際にも、初動が遅れて被害が拡大したという苦々しい記憶がありますが、まさに社会主義国で大惨事が発生すれば、初動の遅れから被害が大きく拡大するという可能性は、自由・民主主義国よりも高いのです。

私の仮説が正しければ、先日も申しあげたとおり、ラオス政府が最も恐れていることは、人民の怒りの矛先が自分たちに向かうことです。つまり、なかなか続報が出てこない大きな理由の1つが、、ラオスという国自体が社会主義一党独裁体制にあるからだ、という仮説です。

それなのに、先ほど紹介した中央日報の報道が正しければ、ラオスとしては国際社会の専門家を招き、事故調査を受け入れることにしたのです。ということは、韓国企業などが参加するコンソーシアムの工事に過失があったということを、国際的な専門家にも認めてもらえるという自信があるのかもしれません。

いわば、ラオス政府としては、「事故の責任は韓国にある」とばかりに責任転嫁できれば良い、と考えているのかもしれません。

国際金融協力とラオス

国際金融協力の基本は「相手と自分のためになること」

ところで、私自身は「金融規制の専門家」として、銀行自己資本比率規制(バーゼル規制)や金融商品会計、資金決済システムなどの専門知識を1つの「ウリ」にしていますが、発展途上国に対する国際金融協力(インフラ金融など)についても意見を持っています。

ごく簡単にいえば、「国際金融協力は相手と自分のためになること」が基本である、ということです。

たとえば、わが国の外務省は『政府開発援助大綱』というものを定めていて、この中にハッキリと、

我が国ODAの目的は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである。

と定められています。要するに、相手国のためになるような支援をすることで、巡り巡ってわが国の安全と繁栄につながれば良い、という発想であり、私もこうした発想については全面的に支持したいと思います。

そして、外務省が規定している「基本方針」は、次の5つです。

  • (1)開発途上国の自助努力支援
  • (2)「人間の安全保障」の視点
  • (3)公平性の確保
  • (4)我が国の経験と知見の活用
  • (5)国際社会における協調と連携

少しわかりにくい部分もありますが、ごく簡単にいえば、相手の自主性を重んじ、環境アセスメントをしっかりと行ったうえで、貧富の差の解消や女性の社会進出支援などの視点も織り交ぜつつ、日本の知識と経験を活かし、国際社会と連帯して支援を行おうとする考え方です。

そして、こうした日本の姿勢は、ODAだけでなく、インフラ金融全体でも貫かれており、たとえば「相手国の政府高官と癒着して賄賂を贈って強引に仕事を取ってくる」、といった行為は日本国内で厳しく罰せられます。

インフラ案件をかっさらわれることが増えた

ただし、こうした5つの原則があるためでしょうか、最近、インフラ輸出案件を外国にかっさらわれることが増えて来ました。そのなかでも特に深刻なものは、2015年に発生した、インドネシアの高速鉄道輸出案件事件です。

この事件は、インドネシアで高速鉄道を建築すべく、日本の官民挙げたコンソーシアムがカネを出してインドネシアの地形などを調べ、高速鉄道のルートをインドネシア政府に提案したところ、インドネシア政府はこの報告書を中国に横流しし、結局、中国が案件をかっさらってしまったというものです。

この事件の一部始終については、昨年、『インドネシア高速鉄道案件とAIIBの現状』でも触れたとおりですが、いわば、日本が「相手国のため」だの「公正さ」だのと言っている間に、中国や韓国などが相手国に対して「うちなら格安で請け負いますよ」などの甘言で案件を奪って行く事例の1つと見て良いでしょう。

インドネシア高速鉄道案件とAIIBの現状

これについては、日本としては悔しいですが、何もできません。なぜなら、結局、インフラ金融の世界では、案件は最終的に相手国との合意が必要だからであり、相手国が日本ではなく中国や韓国などを選ぶと言えば、それでおしまいだからです。

「安物買いの銭失い」:結局はその国に跳ね返る

ところが、話には続きがあります。

インドネシア高速鉄道案件についてはその後、高速鉄道の建設が遅々として進んでいないと聞きます。また、『【夕刊】AIIBと中国に開発援助の資格はあるのか?』でも触れましたが、スリランカ南部の港湾の使用権を中国が99年間租借することとなりました。

【夕刊】AIIBと中国に開発援助の資格はあるのか?

いわば、港湾そのものが事実上、中国に「借金のカタ」として取り上げられた格好です。中国人民解放軍がスリランカの租借地で拠点を作るのではないかという懸念は払拭されていません。要するに経済性を無視して強引に案件を委ねたら、国土が中国に取られてしまった、ということです。

こうした中国による開発案件の事例は極端にしても、「安全性を無視して無理に安い値段で工事を請け負う」という意味では、中国も韓国も五十歩百歩ではないかと思うことがあります。つまり、今回のラオスのダム事故も、本質的にはインドネシア高速鉄道と似たようなものを感じるのです。

もちろん、事故の原因について、現段階で「欠陥工事があったに違いない」と決めつけることは不適切ですが、それでも、工事の品質チェックや環境アセスメントなどが不十分なままでダム建設を行ってしまったのかどうかについては、厳格に検証することが必要でしょう。

AIIBがのさばればどうなるか?

いずれにせよ、国際インフラ金融協力の世界では、わが国の外務省が示しているODAガイドラインの考え方が採用されるべきです。それは、端的に言えば「支援を受ける方、支援を与える方双方にとって利益がある」、とする考え方です。

この点、私が最も警戒しているのは、中国が主導する「アジア・インチキ・イカサマ銀行」…じゃなかった、「アジアインフラ投資銀行」、すなわち「AIIB」が案件を強引にかっさらい、アジア各地でインチキ工事を開始することです。

AIIBの現状整理・2018年4月版』でも触れたとおり、AIIBは2017年9月末時点で約185億ドルの資産を保有していますが、このうち、肝心の本業である貸出金などに使われている部分は6億ドル少々、つまり全体の資産の3%あまりに過ぎません。

しかし、案件数が積み上がらないことに焦りを感じたAIIBが、アジア全体で不当に安い値段で工事を取りまくり、アジアのあちらこちらでインチキ工事を開始してしまうことが、実は、アジア全体のインフラ開発にとっての本当のリスクではないかと思います。

もちろん、「中韓製だからダメ」「日本製だからヨシ」という単純なものではないことは間違いありませんが、それでも、一般にインフラ金融の世界では、完成したインフラ施設はかなりの長期間にわたって利用されます。韓国企業が建設したパラオの橋のように、インチキ工事である日突然崩壊することがあっては困ります。

今回のラオスのダム事故についても、再発を防止するためには徹底した真相の究明が必要です。そして、「韓国企業が今後、工事を受注することが困難になるかどうか」など、どうでも良い話なのです。

※本文は以上です。

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  • 2020/06/17 11:00 【時事|国内政治
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  • 2020/06/17 05:00 【経済全般
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  • 2020/06/16 22:30 【時事|外交
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  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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