最近のインターネットの検索トレンドとしては、「AIIBはどうなったのか?」という検索が多いようです。AIIBとは中国が主導する国際開発銀行のことで、いわば、中国にとっては「人民元の国際化」という壮大な計画と並んで、「金融の世界でも覇権を握りたい」という野望が体現した組織であるといえるかもしれません。ただ、残念ながら、現時点でAIIBは「鳴かず飛ばず」の状況にあります。そこで、「通貨論の専門家」である私は、本日は「資料集」もかねて、AIIBの最新状況について簡単にまとめておきたいと思います。

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始めに:記事の訂正とお詫びについて

中国が主導する国際開発銀行である「アジアインフラ開発銀行(AIIB)」を巡っては、鳴り物入りで華々しくスタートしました。そして、日本の大手メディアには、最近でも「日本は今からでも遅くないからAIIBに加入すべきだ」といった主張が掲載されることはあるのですが、その割に、AIIBの「具体的な成果」については、いまいち見えて来ません。

在日中国人の作家・ジャーナリストである莫邦富(ばく・ほうふ)氏がダイヤモンド・オンラインに寄稿した次の記事など、その典型例でしょう。

中国嫌いが災い、AIIBを巡る世界の流れに日本は乗り遅れた(2017年2月2日付 ダイヤモンド・オンラインより)

細かい反論については、私が先週、『人民元やAIIB巡るダイヤモンド記事への反論』の中で触れたとおりですので、ここでは繰り返しません。ただ、私が述べた内容について、訂正しておきたい箇所があります。それは、次の下りです。

発展途上国が中心ではありますが、AIIBに加盟国が増えていることは事実です。ただ、これらの『新規加盟国』と日本の役割は、決定的に異なります。というのも、日本がMDBに加盟する目的とは、『融資を受けること』ではなく、『融資ノウハウと資金を提供することを通じてMDBに対する影響力を確保すること』にあるからです。

実は、この下りのうち、下線部が大きな誤りです。というのも、AIIB加盟国は、2015年12月以降、全く増えていないからです。自分できちんと調べもしないで、いい加減なことを記載してしまったことを、深くお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。

ついでに、莫氏の記事についても問題点を指摘しておきます。莫氏自身は「AIIBの加盟国が増えている」と述べている訳ではありません。しかし、記事の中で、「カナダがAIIBに参加することを決定した」、「中国の環球時報などが、1月下旬に25か国が加入すると報じた」などと記載しており、私のように「そそっかしい」者が読むと、「AIIBの加盟国が激増している」かのような印象を与えかねず、不適切でしょう。

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順調ではないAIIB

「意思表明」、「署名」、「批准」の違い

さて、ここまで私は、「加盟の意思を表明した国」、「署名した国」、「批准した国」について、明確に区別を付けていませんでした。しかし、実はこの3つの段階は、全く異なります(図表1)。

図表1 加盟国の定義の違い
 区分 概要
加盟意思表明国 厳密な定義は不明だが、外交ルート等を通じてAIIBに「加盟する」という意思を表明した国のことか?
署名国 AIIBの「約款」(Articles of Agreement)を受け入れることを了承し、署名を済ませた国
批准国 AIIBへの加盟に関する国内の手続を終了させた国

ここで、「加盟国」(あるいは「加入国」)とは、「加盟する意思を表明した国」、「署名した国」、「批准が終わった国」のどれを示しているのでしょうか?

私は、「署名が終わっている国」を「加盟国」と見るべきだと考えています。なぜなら、AIIBは、公式には「署名か批准のいずれかが終了した国」を「加盟国(membership)」と定義しているからです(「加盟国(membership)」のページ)。

“Membership of the Bank is confirmed following either the ratification or acceptance of the Bank’s Articles of Agreement.”

そして、2016年12月末時点でAIIBが公表している資料から判明する「署名国」は、次の57カ国です(図表2)。

図表2 署名国一覧
署名日 地域内 地域外
2015年6月29日 次の33か国

オーストラリア/アゼルバイジャン/バングラデシュ/ブルネイ/カンボジア/中国/グルジア/インド/インドネシア/イラン/イスラエル/ヨルダン/カザフスタン/韓国/キルギスタン/ラオス/モルディブ/モンゴル/ミャンマー/ネパール/ニュージーランド/オマーン/パキスタン/カタール/ロシア/サウジアラビア/シンガポール/スリランカ/タジキスタン/トルコ/アラブ首長国連邦/ウズベキスタン/ベトナム

次の17か国

オーストリア/ブラジル/エジプト/フィンランド/フランス/ドイツ/アイスランド/イタリア/ルクセンブルク/マルタ/オランダ/ノルウェー/ポルトガル/スペイン/スウェーデン/スイス/英国

2015年8月21日 マレーシア
2015年9月29日 タイ
2015年10月9日 ポーランド
2015年10月27日 デンマーク
2015年12月3日 南アフリカ
2015年12月4日 クウェート
2015年12月31日 フィリピン

また、図表2に列挙した国は、すぐに「批准」をしたわけではありません。たとえば、ブラジル、イラン、クウェート、マレーシア、ポルトガル、南アフリカ、スペインの7か国については、「署名」は終わっているものの、昨年12月末時点で「批准」が終了していません。また、フィリピンのように、批准が2016年12月28日にずれ込んだという例もあります。

出資金額と議決権数

次に、AIIB自身の公表するデータをベースに、各国の出資金額と議決権をまとめておきましょう(図表3)。

図表3 出資金額と議決権数
順位 国名 出資金額 出資比率 議決権 議決権比率
1 中国 29,780.4 33.4130% 301,018 28.7903%
2 インド 8,367.3 9.3879% 86,887 8.3101%
3 ロシア 6,536.2 7.3335% 68,576 6.5588%
4 ドイツ 4,484.2 5.0312% 48,056 4.5962%
5 韓国 3,738.7 4.1947% 40,601 3.8832%
6 オーストラリア 3,691.2 4.1415% 40,126 3.8378%
7 フランス 3,375.6 3.7874% 36,970 3.5359%
8 インドネシア 3,360.7 3.7706% 36,821 3.5217%
9 英国 3,054.7 3.4273% 33,761 3.2290%
10 トルコ 2,609.9 2.9283% 29,313 2.8036%
その他 20,349.0 22.5846% 326,582 30.9334%
合計 89,347.9 100.0000% 1,048,711 100.0000%

ただし、AIIBが公表する資料相互間で若干の矛盾があるため、「出資比率」と「議決権比率」については、計算が合いません。その大きな理由は、上記の「出資比率」や「議決権比率」についてはウズベキスタンの出資金額・議決権が反映されていないためですが、大勢に影響がないため、ここではAIIBの公表物をそのまま引用しています。

承認済み融資プロジェクト

AIIBウェブサイトによると、AIIBが正式に発足したのは約1年前の2016年1月のことですが、その後、現時点までに9件のプロジェクトが「承認済み」(approved)です(図表4)。

図表4 AIIBの承認済みプロジェクト一覧(金額単位:百万ドル)
プロジェクト 総額 うちAIIB 比率
タジキスタン ウズベキスタン国境道路改善事業 105.9 27.5 25.97%
インドネシア スラム改善プロジェクト 1,743 216.5 12.42%
パキスタン 国道4号線建設 273 100 36.63%
バングラデシュ 送電系統整備 262.29 165 62.91%
パキスタン タービン増強事業 823.5 300 36.43%
ミャンマー ガス・コンバインドサイクル発電 不明 20 不明
オマーン 鉄道敷設事業 60 36 60%
オマーン 港湾整備事業 353.33 265 75%
アゼルバイジャン 天然ガスパイプラインプロジェクト 8,600 600 6.98%
合計 1,730

また、AIIBが現在「検討中のプロジェクト(Proposed Projects)」としては、たとえば、次のような項目があります(図表5)。

図表5 AIIBが検討中のプロジェクト(金額単位:百万ドル)
セクター 総額 うちAIIB 比率
インド インフラ 715 200 27.97%
インド 運輸 502 141 28.09%
インド エネルギー 570 160 28.07%
インド エネルギー 不明 不明 不明
インドネシア ダム・治水 300 125 41.67%
インドネシア 複合案件 406 100 24.63%
カザフスタン 道路・高速道路 不明 不明 不明
バングラデシュ エネルギー 453 60 13.25%
カザフスタン エネルギー 不明 不明 不明
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AIIBの欠陥

新規加盟は2015年12月以降止む

さて、以上から判明する事実を列挙しておきましょう。

図表2からわかるとおり、AIIBの署名式は2015年6月29日に行われ、合計50か国が「創設メンバー」に署名。その後、同年12月末までに7か国が加わりましたが、その後、少なくとも2016年12月末時点で、「新規署名国」は出現していません(図表6)。

図表6 新規署名国数の推移

また、AIIBのウェブサイトの公式発表によれば、署名を済ませている国は57か国ですが、うち7か国は国内の批准手続が終了していないらしく、「批准まで済ませた国」は50か国、「出資金の払込」まで終わらせている国は49か国です(フィリピンは2016年12月28日に批准済みだが現時点で出資は未履行の模様)。

先日も当ウェブサイトで引用した、「ダイヤモンド・オンライン」の『中国嫌いが災い、AIIBを巡る世界の流れに日本は乗り遅れた』によれば、

17年1月下旬、中国の環球時報などのメディアが相次いで「中国主導のAIIBにカナダ、アイルランド、スーダン、エチオピアなど25ヵ国が新加入へ、米国加入の可能性も」といった内容のニュースを配信した。

とあります。AIIBが勝手に「ライバル視」するのは、日本が主導するMDBである「アジア開発銀行」(ADB)ですが、このADBの加盟国数(2015年時点で67か国)を上回るためには、あと11か国の加盟が必要です。中国当局は、何とか「メンツ」を保つために、あと11か国の加盟を目指しているのでしょう。

不十分な開示、ガバナンスの欠如

これに加えて、AIIBには、他にも大きな問題があります。上の図表4、図表5を眺めていただくとわかりますが、「プロジェクトの総額」や「AIIBの融資額」について、「不明」となっている部分が多々あることです。

通常の国際開発銀行(MDB)であれば、民間金融機関などが融資を行うこともあるため、プロジェクトの金額や融資割合等については、一覧表にして開示するはずです。しかし、AIIBの場合は、上記18件のプロジェクトについては、いずれも次のプロジェクトのページから、案件ごとにページをクリックし、PDFファイルを1つずつ確認しなければ、金額がわかりません。

こうした「プロジェクトの一覧性のなさ」は、MDBとして致命的な欠陥です。

ADBの開示

では、AIIBが勝手にライバル視しているADBの開示は、どうなっているのでしょうか?

ADBのウェブサイトは、AIIBのウェブサイトと比べて、明らかに異なります。その一つは、「投資家とのリレーション」(Transparency and Accountability)のページが、少なくともAIIBと比べれば、極めて充実していることです(もっとも、財務諸表をはじめとする必要な情報が見つけ辛いなど、極めて問題の多いウェブサイトでもありますが…)。

当然、貸借対照表やプロジェクト一覧などについても、(非常にわかり辛いものの、一応は)ウェブサイトに開示されています。融資実績、加盟国、資本金などの情報については、AIIBと比べれば、まだ見つけやすい状況となっているのです。

人民元建て融資はどうなった!?

そのAIIBの署名式が行われる数か月前に、ロイターは、興味深いニュースを配信しています。

AIIB融資、人民元の利用を中国が働き掛けへ=香港紙(2015年 04月 15日 12:03 JST付 ロイターより)

この記事は、「シンクタンク関係者の話」として、香港のサウスチャイナ・モーニング・ポストの報道を孫引きして伝えたもので、中国当局がAIIBによる「融資と決裁」(太字下線部は原文ママ。おそらく「決済」の誤りと思われる)に使う通貨に人民元を加えるよう、関係国に働きかけている、とするものです。

実現すれば、人民元の「国際化」に寄与するはずですが、現時点でそれが実現したという話はAIIBのウェブサイトからも確認できません。

なお、中国人民元の国際化に関する問題点については、今月、『オフショア人民元市場でいま何が起きているのか?』と題する記事を公表しています。是非、ご参照ください。

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日本政府の対応は明快

ところで、日本はADBを含め、世界の主要なMDBには加盟していますが(詳しくは『国際金融の世界における日本の地位』をご参照ください)、AIIBには加盟していませんし、現時点で加盟する「兆候」すらありません。産経ニュースによると、AIIB側は昨年7月、日本の元首相である鳩山由紀夫を「諮問委員に任命した」と報道。「日本を取り込む思惑か?」と述べていますが、日本を取り込むという目的だとしたら逆効果であることは間違いないでしょう。

では、日本はAIIBに加盟すべきなのでしょうか?

この点、わが日本政府の姿勢は、極めて明快です。麻生太郎副総理兼財相は2015年(平成27年)3月27日の閣議後の記者会見で、

日本のスタンスは最初から全然変わりがないのであって、まずは公正なガバナンスの確保、特に加盟国を代表する理事会というものがきちんと個別案件を審査・承認すること、それから債務の持続可能性や環境・社会に対する影響への配慮が確保されていることなどが重要だと考えているのであって、これらが全く明確ではありませんから参加については慎重な立場ということで、これは昔から変わらないことだと思っています。いずれにしても重要なのはこれまで申し上げていることがきちんと確保されているという点を見極めるということで、日にちの問題ではありません。

と述べています。

日本政府のスタンスとしては、AIIBに対する不信感を払拭することができない以上、このような組織に参加すべきではないというものですが、私もこの姿勢を全面的に支持したいと思います。

私も公認会計士の端くれですから、「情報開示」の重要さについては、常に強調したいと考えています。この点、私が調べた限りにおいて、AIIBが開示する資料には、次のような欠点があります。

  • 情報の時点などの基本的情報の記載が漏れている資料が多すぎる
  • 一覧性のあるプロジェクト進捗管理表を開示していない
  • 財務諸表の開示が見当たらない

つまり、この組織は基本的な情報開示にも極めて消極的であり、問題があると言わざるを得ません。そして、AIIBの「情報開示に消極的な姿勢」を見る限り、このような組織に日本が出資することは極めて不適切でしょう。

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  • 2016/12/07: 日韓スワップ巡る「麻生発言」と韓国の反応
  • 2016/12/04: 韓国の外貨準備の75%はウソ?
  • 2016/12/02: 速報【産経報道】日韓スワップ交渉、長期停滞か?・ほか
  • 2016/11/29: 深刻化する韓国経済危機と安易な日韓スワップ再開論
  • 2016/11/16: 片山さつき氏の日韓スワップ論に思う
  • 2016/11/13: 老獪な菅官房長官の「日韓スワップ」発言
  • 2016/11/11: 「韓国経済崩壊論」と韓国の不良資産疑惑
  • 2016/10/27: 専門家が見る、韓国が「日本との」通貨スワップを欲しがるわけ
  • 2016/10/13: 韓国から見た日韓スワップの必要性
  • 2016/10/12: SDRとは?
  • 2016/10/07: 「日韓通貨スワップ協定」深掘り解説
  • 2016/09/30: 日韓スワップ「500億ドル」の怪
  • 2016/09/17: 専門知識解説:「日韓通貨スワップ協定」
  • 2016/09/14: <保存版>ハード・カレンシーとは?
  • 2016/08/29: 日韓通貨スワップ協定巡る不信感
  • 2016/08/27: 日韓通貨スワップと安倍政権の説明責任
  • 経済・金融に関する用語集

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  • 2018/10/26 12:00 【時事|金融
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