成果に乏しい日中金融対話

現在の中国にとっての経済面における課題とは、自国通貨・人民元の国際化や、米国との貿易戦争を回避することです。ただ、EUや日本に擦り寄り始めている割に、どうも中国がやることは中途半端です。

日欧との連携模索し始めた中国

欧州連合(EU)が素直に中国と連携するか?

米中貿易摩擦が激化しつつあります。こうしたなか、「日本最大の中国情報サイト」を名乗る「レコード・チャイナ」には、先日、こんな記事が掲載されました。

米中貿易摩擦激化、中国がEUに協力呼びかけ―米メディア(2018年4月9日(月) 8時20分付 Record chinaより)

米中間で貿易摩擦(というよりも「貿易戦争」)が高まる中で、中国の欧州連合(EU)代表部の張明(ちょう・めい)大使は、米国に対する一連の制裁関税を「自国中心主義」「保護貿易」などと批判するとともに、EUに対して連携を呼びかけたというものです。

「貿易戦争」の引き金を引いたのは米国による3月の鉄鋼・アルミニウムの制裁関税ですが、当ウェブサイトでも『【夕刊】トランプ政権の鉄鋼アルミ制裁を数値で検証する』でも取り上げたとおり、これはおもに中国と日本に対して発動されたものであり、EUは対象外とされています。

ただ、EUとしては米国・トランプ政権が保護主義に傾くことは、非常に懸念すべき材料でもあります。なぜなら、EU自体がもともとは出発点が「関税・エネルギー同盟」であり、自由貿易により利益を最大化するという思想に立脚しているからです。

トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」に対しては、アンゲラ・メルケル独首相を筆頭に、EU主要国首脳からは、しばしば懸念が表明されてきました。また、最近のG7会合やG20会合の声明についても、私は保護主義的な政策を掲げる米国への牽制という意味合いが込められていると考えています。

ただ、だからといってEUが素直に中国と連携するのでしょうか?

日中ハイレベル経済対話の目的とは?

一方、中国は日本との連携も視座にいれています。4月16日、中国側の要請に基づき、東京で「第4回日中ハイレベル経済対話」が開催されました。

何かにつけて日本に対抗しようとする中国が、このタイミングで経済対話を要請してきたというのですから、「何か裏がある」と考えるのが自然でしょう。つまり、4月16日が安倍総理訪米直前というタイミングでもあるため、米国との貿易戦争における仲介か、もしくは日中連携を求めるための来日、というわけです。

ただ、今回の対話における中国側の議長は王毅(おう・き)国務委員兼外交部長(外相に相当)です。いちおう、河野太郎外相のカウンターパートとされているものの、中国の外交の実質的な最高責任者は、王毅外相ではなく楊潔篪(よう・けつち)国務委員であるとされます。

そして、経済対話といいながら、劉鶴(りゅう・かく)副首相の姿も見えません。中国政府の皆さんがわざわざ日本にやってきたにしては、どうもメンツが中途半端です。このことから、実質的には河野太郎外相と王毅外相が「担当外」でありながら経済対話をするという、非常に変なことになっていました。

とくに金融分野については、麻生太郎副総理兼財相(金融担当特命大臣担当)ではなく、越智隆雄・内閣府副大臣が対応するなど、「経済対話」というにはあまりにも中途半端です。

金融面における日中経済対話

パンダ債推進という常軌を逸した発想

さて、私自身は金融規制の専門家を自負していますが、当然、金融分野における日中対話には強い関心を持っています。これについて、昨日、金融庁のウェブサイトに、「金融分野の対応」が掲載されています。

第4回日中ハイレベル経済対話における金融分野の対応について(2018/04/17付 金融庁ウェブサイトより)

ポイントは次のとおりです。

(1)日本側からの要請
  • ①日系金融機関に対する事業債引受、パンダ債引受、債券決済代理人等のライセンスの早期付与
  • ②証券・生保等の分野における日系金融機関の中国市場参入に対する支援
  • ③日中金融当局間の一層の連携強化
(2)中国側からの発言

先週のボアオフォーラムでは、習近平国家主席が金融の対外開放について演説し、その具体的な実施方針についても易綱人民銀行行長から公表されるなど、金融分野の対外開放の推進や今後の日中金融協力の更なる強化等に言及

いかにも金融庁らしい、相変わらず中身に乏しい記述ですが、ここで注目すべきは「パンダ債」に言及があることです。

ソフト・カレンシー建て債券の危険性』で説明したとおり、「パンダ債」とは、外国企業が中国本土において、人民元建てで発行する債券のことです。ただし、中国本土の資本市場は基本的に外国に対して開放されていないため、発行することよりも償還するリスクの方が高いという代物です。

債券市場育成は縦割り行政の弊害

では、なぜ「パンダ債」が重要な話題となるのでしょうか?それは、「ちゃんとした債券市場」が存在すること自体、その通貨に対する信頼の証だからです。そして、意外に知られていないのですが、日本という国の強みは、世界最大級の規模を誇る、そして世界に開かれた債券市場の存在です。

日本政府が発行する債券のことを、一般に「日本国債」と呼びます。業界では、 “Japan Government Bond” を略した「JGB」と呼ばれることもあります。その発行残高は、2017年12月末時点において1092兆3556億円(※時価ベース)と、途方もない金額です。

もちろん、これは発行残高としても世界最大規模ですが、債券市場の規模として見ても、米国(米ドル)、ユーロ圏(ユーロ)などと並んで、世界でも有数の規模です。これこそが、日本円という通貨が米ドル、ユーロと並び「世界3大通貨」と呼ばれるゆえんです。

言い換えれば、アジア各国には債券市場の育成が遅れているということでもあります。そこで、財務省は「アジア債券市場育成イニシアティブ」、略して「ABMI」というプログラムを立ち上げ、アジア各国における債券発行を側面支援しています。

アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)(財務省ウェブサイトより)

ところが、先ほどの金融庁のウェブサイトから判断するかぎり、今回の日中金融対話では、このABMIに関する話題が出て来ませんでした(※といっても、本日以降、財務省のウェブサイトにABMIの話題が出る可能性は否定できませんが…)。

中国が自国通貨・人民元の国際化を狙うのであれば、ABMIを活用するのが手っ取り早いはずなのに、どうしてこの話題が出て来なかったのでしょうか?

その理由の1つは、おそらく、縦割り行政にあります。債券市場の振興は、本来ならば金融行政の範疇に属するものであり、金融庁が管轄すべきものです。しかし、国際金融の世界では依然として財務省の力が強く、ABMIにおいても金融庁は「蚊帳の外」に置かれている格好です。

麻生副総理が出てくれば話は早かったのに

ただ、麻生太郎副総理兼財相は、財務大臣であるとともに、金融担当特命大臣でもあります。麻生副総理が対話に登場していれば、パンダ債とABMIを同時に議論することができたかもしれません。

もし中国側が本気で人民元建ての債券市場を育成しようと考えるならば、王毅外相のような「軽量級」の政治家ではなく、劉鶴副首相あたりを連れてくるのが筋です。したがって、これは明らかに中国側の人選ミスだと考えるべきでしょう。

人民元の国際化が今ひとつ進まない大きな理由は、中国本土の人民元(CNY)と香港などのオフショア市場の人民元(CNH)が分断されていることだけではありません。中国本土における債券市場が未成熟であり、人民元自体、通貨として使い物にならないからです。

もちろん、中国が人民元の国際化に踏み切るためには、思い切って自国の資本市場を対外開放しなければならず、そうなれば今までのような不透明な為替操作もできなくなりますし、中国から資本が流出するリスクも高まります。

そんな中国が債券市場を育成し、通貨の使い勝手を高めるためには、ABMIの枠組みは、それこそ喉から手が出るほど欲しいものです。

実際、韓国は2017年1月、「釜山の慰安婦像問題」にキレた日本政府からハイレベル経済協議を打ち切られ、通貨危機の可能性が日々高まっている状況にあります。アジアでほぼ唯一の債券市場先進国である日本の存在感は、それだけ大きいのです。

いずれにせよ、今回のハイレベル経済対話、中国による「戦略ミス」というのが実情に近いように思えてならないのです。

読者コメント一覧

  1. 非国民 より:

    中国はまずお金の移動を自由にすべきだな。年間一人約500万円までなんて、おかしい。人民元もSDRに入ったのだから自由に取引できる必要があると思う。
    欧州は確か、欧州石炭鉄鋼共同体から始まったね。そこからEUになった。ただ思うのだけど、通貨を共通にしただけじゃ問題がいっぱいでてくるから、一つの国になったらよいのではと思う。

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