ノウハウ不足のAIIB、出したくても出せない中国色

中国が主導する国際開発銀行といえば「AIIB」ですが、先月の『日米が「乗り遅れた」AIIB発足6年目のお寒い現状』なども含め、当ウェブサイトでは普段から申し上げているとおり、どうもこのAIIBの事業運営は順調とは言い難いようです。こうしたなか、産経ニュースに先日、中国がこのAIIBの運営において「中国色を隠している」とする記事が掲載されていました。

AIIBに日本が「乗り遅れ」て何か問題がありましたか?

先月の『日米が「乗り遅れた」AIIB発足6年目のお寒い現状』では、中国が主導する国際開発銀行で、日米両国が出資を見送った「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の現状に関し、同行の財務諸表などをベースに、その現状を報告しました。

正直、このAIIBを巡っては、2015年に発足した当初、わが国でも「日本はAIIBに参加しないと、アジアのインフラ金融から除け者にされる」などとする論調が見られたことも事実でしょう。

たとえば、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』には2015年4月2日付で、こんな記事が掲載されていました。

日本は中国に対する冷静さを欠き、AIIB加入問題で流れを読み間違えた

―――2015.4.2 0:00付 ダイヤモンドオンラインより

この記事では、日本がAIIBへの不参加を決めたことで、「日本は孤立した立場に追い込まれた」、などと述べています。また、同じ人物が2017年2月2日付で寄稿した次の記事でも同様に、日本がAIIB不参加で「世界の潮流に乗り遅れた」、などとしています。

中国嫌いが災い、AIIBを巡る世界の流れに日本は乗り遅れた

―――2017.2.2 5:00付 ダイヤモンドオンラインより

現実に「鳴かず飛ばず」はAIIBの側

しかし、非常に残念な話ですが、むしろ世界のインフラ金融の世界で「孤立」しているのは、AIIBの側です。

あらためて振り返っておくと、AIIBには9月3日時点で87ヵ国(うちリージョナル46ヵ国、ノンリージョナル41ヵ国)が出資し、出資約束額こそ約1000億ドルに達しているのですが、実際に財務諸表に計上されている「本業と思しき融資」は、その10%の105億ドル程度に留まっています。

また、現時点までに承認された案件(プロジェクト)については、9月3日時点で138件・金額275.2億ドルですが、このうちコロナ関連融資が31件、金額にして81.6億ドルを占めており、コロナ関連を除くと承認案件は107件、金額は193.6億ドル、という状況です。

つまり、AIIBは事実上、協調融資などの形で、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)からの「おこぼれ」をもらいつつ、昨年は「コロナ特需」で関連融資を伸ばしたものの、肝心の「本業」である「一帯一路プロジェクト」に従った融資というものは、ほとんど見られません。

また、2015年当時、一部にはAIIBが人民元建てで融資を実行するとの観測報道もあったのですが、現実には現在実行されているプロジェクトはいずれも米ドル建てであり、9月3日時点において承認申請中の案件にはユーロ建ての取引もあるものの、人民元建てのものは1件もありません。

もちろん、AIIBが今後、少しずつ融資を伸ばしていく可能性もないわけではありませんが、少なくとも現状において、「世銀やADBを押しのけ、日本をアジアのインフラ金融からの除け者にする」という目論見は、まったくと言って良いほど達成できていないと考えて良いでしょう。

当たり前です。

インフラ金融の世界において、日米が主導するADBは1960年代から活動を行っているのであり、数十年という経験、資金調達力、米ドル・日本円などの通貨の通用力などにおいて、現在のAIIBや中国がADBや日米に勝てる要素はありません。

金融の世界では、「おカネを集めたら自動的に事業ができる」、というものではありません。融資案件のソーシングにせよ、融資実行にせよ、ALM・金利・為替リスクヘッジにせよ、融資回収にせよ、とにかく「ノウハウ」がモノを言います。

新参者がこれらの基盤もなしにノコノコと事業に参入したところで、返り討ちにあうのが良いところでしょう。

産経「AIIBは中国色隠す」

こうしたなか、産経ニュースに先日、こんな記事が掲載されていました。

アジアインフラ投資銀が年次総会 中国色隠し投融資拡大

―――2021/10/26 19:14付 産経ニュースより

北京発の記事ですが、AIIBが26日から開催している年次総会に関するレポートです。

産経はAIIBが「加盟国・地域は開業当初の57ヵ国から103ヵ国にまで拡大」し、「投融資案件も伸ばしている」、などと述べているのですが、ここでいう「103ヵ国」には加入手続中の16ヵ国も含まれてしまっているなど、記事は若干不正確です。

産経はまた、AIIBが「中国色をできるだけ出さないようにして慎重に事業を拡大させている」などとしていますが、むしろ実情は、「AIIBには途上国インフラ金融自体のノウハウがなく、中国色を出そうにも出せない」と述べた方が正確ではないでしょうか。

記事のなかで、とくに違和感があるのは、こんな記述です。

AIIBは、習近平政権の巨大経済圏構想『一帯一路』を資金面で支える存在だと欧米では見なされているが、中国政府の存在を感じさせないように事業運営を行っていることがうかがわれる」。

これについては当ウェブサイトで繰り返し指摘しているとおり、現実にAIIBには「一帯一路」関連の融資はあまり見られず、AIIBと一帯一路が有機的にリンクしている兆候はありません。

単純に、AIIBが能力不足というだけの話ではないかと思う次第です。

そもそも中国は「外交上手」なのか?

さて、世の中では中国の「野望」について、かなり誇張されるきらいがあります。

もちろん、中国が東シナ海や南シナ海などで展開する領土的野心は危険なものですし、また、「実戦慣れ」していないためでしょうか、中国海軍の動きは、突発的な軍事衝突を招きかねない危険なものも見かけるのが実情といえるかもしれません。

しかし、ここ数年の中国の動きを眺めていると、正直、中国が「外交上手」なのかは大変に疑問でもあります。

「鳴かず飛ばず」のAIIB、実体のない一帯一路構想、下手な戦狼(せんろう)外交は、諸外国に対し、却って中国への警戒感を強めさせる効果をもたらしており、実際、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)には、共感する国が続出しているという状況でもあります。

やはり中国の失敗は、外国に対して「大国意識」を剥き出しにして強圧的に接していることに由来すると思わざるを得ないのです(そんな外交が通用する相手国は韓国くらいなものでしょう)。

その意味では、米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーでもあるエドワード・ルトワック氏がいまから10年近く前に出版した『自滅する中国』は、現在になって読み返しても大変に示唆に富んでいると思わざるを得ない、というわけです。

読者コメント一覧

  1. だんな より:

    取り立ては、中国色を出すんじゃないかな。

  2. がみ より:

    昨年からAIIBの貸付が増えてるのは確かですが、それって新型コロナ対策での新興国の運転資金用の借金が増えたからなんでインフラには余りにも関係無いですよね。

    AIIBってIMFから低利で金借りてその金高利で貸し出してるし…
    サラ金とか商工金融みたいに担保も無い自転車操業の国に金貸す組織でしたっけ?

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      日本でも銀行がサラ金にじゃぶじゃぶ金を貸して
      リスクを取るのがサラ金、銀行は低リスクで堅実に儲けるという構造を構築しているね

      1. がみ より:

        銀行は金で金を増やす企業ですからね。

        「インフラ投資」って看板出してたらダメでしょう?

  3. hallo より:

    中共、と言うか中国は華夷秩序上の大国で居続けていたため、同規模、少なくとも対抗出来る相手がいる状態での外交は「全くの素人でド下手」ですね
    ご指摘にあるように、戦狼で返って警戒感を抱かせていますし、AIIBもぶち上げたは良いけど踊る相手がいない
    外交的に見られて成果が上がったのって、鄧小平時代くらいじゃないですかね? あと、江沢民時代は浸透工作が上手かった気はしています
    習近平って一種のボンボンですから、共産党が好き放題できる国内の気分で暴れ回ってるだけじゃなんじゃないですかね
    いわゆる3世が会社を潰す、みたいな

  4. naka より:

    中国の本音は、「大国としてADBというシステムを持っている」という見栄では?
    実のところで中国は、案件を探し出し、審議して、プロジェクトを立ち上げて、等の面倒なことを真面目にやろうとは思って無いと思う。
    ターゲットを見つけたら、中国単独で、金をチラつかせて、脅して、と進めるのか今の中国式でしょう。

  5. sqsq より:

    参加国はインフラ投資、融資を受けたい、自国企業をプロジェクトに参加させたいという思惑で参加しているはず。6年間開店休業状態で参加国から「何やってんだよ、金返せ」という声はでないのか?

  6. より:

    中国史を省みると、有史以来異なる文化圏相手の外交をうまくやったと言えるケースはほとんどないことに気づきます。長い歴史の中で、分裂状態にあった期間も長いので、「国家」間の駆け引きや謀略などについては、同様に長い歴史と経験がありますが、基本的には中国文化圏の内側の話であり、その外側とは「冊封-朝貢」という擬制的な従属関係モドキがあっただけで、前漢以来の北方遊牧民族との折衝以外では、いわゆる「外交」関係は存在しませんでした。その北方遊牧民族との関係にしても、基本的には一時的な休戦協定のようなものであり、その北方遊牧民族も結局はしだいに「中国」に取り込まれていき、モンゴルを除いてほぼ消滅してしまいました。

    ここで考えられるのは、そもそも中国に「中国という国家」という意識が芽生えたのは、せいぜい清末以降のことであり、それ以前には「天下」という概念しか存在しなかったのではないかということです。「天に双日無し」と言われるように、「天下」もただ一つであり、理念上は天下を統べる皇帝もただ一人です(*)。そのような世界観においては、そもそも「外交」が存在する余地はありません。皇帝と対等な関係にある者などいてはならないからです。

     (*) 実際の中国史では、数人の皇帝が併存していた期間も長いのですが、あくまでも理念
       としては皇帝はただ一人であるべきとなります。

    このように考えると、現在の中国に「外交」が不在である理由も見えてきます。毛沢東のような強烈な個性ならばともかく、並の人材では、同一文化圏内でのやり取りの記憶しかありません。同一文化圏内なので、まず相手との価値観や世界観の相違を理解するところから始めるというステップに考えが及ばないのです。結局、中華帝国式に相手国に朝貢国であるように振舞わせるという方向性しか思いつきません。そしてそれが通用しない相手には、必要以上に居丈高に振舞うか、あるいは精神勝利で満足するかのいずれかになってしまいます。そこには「洗練された外交」などというものは存在しません。
    ただし、相手との駆け引きとか謀略といったことに関しては、豊富な歴史的知見を活かしてそれなりに実行することができます。「中国が外交上手」という見解は、そういった部分だけを見ているのではないかと思います。しかし、実際には外交の上手下手以前に、そもそも「外交」が存在しなかった国なのだと考えた方が妥当だと思います。

    ついでに付記すると、朝鮮半島の場合、中国のような分裂状態すらほとんど経験してきませんでした。特に李朝500年は、内輪での足の引っ張り合いしかありません。常に中国に対する朝貢国であり、中国文化圏の辺境であり続けた朝鮮半島は、「外交」は対中国関係のみしか存在しませんでした。つまりは、中国以上に「外交」が存在しなかった国です。その残滓を引きずったままである韓国にまとなな「外交」が存在しないのも当然と言わねばなりません。

    1. naka より:

      何だか納得感がありますね!

    2. 赤ずきん より:

      とても納得感があります。

    3. ちょろんぼ より:

      龍様

      ついでに中共が一神教の名前を変えた共産主義を取り入れたから、
      相手を理解する事なんてできません。

      1. より:

        そうですね。
        レーニン主義のキモである民主集中制というのは、実は中国的世界観に非常にうまく適合するのかもしれません。「天帝の意思」を「人民の声」に置き換えれば、いくらでも独裁権力を正当化することができますので。

        政治システムの構造はともあれ、中華人民共和国の行動様式はかつての中華帝国と何も変わりがありません。ソビエト連邦が結局旧ロシア帝国の行動様式をなぞっていたのと同様です。つまるところ、マルクス=レーニン主義は、下部構造を再編し、上部構造の看板だけは変えることがはできたけれども、「民族の地金」に対しては無力だったということであるのかもしれません。

        1. 門外漢 より:

          龍 様
          なるほどです。
          ですが、民族性は変えようが無いと言うのは、我が国を含めて、どこの国にも言えそうな気がするのです。
          我が国も国内での駆け引きは経験してますが、外国と対等にそれをやったのはせいぜい明治以降で、それも合格点には程遠いという所では無いでしょうか。
          日本人の癖として、相手も自分と同じだと、簡単に信じてしまう事だと思っています。

  7. 価値観が違いすぎる より:

    近年中国が急に強行的な外交戦略をとりだしたように見えるのは、もしかしたら日本が韓国を甘やかして勘違いさせたと同じように、韓国が中国にやられるがままに言うことを聞くから、もう戦狼外交でやって行けると、中国を勘違いさせたのかな?

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