ソフト・カレンシー国の財政赤字だと前提条件が異なる

普段から当ウェブサイトでは、「日本はもっと国債を増発しても構わない」、「いや、増発すべき」と述べていますが、その際、「日本円が国際的に通用するハード・カレンシーである」という点を暗黙の前提条件に置いています。しかし、その「国際的に通用するハード・カレンシーである」という前提条件がなくなった場合には、いったいどう考えればよいのでしょうか。

国債増発:日本の事情

当ウェブサイトでは普段から、「日本が必要としているのは財政再建ではなく国債増発だ」と常々申し上げているつもりです。最近だと『消費税15%?いえいえ、「消費税ゼロ%」が正解です』でも触れましたが、そもそも日本は財政再建というものを必要としていません。

その理由については拙著『数字でみる「強い」日本経済』や当ウェブサイト『数字で読む日本経済』シリーズなどでも説明したつもりですが、ここでは国債を大増発しなければならない理由について、簡単に振り返っておきましょう。

そもそも国債とは政府が発行する債券(債務証券)のことです。

「債券(さいけん)」と呼ばれる金融商品は、私たち一般国民の日常生活レベルで目にすることはめったにありません。なぜなら、金額が非常に大きいからです。

このうち、とくに「公募債券」と呼ばれるものについては、金銭債権を有価証券化することで転々流通することを可能にした金融商品のことですが、債券を発行することができるのは、それなりの規模の発行体に限られます。

たとえば、日本の場合、機関投資家などが参加する公社債市場で流通している債券としては、国(=国債)、地方公共団体(=地方債)、企業(=社債)などの種類がありますが、基本的に「公募型の債券」を発行することができる主体は、非常に限られています。

たとえば総務省の『地方債の商品性』によると、公募地方債を発行することができる地方公共団体は、基本的に都道府県・政令指定都市などを中心とする56団体に限られています。また、企業が公募社債を発行する場合には、有価証券報告書などを作成しなければなりません。

つまり、公募債券を発行すると、多くの人がその債券の保有者となる可能性があるため、投資家を保護するなどの必要性から、これを発行することができる主体は、それなりにしっかりした発行体に限られているのです。

資金が有り余っている国ならではの悩み

その一方で、債券を買う側(つまり投資家)も、市場参加者が非常に限られているのが一般的です。

日本の場合だと、預金取扱機関(銀行、信用金庫、信用組合、農協などの金融機関)が常に数百兆円から一千兆円近い資金を抱えていて、これらの資金を何らかの金融商品に投資しなければならないのですが、その際の絶好の投資対象商品が債券、というわけです。

そして、『資金循環から読み解くなら、「コロナ減税」こそ大正解』でも詳述したとおり、日本の資金循環統計を確認してみると、むしろ機関投資家にとっては、国債を筆頭とする投資対象商品が金融市場から枯渇している状況が問題化しています。

マクロ経済統計からみる限り、これ以上国債の発行量を減らすと、預金取扱機関等はそれらの資金を外債(外国国債など)や証券化商品、不動産ファンド等に振り向けざるを得なくなり、金融市場がかなり歪んで来ることは間違いありません。

また、昨今の株高も、資金循環統計上、容易に説明がつく現象です。日本国内に資金が溢れているというなかで、日銀が金融緩和を強化すれば、必然的に市場からあふれた資金が株式市場に向かわざるを得ないからです。

いずれにせよ、マクロ経済運営上も、政府が市場から資金を吸い上げる手段として国債は手っ取り早い手段であり、また、現在のような低金利環境だと、政府は異常に低い金利で資金調達を行うことが可能です。

当ウェブサイトとしては、調達した資金を原資に大々的な減税を実施すべきだと考えていますが、それだけではありません。教育や災害対策投資、少子化対策など、予算を振り向けるべき分野はいくらでもあります。逆に、現在のようなマクロ経済環境で減税や財政支出をしないことこそ、政治責任の放棄でしょう。

国債デフォルト3要件と「ハード・カレンシー国の特権」

もっとも、このような議論をすると、「国債を山ほど発行すると返せなくなる」、という議論をする人がいます。

そこで意識しなければならないのは、「国債がデフォルトするための条件」です。大ざっぱに言えば、これは次の3つの「すべて」が満たされたときに発生します。

国債デフォルトの3要件
  • ①国内投資家が国債を買ってくれないこと
  • ②海外投資家が国債を買ってくれないこと
  • ③中央銀行が国債を買ってくれないこと

当たり前ですが、どんな国の国債であっても、常にこの3つの要件が成り立ちます。

日本の場合だと、現状、①の条件を満たすことは考えられません。国内に資金が有り余り過ぎているためです。極端な話、国債を800~1000兆円程度増発したとしても、日本という国はビクともしないのです。

ただ、万が一、国内に存在している資金量を超えて国債を発行してしまった場合には、いったいどうなるでしょうか。

この場合、まだバックストップはあります。それが「外国人(海外)投資家」です。

実際、米国や英国の場合、米国債(トレジャリーなど)や英国債(ギルトなど)は、国内投資家だけで消化しきれないのですが、外国人投資家が好んで買ってくれています。その理由は、米ドルや英ポンドが国際的な投資家から保有される「ハード・カレンシー」だからです。

「ハード・カレンシー」について定まった定義があるわけではありませんが、著者自身の説明を示しておくと、次のとおりです。

ハード・カレンシーとは:

その発行国・地域に留まらず、国際的な金融市場で広く流通し、取引にあたって時間的な制約等も少ない通貨。

ソフト・カレンシーとは:

ハード・カレンシーではない通貨。一般に、その通貨の発行国・地域でしか流通していないことが多く、酷い場合には自国民からも信頼されていないこともある

そして、ソフト・カレンシー国の場合だと、国債デフォルトの3要件のうち①が満たされなかった場合、ただちに③(中央銀行の引き受け)に向かうことが多いのですが、ハード・カレンシー国の場合だと、英米両国などのように、外国人投資家に国債を買ってもらうという選択肢が出てくるのです。だからこそ、ハード・カレンシー国の自国通貨建ての国債は、極めて強いといえるのです。

言い換えれば、ハード・カレンシー国には「通貨としての信頼が続く限りは、無限に財政赤字をダウ§ことができる」という特権がある、ということです。

ソフト・カレンシー国の財政赤字をどう考えるか

さて、上記までは普段の当ウェブサイトなりの主張とまったく同じなのですが、ここでふとした疑問が頭をもたげます。それは、「仮に、ソフト・カレンシー国で財政赤字を無限に垂れ流したら、いったい何が発生するか」、です。

これについて考えるヒントが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、昨日掲載されていました。

OECD事務局長「韓国の財政圧迫は相当、災害支援金の選別支給が妥当」

―――2021.02.17 17:57付 中央日報日本語版より

中央日報によると、17日に開催されたオンライン国際カンファレンスで、経済協力開発機構(OECD)のアンヘル・グリア事務局長が韓国について、「急速な高齢化により財政圧迫が大きくなっている」、「(緊急災害支援金は)選別的に支給すべきだ」、などと述べたのだそうです。

このあたりはどの国でも出てくる議論であり、韓国以外の国でも、「一定以下の所得層に絞って、再度、定額給付金を支給すべきだ」といった主張を見かけることがあります。

ただ、グリア事務局長がこのように述べた理由は、第一義的には「韓国の財政問題」にあるのだそうです。該当するグリア氏の発言は、次のとおりです。

特に韓国は世界で最も速く高齢化が進んでいる国で、今後公的支出拡大に対する圧迫が相当あるため(財政の効率的使用が)さらに重要だ」。

つまり、生産年齢人口の減少にともない、税収などに落ち込みが予想されるなか、財政赤字の急拡大につながるバラマキ政策には慎重であるべきだ、というのがグリア氏の主張の主眼にあるようです。

この点、「少子高齢化だから財政健全化が必要だ」とする議論については、経済理論的に大きな間違いです。本稿では詳しく触れる余裕はないのですが、べつに人口減少している社会であっても経済成長は十分に達成できるからです。

ソフト・カレンシー国は「外国人投資家」が入り辛い?

しかし、個人的にはまったく違う観点で、結論的にはグリア氏の発言を支持したいと思います。それは、韓国の通貨・ウォンが国際的に通用しないソフト・カレンシーであり、外為市場の規模も小さいため、韓国が国際的な投機資金流入に極端に弱い国だ、という理由に基づくものです。

とくに、1997年のアジア通貨危機時、2008年の金融危機時には、いずれも韓国から短期資金が流出しました。韓国が外国金融機関からの短期融資で外貨調達を行っていたからです。

このあたりは「外国から自国通貨でおカネを借りている」という英米、「そもそも外国からほとんどおカネを借りていない」という日独などのケースと比べて、韓国独特の金融不安要因、というわけですね。

もちろん、韓国が国債のデフォルト状態に陥るという話ではありません。韓国の資金循環統計などを読む限り、韓国の国債の多くは自国通貨・ウォン建てであり、韓国が外貨で発行している国債(外貨平衡債など)の金額も非常に少ないと考えられるからです。

しかしながら、自国通貨建てとはいえ、国債の発行量が増えすぎ、国内で国債を消化しきれなくなるような事態が発生してくれば、いわゆる「クラウディング・アウト」(国債を発行し過ぎて民間の資金需要を阻害する現象)が発生する可能性があります。

そうなると、民間企業の自国通貨での資金調達が難しくなり、玉突きで外貨で資金調達しなければならなくなるという可能性はあります。

また、韓国銀行が自国通貨・ウォンを市場に潤沢に供給してくれるならば話は別ですが、韓国銀行が日米欧のような金融緩和に踏み切るかどうかは微妙です。なぜなら、ウォンの供給量が増えすぎれば、需給関係上、通貨の暴落も生じやすくなるからです。

その意味では、「ソフト・カレンシー国」が自国通貨建ての国債を発行し過ぎたことによって、玉突きでいったい何が発生するのかについては、韓国はちょうど良いモデルケースになってくれるのかもしれませんね。

(※もっとも、昨今のように日米欧主要中銀が金融緩和を行っているという状況下では、韓国ウォンを含めた新興市場諸国通貨も暴落し辛い状況にあるため、国債発行残高が増えたことによって直ちにその国からキャピタルフライトが生じるという単純なものではありません。この点についてはご注意ください。)

読者コメント一覧

  1. イーシャ より:

    ムーディーズなどが韓国の格下げに動く日が、どんどん近づいているようですね。

    全く異なる視点から。
    OECD事務局長の発言は、韓国では曲解されると思うのです。
    文大統領にとって妥当な選別支援とは。
    「4月にはソウル市長補選と釜山市長補選があるニダ。都市部の浮動票層にばらまくのが効果的ニダ。勿論、共に民主党支持者にもばらまくニダ。」

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    ココはひとつ、「ソフト・カレンシー国」の韓国が、ウォン建ての国債を発行し過ぎる事によって引き起こされる「玉突き」で何が発生するのかについては、愉しみにしておきたいと思います。しかし早急な高齢化進展は、あまり関係ないのですネ。

    1. タナカ珈琲 より:

      めがねのおやじ様

      ワタシは偏差値が低いので、難しいことは良く分かりませんが、K政府かK国民の幸せのために国債を大量に増発が正しいあるべき道だと思っています。ウォン建ては勿論USD、ユーロでも発行すべきです。ザイトラ政権は京城,釜山市長選及び来年の大統領選挙も勝利するでしょう。そうなれば、少なくともワタシひとりは千歳です。(棒)

      国債の大量増発によるK国民へのヘリコプターマネーが必要ですが。(棒)

  3. 引っ掛かったオタク より:

    フとした引っ掛かり…
    ハードカレンシーとソフトカレンシー…
    日本円は“何時から”ハードカレンシーだったのでしょうか?
    ハードからソフトへ、ソフトからハードへと移る可能性とその素因は奈辺に?

    価値は相場で幻想???

    1. カズ より:

      引っ掛かったオタク様

      何となくなのですが、
      通貨信用の区分は、その担保の在り方なのかと思っています。具体的には①保有外貨(米ドル)と相対的流通量、②国家信用(約束を守る)、を相乗したところにあるのではないのでしょうか?

      ・以上の前提だと、中国が保有米国債を売却すれば、人民元の価値は紙切れと化してしまうのかもですが・・。

      *国際貢献の名のもと、勤勉かつ三方良しの姿勢で通貨(国家)信用を培われた先人の偉業に感謝したいと思います。

      1. 門外漢 より:

        カズ 様

        >②国家信用(約束を守る)

        日露戦争の借金を完済したのが1986年です。ww2を挟んで80年かかってます。
        これだけでも「日本人は約束を守る」のが世界的な評価になったでしょう。

        1. カズ より:

          門外漢様

          そう言った愚直なまでの使命感が、国家信用の礎となっているのでしょうね。
          *返信ありがとうございました。

  4. カズ より:

    韓国の場合、政権の支持率が最重要課題の彼らなのですから、
    株熱の国民に「追証が・・。」と糾弾されれば、「おい、そうか・・。」と、安易に量的緩和を発動しちゃうのかもですね?

    現政権は、”富の公平化”を掲げて発足したのですから、
    【『自己破産 皆でやれば 怖くない!』(デフォルトの標準化)】
    ・・ってのも、”それはそれ!”で一つのカタチなのかもなんですけどね。

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