専門家が見る、中国金融覇権の「無謀」

中国が旗を振る「一帯一路」(現代版シルクロード)構想とAIIBを巡り、いくつか興味深い話題が出ています。本日は、これらについて紹介するとともに、あらためて日本とAIIBとのかかわり方について、考察したいと思います。

レベルの高い国会審議

民進党よ、これが本当の国会審議だ!

5月9日に衆議院予算委員会で、麻生太郎副総理兼財相と丸山穂高衆議院議員の間で、非常に興味深いやり取りが行われました。

衆議院インターネット審議中継・財政金融委員会(2017年5月9日)

丸山議員はまだ30代前半で、国会議員の中でも最も若手であり、「イケメン議員」との呼び声(?)も高いようですが、しかし、下手な官僚などと比べても非常に良く勉強をしており、心強い限りです。もちろん、揚げ足取りに終始する民進党をはじめとする4野党の議員とは比べ物にならないほどレベルが高ものです。

余談ですが、村田(謝)蓮舫代表をはじめとする民進党の議員らには、

「民進党よ、これが本当の国会審議だ!」

と、猛省を促したい気持ちでいっぱいです。

その丸山議員は麻生総理に対し、ゴールデンウィーク中に行われたアジア開発銀行(ADB)の年次総会と日中韓財相会合についての質疑を行いました。この質疑は非常に有意義であり、私も「金融の専門家」の端くれとして、このやり取りを非常に興味深く拝見しておりました。

丸山議員の質問項目のうち、私が「金融の専門家」として注目するのは、次の3点です。

  • 日中財相会合での具体的な協議内容と共同声明について
  • 中国が主導するアジアインフラ開発銀行(AIIB)について
  • 日本が主導する通貨スワップ協定について

麻生副総理兼財相はそれぞれの項目について、非常に詳細かつ具体的な答弁を行いましたが、これを視聴したおかげで、私自身も金融の専門家として、非常に多くの示唆を得ることができたと思います。

日中財相会合について

まず、「日中財相会合」について、です。

5月4日から6日に掛けて、「日ASEAN財務大臣・中央銀行総裁会議」やADB総会と並行して、「日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議」というものも開かれていたようです。しかし、これについては私自身も今週、『金融リーダーシップを狙う日本』の中で申し上げた通り、「惰性で続いている会議であり、日・ASEAN会議などと比べて全く何も成果がなく、正直、会議をやる意味があるのかどうか疑わしい」と認識しています。

ここで、紛らわしいのですが、5月6日には「日中財相対話」というものも行われています。丸山議員からは「2年ぶりに行われた日中財相会合でどのような話が行われたのかについて」という質問があったのですが、これに対して麻生副総理は、次のように答えました。

  • 昨年10月に日本でやることになっていたが、10月にドタキャンしてきて、例によってわけのわからないなしのつぶてのようになった
  • 突然、先方(中国側)から「5月のADB総会最後の日に(日中)財相会談が行いたい」と要請があり、(日中)財相会談を2時間程度設営した
  • デフレや銀行危機、構造改革について質問があったので答えた
  • 通貨スワップをはじめとする両国の金融協力について再確認ができた
  • 双方の関心事項については相手から提案を受けた
  • 最後に共同声明を出す直前になって突然言ってきた、物事が決まって事務方が詰めているものをいきなりひっくり返す(などの混乱があった)
  • 最終的には「相互に関心を持っている事項に関する共同研究を立ち上げ、その結果を財務対話に報告すること」で合意したが、具体的には何か決まったということはない

私はこれを、箇条書きで淡々と転記していますが、実際の答弁では、随所に「麻生節」が炸裂しており、聴いていて小気味良いものです。視聴していて思わず笑ってしまう個所も多々あります。

AIIBについて

さて、アジア開発銀行(ADB)は日本が主導する国際開発銀行(MDB)ですが、これに「対抗(?)」して中国が主導し、設立されたMDBが、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」です。

日本としてはすでにADBという仕組みも存在し、わざわざ中国が主導するAIIBに出資する必要性などありませんし、うかつにそのようなことをすべきでもありません。ただ、その一方で、アジア太平洋地域では2030年までに26兆ドル(!)という巨額のインフラ需要が予想される中、途上国インフラ融資の仕組みは多ければ多いほど良いということも事実でしょう。

私はゴールデンウィーク中に上梓した『ADBとAIIBの「役割分担」の時代』で主張しましたが、日本やADBとしては、「AIIBとの共存」に舵を切ったと考えています。つまり、ADBは「環境重視・高付加価値」な融資に特化し、「収益性・付加価値の低い金融」「リスクの高い金融」についてはAIIBに押し付ける、という形です。

こうした私の仮説については、麻生副総理の答弁からもうかがうことができます。

  • 今回の日中財相対話でAIIBについて何か議論があったわけではない
  • アジアで膨大なインフラ需要が存在し、世銀やADBの資金力は足りないのも事実であり、AIIBがそれを支援することは歓迎だ
  • ただし、AIIBが(単独で)融資を行った実績はない点に注意が必要だ
  • 世銀やADB、JICAなどが貸している相手国に対し、持続可能性や環境配慮などを行わずに変な貸し付けを行い、結果的に世界に迷惑を掛けることは控えてほしい
  • 理事会もどこで開かれているのかさっぱりわからないような組織であり、まだまだ実績が不十分だ

つまり、麻生副総理の答弁を私なりに咀嚼(そしゃく)すると、アジアのインフラ金融を担う組織が世銀やADB等以外にも出現するのは結構だが、AIIBはまだまだ「素人集団」であり、そのAIIBが杜撰(ずさん)な融資を行うと、結果的に他の債権者(世銀やADB、JICAなど)に迷惑を掛ける可能性がある、ということでしょう。

私もこの見解には全く同意です。

通貨スワップについて

さらに、丸山議員は「通貨スワップ協定」についても質問を行っています。

中国が「通貨交換協定」(人民元建て通貨スワップ)を外交手段として積極化させる中で、日本としても通貨スワップを外交上の武器として活用する手段があるのではないか、というご指摘です。私もこの丸山議員の問題意識には全く同感ですが、これに対し、麻生副総理は、次のように答弁しています。

  • 円建てのBSA(二国間スワップ協定)で創設することを提案したが、これはドルを経由せず、直接、円で引出ができるようにする狙いがある
  • 1998年のアジア通貨危機では韓国とインドネシアが「破産」し、日本が直接支援したという経緯があるが、強すぎるドル依存を低減する仕組みを考えなければならない
  • 今後は、日本の提案に対して関心を示す国との間で直接、交渉を行いたい

ちなみに丸山議員は、この答弁を受けて、

(通貨スワップを)やるなら、相手先は選ぶべきでしょうね、まぁお隣の国ですとか、ややこしいことが過去にあったと存じておりますので…

など、非常に面白い発言を行っています。丸山さん、面白いですね(笑)

週末は「一帯一路フォーラム」

AIIBと金融規制

実は、私は某業界紙に、実名で金融規制に関するコラムを執筆しているのですが、その中でAIIBについて言及させていただきました。業界紙とコラムの具体的な名前や掲載日については言及を控えますが、私の主張の要点は、以前このウェブサイトに投稿したものと同様、「金融規制上、民間金融機関がAIIBの発行する債券に投資することは難しい」とするものです。

さきほどの丸山議員と麻生副総理の質疑にもありましたが、AIIB自体、融資実績も乏しく、また、「理事会すらどこで開かれているかわからない」(※麻生副総理・談)組織に対し、「ゼロ%リスク・ウェイト」という特例を付与する訳にもいかないという事情もあるでしょう。

もっとも、アジアの金融大国である日本が参加を見送っているために、AIIBにおける融資ノウハウの蓄積が遅れているという側面もあるのかもしれませんが…。

一帯一路フォーラムに向けて

こうした中、5月14日以降、中国で「一帯一路構想」に関するフォーラムが開かれる予定です。

「一帯一路構想」とは、別名「現代版シルクロード構想」とも呼ばれていますが、これは、中国から南アジア、中央アジアを海や陸で経由し、ヨーロッパに至る「経済圏構想」です。

この「一帯一路構想」に関し、昨日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙(電子版)に、興味深い記事が掲載されていました。

In charts: China’s Belt and Road Initiative(2017/05/11付 FTオンラインより)

リンク先の記事は、残念ながらFTの読者登録をしていないと読めないようですが、簡単に申し上げれば、「チャートで見る中国の一帯一路イニシアティブ」、というものです。

FTによると、「一帯一路構想」を英語では“Belt and Road Initiative”と呼ぶそうですが、これを「BRI」と略します。FTの記事では、4種類のデータを使って、「中国が一帯一路構想を華々しくぶち上げた割には、中国の投資額は2017年に入り停滞している」という事実を明らかにします。

ここではそのうち2つの図表のデータを紹介しましょう。

1つ目は、中国の「BRI諸国」(主に中央アジアや南アジア諸国)に対する投資額です。

2014年に約125億ドル、2015年に150億ドル、2016年に140億ドル程度だった中国による投資額が、2017年の1月から3月までの3カ月間で30億ドル弱に留まっています(といっても、このペースを維持すれば、今年の年間累計投資額は120億ドル程度にはなるはずですが…)。

もう1つは、「BRI諸国」に対する投融資の資金源です。FTによると、「一帯一路構想」を実現するための融資や投資は、次の通り、4つの国有商業銀行に偏っている状況です(図表)。

図表 一帯一路構想の資金源(2016年12月末時点の残高ベース、融資・出資合計)
主体金額備考
中国の4大国有商業銀行150億ドルICBC、BoCなど
中国開発銀行(CDB)1100億ドル
中国輸出入銀行(EIBC)240億ドル
シルクロード基金40億ドル
AIIB20億ドル
NDB20億ドルいわゆる「BRICs銀行」
合計2920億ドル

(【出所】FT)

FTの報道を踏まえると、次の事実が明らかになります。

  • 中国のBRI諸国に対する投融資額は、2017年に入り急激に鈍化していること。
  • 一帯一路構想への融資は、AIIBやシルクロード基金ではなく、主に中国の国有商業銀行が担っていること。

そして、商業銀行がインフラ金融に手を出すというのは、実は、非常に危ういことでもあります。というのも、商業銀行は一般に民間企業です(※といっても、中国の場合、実態は株式の過半を中国共産党が保有する「国有銀行」であるそうですが…)。

日本の金融機関や総合商社が1990年代にアジア某国への投融資で巨額の損失を発生させた事例にみるまでもなく、民間企業が発展途上国に投資する場合、融資が焦げ付くリスクも飛躍的に上昇します。そこで、一般にインフラ金融は「先進国から発展途上国への金融支援」という形で、ODA、MDBなどの仕組み・組織を通じて行うことが一般的なのです。

日本はAIIBに(多分)出資しない!

「日本はAIIBに参加」報道の怪

ところで、この5月14日以降の「一帯一路フォーラム」には、日本からは自民党の二階俊博幹事長が参加する予定です。

以前も取り上げた話題ですが、ゴールデンウィーク中にインターネット上では、「日本が遂にAIIBに加盟するのではないか?」といったうわさ(というか単なる憶測)が流れたようです。そして、その「情報源」の一つが、中国のメディアによる「観測」だったようです。

日本政府、中国主導のAIIBや一帯一路への参加を決心した可能性―米華字メディア(2017年5月5日(金) 18時40分付 レコードチャイナより)

レコードチャイナによると、2017年5月4日付で米華字メディア『多維新聞』は、日本がAIIBや「一帯一路」構想に参加する「可能性を議論」する記事を掲載したそうです。同紙は「中国の時事ウォッチャー」が、次の2点を根拠に、「日本政府関係者がAIIB参加に前向きな姿勢」を示したものであり、「日本のAIIB加入がかなり現実的だ」と述べた、としています。

  • 黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が5月2日に、多くの国がAIIBに参加していることは「良いことだ」と述べたことが、日本政府のAIIBに対するかつてないほど前向きな発言であること
  • 5月14日に中国・北京で開かれる「一帯一路」サミットに日本特使として出席する予定の二階俊博・自民党幹事長は4月27日、「一帯一路」構想に「最大限協力する」と述べたこと

なお、冷静にツッコミを入れておきますと、この「中国の時事ウォッチャー」とやらは、日本を初めとする先進国の事情について、完全に不勉強です。なぜなら黒田氏は日本銀行の総裁であり、二階氏は自由民主党の幹事長ですが、どちらも「日本政府の高官」ではありません。

中国の場合、「中国政府」、「中国人民銀行」、「中国共産党」は、事実上「三位一体」ですが、日本の場合、「日本政府」と「日本銀行」と「自由民主党」は全く別の存在です。もちろん、相互に関係はありますが、意思決定主体としては全く関係ありません。

このあたり、極めて稚拙な議論であり、インターネット上で大騒ぎされていなければ、そもそも論評にすら値しません。

日本がAIIBに参加することの「メリット」

中国が仮に日本と同じ自由民主主義国家であり、基本的人権の尊重、平和主義、法治主義などの点で共通の価値観を持っている国であれば、日中両国は間違いなく、手を取り合い、ともに未来に向けて発展する関係になれるはずです。

しかし、現状では、中国は軍事独裁国家であり、人治主義国家です。国家の在り方としては、日本の「平和主義・民主主義・法治主義」とは正面から対立します。

議論の前提として、そのことをしっかりと踏まえておく必要があります。そのうえで、中国がなぜ、AIIBを設立したのかを考えるならば、それは「金融面から覇権を確立すること」ではないかとの疑いを抱くに十分です。敢えて日本がAIIBに参加することの「メリット」を挙げるならば、せいぜい二階氏などの「親中派の政治家」の政治基盤が強まることと、財務省の天下り先が増えることくらいでしょうか?

そして、日本がAIIBに参加すれば、間違いなく、日本が有するインフラ金融のノウハウはAIIBに流出します。場合によっては、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)の円滑な事業遂行にも支障を来すことになりかねません

あくまでも私の理解ですが、日本がAIIBへの参加を見送っている背景には、外交面・地政学面・金融面など、多岐にわたる深い政治的配慮があるからでしょう。日本の「安倍・麻生連立政権」は、今までの足腰の定まらない日本の政権と違って、おそらく、中国に無用の配慮を行うことはありません。その意味でも、AIIBに対しても慎重姿勢を維持して欲しいというのが、私なりの政権に対するお願いなのです。

読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    麻生太郎経済担当相と丸山穂高議員の国会審議、とても興味深く拝見しました。丸山議員は見るからに良く勉強されているようで、態度にも早、貫禄が見られます。33歳、上手く育てばかなり大物になりそうですね。麻生大臣は一人でボケとツッコミをやるような超がつく領袖、時には鋭いキレもありました。民進党の質疑の内容の低さを見慣れて
    ると、拍手を送りたい気持ちです。AIIBは所詮シナ主体のインフラ等を整備したい、怪しげな国家にカネを貸す貸金業、日本が被害を被らない為にも不参加。またアジア金融で陰謀を持つシナにも案件の詳細を求め続けなければいけません。SWAPはASEAN相手にやるので、南鮮は見ない関わらない無視でいきましょう。
    う。

  2. まみあな より:

    良いウエーブサイドを見つけて
    我ながら喜んでいる。
    いろいろ私なりのコメントあるが、
    名乗りでないでのコメントなので
    あまりコメント出来ない、卑怯だから
    でも 一つお願いこのサイト閉めないで
    下さい。

    1. 日本橋経理マン より:

      まみあなさん、

      此処の管理人さんは好きにコメントして良いと仰ってますし、大抵は匿名かペンネームで好きにコメントしてますから、まみあなさんもご自由に思った事を意見表明して良いと思いますよ。ここの会計士さんはどっかのブログと違って都合が悪いコメントを非承認にしたり削除したりしないですからね。時々パヨクのコメントが沸きますけど笑

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