国際通貨の円、ローカル通貨の人民元と韓国ウォン

本稿はちょっとした雑感です。昨日の『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』や先ほどの『韓国とマレーシアの通貨スワップはどうなったのか』で紹介したデータについて、補足論点(というよりも雑感)を紹介しておきたいと思います。それは、同じ語源であっても、通貨には大きな実力の性生じてしまっていることもある、という事実です。

ローマ字で表記すれば、日本円は「YEN」、中国人民元は「YUAN」、韓国ウォンは「WON」だそうですが、もともとは「円(圓)」、「元」は中国語で同じ発音である、と聞いたことがありますし、WONは「元」の韓国語読みだそうです。

ということは、YENもYUANもWONも、もとは同じ意味だ、ということなのかもしれません。

ただし、実際のデータで眺めてみると、YENはYUANやWONと比べて、明らかに性質が異なっています。それは、日本円が国際的にはかなり高い信任を得て、広く流通している、という事実です。

昨日の『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』や先ほどの『韓国とマレーシアの通貨スワップはどうなったのか』で、国際的な銀行間の伝文システムを運営しているSWIFT社が公表する『RMBトラッカー』のデータを紹介しました。

RMB Tracker document centre(SWIFT社ウェブサイトより)

これは、国際的な銀行間送金において、SWIFT上で交換されたメッセージを決済ベースで集計し、シェア順にランク付けしたものですが、最新データ(2019年12月時点)によれば、日本円(JPY)と中国人民元(CNY)と韓国ウォン(KRW)の決済ランキングとシェアは、それぞれ次のとおりです。

全世界(ユーロ圏を含む)
  • JPY…4位(3.46%)
  • CNY…6位(1.94%)
  • KRW…ランク外
非ユーロ圏
  • JPY…3位(4.46%)
  • CNY…8位(1.19%)
  • KRW…ランク外

これについてはそれぞれ『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』と『韓国とマレーシアの通貨スワップはどうなったのか』で報告したとおり、中国、韓国のGDP規模を考慮すれば、不自然でもあります。

やはり、中国人民元については資本規制が厳し過ぎるがために通貨の使い勝手が悪いという証拠でしょうし、韓国ウォンについては「経済大国」「先進国」「自由民主主義国」を自称するわりにはランクに出てこないというのも不思議な気がします。

むしろGDP規模で中国の半分以下に落ち込んだはずの日本の通貨・日本円が、米ドル、ユーロ、英ポンドなどと並び、事実上の「世界の4大通貨」の地位を占め続けているというのも、やはり不思議でもあります。

いずれにせよ、少なくとも日本円という通貨の実力は、私たち日本人が考えている以上に遥かに強いということは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    円通貨記号¥は人民元通貨記号と共通だと言ったら、日本よそんなものまでパクらたの、と某アジア圏人に言われたことがあります。

    1. だんな より:

      はにわファクトリーさま 
      「円」は漢字だから、日本がパクったと言い返せば良かったのに。

    2. はにわファクトリー より:

      圓を通貨と定めたとき、当時の香港?を参考にしたのとも、大隈重信(だったか)が、なぜに圓=円なのかと問われて、OKマークを指で作って「ぜぜはこれよ」と答えたという伝説をその瞬間思い出しましたが、彼に英語で返事してもしょうがないのでへらへらしてました。

    3. とある福岡市民 より:

      パクられたというより、通貨の由来が同じなら通貨記号は被ります。
      スターリング・ポンドの通貨記号は“£”ですが、これはイタリアのリラと同じ通貨単位でした。
      古代ローマでは天秤 libra に由来するリブラという質量の単位が使われました。通貨単位としてはデナリウス、アス、という単位がありましたが、1リブラと同じ重さの銀貨も「1リブラ」として通貨のように取引されました。例えば小麦20リブラに1.8リブラの銀貨と同じ値段を付けるとしたら、「小麦20£ £1.8」みたいに価格表示されます。

      この「1リブラの重さの銀貨を1リブラという通貨のように扱う」という概念が後世に残ります。
      英国では質量の単位がリブラからポンドへ代わり、通貨単位もポンドが採用されますが、通貨記号はリブラを示す£をそのまま使い続けてます。ラテン語の「重さ」はpondus 。英語のpoundと関係がありそうです。
      イタリアでは諸国がそれぞれの通貨を使いましたが、その一つのサルデーニャ王国はリブラに由来するリラを通貨単位に採用しました。当然、記号は£です。サルデーニャ王国がイタリアを統一してイタリア王国になってもリラと£はそのまま採用され、2002年のユーロ導入まで使用されました。

      ドル記号の”$”も元は大航海時代のスペイン、そしてスペインの植民地となったアメリカ大陸で使われた通貨・ペソ Pesoを略したものという説があります。今はSに縦棒1本でしたが、最近まで縦棒は2本でした。
      確実に残っている記録では1770年代にメキシコペソを示す通貨記号としてSに縦棒2本の記号が使われていたそうです。ペソの由来はラテン語の「ぶらさげる」を意味するpendere (英語のペンダント pendant、依存 dependendと同じ語源)で、(天秤に)ぶらさげる→測る→測ったもの→測ったものと同価値のもの、という連想で通貨単位となりました。

      1776年に独立したアメリカは1792年に通貨単位の名称としてドルを採用しました。ドルの名称は神聖ローマ帝国ボヘミア地方ヨアヒムスタール、現在のチェコ共和国ヤーヒモフにあった銀山で採取された銀から鋳造した銀貨「ヨアヒムスターラー」略して「ターラー」に由来します。ところが、通貨記号はアメリカ大陸で使われていたペソと同じ、Sに縦棒2本を採用しました。
      アメリカ大陸の独立国も独自の通貨を採用しましたが、通貨記号は「Sに縦棒2本、略して1本」を採用する国も結構あります。メキシコ・ペソ、コロンビア・ペソ、チリ・ペソ、アルゼンチン・ペソ、キューバ・ペソのような「ペソ」はもちろん、ニカラグア・コルドバ、ブラジル・レアル、ポルトガル・エスクードまでもが採用しているのは興味深いですね。イベリア半島やアメリカ大陸ではSに縦棒2本の記号は「この後に続く数字は値段なのだね」と一目でわかる目印として定着していたのでしょう。

      今では考えられませんが、16〜19世期のメキシコはアメリカよりも経済力が大きい国でした。大量の銀を産出したからでしょう。その銀は420グレーン(約27.2g)の8レアル銀貨または1ペソ銀貨に鋳造され、現在のUSドルのように海外貿易の決済で使われました。清では由来から洋銀、墨銀、蕃銀、形から銀圓と呼ばれます。日本ではメキシコドルまたは1ドル銀貨と呼ばれますが、これはアメリカが1ペソ銀貨をそのまま1ドル銀貨として使用したからです。そして金の海外流出とインフレーションを招き、江戸幕府を崩壊させる原因となった因縁のある銀貨でもあります。
      このメキシコドルと同じ質量の銀貨が英国の植民地となった香港でも鋳造され、一方の面にヴィクトリア女王の横顔、もう一方に「香港壹圓」「ONE DOLLAR HONG KONG」の字が描かれました。円が初めて通貨として最初に採用された例です。圓の由来はおそらく硬貨の形でしょう。
      香港壹圓の銀貨は大して流通しませんでしたが、清に大量流入した銀貨も「圓」と呼ばれ、急速に浸透していきます。それまではいろんな重さの銀塊を測って販売してましたが、それよりは同じ質量と価値を担保した銀貨を必要なだけ使用した方が取引には圧倒的に便利ですからね。ただ、圓は画数が多いので、同じく yuan2 と発音する「元」も使われます。
      1933年、蒋介石率いる国民政府は「元」を通貨単位に正式採用する廃両改元を行います。でも紙幣には「圓」、筆記では「元」と表記されます。紙幣も「元」に統一されたのは中共政府になってからです。
      だから「元」の通貨記号が ¥ なのはパクリでもなんでもなく、むしろ発音を考えれば当たり前なのです。
      なお、同じ中華民国でも今の台湾は紙幣に「圓」、通貨記号は$またはNT$を使用してます。

      日本が通貨単位に円を採用した理由ですが、実ははっきりした事がわかっていません。大隈重信の逸話は公式記録が残ってないので真偽不明です。
      ただ、江戸時代の日本には一両を意味する仕草としてOKサインを使ったり、一両を一圓と呼ぶ習慣があったようですね。中国人が日常会話で元を「块 kuài3」というのに似てます。
      圓、円の発音は、ゑん、ヱンなので本来はEn または Wen と書き、EかWを基にした記号にするべきでした。しかし欧米人がYenと綴ってしまい、日本人もそれを使い、なし崩し的に定着したようです。この辺、日本はいいかげんです。
      だから日本円と人民元が¥を使ってるのはどちらかがパクったのではなく、由来が同じである事の名残りでもあるのです。

      余談ですが、円を採用した経緯の中で、一両=一円=1USドル=1メキシコ・ペソという固定レートが出来上がってました。円が弱すぎたのと明治初期のインフレーションですぐに崩れてしまいましたけれど。

      1. とある福岡市民 より:

        少し追加します。
        明治政府が通貨単位に円を採用した理由の一説に「アジアで定着しつつある銀圓や圓に合わせるため」というのがありました。1ドル銀貨が中国市場で一圓としてそのまま使われているなら、日本も1ドル=一円に合わせた方が使いやすいでしょう。
        また、香港造幣局から香港壹圓銀貨を造幣した機械を購入した事もきっかけかもしれません。明治初期の一円銀貨は香港壹圓銀貨と同じ質量で作られてましたので。

        少し訂正します。言葉の重複についてはご容赦下さい。
        中国で銀圓が急速に普及、と上記に書きましたが、これはあくまで上海などの開港場で行われた欧米や日本との取引の話で、中国国内では相変わらず銀の量り売りで売買が行われていました。廃両改元は銀の量り売りから紙幣と硬貨による近代的な通貨制度に切り替わるきっかけではありますが、辛亥革命から国共内戦に至るまでの戦争、世界恐慌による銀の海外流出とインフレーションなどによる社会の混乱で普及は容易でなかったようです。
        国共内戦後も大陸、台湾それぞれで混乱やインフレーションが続き、現在のような通貨制度に落ち着くのは1980〜90年代ですね。

      2. りょうちん より:

        今TVでやっている聖☆おにいさんの原作で、銀貨30枚ネタがよく出てくるのですが、デナリウス銀貨だと思っていたのが調べると、シェケル銀貨というものだったらしいですね。
        カエサルにぶん投げて突っ返せと言った銀貨のほうがデナリウスだったので混同していたようです。

        シェケルは今もイスラエルの通貨単位に使われているのですね。
        まあユダヤ教の国なので気にしないのでしょうが、

        米アマゾンで模造品がしっかり売られていてクソワロタ。
        https://www.amazon.com/Golden-Artifacts-Pieces-Silver-Jerusalem/dp/B0713R5WNC

        日本で言えば村正の模造刀が売られているような感覚なんでしょうか。
        調子に乗って、聖槍や聖釘も探してみましたがさすがにそんな商品はありませんでした。
        聖骸布なら、シーツに印刷して商品化するのは簡単じゃないかと思いましたが、日本人ほどとち狂ってはいない模様。
        https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B7%BB%E3%81%84%E5%AF%9D%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%84

      3. 自転車の修理ばかりしている より:

        とある福岡市民様

        イギリスのスーパーの精肉コーナーで「ハムを1ポンドくれ」と言ったところ「Weight or Money?」と返されて「はぁ?」となったことを思い出しました。しばらくして「ハムを1lb(重量ポンド)欲しいのか、£1(通貨ポンド)分を欲しいのか?」という質問だとようやく気づいたのですが、その時には背後に注文待ちの客の列が・・・。気の長いイギリス人の皆さん、この場を借りてお詫びします。(発音同じだからわかるわけねーじゃん、と愚痴ってみる)

      4. はにわファクトリー より:

        とある福岡市民さま

        とても勉強になります。

        > これはアメリカが1ペソ銀貨をそのまま1ドル銀貨として使用したからです。そして金の海外流出とインフレーションを招き、江戸幕府を崩壊させる原因となった因縁のある銀貨でもあります。

        さらりとお書きになってます箇所へ追記いたします。金=ゴールドが日本から海外へ大量流出する事態は日本では繰り返し起きています。金銀交換比率が世界の標準とは歴史的に日本は異なっていたことが真因、すなわち日本にゴールドはざくざくあって、その帰結として金は相対的に少ない銀で手に入った。外国人には夢まぼろしかのごとくに目に映った。メキシコや南米の奴隷労働で生み出された銀貨という富が大西洋を渡ってイベリア半島経済を破壊し、欧州体制を変革し重商主義を誕生させ、東アジア大陸の内部分裂を加速、日本に辿り着いてゴールドの大量流出をもたらした、のだそうです。
        中華大陸通貨の紙切れ度はひどかったらしいですね。ところで敗戦直後金塊が東京から米軍によって持ち去られたという伝説があり、戦争の勝ち負けとはそういうものですからディテールがどうあれ真実のひとつでしょう。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    元々同じ漢字出身ですか?気分悪う〜(笑 半分冗談です)。でも中国元はSDRになったとはいえ、ラガルド氏らが籠絡されたのか脅迫されたのか、或いは自ら進言したかは知りませんが、非常にムリクリの話でしたね。

    いくらそんな事しても日本円より遥かに下、中国人民元は資本規制が厳しい為、通貨の使い勝手は悪いです。しかしユーロ圏では台頭してるので(結局EU諸国はシナの悪辣さが分かってないな。独り言)、警戒要です。

  3. だんな より:

    新宿会計士さんが、韓国ウォンについては「経済大国」「先進国」「自由民主主義国」を自称すると書いてるのは、釣りですね。
    韓国は、「経済大国」「先進国」「自由民主主義国」の何れでも有りませんから。
    日中韓で比較すると、日本円が一番かもしれませんが
    海外旅行をして感じるのは、米ドルの強さですね。
    中国(上海)では、円も使える所が有りました。
    中国元は、デジタル通貨として、日本円より進化した感じもします。中国は、攻め続けて来るでしょうから、現状で安心しては、いけないと思います。

  4. でにむ より:

    些細なことですが。
    冒頭部分の、「通貨には大きな実力の性生じてしまっている」は、「通貨には大きな実力の差が生じてしまっている」でしょうか。

  5. はにわファクトリー より:

    中華文明に一方的なアコガレを感じている白人は今でも多いと思います。ヒラリークリントンが大統領になってたら、今頃世界はどうなっていたでしょうか。

  6. 匿名 より:

    憧れてるんじゃなく金だろう。オリエンタルなものへの好感の一要因では政治的に距離を詰めたりせんよ。日本の場合当てはまらないけど全共闘の残照って特殊事情があって、当時学生へ洗脳プログラム施してたのに起因してるためだろう。そういうのがスパイとは別に政財界や報道へ潜り込んでるのを重篤なまでに許してしまってるけれど有権者の正気度が向上すれば容易に弾ける。民主党政権が早々と立ち消えたように、大阪で民主党の座る椅子がなくなったように。

  7. あんのん より:

    只の印刷物や金属片や帳面上の数字に、
    モノやサービスと交換できるだけの価値がありますよ
    と言ってるのは誰か、そして、
    どの程度そいつの話を信用できるかって思えば、
    要するに通貨って「発行してる国家の信用」ですからねぇ。
    後は言わぬが華ってコトで略しますが…w

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