本日2本目の記事です。どうも当ウェブサイトをご参照いただく方には、単に「ニュースでIMFのSDRに人民元が入るらしいけど、これはどういうことなの?」という関心(知的好奇心)を持つ方に加え、どうやら何らかの事情で、SDRの概要の解説を必要とされている方もいらっしゃるようです。ただ、日本語で専門的な解説をしているウェブサイトはなかなか見当たりません。そこで、本日は以前作成した図表なども活用しつつ、「SDRだけに特化した解説」を試みたいと思います。

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SDRに特化した解説

私が当ウェブサイトを立ち上げることにした最大の理由は、日本のマス・メディアが、「その場しのぎの報道」に明け暮れ、専門用語などの「深掘り解説」ができていないという問題意識にあります。たとえば、今年の10月から、中国の通貨・人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引出権を構成する通貨となりました。このSDRとは英語で“Special Drawing Rights”の略であり、“SDRs”と称することもあります。日本国内のメディアの報道を眺めていると、「これによって人民元が主要通貨(国際通貨)になった」など、あいかわらずの「誤報」だらけです。また、日韓スワップについては、さすがに「単なる通貨の交換であって対等な協定だ」という説明を信じる人はいないにせよ、その問題点について深く議論されている形跡はありません。また、現在のSDRの比率は、

  • 米ドル…41.73%
  • ユーロ…30.93%
  • 人民元…10.92%
  • 日本円…*8.33%
  • ポンド…*8.09%

となっていますが、中には「SDRを権利行使すれば受け取るお金に人民元が10.92%含まれている」などの勘違いもあるようです。

これについて、当ウェブサイトでは既に、本日時点までに、人民元と「国際通貨」に関する記事を3本、日韓通貨スワップに関する専門的記事を3本、さらに一般的な「ハード・カレンシー」の定義についての記事を1本、それぞれ掲載しています(これらの記事については次のページでまとめています)。

人民元/日韓通貨スワップ 特設ページ

ただし、いずれの記事も、人民元や日韓スワップなどの現状に焦点を当てたものとなっており、SDRそのものについての解説記事はありませんでした。そこで、本日は改めて「SDRだけに」焦点を当てて、改めて解説を加えておきたいと思います。

IMFの仕組み

まず、IMFとは何でしょうか?

国際通貨基金(International Monetary Fund, IMF)は、もともとは「1930年代の世界恐慌の原因となった通貨の切り下げ競争を繰り返さない」という目的で設立された組織で、最大の目的は「国際通貨制度の安定性の確保」にあります。世界の主要通貨(ドル、円、ユーロなど)の為替相場は日々刻々と動きますし、市場の需給で為替が動くのは経済の当然の原理でもあります。しかし、あまりにも急激な為替変動が発生すると、企業の貿易や投資などの計画が予測し辛くなってしまいます。さらには外貨ポジションが脆弱な国(例えば韓国など)の場合、いったん世界的な信用不安が発生すると、投機資金が逆流し、その国の通貨(例:韓国ウォン)が売り浴びせられてしまい、その国の企業は外貨でお金を借りることすらできなくなります。

そこで、IMFは「国際通貨制度の安定性」という観点から、いざというときのために金融支援などを行う仕組みが整っています。金融支援には様々な種類がありますが、大きく分けて「融資」と「SDR」があります。

IMFへの出資

まず、IMFに加盟するためには、IMFから割り当てられた「出資クオータ」を払い込む必要があります。IMFのウェブサイト(英語版)によると、2016年10月12日時点における加盟国の出資額(=クオータ)と出資比率は図表1の通りです。

図表1 IMFへの出資額(上位10か国)
出資額 出資比率 投票権 投票権比率
米国 82,994 17.47% 831,405 16.54%
日本 30,821 6.49% 309,668 6.16%
中国 30,483 6.42% 306,292 6.09%
ドイツ 26,634 5.61% 267,807 5.33%
フランス 20,155 4.24% 203,014 4.04%
英国 20,155 4.24% 203,014 4.04%
イタリア 15,070 3.17% 152,163 3.03%
インド 13,114 2.76% 132,607 2.64%
ロシア 12,904 2.72% 130,500 2.60%
ブラジル 11,042 2.32% 111,883 2.23%
その他(179か国) 211,643 44.56% 2,378,305 47.30%
合計 475,015 100.00% 5,026,658 100.00%

(【出所】IMFウェブサイト(英語版)。なお、金額単位は「百万SDR」。また、小国への配慮から、出資額と投票権は必ずしも比例しない)

日本の例でいえば、308億SDR(約426億ドル、4.4兆円)をIMFに出資しています。その際、出資額の25%は「自由利用可能通貨」で支払う必要がありますが、残額については自国通貨で払うこととされています。しかし、日本の場合は「自国通貨」がIMFの「自由利用可能通貨」でもあるため、結果的には全額を円で払っているはずです(※ただし、IMFウェブサイトには明文記載はありませんが…)。

また、SDRはこのIMFへの出資比率をベースに各国に配分されています(図表2)。

図表2 SDR配分額(2009年9月9日時点)
国名 SDR 比率
米国 35,315,680,813 17.31%
日本 12,284,969,838 6.02%
ドイツ 12,059,166,873 5.91%
フランス 10,134,203,762 4.97%
英国 10,134,203,762 4.97%
中国 6,989,668,494 3.43%
サウジアラビア 6,682,495,468 3.27%
イタリア 6,576,111,210 3.22%
カナダ 5,988,080,401 2.93%
ロシア 5,671,802,571 2.78%
その他(176カ国) 92,233,903,443 45.20%
合計 204,070,286,635 100.00%

(【出所】IMFウェブサイト(英語版)PDFファイル。)

ただし、出資比率の見直しは頻繁に行われているものの、SDRの見直しは同じタイミングで行われるわけではないため、現在の出資比率とSDR配分比率には随分の差があります。

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SDRとは「通貨」ではなく「権利」

次に、話題となっている「SDR」について見ていきましょう。上の図表1/図表2では、出資額はSDR単位で表記されていますが、厳密に言えば、SDRは通貨そのものではありません。「お金を引き出す権利」です。そして、IMFからの融資とは、IMFからお金を借りることですが、SDRはあくまでもIMF加盟国から引き出す仕組みであり、IMFから「借りる」わけではありません(図表3)。

図表3 融資とSDRの違い
区分 概要 備考
IMFからの融資 最大で出資額の435%の融資をIMFから受けることが可能 2016年9月末時点の融資額はIMFウェブサイト(英語版)で閲覧可能
特別引出権(SDR) 緊急時に引き出し可能な権利 IMF加盟国から引き出すもので、引出方法は2種類存在する

IMFから融資を受けた国は、「厳格な緊縮財政」などを強いられるため、「できればIMFからはもうお金を借りたくない」と思うことが多いようです。しかし、SDRは少なくとも「IMFから」お金を借りる仕組みではありません。また、IMF加盟国間でSDRの売買も一応は可能です。

SDR配分額とSDR保有額の考え方

IMFのウェブサイト(※日本語版)によると、SDRとは「加盟国の準備資産を補完する手段としてIMFが1969年に創設した国際準備資産」です。IMFは、まず各国にSDRを配分します(現時点の配分は上記「図表2」をご参照ください)。この配分額は、加盟国にとってみれば「同額の権利と義務」です(図表4)。

図表4 SDR配分額とSDR保有額

20161002-sdr-1

つまり、「SDR配分額」とは、他の国から「お金を貸してくれ」と言われたときに貸してあげる義務であり、「SDR保有額」とは、他の国に対して「お金を貸してくれ」と要求する権利です。そして、世の中の金銭債権債務の鉄則通り、「誰かに対する権利は誰かに対する義務」ですから、地球上のすべてのIMF加盟国が保有する「SDR保有額」と「SDR配分額」を合計すると一致します(当たり前ですが)。

平常時には、この国は「資産」と「負債」が同額ですから、SDR配分額に対する手数料とSDR保有額に対する利子が同額となり、IMFとの間で一切、金銭のやり取りは発生しません。

これに対して、ギリシャのようにIMFのSDRを行使した国は、SDR保有額が減少します。このような状態にあると、SDR配分額がSDR保有額を上回るため、SDR保有額に対する手数料が発生してしまうのです(図表5)。

図表5 SDRを権利行使した国のバランス

20161002-sdr-2

逆に言えば、SDRを引き出されてしまった国や、他国から「SDR保有国」を買い取った国の場合は、

  • 「SDR保有額」は変わらないのに、「SDR配分額」が減少する
  • 「SDR配分額」は変わらないのに、「SDR保有額」が増加する

ことで、結果的にIMFから利子を受け取ることができます(図表6)。

図表6 SDRを権利行使された国のバランス

20161002-sdr-3

つまり、SDRとは、あくまでも加盟国間でお金をやり取りする仕組みであり、IMFからお金を借りる仕組みではありません。

SDRの権利行使方法①引出方式

次に、実際にSDRを権利行使する方法としては、次の二つの方式があります(図表7)。

図表7 SDRの行使方法
方式 概要
都度指定する方式 ある国がSDRを行使しようとするときに、IMFが「強い外貨ポジション」を持つ国を指定し、その国から「自由利用可能通貨」を受け取る方式
事前の協定方式 事前に加盟国間で自主的に協定を締結し、その協定に基づいてSDRの売買を行う方式

しかし、この二つの方式については、事実上、「都度指定する方式」しか機能していません。なぜならば、「事前に協定を締結する方式」だと、SDRというまどろっこしい方法ではなく、「二カ国間通貨スワップ(BSA)」を締結する方が遥かに速いからです(なお、日韓通貨スワップ協定については「専門知識解説:「日韓通貨スワップ協定」」や用語集「日韓通貨スワップ協定」もご参照ください)。

もちろん、日本のような債権国にしてみれば、IMFから突然、「SDRとお金を両替してくれ」と要求されるリスクがあるわけです。しかし、SDRを権利行使され、お金を引き渡した場合には、IMFを通じて利子を回収することができます。また、SDRはいったん引き出されてしまえば、資金の返却を受けるまでは利子を受け取り続けることができます。日本にとっては決して悪い仕組みではありません。

SDRの権利行使方法②引き出す通貨

もう一つのポイントがあるとすると、SDRは通貨そのものではありません。あくまでも「SDR1単位」に相当する「自由利用可能通貨」との交換です。このあたり、官庁のウェブサイトも含めて、どうも「SDRを権利行使すれば人民元が10%含まれる」などの誤解もあるようです。しかし、IMFの約款をよく読んでみると、SDR提供国が、「要求された通貨」でSDR利用国に引き渡せば良いのです(図表7)。

図表8 SDRの行使

本条セクション5に従いIMFから指定された国は、SDR利用国の要求に応じて「自由利用可能通貨」を、本条セクション2(a)に従って、SDR利用国に提供しなければならない。

A participant designated by the Fund under Section 5 of this Article shall provide on demand a freely usable currency to a participant using special drawing rights under Section 2(a) of this Article.

(【出所】IMF「Articles of Agreement」第19条セクション4)

ここで、IMF約款上、「一つの自由利用可能通貨(a freely usable currency)となっているのがミソです。つまり、人民元がSDRに入ったからといっても、それはあくまでも「SDRと実際の通貨の為替レートを計算するため」のものであり、「現実に相手国に渡す通貨に人民元が含まれている、という意味ではない」のです。

通常であれば、日本の場合は「日本円」自体が国際的に広く通用しているため、相手国が日本円を欲しがった場合には、日本円を引き渡せば良い話です。また、日本が保有する外貨準備は、米ドルの現金や米国債など流動性の高い資産を中心に100兆円(!)を超えており、これに加えてFRBと無制限の通貨スワップ取極めを保持しています。このため、日本としては「日本円」以外にも「米ドル」を相手国に支払うことも可能です。

国際金融支援あれこれ

ただし、SDRを使った場合でも、IMFからの「配分額」を超えてお金を引き出すことはできません。また、引き出す際には「相手国と事前に契約を締結しておく方式」と「IMFが相手国を都度指定する方式」がありますが、「相手国と事前に契約を締結しておく方式」の場合だと、SDRを使うよりも「二カ国間通貨スワップ(BSA)」を締結した方が簡単です。このため、実際にはSDRの利用は非常に使い勝手が悪く、2014年にギリシャがIFMからの債務を返済するのに利用したなど、限られた利用実績しかありません。SDRは保有する国からすれば「資産」ですが、引き出してしまった国からすれば「負債」です。ギリシャのように、IMFに利息を払い続けなければならない例もあります。

そして、実際に日本が発展途上国に資金援助をするときなどを考えてみると分かりますが、融資を受ける方の国は、できるだけ自由に資金を使いたいと考えますし、融資を出す方の国は、確実に資金が返ってくる方法を好みます。ここで、「国際金融支援」の在り方について概観してみましょう(図表9)。

図表9 国際金融支援
種類 概要 備考
IMFからの融資 IMFという国際組織が資金繰りに困っている国にお金を貸してあげる制度 IMFという国際組織が関与するため、いったんお金を借りると緊縮財政等が必要になる
SDR IMF加盟国から資金を引き出す仕組み 実質的には使い勝手が悪い
BSA(二カ国間通貨スワップ) 二カ国間でお互いに資金を融通し合う仕組み。発展途上国が自国通貨を担保に先進国からハード・カレンシーを借り入れることが多い 日韓通貨スワップの例で言えば、実質的には資金ポジションの強い国(日本)から資金ポジションの弱い国(韓国)に対する資金援助という側面が強い
多国間通貨スワップ 多国間でお互いに資金を融通し合う仕組み。BSAと比べて当事国が増える分だけガバナンスが強化されるが、借りる方からすると借り辛くなる 具体例としては、日本がASEANや中韓と締結したチェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)などの事例がある
ODA 政府開発援助。贈与(お金をあげること)、貸与(お金を貸すこと)などの形態がある 日本の場合、主に国際協力機構(JICA)が実施する低利融資の「円借款」などが有名
民間主導の投資促進 日本の民間企業が発展途上国のインフラ整備投資などをやりやすくするために政府が制度面で後押しするなどの仕組み 過去には貸倒れた融資を有税償却するための「特別海外債権引当金」などの制度も設けられていた

資金援助を受ける方の国としては、できるだけ低利で、資金使途も広い資金が欲しいことは言うまでもありません。しかし、図表9に列挙した仕組みは、いずれも最終的には何らかの形で日本国民の負担になる可能性があるため、資金援助をする側としては、できるだけ確実に返ってくる融資でなければなりません。

日本のような対外純債権国の場合、地球上から貧困と争いを撲滅するために、発展途上国などに対する国際協力を惜しんではなりません。しかし、それと同時に、これらの国際援助は、いずれも日本国民の負担になる可能性があります。特に、現在、財務省が再締結を目指している「日韓通貨スワップ」(日韓スワップ)は、締結してあげても相手国(この場合は韓国)から一切感謝されないどころか、どうせ「金額が少ない」だの、「再締結を渋った」だのと罵倒されることは間違いありません。

いずれにせよ、同じ額の援助をするならば、できるだけ効果の高い援助にすべきですし、また、できるだけ確実に回収可能な援助を行うべきでしょう。そして、我々有権者は、税金の使途をきちんと監視するためには、こうした政府の対外金融支援の仕組みを理解しておくことが必要なのです。

――↓本文は以下に続きます↓――

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  • 2016/11/21: AIIBの現状整理
  • 2016/10/24: 銀行経理的に見た中国の外貨準備の問題点
  • 2016/10/12: SDRとは?
  • 2016/10/09: SDRと人民元と「国際通貨」
  • 2016/10/02: 人民元「主要通貨」報道のウソ
  • 2016/09/14: <保存版>ハード・カレンシーとは?
  • 2016/09/07: 人民元のハード・カレンシー化という誤解
  • 経済・金融に関する用語集

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  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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