トルコ・ショックはアルゼンチン、韓国などに波及するのか?

数日で通貨が40%も下落するという、いわゆる「トルコ・ショック」が市場の話題となっています。ただ、トルコ・ショックのような新興市場(EM)通貨の暴落は、別に珍しいことではありません。世界には200近い通貨があり、歴史上も最近も、通貨が暴落して紙屑のようになった事例など、いくらでもあるからです。その意味で、私の「次の関心事」は、「トルコ・ショックが収束するかどうか」ではなく、「他のEM通貨に波及するのかどうか」、という点にあるのです。

結局は通貨の信認の問題

先日、『「日本は財政再建が必要」という世紀の大ウソに騙されるな!』、『「国際収支のトリレンマ」から見るトルコ・ショックの本質』という2つの記事で、相次いで金融論を取り上げました。

「日本は財政再建が必要」という世紀の大ウソに騙されるな!

「国際収支のトリレンマ」から見るトルコ・ショックの本質

ただ、この2つの記事を執筆したあとになって眺めてみて気付いたのですが、実は、この2つの話は繋がっています。

それは、「日本円に対する信認」という意味です。

このうち『日本は財政再建が必要』という記事の要諦は、財務省は「6月末の国の借金が1088兆円になった」と発表し、これを報道機関が「国民1人当たり860万円の借金を抱えているのと同じだ」と報じた、というものですが、財務省はこれにより「日本は財政再建が必要だ」と喧伝している格好です。

ただ、『トルコ・ショック』の方の記事でも申し上げましたが、本当に財政が危機的状況にあるのならば、トランプ・ショックなどを受けて、日本の通貨・円が急落し、国債の利回りも急騰していなければおかしいのですが、実際には日本円はまったく動揺していませんし、国債利回りもあまり変動していません。

いや、日本円は米ドルに対してほとんど動いていませんし、過去のショック時には、むしろ日本円が米ドルに対して上昇する(つまり円高・ドル安になる)という事象すら観測されているのです。

このように考えると、やはり、財務省による「日本は財政危機だ」という説明は、少なくとも金融市場からは「ウソだ」と見透かされている証拠だと見て間違いないでしょう。

国際収支のトリレンマとは?

相反する3つの政策目標

さて、国際的な経済を議論する上で、「国際収支のトリレンマ」は無視できない論点です。これは、

  • 金融政策の独立
  • 為替相場の安定
  • 資本移動の自由

という3つの政策目標を、同時に達成することは絶対にできない、という法則です。このうち、「金融政策の独立」とは、「自分の国の実情に合わせた金融政策を採用すること」ですが、これについては少し説明が必要ですので、のちほど事例で紹介したいと思います。

それ以外の2つの目標は「為替相場の安定」と「資本移動の自由」です。

とくに新興市場(EM)諸国にとっては、為替相場の安定は非常に大事な政策目標です。たとえば、私たちの隣国の例で見ると、中国と韓国が、為替相場の安定を重視しており、半ば公然と管理相場制度を採用したり、為替介入を行ったりしていることは有名です。

ただ、先進国であっても、為替変動が大きすぎるのは問題です。

たとえば、ユーロ圏ソブリン危機の最中には、ユーロ圏からスイスに資金が流入し続けていたため、スイスの中央銀行であるスイス国民銀行(SNB)は2011年9月から2015年1月の間、「1ユーロ=1.20フラン以上にフランが上昇するのを抑制するため無限に為替介入する」と宣言しました。

また、2011年3月には東日本大震災が発生。このときは「リスク回避」の動きから円が「買われ過ぎ」(※「売られ過ぎ」、の間違いではありません)、米FRB、欧州中央銀行、イングランド銀行などが日本銀行とともに「円売り協調介入」を実施したこともあります。

また、「資本移動の自由」が保証されている国の通貨は強いことでも知られています。日本円、米ドル、英ポンド、ユーロ、スイス・フランなどがその典型例ですが、この点についても、のちほど、説明したいと思います。

金融政策の例で見る「トリレンマ」

さて、「トリレンマ」を具体的に説明するために、「金融政策の独立」を例に挙げてみましょう。

どんな国であっても、経済政策は「金融政策と財政政策」がセットです。このうち「金融政策」は、中央銀行が通貨の供給量を増やしたり減らしたり、金利を上げたり下げたりするオペレーションのことです。通貨供給量が増えたり、金利が下がったりすれば、その分、国内の景気は良くなりますし、失業率も下がります。

ただ、中央銀行があまりにも「大盤振る舞い」をすると、インフレ率が上昇し過ぎ、物価が高騰(つまり通貨の価値が下落)し始めますし、「資産バブル」が発生することもあります。そうならないように、中央銀行は景気が過熱した時に、通貨供給量を減らしたり、金利を上げたりしなければなりません。

一般に、

  • 金融緩和とは…通貨供給量を増やしたり、金利を下げたりして、おカネを借りやすい状況を作ること
  • 金融引締とは…通貨供給量を減らしたり、金利を上げたりして、おカネを借りづらい状況を作ること

と理解すれば間違いないでしょう。景気後退局面やデフレ局面では、金融緩和が良く効きますし、逆に、景気過熱局面やインフレ局面では、金融引締めが必要となるのです。

ところが、外国との取引がオープンな国の場合は、金利が上がったときに、外国人投資家が高金利を狙い、その国の通貨を買い始めてしまいます。通貨供給量が一定ならば、その国の為替相場が上昇してしまい、輸出産業は大きな打撃を受けることになります。

そこで、その国が為替相場の上昇を抑制するためには、

  • ①大規模な為替介入を行い、外国通貨を買って自国通貨を市場に放出する
  • ②外国との資本取引を禁止する

という2つの方法が考えられます。

ところが、①のオペレーションをやってしまえば、せっかく金融引締めで通貨の供給量を減らそうとしたのに、自分で再び通貨の供給量を増やしてしまうことになります。つまり、金融政策の独自性を放棄しなければならなくなるのです。

一方、②のオペレーションをやってしまえば、資本移動の自由がなくなります。このため、外国から資本を入れて経済を発展させようとしている国にとっては、資本移動の自由を嫌い、外資を呼び込むことが難しくなってしまうという副作用があります。

つまり、金融政策の独自性を維持したままで、為替相場の安定と資本移動の自由を保つことはできません。どの通貨圏も必然的に、

  • (A)金融政策の独立と資本移動の自由が大切ならば、為替相場の安定は諦める
  • (B)為替相場の安定と資本移動の自由が大切ならば、金融政策の独立は諦める
  • (C)金融政策の独立と為替相場の安定が大切ならば、資本移動の自由は諦める

といういずれかを選ぶしかないのです。

通貨政策、色々なパターン

日米英欧のパターンは(A)

ここで先進国が重視しているのが、「資本移動の自由」、という考え方です。

俗に「ハード・カレンシー」と呼ばれる通貨があります。これは、私自身の定義で恐縮ですが、

その発行国にとどまらず、国際的な商取引、資本取引などに広く利用される通貨であり、為替市場でも自由な売買をするうえで物理的、法的、時間的な制約が少ない通貨

のことです。

この「ハード・カレンシー」の条件を満たす通貨としては、典型的には世界の基軸通貨である米ドル(USD)に加え、ユーロ(EUR)、日本円(JPY)、英ポンド(GBP)の4つが挙げられます。また、これ以外にも最近だと豪ドル(AUD)、加ドル(CAD)などが有名です。

ちなみに、現在の地球上にはおよそ160~170の通貨がありますが、北朝鮮やジンバブエの通貨のように、事実上、価値を失っているものもあります。しかし、「ハード・カレンシー」の場合は、通貨に対する信頼がとても強く、その中でも「有事の円買い」と言われるように、日本円は安全資産としては最強クラスです。

そして、自分の国の通貨が強ければ、それだけで国益に資するといえます。なぜなら、自分の国の通貨を刷れば、それこそ世界中から資源を買ってくることができるからです。

政策的に(B)を採用する国

ただ、パターン(B)、つまり「資本移動の自由」と「為替相場の安定」を極端に重視している国もあります。アジアでいえば香港とシンガポール(とブルネイ)、欧州でいえばデンマークがその典型例です。

香港の例でいえば、香港ドル(HKD)は1米ドル=7.75~7.85香港ドルのレンジ内でしか動きません。これは、香港金融管理局(HKMA)が厳格に為替相場をコントロールしているからです。

香港では、民間の銀行、つまり香港上海匯豐銀行(HSBC)、香港渣打銀行(スタンダード・チャータード銀行)、中国銀行香港分行の3行が、1米ドルをHKMAに預けるごとに7.8香港ドルを発行する権利を持っています。

このようにすることで、香港ドルは発行時点において、HKMAが保有する米ドル建ての外貨準備の範囲内にコントロールされるのです。そのうえで、HKMAは外為市場で香港ドルが買われ過ぎれば売り介入を、売られ過ぎれば買い介入を実施しています。

さらに、米国が利上げをすれば、たとえ香港が不景気だったとしても、香港も米国に合わせて利上げをしなければなりません。なぜなら、金利が米国よりも低ければ、香港から米ドルが逃げてしまうからです。また、香港がインフレ気味だったとしても、米国に合わせて利下げしなければならないこともあります。

つまり、香港の場合は政策的に「世界の金融センター」であることを選んだのです。HKMAは国内の経済よりも「資本移動の自由」と「為替相場の安定」を最重視しており、中国の影響でインフレが進んでいた2010年代前半にも、こうした政策を放棄しなかったのです。

中国は資本統制、韓国は為替介入を好む

ちなみに私は、日本の場合、日本円はもっとアジアで広く通用する資格があると考えているのですが、いろいろな問題があって、アジアでは米ドルが広く用いられています。そして、最近、使用する国が広まりつつあるのが、中国の通貨・人民元(CNYとCNH)です。

この人民元は2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に加えられましたが、「インチキ・ハード・カレンシー」の代表格です。なぜなら、中国本土では資本規制が強く、人民元を蓄えたとしても、人民元のままで資産運用することが難しいからです。

ではなぜ、中国の通貨・人民元は「ハード・カレンシー」ではないのでしょうか?

その理由は、中国がパターン(C)、つまり「金融政策の独立」と「為替相場の安定」を重視するあまり、資本移動の自由に制限を加えている国だからです。そのような国の通貨を「ハード・カレンシー」と呼ぶことはできません。

一方、OECD加盟国でありながら、通貨の通用度が非常に低いのが、韓国の通貨・韓国ウォン(KRW)です。韓国の場合、いちおう、見た目は「資本移動の自由」を保証している国ですが、実際には中央銀行が裏で公然と為替介入を実施しています。

つまり、韓国はパターン(A)を標榜しながらも、裏では為替介入を繰り返しており、パターンでいえば(B)に近い国だといえます。このような国は、2015年のスイスのように、ある日突然、為替政策を放棄せざるを得なくなるという「突然死」が懸念されるのですが、その論点についてはまた改めて紹介します。

トルコ・ショックは広まるか?

トルコ・リラは7月末比40%下落

さて、トルコ・ショックについては、先ほど紹介した私の過去記事でも説明したとおり、確かに米国のトランプ政権がトルコに対する制裁関税の適用を発表したことが直接のきっかけだったことは間違いないでしょう。

ただ、トルコの場合はもともとインフレ気味、つまり通貨供給量が増えすぎていたことに加えて、中央銀行が大統領に対して気を使い、必要な金融引締め政策を打たなかったことから、全世界の投資家からの信頼を失ったというのが実情に近いでしょう。

現在、トルコは中央銀行による流動性供給などにより、金融システム不安の払拭に努めるなどしていて、昨日の市場では一時的に下げ圧力が緩和したようです。ただ、エルドアン政権はこの期に及んで緊急利上げに消極的であると見られており、トルコ・リラの不安は解消したとは言い難い状況にあります。

トルコリラ、中銀流動性供給策などで一時下落に歯止め 売り圧力なお存在(2018年8月14日 04:30付 ロイターより)

ただし、トルコのような新興市場(EM)国家の場合、自国通貨が急落するというリスクには常に直面しています。そして、市場には「いったんリスク回避ムードが広がれば、他のEM通貨にも波及する」という「パニック売り」が、何より警戒されているのです。

なお、WSJのデータからトルコ・リラ(TRY)の対ドル・レートを抽出すると、次のとおりです。

  • 2017年12月29日…1ドル=3.7667リラ
  • 2018年7月31日…1ドル=4.9139リラ
  • 2018年8月13日…1ドル=6.8846リラ(7月末対比で40%下落)

さっそくアルゼンチンに飛び火、通貨防衛も

そういえば、1997年のアジア通貨危機のときも、最初はタイから始まった危機がアジア全体に波及し、最後はインドネシアと韓国を徹底的に痛めつける結果となりました。今回も、トルコ・ショックがさっそく、アルゼンチンに飛び火したようです。

アルゼンチンは過去に何度か外貨建ての国債のデフォルトを発生させている国ですが、脆弱な国という連想が働きやすいのでしょう。実際、ここ数日のトルコ・ショックの影響で、アルゼンチン・ペソ(ARS)は先月末に1ドル=27.4ペソだったものが、8月13日時点で1ドル=30ペソへと下落しています。

もっとも、下落率だと4%程度ですが、それでも通貨危機に対する予防措置という意味合いもあるのでしょうか、アルゼンチンの中央銀行は13日(※現地時間)、5%の緊急利上げにより政策金利を45%に設定しました。

アルゼンチンが5%緊急利上げ、45%に トルコ危機で(2018/8/14 10:00付 日本経済新聞電子版より)

この利上げはまさに「通貨防衛」と呼ばれるものですが、アジア通貨危機やリーマン危機などの歴史に学ぶならば、ほかの新興市場諸国にも波及する可能性は否定できません。

韓国ウォンの下げは2%に留まるが…

卑近な例で見ると、たとえば韓国ウォン(KRW)は年初に1ドル=1063ウォン、7月末時点で1ドル=1113ウォンだったものが、8月13日(※米国時間)では1ドル=1137ウォンに値下がりしています。

ただし、7月末と比較したときの下落率は2%に留まります。このことから、今のところは「トルコ・ショックが波及している」というよりは、単に、世界的なリスク回避の流れの中で一過性の下落に過ぎないと見て良いでしょう。ただし、「今のところは」、ですが…。

なぜ私が韓国の通貨市場に注目するのかといえば、比較的、小国であることと、OECD加盟国でありながら通貨はソフト・カレンシーであること、経済学のモデルでいうところの「小国オープン経済」の典型例であることがその大きな理由です。

そして、【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』や『数字で見る外貨準備 韓国の外貨準備高の8割はウソなのか?』でも指摘したとおり、肝心の外貨準備統計などでウソをついている可能性が高く、かつ、1997年以降は平均して10年に1回程度、通貨危機に見舞われているからです。

こうした私の懸念が杞憂に終わるならそれで構いません。ただ、隣国が通貨危機に見舞われた場合、わが国では「通貨スワップなどで救いの手を差し伸べるべきだ」、といった、誤った配慮を主張する意見が出てくることには警戒が必要でしょう。

いずれにせよ、この問題を巡っては気になる展開が続きそうです。

読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 知人が9月にトルコに行く予定です(笑)。『トルコ・ショック』を受けて、行くか止めるか大変気にしております(多分、行くでしょうが、辿り付けるかどうか)。

    < リラは7月末対比で40%の対ドル下落、でアルゼンチンに飛び火、次はどこかな?韓国は年初からみて1ドル1063ウオン→1137ウオンで、大分値下がりしてますね。スワップ依頼(と言うより日本から声掛けを待っている)など、丁重にお断りし、2015年12月と釜山の宿題はまだできてないのか、と一発カマしてあげましょう。ま、破綻するのも見たい気が(笑)。   以上。

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