昨日に続き、本日も「スワップ」の話題です。ただし、本日の話題は「通貨スワップ(BSA)」の方ではなく、「日中為替スワップ(BLA)」に関するものです。

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GW明けも話題は豊富

世間では昨日までが「ゴールデンウィーク」だったそうですが、読者の皆様はいかが過ごされましたか?

私のようにワンオペ・ブラック企業に勤めている人間にとっては、基本的にゴールデンウィークも土日も関係ありません。1日だけ、子供を連れてコンサートに行きましたが、それ以外はひたすら、某金融紙と経理誌の連載や、遅れに遅れている専門書の原稿を書き進める機会となりました。

連休も明け、本日からは平常どおり勤務、という方は多いでしょう。当ウェブサイトでも議論すべき話題は大量にあります。連休明けの初日、本日は昨日に続き、「スワップ」についての話題を提供したいと思います。

日中BLA構想

時事通信「日中新通貨協定」

連休直前の5月2日、時事通信は「日中が3兆円規模の新通貨協定締結へ」と報じました。

日中、新通貨協定締結へ=融通額3兆円軸に-日銀・人民銀(2018/05/02-21:35付 時事通信より)

これは、「日本銀行と中国人民銀行(PBOC)が円と人民元を相互に融通し合う協定」とされています。時事通信はタイトルで「通貨協定」、本分で「通貨交換(スワップ)協定」と報じていますが、報道が事実であれば、これは「通貨スワップ」ではありません。「為替スワップ」です。

昨日の記事でも説明しましたが、簡単に言えば、国同士・中央銀行同士が通貨を融通し合う協定が「通貨スワップ」、民間銀行に通貨を融通する協定が「為替スワップ」です。この両者は一見すると似ていますが、実態はまったくの別物です(図表)。

図表 通貨スワップと為替スワップ
区分説明備考
通貨スワップ通貨当局同士が相互に通貨を融通し合う協定。調達した資金は通貨防衛などに使われることが一般的Bilateral Swap Agreementを略してBSAと称することもある
為替スワップ中央銀行を通じて相手国の民間銀行に対して資金を融通する協定Bilateral Liquidity swap Agreementを略して当ウェブサイトではBLAと称している

(【出所】著者作成)

なお、通貨スワップについては英語の “Bilateral Swap Agreement” の頭文字を取って「BSA」と略すことがあります。一方、為替スワップについてこれに類する略語は見当たりませんが、当ウェブサイトでは「BLA」と略すことにしています。

また、デリバティブの世界の「通貨スワップ」(CCS)や「為替スワップ」の意味合いにつきましては、本論とまったく関係ありませんので、ここでは議論しません。興味がある方は、『総論:通貨スワップと為替スワップとは?』をご参照ください。

「日本が中国を救済する協定」ではない

時事通信の記事に話題を戻しましょう。

インターネット上では、「ついに日本が中国と通貨スワップ協定を締結する」、「日本が中国を支援・救済する協定だ」といった誤解から、なかには「日本が北朝鮮との交渉のために中国に対価を支払うものだ」といったトンチンカンなものまで、さまざまな反応が生じているようです。

しかし、今回の協定、報道が事実であれば、これは「日本が中国を救済する協定」、ではありません。そのヒントは、時事通信の記事の原文にあります。

同協定は、金融危機時に、日銀が人民銀に円を差し出す代わりに元を受け取り、元の資金繰りに行き詰まった邦銀に資金供給することが柱。中国は金融市場の整備が遅れており、金融危機など不測の事態が生じた場合、邦銀の元調達に支障を来す恐れがある」(※下線部は引用者による加工)

この下りでピンと来た方は、相当に国際金融に詳しいと思います。そう、実は私が今年1月に、『ソフト・カレンシー建て債券の危険性』で議論した内容と、まったく同じことが書かれているのです。

――↓本文は以下に続きます↓――

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諸悪の根源は「パンダ債」

正気の沙汰とは思えない「パンダ債」

三菱東京UFJ銀行(BTMU)(※)とみずほ銀行(MHBK)の2社は、今年1月16日、「本邦初となるパンダ債」を同時に発行しました。

中国におけるオンショア人民元建債券(パンダ債)の発行について(2018/01/15付 BTMUウェブサイトより)
オンショア人民元建て債券の発行について(2018/01/12付 MHBKウェブサイトより

(※ただし、「三菱東京UFJ銀行」は今年4月に「三菱UFJ銀行」に社名変更していますが、本稿では便宜上「BTMU」と称します。)

ヒトコトでいえば、この両社の行動は、とても正気の沙汰とは思えません。というのも、この「パンダ債」とは、「中国国外の企業が中国本土で発行する人民元建ての債券」のことであり、中国の金融市場が未成熟であることなどを考えれば、きわめてリスクの高い行為だからです。

当ウェブサイトでは、あまり個別企業の批判をすることは控えているのですが、敢えてここでは、BTMUとMHBKの両社を「正気の沙汰ではない」と批判したいと思います。というのも、こんな債券を発行して償還に失敗すれば、日本の金融システム全体が信頼を失いかねないからです。

香港あたりのオフショア市場で人民元建て債券を発行するのなら話はわかります。しかし、中国本土の資本市場は外国に解放されておらず、何らかのショックが生じたときに資金調達ができなくなるリスクは先進国と比べて際立って高いのです。

BTMUもMHBKも、日本の金融システムを使わせてもらっている立場にあります。メガバンクという立場にあぐらをかき、緊張感を失っているのではないでしょうか?

日中BLAの問題点①「邦銀救済」

つまり、今回のBLAの目的は、ずばり、パンダ債を発行してしまった日本の2つのメガバンクを救済する目的があると考えられます。あえて申し上げますが、BTMUとMHBKが1月にパンダ債など発行していなければ、こんな協定を結ぶ必要はなかったのです。

本来ならば、企業経営は自己責任です。仮にBTMUとMHBKの両社がパンダ債のデフォルトを発生させたとしても、両社に責任を取らせるのが筋です。しかし、両社の預金量はあわせて250兆円近くにも達しており、両社の経営が混乱した場合、日本の預金者に多大な迷惑が掛かります。

このため、日本銀行が「国民の税金負担」となるおそれのあるBLAを使い、両社を救済しなければならないのです。

正直、私はBTMUとMHBKを強制的に会社分割すべきではないかと思います。なぜなら無能な経営者の経営判断ミスにより、日本の金融システムに与える悪影響が大きすぎるからです。

日中BLAの問題点②「中国の不良債権問題の押し付け」

一方、今回のBLAには、もう1つの問題点があります。それは、中国の銀行が乱脈融資の末に経営難に陥った際、日銀の負担でこれらの銀行の資金繰りを救済しなければならないおそれがあることです。

中国人民元と違って日本円は国際的な金融市場でいくらでもさまざまな通貨に交換することができ、非常に使い勝手が良い通貨です。このため、中国の銀行のなかには、日本で円建ての債券を発行し、日本円を調達するニーズを持っている会社も多数存在します。

そして、ある中国の銀行が日本で円建て債券を発行し(いわゆるサムライ債)、乱脈融資のすえに経営危機に陥ったとします。このとき、中国人民銀行がこの中国の銀行を救済するために、日銀に対してBLAに基づき円資金流動性供給を要請すれば、日銀はこれに応じる義務があります。

しかし、日銀に対して担保として差し入れられるのは、国際的な市場で使い物にならない人民元という通貨であり、日銀はこれと引き換えに、国際的な市場で高い通用度を誇る円という通貨を供給しなければならないのです。どう考えても日本にとって一方的に不利な内容です。

日中BLAは締結せざるを得ないが…

ソフト・カレンシー建て債券の危険性』で申し上げたとおり、パンダ債は発行よりも償還の方が困難です。とくに大きなリスクとは、中国本土で資金市場が凍結してしまうことであり、中国人民銀行が外国銀行であるBTMUやMHBKを救済するための流動性供給に応じないことです。

このように考えていくと、今回の日中BLA構想は、いわば、BTMUとMHBKの「パンダ債」を人質にとられてしまった状態で、日銀にとっては締結する以外に選択肢はないと考えるべきでしょう。ただし、金額については3兆円規模にする必要はありません。

幸い、BTMU、MHBkともに、発行した金額は、両社の規模に比べてきわめて少額です。

BTMUが発行したのは10億元(約171億円)、MHBKが発行したのは5億元(約85.7億円)相当額であり、これに他社が追随した場合に備えて数百億円規模のアローワンスを備え、1000億円(10億ドル)程度で十分でしょう。

そのうえで、できれば、新たな日中BLAはBTMU、MHBK両社の発行した「パンダ債」の償還期限(いずれも2021年1月16日)に合わせるべきであり、また、日銀はBTMU、MHBK両社に対する厳格な日銀考査を実施すべきでしょう。

たった2つの愚かな銀行のために、日本国民の虎の子の日本円という通貨を、中国共産党という軍事独裁国家が支配する国の金融市場に投じるようなことをしてはなりません。ゆめゆめ、日銀と金融庁には緊張感を持った仕事をしてもらいたいものです。

警戒すべきは日本の木端役人

ただ、日本の役人は中国がよっぽど好きなのでしょうか、政治家の目の届かないところで、狼藉の限りを尽くしています。その典型的な事例と言えば、金融庁でしょう。

中国が主導する、「アジアのインチキ・イカサマ銀行」こと「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」ですが、『AIIBの現状整理・2018年4月版』のなかの『愚かな金融庁』で申し上げたとおり、金融庁はこのAIIBに対して「ゼロ%リスク・ウェイト」の指定を行ってしまいました。

この金融庁告示を改悪した担当官は国賊ものです。なぜなら、将来、AIIBが日本国内で債券を発行すれば、運用難に困っている日本の銀行から、大量の資金がAIIBに流れ込み、中国の「一帯一路構想」を日本の銀行が支援するという珍妙なことになりかねないからです。

せっかく安倍政権が「自由と繁栄の弧」構想で中国リスクを封じ込めようとしているのに、金融庁の木端役人やメガバンクが中国がらみで変な意思決定を行い、結果的に日本国民全体に損害を与えているのだとすれば、愚かというほかありません。

なにより、選挙で選ばれた訳でもない金融庁の木端役人が、日本の命運を変えてしまうような重大な決定を成し得るという点にも大きな問題があります。その意味で、官僚機構はマス・メディア、野党議員と並ぶ「日本の3悪」の1つなのではないかと思うのです。

※本文は以上です。

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  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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