西側の対ロシア金融制裁で中国に1000億ドル負担も

中国はいざとなったらロシアに1000億ドル程度の資金を提供しなければならない――。国際通貨基金(IMF)のデータに加え、ロシア中央銀行のレポートからは、そんな可能性が浮上します。ロシアはここ数年、外貨準備における米ドルの比率を下げ、金や人民元の比率を上げてきたのですが、こうした状況は、ロシアへの金融制裁の中国に対する潜在的な負担を高めることにつながっているのかもしれません。

対露金融制裁のうちとくに強力な3つ

本稿は、「資料集編」です。ロシアの外貨準備高について、ざっとした分析を加えておきたいと思います。

ロシアのウクライナへの侵攻を受け、米国や欧州を含めた国際社会はロシアに対し、いくつかの経済・金融制裁措置を発動しました。

これらのうち、とくに影響が甚大だと思われるものを3つ挙げておくと、次のとおりです。

①ロシアの特定銀行を国際決済網であるSWIFTNetから除外する措置

ロシアの一部の銀行をSWIFTが運営するSWIFTNetから除外する。一部報道によれば、ロシアの7つの大手銀行などが対象だが、最大手のロシア貯蓄銀行(スベルバンク)やガスプロムバンクはこの措置から除外される(『見えてきた対ロシア制裁議論:航空便ではすでに影響も』等参照)

②ロシアが保有する外貨準備を凍結する措置

ロシアが西側諸国の中央銀行に預けている外貨準備(現金・預け金や有価証券)を凍結し、使用させないようにする(『数字で読む:欧米金融制裁がもたらす「ルーブル不安」』等参照)

③ロシア政府などに対する起債制限

ロシアの政府・大手企業などに対し、西側諸国の金融市場において、外貨建ての債券の新規発行を禁止し、資金調達を制限する(『外貨準備の使用制限でロシアは通貨防衛ができなくなる』等参照)

もちろん、西側諸国による経済・金融制裁は、これら以外にもいくつかありますし、これに加えて民間企業でも、ロシア向けの製品・サービスの提供を取りやめる、などと発表する事例が目立っています。

たとえば、決済サービス会社であるビザやマスターカードはロシアでの事業を停止すると発表(『2つのクレジットブランドがロシアでの事業停止を発表』)しましたし、また、アップルやマイクロソフトなどはロシアでの製品の販売停止を決定するなどしているようです。

外貨準備の通貨別内訳をレポートで確認する

ただ、金融評論家としては、やはり上記①~③の措置がロシアに対し非常に大きな打撃を与えうるパワフルな手段だと考えており、とりわけ②の措置については、具体的にどのような影響があるのかを予測するのも、知的好奇心という点では大変に興味深いものがあります。

さて、国際通貨基金(IMF)のデータ上、「全世界の外貨準備の通貨別構成」に関しては明らかにされていますが(図表1)、各国の外貨準備については、その通貨別構成を明らかにするかどうかについては、基本的にはそれぞれの国の通貨当局に委ねられています。

図表1 世界の外貨準備高の通貨別構成(2021年9月末時点)
区分内訳Aに対する比率
外貨準備合計(A+B)12兆8275億ドル
 内訳判明分(A)11兆9712億ドル100.00%
  うち米ドル7兆0814億ドル59.15%
  うちユーロ2兆4521億ドル20.48%
  うち日本円6974億ドル5.83%
  うち英ポンド5728億ドル4.78%
  うち人民元3190億ドル2.66%
  うち豪ドル2172億ドル1.81%
  うち加ドル2622億ドル2.19%
  うちスイスフラン204億ドル0.17%
  うちその他の通貨3489億ドル2.91%
 内訳不明分(B)8562億ドル

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves より著者作成)

たとえば、私たちの隣国・韓国の場合だと、通貨の構成別内訳はほとんど明らかにされていません。邪推するに、その理由は、韓国の通貨当局が日常的に為替介入を行っているという実態がわかってしまうからではないかと思います。

余談ですが、同国の外貨準備高の動きについては大変に不自然でもありますが、これについては当ウェブサイトでは『韓国の外貨準備停滞をどう見るか』などでも述べたとおりですので、本稿では割愛します。

外貨準備の内訳をレポートで確認する

余談はさておき、ロシアの外貨準備の通貨別内訳がわかる資料がないかどうかを調べるため、先日、ロシアの中央銀行のウェブサイトを訪れようとしたところ、なぜかアクセスができなくなっていたのですが、これについて昨日になり、なぜか再びアクセスすることができました。

そして、大変興味深い資料を発見しました。 “BANK OF RUSSIA FOREIGN EXCHANGE AND GOLD ASSET MANAGEMENT REPORT” と題する、表紙を含めて9ページからなるレポートです。

この点、普段であれば、当ウェブサイトでは外部の情報を引用する際、情報源のURLについてはできるだけ明示するように努めているのですが、最近だとロシアのURLについて挙動がおかしいことも増えているという事情もあり、本稿に関しては、URLを明示しません。

この資料の5ページ目から6ページ目にかけて、「2021年6月末と2020年6月末の外貨準備に占める通貨別内訳」というものが掲載されており、これによると、ロシアは外貨準備に占める米ドルの比率を着実に落としていることが示されています(図表2)。

図表2 ロシアの外貨準備の通貨別構成
通貨2021年6月2020年6月
ユーロ32.30%29.50%
21.70%22.90%
米ドル16.40%22.20%
人民元13.10%12.20%
英ポンド6.50%5.90%
日本円5.70%(記載なし)
加ドル3.00%(記載なし)
豪ドル1.00%(記載なし)

(【出所】ロシア中央銀行)

これは、なかなか興味深い構成です。

先ほどの図表1によると、2021年9月末時点において、世界の外貨準備に占める米ドルの割合は6割弱に達しています。これに対し、ロシアの外貨準備の通貨別構成はこれと明らかに異なっており、米ドルが極端に少なく、ユーロや人民元の比率が高いことや、金の割合が高いことなどが特徴的です。

当時のロシアには、「経済制裁を加えるにしてもそれは米国のみであり、欧州は自国への経済制裁に踏み切らない」、といった判断もあったのかもしれません。

ロシアの外貨準備の詳細

この点、IMFのデータによると、ロシアの外貨準備高は、2022年1月末時点で6302億ドルであり、その内訳は次のとおりです(図表3)。

図表3 ロシアの外貨準備(2022年1月末時点)
項目金額(ドル換算)構成比
有価証券3113億ドル49.39%
預け金(中銀、BISなど)947億ドル15.02%
預け金(外国銀行など)573億ドル9.09%
IMFRP52億ドル0.83%
SDR241億ドル3.82%
1323億ドル20.99%
外貨準備その他54億ドル0.86%
外貨準備合計6302億ドル100.00%

(【出所】International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity より著者作成)

ここで、ロシアの外貨準備に占める「金」が何を意味するかについては、正直、よくわかりません。ロシアの中央銀行の金庫に眠っている金地金なのか、それとも外国の中央銀行などに保護預けにしている金塊(やその預かり証)なのかによっては、凍結の対象となるかどうかが別れます。

ただし、仮にここでいう「21.7%」が「ロシアの中央銀行の金庫に保管されている金塊」を意味するのだとしたら、主要国による外貨準備資産凍結効果は及びません。また、図表2とは時点が異なっていますが、たしかに金の割合が全体の20.99%であり、図表2の21.70%とはだいたい整合しています。

また、IMFリザーブポジションやSDRについてはとりあえず無視すると、西側諸国による今回の凍結処分の対象となっているのは、おそらくは「有価証券」「預け金」の部分であろうと思われます。その合計金額は4632億ドルです。

凍結された金額は3840億ドル

仮に、図表1に示した「2021年6月末時点の通貨別内訳」が、2022年1月時点においても大きく変わっておらず、また、人民元以外の通貨については凍結されていたと仮定したら、凍結されたロシアの外貨準備の額がいくらかについては、簡単に計算することができます。

図表1に示した通貨別の割合を「100%-21.7%」で割り戻したものが、次の図表4です。

図表4 有価証券や預け金の通貨別構成試算(2022年1月時点)
通貨構成割合金額
ユーロ41.25%1911億ドル
米ドル20.95%970億ドル
人民元16.73%775億ドル
英ポンド8.30%385億ドル
日本円7.28%337億ドル
加ドル3.83%177億ドル
豪ドル1.28%59億ドル
その他0.38%18億ドル
合計100.00%4632億ドル
うち、凍結対象82.89%3840億ドル

(【出所】IMF、ロシア中央銀行データより著者推計)

すなわち、ロシアの1月末時点における外貨準備6302億ドルのうち、確実に凍結されてしまった部分は3840億ドルであり、金(最大で1323億ドル分)、人民元(775億ドル分)については、凍結されていない可能性が濃厚、ということです。

中国はロシアに1000億ドルを支援しなければならない?

これに加え、『中国が保有する人民元通貨スワップ等をすべて列挙する』でも紹介しましたが、ロシアは中国との間で、1500億人民元/1.75兆ルーブルの通貨スワップ協定を締結しています。

1500億元といえば、「1ドル=6.3177元」で米ドルに換算したら240億ドル弱、といったところですが、言い換えれば、ロシアは中国に預けている資産が1000億ドル分を超えている、という計算でもあります。

中国にとっては、決して軽くない金額です。

もしもロシアがこの金額を中国から引き出し、通貨防衛のために一気に米ドルに両替しようとすれば、人民元の対米ドル相場が崩れてしまい、ロシアの通貨安は中国を道連れにする可能性もあります。

人民元自体は国際的に通用するハード・カレンシーではありませんので、オフショア人民元市場は、これだけ多額の資金の両替には耐えられないでしょう。

したがって、中国当局としては、ロシアが求めてきたときには、人民元ではなく、自国の外貨準備から1000億ドルの外貨を提供しなければならなくなる可能性が濃厚ではないかと思う次第です。

(※もっとも、中国がロシアに「恩を売る」格好になるため、ロシアが中国にそれを要請するかどうかは微妙ですが…。)

読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    「ロシアの通貨安は中国を道連れにする可能性もある」

    本当にそうなるか、眼前の事態はもちろん背景の推移にも目を凝らしておく必然があるのは当然ですが、そういえば隣国通貨は? 道連れになるなら本邦は勘弁して欲しいものです

  2. unnta より:

    今日のこの省察、抜きん出て素晴らしい。
    こうした分析はこのブログでのみ見ることが出来ます。
    朝一で感謝しながら読ませていただきました。
    この省察を参考に色々自分でも考えてみたいと思いました。
    謝謝

  3. だんな より:

    中央日報によると金は、全てロシア国内に有るようです。
    金2298トン備蓄したロシア、「金融孤立」どれだけ耐えられるか
    https://news.yahoo.co.jp/articles/32296c10c18496f89ebca017b0a7ba5fbebf02d5

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      日本の金はほとんどアメリカにあるからね

  4. がみ より:

    まったくもってロシアのウクライナ侵攻は悲しい事なのですが、人類がこれを無益なこととして学ぶ機会にせめてなってくれと無力ですが願っています。

    中国にはロシアのウクライナ覇権主張より更にみみっちくみえる台湾覇権主張やあこぎな南沙諸島人工島や尖閣での国土・資源への欲や通商海路への嫌がらせをやめる契機にして欲しい。
    もちろん新疆ウイグル・チベットの出鱈目な主張や弾圧をやめるチャンスだと思って欲しい。

    北朝鮮にも核での恫喝による現状変更なんて不毛だとわかって欲しい。

    多分世界中で起こっている、強いもんはなにしてもいい…って思考が変わって欲しい。
    屁理屈と嘘と暴力で成り立つ世界は嫌だ。

    変わる契機になれば、せめてもの救いなんですが…

  5. 匿名 より:

    いざという時に外貨等と交換できるからこそ、金は資産防衛として価値があるのですが、現状で、何処がロシアとの交換に応じてくれるのか気になりますね。

    外貨や戦略物資と交換出来なければ、折角の金も役には立ちません。

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