2つのクレジットブランドがロシアでの事業停止を発表
制裁逃れの抜け穴塞ぐ「ジャパングループ」の創設を急げ
新たなロシア制裁として、クレジットカードの2つの国際ブランドがロシアでの事業停止を発表しました。ただ、すでに発動されている経済・金融制裁を含め、現在の国際社会の制裁はそれなりにパワフルなものではありますが、中国が制裁に参加していないなどの事情もあり、楽観視はできません。やはり、最先端テクノロジーの輸出を管理するための新たなレジーム「ジャパングループ」の創設が急がれるのではないでしょうか。
目次
ロシアの危機は日本にとってのチャンス
当ウェブサイトでは2020年9月の『日本は国力増強の一方、ロシアが困るのを待てば良い』で、日露懸案解決に向けたひとつの考え方を示しました。
拙稿を簡単に要約すれば、「北方領土問題等の諸懸案に関しては、時間が解決する」――、すなわち「日本が世界のトップティアに入る経済力を保持し続け、かつ、平和憲法などの問題を片付けるなどしつつ、機が熟すのを待てば、将来必ずそのチャンスが訪れる」、という考え方です。
ここにひとつの誤算があったとすれば、その「チャンス」が思いのほか早く到来し過ぎてしまった、ということでしょう。
ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う国際社会から同国に対する厳しい経済・金融制裁は、ロシアが異形の国であるという点に加え、ロシアとの間で領土問題を抱える日本にとっても、じつはこれを解決する大きな「チャンス」が訪れている、という言い方をして良いと思います。
日本の側は準備不足
しかし、残念ながら、日本の側ではこのチャンスを生かしきることができる状況なのかどうかは疑問です。現在でも憲法第9条を含めた国防上のさまざまな問題を解決することができていませんし、また、「増税原理主義」のポンコツ官庁・財務省の妨害もあってか、日本経済はいまだに浮上できていないからです。
そもそも外交面では、安倍晋三総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を、その後継者たる菅義偉総理が日本外交の基軸に据えるところまでは成功しましたが、非常に残念なことに、現在の状況ではその真価が十分に発揮されているとは言い難い状況です。
そして内政面では、あろうことか経済オンチの政権を握ってしまっている状況にあります(『岸田首相「株主還元で成長の果実流出」=企業収益分配』等参照)。
実際、その岸田文雄・現首相はG6の対露制裁声明に半日遅れるという醜態をさらしました(『日本政府、対ロシア追加制裁への参加を半日遅れで表明』等参照)。
もしも現在でも安倍総理か菅総理が政権を維持していたとすれば、あるいは麻生太郎総理が財相の地位にあれば、もしかしたら日本も主要先進国と歩調を合わせ、「同時制裁」を発表することができていたかもしれない、などと思うと、本当に忸怩たる思いがします。
(※もっとも、鈴木俊一財相の「ポンコツ」ぶりには、所属する「派閥の長」であり、かつ、鈴木氏の義兄でもある麻生総理にも、責任の一端はあるかもしれませんが…。)
ロシアにとっては勝利が難しい戦いに
その一方で、ロシアが現在継続中のウクライナ戦争を巡っては、ロシアが「勝利する」ことは難しいでしょう。
なぜならば、ロシアにとっての「落としどころ」は3つほど考えられるのですが、どのシナリオをとってみても、ロシアにとっては大変に苦しい道だからです。
ロシアにとっての3つの落としどころ
- ①ロシア軍がウクライナの現政権の排除に成功する
- ②休戦協定が結ばれ、ロシア軍が撤退する
- ③戦線が膠着し、ウクライナが「アフガン化」する
(【出所】著者作成)
仮にウクライナの首都・キーウを陥落させ、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を排除してロシアの傀儡政権を樹立することに成功したとしても、おそらくウクライナ国民はロシアの傀儡政権になびかないでしょうし、また、「占領軍」であるロシア軍に対してはレジスタンスが続くはずです。
一方、プーチン大統領が何らかの理由を付け、ウクライナとの間で講和条約を結んでさっさと軍を撤収すれば、もしかしたら国際社会の経済制裁は解除されるかもしれませんが、その場合はプーチン氏の国内における政治的立場が危なくなりかねません。
さらに、ゼレンスキー政権の排除に成功しようが、失敗しようが、どのみち国際社会からの厳しい経済・金融制裁は継続するでしょうし、金融制裁に伴うルーブル安は、輸入品物価の上昇を通じてロシア経済にも着実に打撃を与えるでしょう。
クレジットカードがロシアでの事業を停止
こうしたなかで、ロシアに対する国際決済網の制裁が、あらたに加わったようです。
「クレジットカードの国際ブランドがロシアの一部銀行との取引を停止する方針である」とする話題については、『ロシア経済「クレジットカード決済」からの部分排除も』でも取り上げたとおりですが、その「続報」が出てきたのです。
具体的には、クレジットカードの国際ブランドであるビザとマスターカードが、ロシアでの事業を停止する、などと発表しました。
Visa Suspends All Russia Operations
―――2022/03/05付 VISAウェブサイトより
Mastercard Statement on Suspension of Russian Operations
―――2022/03/05付 マスターカードウェブサイトより
このうちビザの方は、「ロシアでの事業を停止する」とし、具体的には「直ちに発効する措置」として、ロシア国内の加盟店や提携先などとのすべての取引を取りやめると述べています。
また、この措置により、「ロシア国内で発行されたビザカードはロシア国外で使えなくなる」、「ロシア国外の金融機関が発行したビザカードはロシア国内で使えなくなる」のだそうです。
(※「ロシア国内で発行されたビザカード」のロシア国内での取り扱いがどうなるのかはよくわかりませんが、文脈から判断するに、おそらくはロシア国内でも使えなくなるのでしょう。)
また、マスターカードに関しては、「前例のない紛争の性質と不確実な経済環境に対応するため、ロシアでのネットワークサービスを停止することにした」と発表。
「ロシアの銀行が発行したカードはマスターカードのネットワークではサポートされなくなり、ロシア国外で発行されたマスターカードはロシアの加盟店やATMで使用できなくなる」、などとしています。
一方で、日本の国際ブランドであるJCBについては、昨晩の時点ではまだビザ、マスターカードと同様の措置を発表していませんが、本日以降これに続くのかどうかについては、いちおう留意しておきたいと思う次第です。
「ロシア経済の破綻」の可能性はどれほどあるのか?
もっとも、昨日の『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』でも議論したとおり、ロシアは産油国でもあるため、経済構造としては、ある程度は「内に籠る」ことができてしまう国です。
この点、最先端のソフトウェア、自動車、航空機、スマートフォン、PCといった機器については、外国からの輸入に依存していることは事実でしょうし、それらの製品・サービスなどが入って来なくなれば、短期的にはロシア経済は大混乱に陥ります。
しかし、ロシアは国連安保理の常任理事国であり、国連を通じた経済制裁を受けることはありませんので、どうしても西側諸国の経済制裁は全世界を巻き込むことが難しいのも事実です。
そして、事実上の「世界の工場」である中国自身が西側諸国の経済制裁に加わっていないため、中国を通じてロシアは代替的にさまざまな製品を入手することができる可能性もあります。
さらには、西側諸国にとっても、ロシアの石油製品などの輸入を拒絶すれば、その分、国際社会の石油価格の上昇を招き、むしろ経済制裁を加えている側である西側諸国の経済が疲弊する、という側面も否定できないでしょう(いわゆる「セルフ経済制裁」)。
「ジャパングループ」の創設を急ぐべき
こうしたなか、当ウェブサイトとしては、「国際社会の金融制裁により、直ちにロシア経済が崩壊する」、といった単純な見方には同意しません。というよりも、国際社会の現在の経済・金融制裁は、ロシア経済を本当に追い詰めるという観点からすれば、まだ甘いとすら思います。
なにより、「西側諸国の製品・技術が中国を迂回してロシアに流入する」、といった可能性も考えられるからです。やはり、国際社会にとっては「セカンダリー制裁」、すなわちロシアに対する経済・金融制裁に加わらない国に対する何らかのペナルティが必要でしょう。
というよりも、『輸出管理「現代版ココム」は価値共有する国で作るべき』でも議論したとおり、輸出管理を巡る「ジャパングループ」の創設を急ぐべきです。
これは、現在の国際的な輸出管理レジームに加え、半導体製造装置や量子暗号、人工知能(AI)といったテクノロジーに関する新たなレジームを設けるという考え方ですが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、こうした検討も加速させるべきでしょう。
つまり、ロシアに対する先端技術の輸出を制限するだけでなく、ロシアに技術を横流しする恐れがある国(とりわけ中国、ベラルーシ、韓国など)も「要注意国」として、輸出制限の対象国に加えていくことが必要だ、という考え方です。
このあたり、萩生田光一経済産業相の働きには期待したいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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第二次菅内閣を真剣に検討すべきタイミングと考えます。
これまで
反対派毒殺などで
裏で血ミール・プーチン
さんでしたが
表で血ミール・プーチンに
なりました。
>「ロシア国内で発行されたビザカードはロシア国外で使えなくなる」、「ロシア国外の金融機関が発行したビザカードはロシア国内で使えなくなる」
クレジットカードの使用は、送金による決済を伴うはず。その送金が国をまたぐのは制裁の抜け穴になるということではないか。
であれば、ロシア国内でルーブルで完結する取引は対象外なのではないかと思うが、ビザとマスターがロシア国内にある自社のクレジットカードのインフラを使わせないというのであれば国内の店舗でカード払いで買い物ができなくなる。これは厳しい。
現在クレジットカード会社はロシア国内のカードメンバーに対する債権を持っていると同時に加盟店に対して同額の債務を負っているはず。これらの支払いはどうするのか。
欧州で使い勝手がよいクレジットカードは、VISA と MASTER ですね。だいぶ離れて AMEX、更に下が JCB でしょうか。
ロシアではどうなのでしょう。
見当がつきません。
聯銀があるアル!
日本政府が半歩遅れて対応するのはある程度戦術的効果があるのかも知れません。
「お釈迦様の糸」役を買って出るという意味です。
卑怯とのそしりはあるかも知れません。
お釈迦様が戦争と人食い妖怪の黒幕という設定の漫画だっけ?
AMEXもロシアとベラルーシで事業停止しました。
JCBは日本以外ではロシアが普及率高いですね。これは以前の経済制裁でV,Mが取引を停止した際に穴を埋めていったのがJCBだから。
Sabre, Amadeusもアエロフロートとの契約を停止しています。つまりは世界中の航空会社のチケット販売や予約サービスからアエロフロートは締め出されてしまいました。
ロシアへの制裁を語るときに、ロシアが核兵器保有国であることへの懸念は一般的によく挙げられます。
相手が核兵器保有国だからといって最初からベタ降りということにはならないし、どこまで制裁を強めればプーチンが核兵器を使うのかは、プーチンにしかわかりません。
結局、プーチンの発する核威嚇の警告の中身を丹念に測りながら加える制裁を加減するしかないと思います。
駆け引きの面があるので、その分岐点は予定調和的に事前に予測するのは困難だと思います。まったく想像もつきません。相互確証破壊などからくる境界条件はあると思います。ウクライナ領域内で戦術核を使うことはあるかもしれません。
プーチンが警告なしの戦術核使用や、NATOや米国の同盟国に核攻撃をするような狂人なら、この前提は成り立ちませんが、それも狂人かどうかを丹念に測りながら判断するということだと思います。
だって、それしかやりようがないですよね。
中国のUnionPayのシステム運営会社とロシアの銀行で新しいカードを発行するようです。
March 6, 20224:54 PM GMT+9
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Russian banks rush to switch to Chinese card system
ウクライナ侵攻前の話ですが、ロシア国内でのキャッシュレス化は日本よりずっと進行していたようで、大都市圏では6割程度がキャッシュレス決済だったようです。ただ、西欧各国と同じで、与信ランクの低い人が多かったのか、クレジットカードよりデビットカードやオンライン銀行決済のほうが普及していたようです。銀行が持ちこたえれば、ロシア国内でのルーブル建て決済は続けられると思います。ただ、預金を引き出して外貨に交換しようとする人が多いようで、いわゆる「取り付け」が起きないかどうかは心配なとことです。あと、中国が抜け穴のようです。
ニュース検索はしていませんが、Google PayやApple Payも結構使われていたようですが、そちらはどうなったのでしょうか。
あと、決済ネットワークがサイバー攻撃を受ける可能性もあり、不透明な点は沢山あります。日本は現金決済大国なので、その点は強いかもしれません。