ロシア経済「クレジットカード決済」からの部分排除も
ロシアでついにクレジットカード決済が部分的に停止される可能性が出て来ました。国際社会から受けたSWIFTからの除外措置などの経済制裁が、じわじわと効き始めている格好です。ただし、もともとロシアではクレジットカード決済の比率がさほど高くないという情報もあるため、「大打撃」というほどではない可能性もありますが、それでも金融制裁は同国経済に大なり小なり打撃を与えることは間違いないでしょう。
目次
ロシア、苦戦中?
ロシアがウクライナに侵攻してから、もうすぐ1週間が経過します。
ロシア側は戦争の「短期決着」を狙っていたフシもあり、『ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』でも紹介したとおり、ロシアの国営メディアも、軍事侵攻開始からちょうど48時間後に「勝利宣言」をする論説を「予定投稿」していた、とする分析もあるようです。
ところが、現実にはウクライナの善戦などの影響もあり、少なくとも日本時間の昨日深夜時点において、ロシア軍がウクライナの首都・キーウを筆頭とするウクライナ各都市を制圧できておらず、それどころか兵站の問題もあるのか、むしろ各所で進軍が止まっているとの報道もあります。
こうしたなか、昨日の『短期決戦に失敗のロシア、英防衛省は兵站の問題を指摘』では、英国防衛省の『インテリジェンス・アップデート』というツイートを紹介しました。
調べてみると、これについては最近、毎日のように発出されているようであり、日本時間の3月2日夕方時点でも、こんなツイートが出ていました。
Latest Intelligence update on the situation in Ukraine. pic.twitter.com/CeKxZDHRDk
— Ministry of Defence (@DefenceHQ) March 2, 2022
だいたい次のようなことが書かれているようです。
- 過去24時間において、ロシア軍がウクライナ南部・ヘルソンの中心部を占領したとの報告もある一方で、補給全体の問題点に加え、ウクライナの強い抵抗といった要因があわさり、ロシア軍が確保している全体的な優位性については限定的
- 過去24時間において、とりわけハルキウ、キーウ、マリウポル、チェルニヒブの各都市において市街地に対するロシア軍による大量の砲撃や空爆が継続している
- 今回のプーチンの侵略から逃れることを余儀なくされた人々は66万人を超えたと報告されている
ロシアは兵站の確保に苦慮
このツイートを発したのが英国防衛省であるという事実については割引いて考える必要がありますが、少なくとも現時点においてキーウが陥落したという状況でもなさそうです。
また、CNNが3月1日付で報じたとおり、米衛星運用会社マクサー・テクノロジーズが新たな衛星画像の分析によれば、キーウ近郊のロシア軍の車列が40マイル(≒64キロ)以上に達しているのだそうです。
キエフ近郊のロシア軍車列、長さ64キロ以上と判明 衛星画像
―――2022.03.01 10:40 JST付 CNNより
この報道を信頼するにしても、この車列が単なるダミーなのか、戦略上の狙いがあってこうなっているのか、はたまた単純に作戦の失敗でダラダラ長くなってしまっているということなのかについては、よくわかりません。
ただ、ロシア軍が戦争の「短期決着」を狙っていたことは間違いなさそうですし、もしそうだとすれば、ロシアによる「短期決着」という狙いが失敗したこともまた間違いありません。
ロシア外相の演説で各国外交官が一斉退席
しかも、ロシアに対する国際的な包囲網は、日を追うごとに強まりつつあるように見受けられます。
たとえば、ロイターのツイッター投稿によれば、スイス・ジュネーブで3月1日に開催された国連人権理事会では、ロシアのラブロフ外相によるオンライン演説が始まったとたん、欧米諸国などの外交官が抗議のために一斉に退席する、という事態が発生しています。
動画:ロシア外相の演説に、欧米の外交官ら数十人が一斉退席 #ウクライナ pic.twitter.com/g3hAzu0J9i
— ロイター (@ReutersJapan) March 1, 2022
ロシアへの金融制裁の具体的効果
また、『見えてきた対ロシア制裁議論:航空便ではすでに影響も』でも取り上げたとおり、Bloombergは昨日、欧州連合(EU)がロシアの7つの銀行を制裁対象とする方針であると報じるなど、対ロシア経済の詳細が次第に明らかになってきています。
すでに欧米諸国がロシアに対し、一部銀行のSWIFTからの排除、外貨準備の凍結、債券発行の制限などの措置を打ち出していますが、その詳細が明らかになっていけばいくほど、ロシア経済はかなり厳しい状態に置かれる可能性が濃厚です。
では、具体的にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
真っ先に考えられるのは、ロシアの政府、企業などへの外貨供給や決済手段などが絶たれることで、外国からの製品の輸入が非常に困難になり、輸入品物価の上昇を通じてロシア経済が疲弊する、という効果です。これは、市民生活に大変に大きな影響を与えます。
中・長期的にはロシア政府やロシア企業が債券市場から大口の外貨を調達することができなくなり、新規投資、設備更新などが滞ることで、ロシアの産業にも甚大な影響がもたらされることが予想されます。とくに、外貨準備が凍結されているため、ロシアの政府・企業は外貨建て債券のデフォルトを発生させるかもしれません。
決済システムの混乱:クレジットカード決済網からの排除
ただ、こうした影響だけではなく、日常的な市民生活にも、やはり大きな影響をもたらします。
そのひとつが、決済システムの混乱です。
こうしたなか、『数字で読む:欧米金融制裁がもたらす「ルーブル不安」』では、欧米諸国による金融制裁の結果、ロシアにいったいどのようなことが発生すると予想されるかという論点を取り上げました。
このなかで、国際的な決済網から排除されれば、クレジットカード、国際キャッシュカード、トラベラーズチェックなどが使用できなくなる(かもしれない)、という問題点を紹介したところです。その具体例としては、イラン、北朝鮮が考えられます。
たとえば、イランのケースだと、クレジットカードやトラベラーズチェックなどを使用することができず、また、キャッシングサービスも受けられない、という問題が生じています(在イラン日本大使館HP『【注意喚起】イランを旅行される方は現金が必要です』等参照)。
また、同じく北朝鮮に関しても、クレジットカード、キャッシュカード、トラベラーズチェックを使用することはできず、外国人観光客が使用することができるのは、外貨(ドル、ユーロ、人民元)だそうです(株式会社KJナビツアーズ『北朝鮮旅行』等参照)。
この点、『東洋経済オンライン』に7年近く前に掲載された次の記事によれば、北朝鮮では「ナレカード」と呼ばれる、日本でいうSuicaのような電子決済カードが普及しているそうですが、これもあくまでも北朝鮮の国内でしか使用できないカードです。
北朝鮮で「Suica」型カードが超人気の理由/ポイントもつかないのに急速に普及
―――2015/06/30 9:50付 東洋経済オンラインより
こうした国際決済網からの排除措置が講じられた場合、当然のことながら、クレジットカード情報を必要とするインターネット・ショッピングについても支障を来すと考えられます。
国際ブランド、ロシアの一部銀行との取引停止
そして、予想通り、国際的なクレジットカードブランドは、ロシアの銀行との取引を停止する動きに出ているようです。日経電子版が2日付で配信した次の記事によれば、ビザ、マスター、JCBなどの国際ブランドも、銀行取引の停止措置をすでに講じたか、近日中に講じる予定なのだそうです。
マスターカード・ビザ・JCB、ロシア銀と取引停止
―――2022年3月2日 2:00付 日本経済新聞電子版より
このあたり、イランや北朝鮮のケースと異なり、「すべての銀行との取引が停止される」というものでもないかもしれませんが、ロシアが停戦に応じなければ、今後、日米欧はロシアの全銀行を国際決済網から排除する措置を講じる可能性もあるでしょう。
そして、ロシアの一般市民を含めた世界の人々に対し、「今後、ロシアではカードのたぐいがいっさい使えなくなる」という恐れを抱かせること自体も、広い意味での経済制裁であるといえます。
もっとも、少し古い情報ですが、三井住友カード株式会社の2018年5月25日付の記事によると、そもそもロシアではもともと日本と比べてもクレジットカード決済の比率は低く、「現金主義経済」であるそうですので、クレジットカードが使えなくなることの影響は、我々が思っているほどは大きくないのかもしれませんが…。
クレジットカードが使えない?ロシアのクレジットカード事情とは
―――2018.05.25付 三井住友カード株式会社HPより
為替レートはこの15年で4分の1に!
これに関連し、産経ニュースには昨日の夜、こんな記事も掲載されています。
露経済、制裁で大混乱 底つくATM、一部富豪も「反戦」
―――2022/3/2 20:06付 産経ニュースより
産経によると「ウクライナ侵攻をめぐる米欧の対ロシア制裁を受け、ロシア経済が早くも大混乱の様相を呈し」ており、一般国民の間では「クレジットカードを使えなくなったり、通貨安が進んだりすることへの不安が広がり、手持ちの現金や外貨を増やす動きが加速している」のだそうです。
まさに、経済の大混乱でしょう。
実際に外為市場では、ロシア・ルーブルの対米ドル相場(USDRUB)は、昨晩の時点で1ドル=110ルーブル前後にまで下落しています。2007年~08年ごろに1ドル=25ルーブル前後だったことを考えると、ロシアの通貨価値は、この15年で、じつに4分の1以下にまで急落した格好です(図表)。
図表 USDRUB
(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange ratesより著者作成)
こうしたロシア経済の混乱がどこまで続くかについては、要注意、といったところでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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> ロシアの一般市民を含めた世界の人々に対し、「今後、ロシアではカードのたぐいがいっさい使えなくなる」という恐れを抱かせる
Mr Pooh “ 没問題!可以使用、銀聯卡 ! 支付宝!微信支付!”
意外にこの話題ではコメントが伸びませんでしたね。
40年ほど前ですが、村上龍が『愛と幻想のファシズム』という小説を書いています。
(エヴァンゲリオンのネタ元として有名?)
ここでは、1つのSF的アイデアが物語の背骨になっています。
国際政治のせめぎあいで為替が不安定になり、それでもって決算も不安定になるのを嫌気したグローバル企業TOP数社が、イデオロギーを棚上げにして自分たちだけは予測の範囲内で決算を行えるよう(あくまでリスクヘッジとしてですが)
「利己的に秘密の約束事をする」
ことから物語がスタートします。
この戦争では、なんだかこんな昔話を連想してしまいましたわ。
・・・砲弾が飛び交う Hot war も要注目ですが、為替レートとキャッシュフローのせめぎあいと申しますか、経理部同士の戦争みたいな面も、面白いですねぇ。
(不謹慎でスミマセン)
ロシアは中国版SWIFTと呼ばれる国際銀行間決済システムCIPSに接続してます。
制裁措置とSWIFT遮断で各国が買えなくなったロシア産の資源や穀物は中国が喜んで買うでしょう。これは非常に中国が利する事になります。
2年前のマスク外交の比ではない程えげつない事をしてくる可能性があります。
一例ですが、石油を原料とする樹脂不足です。半導体不足と言われて久しいですが現在は大変な部品不足と言って過言では無いです。その根源が樹脂不足です。コネクターやケーブル、Oリング、基板に使わている樹脂が足りていません。製造業は大変な騒ぎです。このままでは中国に首根っこを押さえられかねません。
これ以上ロシアをコーナーに追い詰めるのは止めて現実的な落としどころをそろそろ模索して欲しいと思います。
今やっているのは、ナポレオンの大陸封鎖令みたいなものだからね
来年あたり納豆がスペイン侵攻するかな