新春ネタ「三つの経済爆弾抱える韓国」
せっかくの「お正月」ですが、本日はそんな「新春気分」を吹き飛ばす、恐ろしい「爆弾ネタ」(?)を投下します。それは、私たち日本の隣にある国が、経済に「三つの爆弾」を抱え、今にも爆発しそうになっているという話です。
本日は年始ということもあり、マクロ経済運営の失敗事例を通じて、経済学の基本についてじっくりと考えてみたいと思います。私の専門は「金融規制」であり、また、資金循環統計などの統計書を読み込むのは得意分野の一つです。そこで、新年2日目のコンテンツは、これです。
目次
極めて怪しい韓国の金融政策運営
以前、『韓国の外貨準備の75%はウソ?』では、韓国の中央銀行である「韓国銀行」のバランスシートに、正体不明の項目が含まれているという疑惑を指摘しました。
折しも、先日公表された韓国の「資金循環統計」の最新版(2016年9月末基準、「2008年SNA」ベース)が韓国銀行のウェブサイト(英語版)に公表されています。
そこで本日は、その最新版のアップデートを行っておきたいと思います。
資産性が疑わしい「その他の外国債権債務」
早速ですが、中央銀行である「韓国銀行」の最新のバランスシートを確認しておきましょう。
図表1 韓国銀行のバランスシート
区分 | 勘定科目 | 金額(十億ウォン) |
---|---|---|
金融資産 | 「その他の外国債権債務」 | 358,817 |
その他の金融資産 | 55,209 | |
金融資産 合計(①) | 414,026 | |
金融負債 | 銀行券 | 95,987 |
中央銀行準備預金 | 141,111 | |
通貨安定基金証券 | 183,760 | |
その他の金融負債 | 4,496 | |
金融負債 合計(②) | 425,354 | |
資産負債差額(①-②) | 11,328 |
私は毎回、疑問に感じているのですが、この「その他の外国債権債務」とは、いったい何者なのでしょうか?今回の統計でも、韓国銀行のバランスシート総額(425兆ウォン、1円=10ウォンと仮定すると約43兆円)の約87%と圧倒的な金額を占めています。
通常の国の「資金循環統計」では、「その他の外国債権債務」という金額がこれほどまでに大きくなることは、まずあり得ません。ちなみに日本の場合も、外国に対する投資残高は、「対外証券投資」「対外直接投資」「貸出」など、「それとわかる」ように明確に表示されています。
韓国全体の金融資産に占める「その他の外国債権債務」残高については、圧倒的に大きいのが中央銀行ですが、「預金取扱機関」(つまり銀行などの民間金融機関)や「一般政府」などのセクターにも、かなりの金額が計上されていることが確認できます(図表2)。
図表2 「その他の外国債権債務」残高推移
その他の外国債権債務の正体は「外貨準備」なのか?
私は、この韓国銀行のバランスシートに計上されている「その他の外国債権債務」の正体は、外貨準備ではないかと睨んでいます。実際、韓国が国際通貨基金(IMF)に対して報告しているデータによれば、2016年9月末時点で同国の外貨準備は3729億ドル(1ドル=115円と仮定すると約32兆円)です。この金額は、359兆ウォン(約36兆円)と、一致はしていないものの、そこまで遠い金額ではありません。
ところが、以前から私が指摘している通り、外国のデータと韓国国内のデータとで、盛大な不一致が生じています。
IMFの「公式外貨準備構成統計」(COFER)によれば、世界の外貨準備の主要通貨は米ドルがかなりの比重を占めています(図表3)。
図表3 IMFのCOFER
通貨 | 2016年6月末残高 | 構成比 |
---|---|---|
米ドル | 4,787,500.53 | 63.84% |
ユーロ | 1,498,028.48 | 19.98% |
英ポンド | 348,883.53 | 4.65% |
日本円 | 328,818.85 | 4.38% |
加ドル | 143,999.31 | 1.92% |
豪ドル | 138,019.30 | 1.84% |
フラン | 15,295.90 | 0.20% |
その他通貨 | 238,269.31 | 3.18% |
小計 | 7,498,815.21 | 100% |
内訳不明分 | 3,474,629.13 | ― |
合計 | 10,973,444.34 | ― |
仮に韓国の外貨準備のうち、米ドルの占める割合が、世界の標準と同じだったとすれば、3729億ドルの外貨準備のうち、約64%の2,387億ドルが米ドル建ての資産です(もちろん、韓国の場合は地理的に日本や中国に近いため、外貨準備に占める米ドルの比率が諸外国と比べて低い可能性もありますが…)。
しかし、米国財務省が公表する、「外国が保有する米国債残高」のデータによれば、韓国全体で保有する米国債の金額は726億ドルに過ぎません(しかもこのデータは、韓国政府・韓国銀行以外の経済主体が保有する米国債も混じっています)。
つまり、
- 韓国の外貨準備に占める米ドル建て資産推計値:2,387億ドル(①)
- 韓国が外貨準備で保有する米国債金額の最大値:726億ドル(②)
- 内訳が不明な金額(①-②):1,661億ドル(つまり全体の70%)
と計算できます。実に、韓国の外貨準備の、少なく見積もって70%は「内訳不明」なのです。
韓国の通貨の信認は極めて低い!
以前、『「日本が為替監視対象国」報道の真相』でも指摘しましたが、米国の財務省は、韓国が為替介入を頻繁に行っていることを、強く問題視しています。
「アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)」と称するレポート(※英語)によれば、韓国は
- IMF試算では、同国の通貨ウォンは過小評価状態となっており、また、韓国経済は過度に輸出に依存していて、内需拡大努力が不十分だ
- 韓国は市場が無秩序な動きをしていないにもかかわらず、常時為替介入を行っている
とされており、いわば、米国財務省としては不透明な韓国の為替介入を強く問題視している格好です。
為替介入には2種類ある
一般に為替介入には、「自国通貨買い」「自国通貨売り」という二つの種類があります。
「自国通貨買い」とは、「自国通貨が売り浴びせられた時に、外貨を売って自国通貨が下落するのを防ぐ介入」であり、俗に「通貨防衛」とも呼ばれています。一方、「自国通貨売り」とは、「自国通貨が買われ過ぎた時に、外貨を買って自国通貨が上昇するのを防ぐ介入」です(図表4)。
図表4 2種類の為替介入
種類 | 目的 | 備考 |
---|---|---|
自国通貨買い | 自国通貨が下落し過ぎることを防ぐ介入 | 外貨準備が尽きるとそれ以上介入することはできない |
自国通貨売り | 自国通貨が上昇し過ぎることを防ぐ介入 | 通貨を「刷る」ことで、理論上は無制限に介入ができる |
つまり、2種類の介入のうち、やりやすいのは「自国通貨売り(外国通貨買い)」介入であり、主要先進国でもスイスが旺盛な自国通貨売り・ユーロ買い介入を行っていることで知られています(ユーロ圏のマイナス金利で安全資産としてスイス・フランが買われ過ぎているため)。
このうち、「自国通貨売り」については、理論上は、それこそ「無制限に」介入することができますが、「自国通貨買い」については、手持ちの外貨準備が尽きてしまえば、それ以上の介入をすることはできません。
多くの発展途上国が「財政破綻」するのは、ほとんどの場合、外貨が尽きてしまうためです。アルゼンチンなども米ドル建て国債を発行し、過去に大規模な「デフォルト」を起こしていますが、手持ちの外貨が尽きてしまえば、たとえ国家であっても財政破綻してしまいます。
しかし、「自国通貨売り」については、理論上は「無制限に介入可能」ですが、だからといって、こちらも本当に「無制限な自国通貨売り介入」をすることはできません。なぜなら、市場への通貨供給量が増え過ぎれば、過度なインフレとなってしまうからです。
例えば、中国は2014年頃まで、人民元の対ドル相場を事実上固定する目的で、輸出企業が稼いだ外貨を強制的に人民元に両替させていましたが、その結果、国内の経済の適正需要以上に人民元が過剰供給されてしまい、猛烈なインフレと資産バブルが発生していました。おそらく、中国経済は今後、この為替政策の「ツケ」を支払わなければならなくなるはずです。
韓国が行っている為替介入も、例外ではありません。韓国銀行の場合は、為替介入(特に「米ドル買い・韓国ウォン売り」介入)の結果、市場に増えてしまった韓国ウォンを「吸収」(これを専門用語で「不胎化」とも言います)するために、「通貨安定基金証券」(他の報道によれば「外国為替平衡基金債券」?)なる債券を発行しており、上記「図表1」でも、186兆ウォン(約21兆円)もの債券発行残高があることが確認できます。
韓国の金融政策を巡る「不都合な事実」
ところで、最近の外為市場では、韓国の通貨・ウォンが米ドルに対して下落傾向にあり、日本円に対しては上昇傾向にあることも事実です(図表5)。
図表5 直近5年分の韓国ウォンの為替相場推移
困ったことに、韓国ウォンは日本円に対しては「ウォン高」、米ドルに対しては「ウォン安」という、韓国にとって一番「好ましくない」形で為替相場が動いてしまっています。
韓国は、国全体で米ドル建ての資金調達が多いため、ウォンが米ドルに対して下落してしまうと、「キャピタル・フライト」リスク(この場合は外貨でお金を借り続けることができなくなるリスク)が高まります。
それと同時に、韓国の輸出企業は日本の輸出企業と競合関係にあるため、ウォンが円に対して上昇してしまえば、今度は「輸出競争力」が阻害されてしまいます。
おそらく、韓国銀行は
- 韓国ウォンは米ドルに対してある程度の「高値」を維持しなければならない状況
- 韓国ウォンは日本円に対してある程度の「安値」を維持しなければならない状況
という、二つの為替介入目標を持っているのだと考えられます。
しかし、「外貨買い・自国通貨売り」の為替介入をすれば、国内の資金供給量が増えてしまい、インフレになってしまいますし、「外貨売り・自国通貨買い」の為替介入をすれば、外貨準備以上に介入をすることはできません。
おそらく、韓国銀行のバランスシートの負債側に計上されている莫大な「通貨安定基金証券」とは、韓国銀行が為替介入(自国通貨売り・外貨買い)をやった「残骸」であり、しかも「外貨売り」介入がしたくても、韓国銀行が保有している「その他の外国債権債務」には、流動性が低い代物ばかりです。
従って、
- これ以上自国通貨売り介入を行うと、「通貨安定基金証券」を発行しなければ、猛烈なインフレ・資産バブルが発生してしまう
- これ以上自国通貨買い介入を行うと、手持ちの外貨準備が尽きてしまうかもしれない
という、「売り介入」も「買い介入」も、いずれもできない状況に陥っている可能性が高いのです。
依然消えない「キャピタル・フライト」リスク
資金循環統計を引用したついでに、韓国と外国との「資金授受」についても確認しておきましょう(図表6)。
図表6 韓国国内と外国とのやりとり
区分 | 項目 | 金額(十億ウォン) |
---|---|---|
外国⇒韓国への投資 | ウォン建て債券 | 95,202 |
外貨建債券 | 130,885 | |
「その他の外国債権債務」 | 156,761 | |
対外直接投資(FDI) | 214,314 | |
株式・投資信託 | 454,149 | |
その他の投資 | 75,650 | |
外国からの投資合計(①) | 1,126,961 | |
韓国⇒外国への投資 | 外貨建債券 | 130,223 |
貸出金 | 62,535 | |
株式・投資信託 | 188,642 | |
「その他の外国債権債務」 | 583,465 | |
対外直接投資(FDI) | 327,929 | |
その他の投資 | 69,270 | |
外国への投資合計(②) | 1,362,064 | |
対外純資産(②-①) | 235,104 |
ここでも、「その他の外国債権債務」という怪しげな項目が出現します。
私の仮説ですが、外国から韓国に対する投資の中に含まれる「その他の外国債権債務」の正体とは、日本の銀行などが韓国の銀行・企業に貸している貸出金や債券ではないでしょうか?こうした項目は、常識的には「貸出金」に含まれるはずですが、「その他の外国債権債務」という金額があまりにも大きすぎることから、やはり本来ならば「貸出金」に含まれていなければならないはずの項目が、「その他の外国債権債務」という勘定に紛れていると考えると、辻褄が合ってきます。
また、韓国から外国に対する投資(②)の金額は、外国から韓国に対する投資(①)の金額を上回っており、これだけを見ると、韓国は立派な「対外純債権国」です(②-①=235兆ウォン≒約24兆円)。しかし、韓国から外国に対する投資に含まれている「その他の外国債権債務」という金額は、トータルで583兆ウォンと巨額であり、しかも図表1・2で見たとおり、これらの項目は資産性が疑わしい項目です。
このように考えていくと、仮にこの「その他の外国債権債務」583兆ウォンの大部分が「何らかの不良資産」だったと考えるならば、韓国は何と348兆ウォン(約35兆円)の「債務超過状態」に転落します。
銀行のオーバーローンと家計の過剰債務
韓国経済の問題点は、それだけにとどまりません。一つは銀行セクター(特に「特殊銀行」)の「オーバーローン問題」、もう一つは「家計債務問題」です。
オーバーローン
古今東西変わらず、銀行は、預かったお金(=預金)を誰かに貸して(=貸出金)、ビジネスを行っています。ただ、銀行には「信用創造機能」があり、たとえば1万円を預かると、中央銀行への「預金準備率」が10%だったとすれば、1,000円を引いた残り9,000円を誰か他の人に貸し出すことができます。
この9,000円をある債務者に貸し出したとすれば、その債務者は、9,000円を銀行から引き出したとしても、他の銀行に「預金」として置いておきます。このため、他の銀行はこの9,000円から900円を引いた8,100円を、誰か他の人に貸し出すことができます。
このように、「最初の10,000円」は、どんどんとまわりまわって、最終的には
10,000円÷10%=100,000円…①
の貸出金を生み出します。これが「信用創造」です。①式を一般的に書き換えると、
信用創造額=当初預金額÷預金準備率…②
です(これは経済学の「基本のキ」です)。
ただ、現実社会では、本当に一つの銀行が「10,000円の預金で10万円の貸出金」を貸すわけではありません。あくまでも、個別銀行単位で見ると、貸し出せるのは預金の範囲内に限られるはずです。
ところが、恐ろしいことに、韓国ではどうも銀行セクター全体が、「預かった以上の金額を貸している」という状態にあります。銀行、特殊銀行、ノンバンクの三つの業態について、「預貸率」(預金と貸出金の比率)を計算した推移表が、図表6です。
図表6 預貸率推移
これを見ると、「特殊銀行」業態の預貸率は常時140%を超えており、近年、じわじわと上昇していることもわかります。ただし、この手の「特殊銀行」は、昔の日本にもあった「長期信用銀行」のように、債券により資金を調達している業態であることが伺われます。しかし、銀行業についても、預貸率は100%近辺を行き来している状況にあります。
つまり、韓国の銀行セクターは、非常に「預貸率」が非常に高い状態が、常態化しているといえるのです。
余談ですが、ユーロ圏(欧州)で金融危機が終わらない理由は、IFRSというインチキ会計基準を使っていることに加え、銀行セクターの「オーバーローン状態」が解消しないためです。欧州だけでなく韓国も、深刻なオーバーローン状態となっているのだとしたら、非常に困ったことです。
家計債務問題
そして、もう一つが、深刻な家計債務です(図表7)。
図表7 家計債務額と家計債務比率の推移
ここで「家計債務比率」とは、家計セクターが保有する金融資産の金額に対するローンの割合のことです。家計全体で、資産総額の40%を超える債務を負っていることがわかると思います。
この家計債務比率は高止まりしており、家計債務額自体も順調に伸びています。ただ、実際には、韓国の家計には「貧富の差」もあるでしょうから、事実上の「債務超過状態」となっている家計も多いのではないかと推定されます。
三つの爆弾を抱えた韓国経済
以上、韓国経済に関する「新春レビュー」では、韓国が三つの爆弾を抱えていることがわかります。
- 実体のない対外債権(資産性が疑わしい「その他の外国債権債務」)
- 銀行セクターのオーバーローン
- 家計の過剰債務
そして、どこか一つの「爆弾」が爆発すれば、それは連鎖的に韓国経済を破綻に追い込みかねない、非常に危険なものばかりなのです。
新春で「お正月気分」を味わおうと思っていた方には申し訳ないのですが、これが「客観的な統計」から浮かび上がる、私たちの隣国の「正体」なのです。
私も日本国の納税者の一人として、日本の財務省に対し、くれぐれも安易な「日韓スワップ」の締結などで韓国と合意しないでほしいと強く感じる次第です。
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