深刻化する韓国経済危機と安易な日韓スワップ再開論
韓国の朴槿恵(ぼく・きんけい)政権に対する「退陣要求デモ」が、先週土曜日までの5回で、累計で323万人(※主催者発表値)に達しました。こうした中、韓国では外貨流出リスクが急激に高まっています。近日中に日韓スワップの再開が決定されるかもしれません。そこで、改めて韓国の「外貨資金繰り」の内情に触れるとともに、安易な日韓スワップの再開がなされないよう、日本国民が知識武装することの重要性を議論します。
現在、このウェブサイトの管理人「新宿会計士」は原稿を常時3~4本抱えていて、一つの仕事を片付けたと思えばすぐにまた他の仕事をこなさねばならないという、非常に大変な状況に陥っています。ただ、それでもニュース記事は待ってくれません。本日も、以前から言及したかった話題に触れてみたいと思います。
目次
政治・経済の停滞は深刻化
韓国では、朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領が長年の友人である崔実順(さい・じつじゅん)氏に国家機密を含めた情報を漏洩していたなどとして、国政がほぼ停滞状態にあります。
また、首都や各地で朴大統領の退任を求めるデモが毎週のように行われており、先週土曜日のデモでは、ついに過去最大の人数(主催者発表で150万人、警察発表で27万人)が参加しました(図表1)。
図表1 韓国の朴槿恵大統領退陣要求デモ参加者
日付 | 主催者発表 | 警察発表 |
---|---|---|
2016/10/29 | 3万人 | 12,000人 |
2016/11/05 | 20万人 | 45,000人 |
2016/11/12 | 100万人 | 26万人 |
2016/11/19 | 50万人 | 18万人 |
2016/11/26 | 150万人 | 27万人 |
この「主催者発表」と「警察発表」の数値が大きく異なる点はご愛嬌でしょうが(ちなみに日本でも「反基地運動」や「安保関連法案反対デモ」などでも似たような傾向がみられますが)、注目すべきは、少しずつ「デモ参加者」が増えている点です。
もちろん、「朴槿恵退陣デモ」を煽っているのは親北朝鮮系の市民団体であるという分析もあるようですし、韓国でこのようなデモに参加している人々が、韓国国民の意見を代弁しているのかどうかはわかりません。
しかし、私の目から見ると、韓国のメディアの報道も、10月中旬以降は、すっかり「崔実順スキャンダル」で一色です。韓国が抱える様々な問題(とくに北朝鮮の核開発の問題や深刻な外貨不足の問題)の報道はどこに行ってしまったのかと思っていたところ、韓国のメディアに、非常に興味深い記事を見つけました。
韓国の危機に関する韓国メディアの記事
私が発見したのは、韓国の「京郷新聞」に掲載された、次の記事です。
【パク・クネ・チェスンシルゲート】「パク・クネリスク」に経済ショック…」1997年の通貨危機の時と同様(2016.11.25 22:10:58付 京郷新聞より、※韓国語)
- 凍りついた消費者心理…2009年の金融危機以来最悪
- 外国人の資金も「引き潮」…企業は、事業計画もない
- 「トランプ保護貿易主義」掘り押されてくる政府
※リンク先の記事は原文が韓国語であり、翻訳ソフトを使っているため、引用文が日本語として若干ぎこちない点についてはご容赦ください。
私の文責で、リンク先の記事に適宜言葉を補ったうえで要約します。
「◆経済指標上、1997年(のアジア通貨危機)が再発する兆候が出てきた、◆消費者心理は世界的な金融危機直後のレベルに低下した、◆企業も国内外の不確実性に事業計画に苦労している、◆国政コントロールタワーを喪失した政府省庁は、事実上、機能停止状態にある、◆25日に韓国銀行が発表した11月の消費者心理指数(CCSI)は95.8と10月より6.1ポイント低下した、◆これは世界的な金融危機直後の2009年4月(94.25)以来7年7ヶ月ぶりに低い水準だ、◆米大統領選挙でドナルド・トランプ候補当選後、ドル高が続き、外国人投資家が新興国から資金を引き揚げている、◆トランプ氏が保護貿易主義を掲げていることで、韓国企業の事業計画上も不確実性が高まっている」…。
韓国のメディアには珍しく(?)、比較的冷静な分析です(ただし、記事にでてくる「CCSI」とは、おそらく世界基準でいうところの「消費者信頼感指数(CPI)」のことではないかと思われます)。
外貨流出リスク
ここで重要なのは、「韓国のメディアが韓国の現状を冷徹に自己分析している」、という点です。ただし、韓国の「危機」について論じるときには、他にもいくつかのデータが必要です。
先日も当ウェブサイトの記事『「韓国経済崩壊論」と韓国の不良資産疑惑』や『韓国は統計をごまかしているのか?』で指摘しましたが、どうやら韓国は国全体として、慢性的に外貨流出リスクにさらされているようです。私の試算では、韓国が国全体として外国から外貨建てで借りている資金は307兆ウォン(1円=9ウォン換算で約34兆円)です(詳しくは、以前の記事の「図表3」をご参照ください)。
この「外貨建ての借入金」の問題点は、大きく分けて二つあります。
一つは、通常、現代社会では「変動為替相場制」が採用されているため、外国から外貨でお金を借りている韓国企業にとっては、為替相場が大きく変動し、自国通貨が下落した時に、外貨建ての借金(借入金、社債など)を自国通貨建てに換算した金額が膨らんでしまうという点です。京郷新聞の記事にも、「ドル高が続き、外国人投資家が新興国から資金を引き揚げている」とありますが、まさに、ウォン安となれば韓国企業から見て外貨建債務の負担が膨らんでしまうことになります。
そして、もう一つは、債務の期限が到来したときに、借り換えが出来なければお金を返すことができない場合がある、という点です。その時には、韓国の企業や銀行が「債務不履行(デフォルト)」を発生させることになります。そして、デフォルトする企業が銀行などであった場合、韓国は直ちに金融危機に陥ります。
当てにならない「外貨準備」
通常、変動相場制では、為替相場が変動することは当然のことです。しかし、どうやら韓国は、常に為替介入を行い、為替相場を自分の国にとって一番有利な水準に調整しているようなのです。
以前『「日本が為替監視対象国」報道の真相』でも引用したとおり、米国財務省は「自国に有利になるように為替介入を行っている」として、韓国を「為替操作監視対象国」に認定しています。
アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)
この中で米国財務省は、韓国について、次のように述べています(ただし、原文を要約しています)。
- 財務省の試算では2016年6月までの12か月間で、韓国は240億ドルの外貨を売却するなどの為替介入を行っているが、本来、為替介入は「市場が例外的に無秩序な動きをしているとき」に限定すべきだ
- 韓国は財政政策などを通じた内需拡大が不十分で、韓国の経済構造は輸出に依存し過ぎており、ウォン安の是正による改善が必要だ
つまり、米国財務省が認めている通り、韓国は外貨準備を使って為替介入を頻繁に繰り返しています。ただ、韓国が「通貨危機」に陥った場合、韓国は、外国から借りている30~40兆円相当の外貨建債務の借り換えができなくなる恐れがあります。その場合に、韓国政府(あるいは韓国銀行)が韓国企業に対し、外貨準備から30兆円相当の緊急融資をするということは難しそうです。
ちなみに、Bloombergのデータによると、韓国は2016年6月末時点で371兆ウォン(約41兆円、約3710億ドル)の外貨準備を保有しているそうですが、『韓国は統計をごまかしているのか?』の中で指摘したとおり、実際にはこれらの外貨準備は「いざというときに使い物にならない」可能性が高そうです。
やっぱり「日本との」通貨スワップが必要だ
外貨不足への対処法
ところで、国全体が外貨不足に陥った時には、いったいどのような対処法があるのでしょうか?これをまとめておきましょう(図表2)。
図表2 外貨不足への対処法の例
区分 | 具体例 | 備考 |
---|---|---|
外貨準備 | 流動性の高い外国証券、外国の現金・預金 | 有価証券とは、いつでも換金できるもの(米国債) |
IMF準備資産 | IMF準備資産、特別引出権(SDR) | SDRについては過去記事も参照 |
通貨スワップ | 二カ国間スワップ(BSA)、多国間スワップ(MSA) | チェンマイ・イニシアティブについては用語集も参照 |
ただ、韓国の場合、この「外貨準備」には、本来ならば「外貨準備」に含めるべきではない項目が含まれてしまっているようなのです。特に、中央銀行である韓国銀行が保有する「その他の外国債権債務」という資産項目が374兆ウォン(約42兆円)に達していますが、この項目については、内訳は不詳です。
どうしても通貨スワップが必要
一方、今年10月に中国の通貨・人民元が加わったことで注目されたこともある国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)は、緊急時においても何かと使い勝手が悪く、つい最近だと2014年にギリシャがIMFからの債務を弁済するのに引き出したくらいしか事例がありません。
つまり、韓国からすれば、外貨準備の額も怪しく、また、IMFからSDRを引き出すのもためらわれる、という事情があるのです。
そこで、韓国にとってはどうしても必要なのが「通貨スワップ」、それも「二カ国間通貨スワップ(BSA)」と呼ばれる協定です。そして、その相手国として、韓国がいま、最も熱い視線を注いでいるのが日本なのです。
なぜ「日本との」スワップが必要なのか?
韓国にとって、「日本との」スワップが必要な理由は、二つあります。
一つは、日本とのスワップであれば、韓国ウォンを担保に日本円か米ドルのいずれかを引き出すことができるからです。
日本は100兆円を超える外貨準備を保有しており、これに加えて日本銀行は米FRBと上限なし・期間無制限の円・ドルスワップ協定を締結しています。また、スワップが「韓国ウォン・米ドル」の交換でなく、「韓国ウォン・日本円」の交換だったとしても、日本円自体が世界で3番目に通用力が高い「ハード・カレンシー」であるため、韓国にとっては非常に有益なスワップです。
もう一つの理由は、韓国が日本に対して「精神的優位性」を感じているからです。
韓国は現在、ウィーン条約に違反して日本大使館前に設置された醜悪な売春婦像を撤去せず、放置したままです。これに加えて、韓国では執拗な反日教育が繰り返されており、「日本に対してであれば何をやっても構わない」(例えば借金の踏み倒しを含めて)、と思っている節もあるでしょう。
つまり、
- 韓国にとって必要なお金(米ドルか日本円)を引き出すことができる
- 韓国にとっては日本からの借金ならば気が楽である
という二点が、韓国がどうしても日本とのスワップを欲しがる本質的な理由なのです。
日韓スワップは韓国に対する一方的援助だ
以前から何度も指摘していることの繰り返しですが、日韓通貨スワップについては、「韓国にとっての経済的メリットは甚大」ですが、「日本にとっての経済的メリットは皆無」です。このことから、仮に安倍政権が韓国と通貨スワップ協定を締結するのであれば、
日韓通貨スワップ協定は韓国に対する一方的援助である
という事実を、国民に対して正しく説明しなければなりません。さもなくば、昨年12月の「日韓慰安婦合意」に続き、安倍政権は国民からの信頼を大きく損なうことになります。
「日韓スワップは日韓双方に経済的メリットがある協定である」といった財務省の垂れ流す与太話を盲信するほど、日本国民が愚かであるようには思えません。また、これまで散々、韓国が国を挙げて世界中で日本を侮辱してきた事実に、どのように落とし前をつけさせるのか、その視点を無視して「隣国だから」「日本企業もたくさん進出しているから」というだけの理由で、日韓スワップ再開を安易に決定することには、日本国民の一人としても感情的に強い抵抗があるのも事実です。
私は、安倍政権が検討している日韓スワップの再開には一定の政治的な狙いがあると信じていますが、そうであるならばなおさら、その「政治的狙い」をきちんと国民に説明すべきでしょう。
関連記事
日韓スワップや人民元、ハード・カレンシーなどの過去の記事や「用語集」などについては、次のリンクもご参照ください。
日韓スワップ等に関する関連記事
人民元等に関する関連記事
経済・金融に関する用語集
どうか引き続き、当ウェブサイトをご愛読ください。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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この期に及んでスワップは日本のためだ、もうすぐ日本がスワップを頼んでくる
という輩がいます。日本は圧力に負けず目先の得に惑わされず、しっかりスワップ
断って下さい。お願いします