当ウェブサイトでは、「金融規制の専門家」としての立場から、日韓通貨スワップ協定などの解説記事を充実させてきました。こうした中、「日経ビジネスオンライン」の人気コラムに、「日韓スワップ」について言及された最新記事が掲載されました。本日は記事の紹介がてら、改めて日韓スワップの経済的本質を解説するとともに、日本がそろそろ国を挙げて、韓国経済が破綻したときへの備えを始めるべきではないかとの問題提起を行っておきたいと思います。
日経ビジネスに書かれてしまった「日韓スワップ」
相変わらずキレが鋭い鈴置委員
日本経済新聞社の鈴置高史編集委員の手になる、日経ビジネスオンラインの人気コラム・シリーズ「早読み深読み朝鮮半島」の最新版記事が、昨日と一昨日の2日連続で掲載されました。このうち、本日取り上げるのは、月曜日の記事です。
『「百害あって一利なし」の日韓スワップ』(2017年1月16日付 日経ビジネスオンラインより)
既に読んだという方もいらっしゃるかもしれませんが、相変わらず鋭い記事です。そして、今回の記事は、鈴置編集委員と真田幸光・愛知淑徳大学教授の対談という形式ですが、改めて「日韓通貨スワップ協定」について触れられています。
私も以前からずいぶんと日韓通貨スワップについて議論してきたのですが、さすがプロフェッショナルの手に係ると、非常にわかりやすくまとまるものだと感心して読んでしまいました。「日韓スワップ」をネタに読者を獲得してきた当ウェブサイトとしては、日経ビジネスオンラインという「メジャー・ウェブサイト」にこのネタを書かれてしまうと、非常に困るのです(笑)
というのは冗談として、この記事では、私が従前、申し上げてきた内容も含めて非常にわかりやすくまとめられており、日韓関係に関心がある方であれば「必読」といえるほどです。ただ、この中で1点、改めて補足しておきたい論点があったので、私見を述べてみます。
日韓スワップ「日本にもメリット」のウソ
さて、今回の記事では、「日韓スワップには日本にもメリットがある」とする俗説の間違いについて、正面から切り込んだ下りがあります。ごく一部だけ抜粋すると、次のようなやりとりです。
―――「ウォンが急落したら日本の輸出競争力が落ちる。だからスワップを結んでウォン安を食い止めるのだ」とメデイアは説明してきました。
鈴置:官僚や政治家は真顔でそう言うのですが、大いなる誤解です。国際金融市場が荒れた際、韓国は死に物狂いでウォンの価値を守ろうとします。ウォン安政策をとり続ければ、制御不能になって暴落――通貨危機に陥りかねないからです。
この下りについては、趣旨としては私もおおむね賛同です。というのも、「日韓スワップは日本側にもメリットがある」という説が「大ウソである」という、私自身の以前からの主張とも、ほぼ一致しているからです(詳しくは『「スワップは日本にも恩恵がある」の大ウソ』などをご参照ください)。
ここで、日経ビジネスの記事に触れられていない論点についても、いちおう補足しておきましょう。
日韓スワップ推進派の3つの主張
日韓スワップを推進する勢力の主張内容は、だいたい、次の3点に集約されます。
- 日韓スワップで韓国経済が安定すれば、貿易や投資を通じて韓国と関係している多くの日本企業にもメリットがある。
- 日韓スワップがあれば、両国の為替相場の安定にもつながる。
- 日韓スワップは「通貨の交換」であり、きちんと相手国通貨という「担保」を取っているのだから、日本から韓国への資金援助ではない。
このうち、(3)の議論が間違っていることには、異論はないでしょう(ただし、この考え方の間違いについても、一応、後述したいと思います)。ただ、厄介なことに、上記(1)(2)については、一見するともっともらしく、騙されてしまいそうになります。というのも、この主張は、なんと日本の財務省から出されているものだからです。
財務省はウソをつく
2014年4月16日に行われた、「第186回国会・衆議院財務金融委員会」で、「日本維新の党」の衆議院議員だった三木圭恵(みき・けえ)氏(※2014年12月の総選挙で落選)が日韓スワップについて質問したところ、参考人として国会に招致された財務省の山崎達雄国際局長(※当時)が、日韓スワップについては「日本にもメリットがある」と述べ、その具体的内容として、上記(1)(2)のような趣旨の発言をしました。山崎局長の答弁は、次の通りです。
「日韓通貨スワップを初めとする地域の金融協力は、為替市場を含む金融市場の安定を通じまして、相手国、日韓の場合は韓国だけじゃなくて、日本にとってもメリットはあります。
というのも、日本と韓国との間の貿易・投資、あるいは日本企業も多数韓国に進出して活動しているわけでありまして、その国の経済の安定というのは双方にメリットがある面、それからまた通貨という面でいうと、むしろ通貨を安定させるという面、ウォンを安定させるという面もあるわけであります。
そういうことで、私どもとしては、当時、日韓通貨スワップを拡大したのは、むしろ、韓国のためだけというよりも、日本のため、地域の経済の安定のためということがあったということだけ申し上げたいと思います。」
では、この答弁のどこが問題なのでしょうか?
国民の税金で企業を助ける愚
一つ目は、「日韓スワップで韓国経済が安定すれば、韓国に進出している日本企業にも恩恵がある」、という主張です。
ただ、この主張には大きな問題があります。これだと、「わざわざ韓国を助ける」ことの説明になっていないからです。
日本は「自由主義経済」を国是としており、民間企業がどこの国に出掛けるのも自由です。日本企業は韓国だけでなく、それこそ世界中に進出し、投資し、貿易を行っています。それなのに、なぜわざわざ、韓国「だけ」を助ける必要があるのでしょうか?あるいは日本政府・財務省が、韓国を「特別扱い」することに、なにか理由でもあるのでしょうか?
このロジックだと、「自分たちの判断で韓国と関係を持った日本企業を、間接的に国民の税金で助けている」のと全く同じであり、政府が韓国に進出した企業に対して「補助金」を出しているのと全く同じ経済効果が生じています。私は有権者の一人として、財務省のこのような答弁を、到底看過するわけにはいきません。
通貨安定を逆手に取る韓国
二つ目は、「日韓スワップで為替相場が安定すること」です。
実は、韓国は平常時から頻繁に為替介入を行っており、しかも、この事実は米国財務省が指摘しています。米国では2015年に施行された「貿易促進・強制法(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)」に従い、日本や中国、韓国、ドイツなどを「為替操作監視対象国」に指定しています(詳しくは『米財務省の「為替操作監視対象」レポート』をご参照ください)。そして、米国財務省は、韓国が「不透明な為替操作を行っていること」と「巨額の対米貿易黒字を抱えていること」の2点を大きな問題だとしています。
言い換えれば、韓国では、自国にとって最も都合が良い為替相場に誘導するような「為替操作」が常態化しています。先日も『韓国の闇「外為平衡基金債券」を斬る!』中の『為替介入の2類型』で指摘したとおり、そもそも論として、為替介入には「自国通貨買い」と「自国通貨売り」の2つのパターンがあります(図表)。
図表 為替介入の2つのパターン
種類 | 目的 | 備考 |
---|---|---|
自国通貨買い | 自国通貨が下落し過ぎることを防ぐ介入 | 外貨準備が尽きるとそれ以上介入することはできない |
自国通貨売り | 自国通貨が上昇し過ぎることを防ぐ介入 | 通貨を「刷る」ことで、理論上は無制限に介入ができる |
韓国の場合、輸出立国であるため、為替相場が自国通貨高に振れ過ぎると、輸出産業の競争力が弱くなります。このため、常時為替介入を行い、自国通貨を適度な「安値」に誘導しているのですが、たまに自国通貨が下落し過ぎることがあります。そうなると逆に、韓国政府や韓国企業が外国から外貨建で借りている借金(債券、金銭債務)のリファイナンスや返済ができなくなります。
日韓通貨スワップ協定には、こうした「行き過ぎた自国通貨安」を防ぐ目的があります。日韓通貨スワップ協定があれば、韓国としては安心して「自国通貨売り」「自国通貨買い」などの為替介入を行うことができます。そして、韓国は日本と産業構造が似ており、韓国の通貨・ウォンが円に対して下落すれば、日本企業にとっての輸出競争力を削ぐことになりかねません。
つまり、日韓通貨スワップを韓国に提供すれば、そのスワップを悪用して韓国は為替介入を常態化させるはずであり、結果的に日本は自分で自分の首を絞めることになるのです。
一応指摘しますが「通貨交換」は等価ではありません
さて、以上、財務省の山崎達雄・元国際局長が国会で答弁した内容が、いかに欺瞞に満ちたものであるかを説明しましたが、ついでに「3つの主張」のうちの3番目にも、一応言及しておきましょう。
「日韓スワップとは、単なる通貨の交換協定であり、韓国に対する支援ではない」。
このロジックは完全な誤りです。
まず、韓国ウォンと交換する日本円または米ドルは、国際的な通用力が全く異なります。米ドルと日本円が国際的にどの程度通用しているかについては、統計資料を見るのが手っ取り早いのですが、これに関する最新の統計については『日本の通貨ポジションは世界最強』をご参照ください。
そして、韓国ウォンは国際的に全く通用しない、典型的な「ソフト・カレンシー」です。なにより、韓国が外貨(米ドルや日本円)を必要とするときとは、緊急時(通貨危機時など)です。そんな緊急事態で、日本の財務省や日本銀行が米ドルや日本円を韓国に渡し、その担保として韓国の通貨を受け取っても、韓国ウォンに担保としての価値はありません。
なにより、ここ数年の韓国の行動を見ていると、どうも韓国は「日本からの借入金であれば踏み倒しても良い」と考えている節があるのです。当ウェブサイトの読者の方であれば、韓国の裁判所が日韓基本条約に反して日本企業に戦時賠償を命じている事件のことはご存知だと思います。韓国政府なら、日本から通貨スワップ協定により日本円や米ドルを引き出して賠償金に充てるくらいのことはやりかねません。
「天下の日経」が過激な主張に転じた理由
さて、話を鈴置編集委員の記事に戻しましょう。
鈴置委員は年初から「飛ばして」いて、新年早々、「日韓断交」、「軍事クーデター」など、「日経」を冠したメディアには考えられないほど様々な論点が提示されています。
2017年、日本が問われる「韓国の見捨て方」(2017年1月1日付 日経ビジネスオンラインより)
「民衆革命」は軍事クーデターを呼んだ(2017年1月10日付 日経ビジネスオンラインより)
「天下の日経」が、なぜここまで過激な論説を堂々と掲載するようになったのでしょうか?
その理由は、「日経ビジネスオンライン」も、読者の支持・反応を強く意識する「ウェブメディア」の一つであるから、ではないでしょうか?
恩を仇で返す韓国人に、鈴置委員ご自身が疲れた?
そのことを伺わせるヒントも、実は記事の中にあります。
―――最近も中央日報の日本語版で「日本のせいで通貨危機になった」という記事を読みました。
鈴置:イ・ジョンジェ論説委員が書いた「韓日通貨スワップは政治だ」(1月12日、日本語版)ですね。以下のくだりがあります。
(国際金融専門家の)S氏は「日本は一度も韓国が絶対に必要な時、望む時に助けてくれたことがない。むしろ最初にお金を抜き出し、不意打ちを食らわせた」と話した。通貨危機が押し寄せた1997年、(日本は)真っ先に韓国からドルを抜きだした。
真田:当時、韓国の内実を知る金融界の経営陣は、最後まで踏みとどまった我々に深く感謝していました。ところが今ではこのありさまです。
この記事、私も読みましたよ(笑)
要するに、1997年~98年のアジア通貨危機では、日本が韓国から資金を引き上げたことが、韓国の通貨危機につながった、といった主張が、まことしやかになされ、信じ込まれているのです。鈴置編集委員の記事には、
―――疲れますね。
鈴置:だから、米国のアジア専門家も「韓国疲れ」(Korea Fatigue)と言い出しているのです。中国だけは韓国を取り込んでやろうと、脅しつつ付き合っていますが。
というやり取りが出てきますが、「韓国疲れ」症候群を発症しているのは、米国のアジア専門家だけでなく、鈴置編集委員ご自身もそうなのかもしれません。
日本人のマジョリティの韓国観
さて、鈴置編集委員の執筆した記事は、従来の「日経」の大看板を掲げるメディアからすれば、一見すると「過激な極論」にも見えます。しかし、日経ビジネスの「読者投票機能」をチェックしてみると、少なくともこの記事の読者の9割超は、この鈴置委員の論説を支持しています。
つまり、「従来の日経ビジネスオンラインの主張からすると極論」に見えてしまうような記事が、読者からも高く評価され、支持されているのです。日経ビジネスオンラインの読者層が日本人の母集団を正確に代表しているとは限らないものの、この反応は、日本人の間で、「韓国と距離を置きたい」という意見が主流になり始めている証拠ではないでしょうか?
そして、読者コメントの中には、「韓国を助けると逆に世界中にわが国への誹謗中傷を吹聴される」、「今回こそは助けるべきではない」、といった論調も見られます。以前であれば、「韓国は日本の隣国である」、「かりに韓国が金融危機や国家財政破綻でも発生させようものなら、その影響は多くの日本企業にも及ぶ」、「韓国の経済が破綻すれば多くの韓国人が直ちに生活苦に陥る」、といった論調で、「韓国を破綻させるな」という意見が主流だったのが、随分と時代が変わったものです。
しかし、私に言わせれば、これも「国家破綻の危機に瀕するまで日本に対する侮辱を辞めない」という、韓国の自業自得です。一昔前であれば、「隣国が経済破綻に陥るのを、みすみす看過すべきではない」といった論調も支持を集めたかもしれませんが、今や私を含めた多くの日本人の多くは、「勝手に困って勝手に滅びればよい」、とでも考えているのかもしれません。
韓国の経済・国家破綻に対する備えを!
ただ、それと同時に、やはり隣国経済が破綻すれば、日本にも少なからぬ影響が生じます。
真っ先に考えられるのは、生活に窮した韓国人が日本に大量入国することです。しかも、外務省や観光庁などが主導した結果、能天気なことに、現状では韓国人に対する観光ビザは免除されています。まずはこの「ビザ免除プログラム」を、早急に見直すべきではないでしょうか?
また、韓国経済が破綻すれば、韓国と取引を行っている少なからぬ日本企業にとっても甚大な損害が生じます。ただ、先ほどから何度も繰り返している通り、投資はあくまでも「自己責任」です。日本企業がリスク管理を徹底させ、韓国向けの投資・与信エクスポージャーの損失リスクを減らしていく努力を続けるべきでしょう。
いずれにせよ私は、日本が国として、「韓国を助ける」という選択肢を考えるべき局面は、既に過ぎたと考えています。これから必要なのは、「韓国が仮に経済破綻・国家破綻したとしても、日本に生じる損失を最小化する手立てを考えること」ではないでしょうか?
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対日貿易が大きな赤字だとすると買いたくない日本製に必要なものが多いのでしょう。
これから安値競争を続ける韓国はますます大きな赤字を創るだけです。
ひるまず請求するものはしっかり請求しましょう。