本日2本目の更新です。以前から当ウェブサイトで私は、「日韓通貨スワップ」についての議論を行ってきました。専門的な内容については既に説明したとおりなので繰り返しませんが、その一方で、私が日本のメディアを読んでいて、強く不満に感じることがあります。それは、韓国側の事情(とくに「どうして韓国が日韓スワップにこだわるのか」という点)に関する日本のメディアの分析が、どうも甘いように思えるからです。そこで、本日は韓国の経済分析をベースに、韓国が日本円換算で常に「
40兆円程度30兆円程度の資金流出リスク」を抱えていると仮定。そのうえで、「韓国からしたらどうしても日韓スワップが必要だ」という事情に迫ってみたいと思います。
目次
【重要】【訂正】20:30追記:40兆円ではなく30兆円でした
本日の原稿の中で私は「韓国からの資金流出リスクがある金額は日本円換算で40兆円程度」と申し上げましたが、その後、試算対象を細分化して再計算したところ、この「40兆円程度」の中に、韓国ウォン建ての債券と思われる項目が10兆円程度含まれており、私のロジックが正しければ、「資金流出リスクがある金額は日本円換算で30兆円程度」というのが正しいといえます。ここに訂正してお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。ただし、この記事は既に公表後のものであるため、本文については修正せず、このままとさせていただきます。(追記・以上)
日韓スワップの事情
今年8月下旬に韓国で開催された日韓財相対話で、麻生太郎副総理兼財相は、韓国側から「日韓スワップを再開して欲しい」との要請を受け、「スワップ再開に向けた協議を開始すること」で合意しました(※ただし、「スワップ再開」で合意したわけではありません)。
この日韓スワップ「そのもの」を巡っては、次の通り、これまでも当ウェブサイトで何度か解説を試みています(後日追記:『日韓スワップの特設ページ』を開設しました)。
- 2016年10月7日: 「日韓通貨スワップ協定」深掘り解説
- 2016年9月30日: 日韓スワップ「500億ドル」の怪
- 2016年9月17日: 専門知識解説:「日韓通貨スワップ協定」
※2017/01/07 20:55 追記:その後、日韓スワップ関連については、次の通り、多数の記事を投稿しています。是非、これらにつきましてもご参照ください。
ただ、日韓スワップを巡っては、既存のマス・メディアからは続報がほとんど出て来ていません。何より、日本国民として本当に知りたいことは、「事実上の国民の税金負担で韓国を助けても、どうせ韓国から文句を言われるのに、なぜそれほどまでに韓国を助けようとするのか?」という疑問に対する答えではないかと思います。
そこで、本日はこれまでの議論とやや趣向を変え、韓国国内の資金フローを確認したうえで、韓国が「なぜ日韓スワップを欲しがっているのか?」「いくら欲しがっているのか?」「日本はどう応じるべきなのか?」について、方向性を探っていきたいと思います。
家計債務とオーバーローンに苦しむ韓国
まず、議論するうえで重要な条件は、きちんとした「定量的分析」です。初めに、韓国銀行のウェブサイト(英語版)から最新の資金循環統計を取得し、中身を確認しておきましょう(時点は2016年6月末、金額単位は全て十億ウォン)。資金循環統計の対象は多岐にわたりますが、本日はサマリーとして、家計、海外、金融セクターの三者について確認しておきます。
借金まみれの韓国の家計
まず、韓国国内の家計等は、3284兆ウォン(1円=10ウォンだと仮定して、日本円換算でざっくり330兆円程度)の資産を保有しています(図表1)。
図表1 家計等
項目 | 金融資産 | 金融負債 |
---|---|---|
現金預金 | 1,413,625 | – |
保険年金基金 | 1,028,358 | – |
株式以外の証券 | 179,309 | – |
貸出 | – | 1,380,182 |
政府融資 | – | 54,852 |
株式及び投資信託 | 642,695 | – |
金融デリバティブ | 434 | 56 |
企業間金融 | – | 33,045 |
対外直接投資 | 5,474 | – |
その他 | 14,449 | 11,257 |
差額 | – | 1,804,952 |
合計 | 3,284,344 | 3,284,344 |
ただし、金融負債の部に「貸出」(つまり銀行などからの借入金)が1380兆ウォン(同じく約138兆円程度)計上されており、その他の債務と合わせると、「家計債務比率」は45%(!)にも達しています。日本の「家計債務比率」はせいぜい22%程度ですから、韓国の家計債務比率は日本の倍以上です。
※家計債務比率とは:家計が負っている金融負債の金額を、家計が保有する金融資産の合計値で割った比率。一般的に、高ければ高いほど家計の債務負担が重いと判断できる
通貨危機時に最大40兆円30兆円の資金流出リスク
一方、資金循環統計から判明する「海外との資金のやり取り」の状況については、図表2のとおりです。
図表2 海外
項目 | 金融資産 | 金融負債 |
---|---|---|
金・SDR | 3,909 | 2,953 |
現金預金 | 18,649 | – |
株式以外の証券 | 237,187 | 120,327 |
貸出 | 8,448 | 64,173 |
株式及び投資信託 | 421,897 | 185,554 |
金融デリバティブ | 44,850 | 40,571 |
企業間金融 | 6,890 | 25,999 |
対外直接投資 | 210,085 | 341,518 |
その他外国債権 | 165,873 | 603,793 |
差額 | 267,100 | – |
合計 | 1,384,888 | 1,384,888 |
ここで「金融資産」とは、海外が韓国に対して保有している債権、「金融負債」とは、韓国が海外に対して保有している債権、という意味です。「差額」が267兆ウォン(約27兆円)となっていますが、いわばこれが韓国の「対外純債権」です(ちなみに日本の対外純債権は328兆円で韓国の約12倍です)。
これだけ見ると、一見すると健全です。韓国が海外から借りている「短期資金」のうちの主な項目は、「株式以外の証券」(237兆ウォン)と「その他外国債権」(166兆ウォン)で、この両者を合算すれば403兆ウォン(つまり約40兆円)です。そして、聯合ニュース英語版によると、韓国の公式の外貨準備は2016年8月末時点で3755億ドル(約39兆円)だそうですが、この発表を信じるならば、通貨危機が発生した際に、これらの資金が海外に逃げてしまったとしても、十分に外貨準備の範囲で賄うことができます。
(※18:30追記:なお、外国人が投資している資金の中で韓国ウォン建ての債券(日本円換算で約9兆円)もあるため、これを差し引くと、本当に外貨流出のリスクがある部分は40兆円ではなく30兆円と考えることも可能です。)
ただ、韓国政府は保有する外貨準備の資産内訳を開示していません。リーマン・ショックの際、韓国政府が保有していた外貨準備の大部分は、流動性が低い資産(や金融機関向けの貸出金など)に化けてしまっていて、通貨危機の際に全く使えなかったという実例があります。
いずれにせよ、日本にとっては債券市場からの40兆円程度の外貨流出など痛くもかゆくもありませんが、韓国にとっては致命的です。その意味で、韓国は「いざ」というときのための外貨準備を欲しがっていることは間違いないでしょう。
韓国の預金量はメガバンク2行分
ついでに、韓国の「金融仲介機能」(中央銀行、預金取扱金融機関、保険・年金基金等の合算値)を眺めておきましょう(図表3)。
図表3 金融仲介機能
項目 | 金融資産 | 金融負債 |
---|---|---|
金・SDR | 8,538 | 3,909 |
現金預金 | 731,251 | 2,829,425 |
保険年金基金 | 16,528 | 1,062,158 |
株式以外の証券 | 1,748,005 | 1,107,802 |
貸出 | 2,642,188 | 142,596 |
政府向け融資 | – | 45,389 |
株式及び投資信託 | 655,435 | 815,646 |
金融デリバティブ | 113,085 | 117,401 |
企業間金融 | 2,769 | – |
対外直接投資 | 21,724 | 56,150 |
その他外国債権 | 534,490 | 121,451 |
その他 | 480,536 | 478,727 |
差額 | – | 173,893 |
合計 | 6,954,548 | 6,954,548 |
これを見て明らかなのは、負債側の預金の金額が2829兆ウォン(日本円換算で283兆円程度)である、ということです。日本の預金取扱機関の預金量は1388兆円ですから、韓国全体の預金量は日本の20%前後である、という計算であり、日本のメガバンクの2行分程度といったところでしょうか。
ただし、問題は貸出の額です。預金量が2829兆ウォンしかないのに、貸出金は2642兆ウォンとなっており、預金に対する貸出金の比率(専門用語で「預貸率」と呼びます)は93%(!)に達しています。日本の預貸率は52%程度ですから、いわば「オーバーローン」状態です。先ほど図表1で「家計債務比率が異常に高い」という事実を指摘しましたが、裏を返してみれば、韓国の銀行経営も非常に危なっかしい状態にあるといえるかもしれません。
結論:売り浴びせに弱い韓国
以上より、韓国経済には少なくとも次のような特徴があります。
- 家計債務比率が極めて高く(日本の2倍)、約330兆円程度の家計資産に対し、家計が約150兆円の借金を抱えている。
- 銀行の預貸率が90%以上と極めて高く、大口の不良債権問題などが発生すると、容易に国全体が金融危機に見舞われる。
- 外国からの短期・中期的な資金を約40兆円程度調達しており、これは韓国政府が公式に発表している外貨準備の額とほぼ一致しているが、韓国の外貨準備自体が本当に流動性の高い資産で構成されているのかどうかが疑わしい。
以上を踏まえたうえで、次に、「なぜ韓国から見て『日韓スワップ』が必要なのか」という論点に映ります。
なぜ「日韓スワップ」なのか?
ここからは、「なぜ韓国は日韓通貨スワップ協定を欲しがっているのか」という論点です。世の中の記事を眺めてみると、「日韓スワップが『日本にとって』どう役に立つのか(あるいは役に立たないのか)」について論じた記事は多いのですが、そもそも、なぜ韓国が「日韓スワップ」(韓国側からは「韓日スワップ」)が必要なのかについて、きちんと韓国側の都合を解説した記事が見当たりません。そこで、本日は前段として、「なぜ韓国が日韓スワップを必要としているのか」について、5つの側面から眺めてみたいと思います。
理由①韓国はドルがないと生きていけない
一つ目の理由(そして「最大の理由」)とは、「韓国は国家存続のために外貨を必要としている」からです。その証拠の一つが、韓国の「貿易依存度」が異常に高いことにあります。
意外な話ですが、日本の場合、国内総生産(GDP)に対する貿易の比率(貿易依存度)は高くありません。G7諸国と比べても、米国に次いで二番目に低い数値です。わが国の総務省統計局が公表する「世界の統計2016」の第9章から、G7諸国に中韓両国を合わせた貿易依存度を抽出してみましょう(図表4、図表5)。
図表4 各国の輸出依存度
国 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 14 | 13.9 | 13.4 | 14.5 | … |
米国 | 8.5 | 9.5 | 9.6 | 9.5 | 9.4 |
英国 | 17 | 18.5 | 18.2 | 17.8 | 16.2 |
ドイツ | 37 | 39.4 | 39.9 | 38.9 | 39.1 |
フランス | 19.5 | 20.5 | 20.8 | 20.2 | 20 |
イタリア | 21 | 23 | 24.2 | 24.2 | 24.6 |
カナダ | 24.6 | 26 | 25 | 25.1 | 26.3 |
韓国 | 42.6 | 46.2 | 44.8 | 42.9 | 40.6 |
中国 | 26.1 | 25.3 | 24.2 | 23.3 | 22.6 |
図表5 各国の輸入依存度
国 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 12.6 | 14.5 | 14.9 | 16.9 | … |
米国 | 13.2 | 14.6 | 14.5 | 14 | 13.9 |
英国 | 23.4 | 24.6 | 24.7 | 24.1 | 22.5 |
ドイツ | 31 | 33.5 | 33 | 32 | 31.6 |
フランス | 23 | 24.9 | 24.9 | 23.9 | 23.5 |
イタリア | 22.9 | 24.5 | 23.6 | 22.3 | 21.9 |
カナダ | 25.7 | 26.8 | 26.2 | 26.1 | 26.9 |
韓国 | 38.8 | 43.6 | 42.5 | 39.5 | 37.3 |
中国 | 23.1 | 23.3 | 21.5 | 20.5 | 18.9 |
(【出所】図表4、5ともに総務省統計局「世界の統計2016」図表9-3。図表内の数値の単位はパーセント)
貿易依存度(特に「輸出依存度」)とは、いわば「外需」に依存する度合いの尺度の一つです。たとえば、中国は一時期と比べて貿易依存度自体は低下したものの、それでも輸出依存度は日本の2倍以上です。そして、日本よりもGDPの規模が大きいため、中国の輸出金額は単純計算しても日本の数倍に達します。
一方、G7諸国の中で群を抜いて輸出依存度が高い国はドイツです。ドイツの場合はユーロ圏に加盟しているため、ユーロ圏向けの輸出だと、為替レートを通じた輸出競争力の調整メカニズムが働かず、結果的にギリシャなど南欧諸国などから「貿易黒字」を「収奪」している格好となっています。
そして、ここに引用した諸国の中でダントツに輸出依存度が高い国が韓国です。2014年における輸入依存度はGDPの4割弱、輸出依存度に至ってはGDPの4割を超えています。それだけではありません。韓国の場合は、ドイツと全く異なり、自国通貨がハード・カレンシーのユーロではなく、ソフト・カレンシーの「韓国ウォン」です。
つまり、国自体の貿易に対する依存度が極めて高く、自国の通貨「韓国ウォン」は国際的に通用しない通貨であるため、必然的に、外貨がなければ生活がしていけないのです。輸出、輸入の絶対値の合計額はGDPの8割にも達する国ですから、貿易が止まれば、直ちに国が止まります。その意味で、海運の混乱がもたらす悪影響は、日本の比ではありません。
それなのに、韓国は(不思議なことに)いつも外貨不足に悩んでいます。日本の金融機関にとっては、高金利の韓国企業の社債は投資対象として魅力的ですが、裏を返して言えば、「高金利」には「国自体の資金調達構造が脆弱である」という、大きな理由があるのです。日韓スワップを締結すれば、リスク管理を怠って韓国企業の社債を大量購入してきた日本の金融機関を国民の税金で助けることにもつながります。その意味でも、私は日韓スワップに反対なのです。
理由②韓国には約束が守れない
次の重要な理由は、「韓国は約束が守れない国」である、という点です。いいかえれば、通貨スワップのような重要な約束事の相手国は、「約束が守れなくても韓国に対して厳しい制裁を下さない相手」、つまり日本でなければならない、ということです。
韓国はこれまで、日本に対して、それこそ何度も何度も、約束を破ってきました。たとえば、1965年に日韓両国は「日韓基本条約」と同時に「日韓請求権・経済協力協定」を締結。日本が韓国に対して有償・無償あわせて5億ドルの経済援助を行うことに加えて、両国および両国民の間の請求権に関する諸問題が「完全かつ最終的に解決された」とすることで合意しました。しかし、その後も韓国政府は執拗に、日本の天皇陛下や首相に対して謝罪を要求。近年では、韓国国内の裁判所が三菱重工に対し、戦時中の「徴用工」の遺族らに賠償金の支払いを命じる判決を下していますし、朝日新聞社と植村隆が捏造したと判明している「従軍慰安婦問題」でも韓国国民は日本に対して謝罪と賠償を求め続けています。
韓国の主張する「戦時犯罪」とやらが事実かどうかすら怪しいものですが(というか、慰安婦問題は朝日新聞社と植村隆と韓国国民と韓国政府の四者による完全な捏造ですが)、万が一これが事実であったとしても、既に日韓両国は1965年時点で、戦時賠償につき「完全かつ最終的な解決」で合意しているのです。「完全かつ最終的な解決」で合意した以上、これを覆すなど、本来であれば言語道断の信義則違反です。
ただ、「約束も守れない韓国」に対し、日本政府はこれまで、厳しい制裁を下してこなかったことも事実です。韓国側が過去を蒸し返してきたときに、日本の歴代政権や外務省は、安易な妥協を続けてきました。その意味で、特に日本の外務省の罪は極めて重いと言わざるを得ません。私が「外務省有害論」を唱える最大の理由の一つが、日本が韓国の要求に安易に応じて来たことで、韓国が完全に「日本相手なら契約を反故にしても許される」と勘違いしてしまっているからです。
いずれにせよ、ここで重要な点は、「韓国は約束一つ守れない」、という事実です。お金を借りる相手が日本ではなく中国や国際通貨基金(IMF)だと、怖くて縮み上がってしまうのです。つまり、韓国がIMFでも中国でもCMIMでもなく、「日本との」通貨スワップ協定を締結したがっている理由の一つは、自分の国が外国との契約すら守れない国であると理解しているためでしょう。
理由③日本に対する「精神的優位性」という勘違い
これと関連し、三つ目の理由は、「韓国は日本に対して精神的な優位にある」という勘違いです。言い換えれば、「日本は過去に韓国に対して酷いことをしたから、今の韓国は日本に対して酷いことをしても許される」、といった歪んだ発想です。しかも、先ほども述べたとおり、日本の外務省は、これまで韓国が突きつけてきたむちゃな要求を呑んできたのであり、こうした態度は却って、「日本は強く出れば折れる国だ」という「成功体験」を、韓国政府側に刷り込んできたのです。
IMFや中国から借りているお金なら、踏み倒すと怖いことになると本能的に理解していますが、日本から借りているお金なら、極端な話、「返せなければ踏み倒してしまっても良い」のです。実際、韓国人の中では、「日本はまだ戦後の賠償を済ませていない」のですから、通貨スワップによって借りたお金を「戦後賠償」の一つとして踏み倒すというのは現実にあり得るでしょう。
余談ですが、「日本相手の精神的優位性」といった誤った考え方は、まさに韓国人の歪んだ発想ですが、それと同時に、歴代日本政府・外務省の「事なかれ主義」が、こうした「歪んだ発想」を育んできてしまったということを、日本政府は深く反省しなければなりません。さらに、日本政府が韓国に対して融和的な行動を取ることを許してきた我々有権者にも、責任の一端はあります。重要なことは、「過去の過ちは過去の過ちとして反省する」ことであり、韓国を甘やかしたという「過ち」については絶対に繰り返さないという決意でしょう。
理由④日本円自体がハード・カレンシー
四つ目の理由は、日本円自体がハード・カレンシーである、という点です。
考えてみれば、日本には自前資源もなく、領土も狭く、さらには「ユーラシア大陸の極東のはずれ」という不便な場所にあります。地震、火山、台風などの自然災害という悪条件にもさらされ、山がちで人が住める場所も少ない、そんな国であるにも関わらず、日本人が勤勉で優秀であるためでしょうか、日本円は世界中で大人気です。
ひとたび金融危機が発生すると、日本円や日本国債は「安全資産」として世界中の投資家から買われます。また、日本国債が買われ過ぎたためか、日本国債市場では10年債前後までがマイナス利回りとなっているくらいです。
さらに、IMFが公表する「世界公式外貨準備統計」(COFER)でも、世界の中央銀行が保有する外貨準備高構成のうち、内訳が明らかになっているだけでも、日本円のシェアは4.5%と、世界で四番目の地位にあります(図表6)。
図表6 IMFのCOFER
通貨/区分 | 金額 | Aに対する比率 |
---|---|---|
米ドル | 4兆7598億ドル | 63.39% |
ユーロ | 1兆5150億ドル | 20.18% |
英ポンド | 3521億ドル | 4.69% |
日本円 | 3406億ドル | 4.54% |
加ドル | 1490億ドル | 1.98% |
豪ドル | 1430億ドル | 1.90% |
スイス・フラン | 215億ドル | 0.29% |
その他の通貨 | 2281億ドル | 3.04% |
小計(A) | 7兆5091億ドル | 100.00% |
内訳不明分 | 3兆4841億ドル | ― |
合計 | 10兆9931億ドル | ― |
【出所】「世界公式外貨準備構成」(World Currency Compositions of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)の2016年第Ⅱ四半期末の数値
ところで、日韓スワップには次の二つのパターンが考えられます。
- 韓国が差し出す韓国ウォンを担保に日本円を韓国に渡す
- 韓国が差し出す韓国ウォンを担保に米ドルを韓国に渡す
韓国が欲しがっているのは、このうち「米ドル」のスワップですが、「日本円」のスワップであっても、効果は絶大です。なぜなら、韓国企業の中には、米ドル建てではなく日本円建てで起債している企業もあるからです(いわゆる「サムライ債」や「ユーロ円債」)。したがって、仮に「円ウォン・スワップ」であったとしても、韓国にとっては十分に魅力的なのです。
理由⑤日本にはドルが「有り余っている」?
最後の理由は、日本には「ドルが有り余っている」、という点です。正確に言えば、本当にドルが有り余っている、という意味ではありません、あくまでも「韓国の目からそう見える」、ということです。
確かに日本は過去に、為替介入を何度も行い、外貨準備を膨らませてきました。これらの多くは財務省の「外為特会」勘定で運用されているものと推定されます(資産の内訳は未開示)。なお、ピーク時に152兆円に達していた外貨準備は、2016年6月末時点で130兆円にまで減少しています(外貨準備が減少した正確な理由は現時点で不明ですが、いちどきちんと調査したいと思います)。
また、日銀は米FRBやECB、BOEなどと無制限のスワップ取極めを締結しており、実際に日銀はドル供給オペやユーロ供給オペなどを実施しています。こうした日銀の政策手段は、中央銀行が簡単にドルを調達することができない韓国にとっては、まさに垂涎の的なのです。
個人的意見「韓国を特別扱いするな」
繰り返しになりますが、上記①~⑤は、全て「韓国側から見た日韓通貨スワップのメリット」です。
韓国が求めているのは4~5兆円?
では、具体的に韓国は、スワップなどの外貨調達手段を、いくら必要としているのでしょうか?
韓国政府が公表する外貨準備の統計が正しければ、韓国からの資金流出リスクがある金額(日本円換算で約40兆円)のほぼ全額が外貨準備でカバーできているため、韓国にとっては日韓スワップなど必要ありませんし、これまで韓国政府もそのように説明してきたはずです。
しかし、実際には、韓国は外貨準備といいながら、海外の証券化商品に対する投資や国内の銀行・企業などへの融資により、外貨準備のかなりの部分を溶かしている疑いが濃厚です。仮に、外貨準備の5割がこの手の流動性の低い資産で構成されていると考えるならば、実質的に韓国にとっての外貨準備は20兆円程度にまで減少します。
ただし、「40兆円の資金流出額」は、直ちに発生するものでもありません。実際には、債券や貸出金などの債権には「期限の利益」がありますから、これらの債権の平均デュレーションが5年程度だと仮定すると、1年間に発生する資金流出額は8兆円程度であり、そのうち半額が通貨スワップでカバーできていれば良いと考えると、日韓スワップの規模は4~5兆円です。奇しくも、この金額は、以前私が「日韓スワップ「500億ドル」の怪」という記事で引用した金額と、ほぼ一致します。
なお、韓国一カ国に対して5兆円ものスワップを提供するのは、さすがにやり過ぎです。現在の日本の国民感情に照らすと、3~5千億円(あるいは3~50億ドル)程度が関の山だと思うのですが、それでも韓国側から「5兆円規模」という一種の飛ばし報道が出てくること自体、この試算があながち的外れでもない証拠でしょう。
通貨スワップがあればどうなるのか?
では、日本が韓国の事情を考慮してあげて、通貨スワップ協定を「50億ドルだけ」締結してあげたとすると、韓国はどういう反応をするのでしょうか?
先ほど指摘したとおり、韓国人は「日本に対して、どんなわがままを言っても許される」という勘違いをしている節がありますし、したがって、仮に日本が日韓通貨スワップを締結してあげたとしても、絶対に感謝されることはありません。つまり、「韓国の要求に100%答えるのが日本の義務である」などと勘違いしている、ということです。
したがって、韓国側が「5兆円のスワップ」を求めているのに、日本が締結するのが「5000億円」だとすれば、感謝されるどころか、「少なすぎる」と「逆恨み」を受けることは間違いありません。仮に日韓通貨スワップを再開するなら、このことをわかっておく必要があります。
日韓スワップは再開するのだと思うが…
繰り返しですが、私は日本国民の一人として、日韓スワップの再開には猛反対です。しかし、安倍政権の外交を見ている限りでは、「中国の軍事的脅威の封じ込め」を最優先課題としており、それに役立つのであれば、ロシアや韓国とも「和解」するだけの狡猾(こうかつ)さを兼ね備えているのも安倍政権です。その文脈からすれば、おそらく安倍政権は、日韓スワップの再開を決断する可能性は極めて高いでしょう。
ただし、注意すべきは、「新・日韓スワップ」の目的は、あくまでも「日本の国益の最大化」を目的としたものであるべきであり、韓国を助けるという筋合いのものではありません。そうであるならば、たとえば
- 期間1年・金額30億ドルのスワップ
- 期間半年・金額50億ドルのスワップ
- 期間3か月・金額70億ドルのスワップ
といった具合に、「多額のスワップは短く」、「期間が長いスワップは少額で」、複数のスワップを契約するというのも一つの手です。具体的には、敢えて複数のスワップを締結し、韓国が慰安婦像を撤去しないなどの反日行為を行ったら、これらのスワップを容赦なく打ち切る、という格好です。現行の朴槿恵(ぼく・きんけい)政権の人気は2018年2月で満了し、おそらく、現・国連事務総長の潘基文(はん・きぶん)氏が次の大統領に就任するのでしょう。もはや韓国の劣化は止められませんから、どうせ日韓スワップを締結するのなら、次の潘基文政権を「金の力でコントロールする」ために、日本も通貨スワップを狡猾に活用すべきであると考える次第です。
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