日本政府が「韓国に対する制裁措置」を発動してから、1週間余りが経過しました。その間、「日韓スワップ」や「AIIB」などに関して取り扱った私のウェブサイトへのアクセスが急増し、サーバを切り替えるという大仕事をこなすなど、私自身にも大きな影響が生じました(笑)。それはさておき、ここらで、私が考える日韓関係の現状と先行きについて取りまとめておきたいと思います。
目次
始めに:サーバ切り替え完了の報告
菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官が1月6日に、韓国に対する事実上の制裁措置を発表したことを受けて、インターネット空間では「韓国」「通貨スワップ」といったキーワードを検索する人が増えたためでしょうか、当ウェブサイトもアクセス数が激増しました。
しかも、特定の記事が読まれているというよりはむしろ、中国・人民元に関する記事やAIIBの現状整理に関する記事など、幅広く読者の方の関心が寄せられているようです。
ただ、多くの方のアクセスがあるのは嬉しいのですが、このウェブサイトは、私がこれまで自分の会社のレンタルサーバに同居させていたという事情もあり、大量のアクセスを捌ききることができず、ページを表示するまでに時間がかかったり、ウェブサイトの表示ができなかったりする事例が頻発。読者の方にご不便をおかけすることになってしまったのです。
そこで、私は今週に入り、当ウェブサイトを自分の会社から切り離し、新たなサーバに移し替えました。稀に古い方のウェブサイトが表示されてしまうかもしれませんが、世界中のDNSサーバの情報が完全に切り替われば、こちらの「パワフルなサーバ」の方がメインになると考えられます。ただし、DNSサーバの仕組み上、ごくまれに古い方のウェブサイトが表示されてしまうこともあります。ご不便をおかけするかもしれませんが、引き続きご愛読賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
日韓関係の混迷
中途半端な4つの措置
さて、菅官房長官が先週金曜日に発動した措置の内容を、改めて振り返っておきます。
- 在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合せ
- 長嶺駐韓国大使及び森本在釜山総領事の一時帰国
- 日韓通貨スワップ取極の協議の中断
- 日韓ハイレベル経済協議の延期
この1週間、メディア、あるいはインターネット上で交わされた様々な議論を見ていると、保守派と思しき人々からは「よくやった」、左派と思しき人々からは「今回の措置は失敗だ」、などと意見が別れているものの、「過去に例がないほどの厳しい措置だ」という評価では、ほぼ一致しているようです。
ただ、私は最初から申し上げてきたとおり、この4つの措置はいかにも中途半端です(詳しくは『慰安婦問題を巡る本当の闘いは始まったばかりだ!』などをご参照ください)。たとえば、4項目のうち(1)については、「ソウルの日本大使館職員も含めて韓国政府・地方政府の一切の公式行事に参加しない」とするのならばまだわかりますが、不参加は釜山市の行事に限定されており、ほとんど実効性がありません。
また、(2)の大使・領事の一時帰国についても、「召還」ではありません。あくまでも「一時帰国」です。現在の報道では、韓国の対応次第で、安倍政権が一時帰国期間を延長することも考えているとの話もありますが、「大使召還」ではない以上、遅かれ早かれ大使がいずれ韓国に戻る可能性は高いといえます。
さらに、(4)の「日韓ハイレベル経済協議」については、あくまでも「長期的な経済協力関係」を協議するものであり、これまで数年にわたって開催されてきたものであることを考えると、この協議が少々中断されたとしても、韓国に対してはそれほどの「痛手」ではありません。
結局、安倍政権が打ち出した「対韓制裁措置」のうち、実効性があるのは、事実上、(3)の「日韓スワップ再開協議の中断」だけなのです。
てきめんに効いた!「日韓スワップ中止」
「今回の日本政府による措置は、いかにも中途半端で遅きに失したものだ」―。こうした私の意見は、インターネット上では少数派のようですが、それでも、「日韓スワップ再開協議の中断」については、韓国政府にとって「覿面(てきめん)」に効いたらしく、韓国の政府・メディアはこの問題で、ハチの巣をつついたような大騒ぎになっています。
『韓国経済、あと1年が勝負?』で申し上げたとおり、韓国は2016年9月末時点で3729億ドル(仮に1ドル=120円だとすれば、約44.7兆円換算)の「外貨準備」を保有していることになっています。この程度の金額の外貨準備があれば、いくら韓国の通貨・ウォンが「ソフト・カレンシー」であったとしても、韓国が資金不足に陥って国家破綻するような事態は到来しないはずです。そうであるならば、なぜ韓国はここまで「大騒ぎ」しているのでしょうか?
以前から私は、韓国の外貨準備のうち70~80%程度は「実際には使えない資産」ではないかと睨んでいるのですが(関連記事としては『新春ネタ「三つの経済爆弾抱える韓国」』『韓国の外貨準備の75%はウソ?』などもご参照ください)、韓国政府の慌てぶりをみると、やはり韓国の外貨ポジションが常に危機的状況にあるというのは、あながち間違いではないのかもしれません。
なお、日韓スワップについては特設ページで関連リンクを張っていますので、どうかご参照ください。
日韓スワップ等に関する関連記事
日本の安全保障上の最大脅威は中国なのだが…
ところで、現在の日本にとっての軍事的な脅威の筆頭格は、日本領である尖閣諸島を奪い取ろうとしている中国です。中国は尖閣諸島に飽き足らず、「日本には沖縄の領有権がない」などと主張している始末です。
中華琉球特區籌委組織者擬入狀國際法庭 向日本索回釣魚島和琉球群島(2016年7月31日付 「博聞社」ウェブサイトより【中国語】)
それだけではありません。中国は台湾に対し、武力侵攻の意思を繰り返し表明しています。
中国「台湾武力統一、あきらめない」(2016/12/08 09:15付 東亜日報日本語版より)
さらに、南シナ海で強引な領有権主張を行い、周辺国と摩擦を起こしていることは、いまさら指摘するまでもありません。
その意味で、私の理解だと、現在の安倍政権が外交上の最優先課題としているのは、何といっても中国の軍事的暴発リスクへの対処です。そして、安倍政権は中国リスクの封じ込めを優先し、対米・対露関係の大幅な強化に乗り出しています。私は、こうした安倍政権による外交を高く評価しています。
(なお、日露関係についての私の考えについては『日露首脳会談は日本にとって大成功』にまとめておりますので、是非ご参照ください。)
また、事実上の「中国の飼い犬」である北朝鮮が、しばしば核実験やミサイル開発で、中国を除く周辺国に不安を与えている点についても見逃せません。こうした「北朝鮮ファクター」も、日韓関係を不安なもののさせているのです。
日韓関係の先行き
中国や北朝鮮による軍事的暴発リスクが高まっていることは事実であり、韓国は日本と同じ「自由民主主義・法治主義国家陣営」に属しているはずの国ですから、可能であるならば、日韓軍事協力が行われることが望ましいことは言うまでもありません。ただし、これはあくまで、「可能であるならば」、という話です。
現実には、韓国は様々な理由を付けて、日本に謝罪や賠償を要求してきています。最近では、朝日新聞社と植村隆が捏造した「慰安婦問題」に乗っかって日本を糾弾して来ていますし、古くは靖国神社への首相や閣僚の参拝、歴史教科書問題などを巡り、中国とタッグを組んで「外交問題」化して来たのです。
私の記憶では、1980年代から90年代にかけては、
「日本が謝って済むのなら、韓国に謝ってしまえば良いではないか」
とする論調が、酷い場合は保守派の論客らの間ですら主張されていました。
しかし、私に言わせるならば、そもそも「日本に謝罪と賠償を求めてくる」国に、日本の「同盟国」となる資格などありません。
現実問題として中国や北朝鮮という軍事的リスクが存在するため、現在でも、「日韓断交は非現実的だ」とする意見があることは承知しているのですが、それを踏まえたうえで、やはり日本としては、韓国に「日本の同盟国としての資格」があるのかないのか、しっかりと決定しておかねばなりません。
一昨年の慰安婦合意の意味とは?
実は、安倍政権自身も、対韓外交観が揺らいでいるように見えるのです。その意味では、やはり2015年12月の「日韓慰安婦合意」について触れておかないわけにはいきません。
この合意には2つの意味があります。短期的には、「日韓関係を安定させ、米日韓軍事協力を可能にするための日本側の譲歩」という意味があり、これにより確かに朴槿恵(ぼく・きんけい)政権による反日外交は鳴りをひそめました。その点からすれば、私は慰安婦合意に「短期的な意味」はあったと見ています。
しかし、中・長期的には、「過去の日本がやってもいない『強制連行という人道上の犯罪』をやったことにしたこと」、つまり日本人の名誉を韓国に売り渡した行為であり、日本人の1人として、こうした行為は、時の政権による政治判断としてはあまりにも軽率過ぎると考えざるを得ません。
あの「外交オンチ」のオバマ政権から突きつけられた理不尽な要求であるとはいえ、過去・現在・将来全ての日本人の名誉を、短期的な日韓関係改善のために犠牲にしたことは、到底許されない行為です。
これからの日韓関係を考える
追加制裁措置はあるのか?
ところで、韓国に対する日本政府の「当面の措置」発動から1週間あまりが過ぎました。繰り返しになりますが、「日韓スワップの中止」措置を除けば、今回の安倍政権による措置は、「対韓制裁」としてはいかにも生ぬるく、中途半端です。
ただ、私はこれまで、安倍政権の対韓外交には大きな問題があると考えていましたが、今回の措置がこれまでの「失点」を取り返すきっかけになると考えるのは性急です。それに、米国で1月20日に政権交代が行われるというタイミングであるため、日本政府としては当面、これ以上の「追加制裁」を発動することはないと考えています。せいぜい、長嶺大使の韓国帰任がずれ込むくらいでしょうか?
ただ、一昨年の「日韓慰安婦合意」は、日本人の名誉を傷つける、「取り返しのつかない政治判断」でしたが、これに対して韓国側から良い動きも出ています。それは、現在の韓国政界で、一昨年の「日韓慰安婦合意」を破棄し、再度、日本と交渉しようとする動きが出ていることです。ただ、これまでの日韓関係と異なり、一昨年の慰安婦合意は米国を事実上の「保証人」として成立したものであり、韓国側から慰安婦合意を破棄すれば、米国が本当に韓国を「見捨てる」きっかけになるかもしれません。
そして、恐ろしいことに、現在職務停止中にある朴槿恵大統領の後任者の有力候補らは、いずれも「日韓合意破棄」を政権公約に掲げています。私は以前、「潘基文(はん・きぶん)前国連事務総長はその例外だ」と申し上げてきましたが、昨日、驚くべきニュースが入ってきました。
潘基文氏「10億円は日本に返すべき…THAAD配備は支持」(1)(2017年01月13日07時49分付 中央日報日本語版より)
ついに潘基文氏までが立場を「日韓合意破棄」に変節させました。この人物、果たして自分が主張している内容の「意味」をわかっているのでしょうか?極めて疑問です。ただ、これにより、次期大統領の有力候補は、ほぼ全員が「日韓慰安婦合意の破棄」を主張しているということが確定してしまいました。
いずれにせよ、韓国の次期政権が「日韓慰安婦合意」を破棄すれば、「在韓米軍への高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備」、「日韓包括軍事情報保護協定(GSOMIA)」にも影響が及びかねません。この「3点セット」が崩れれば、少なくともトランプ政権下で米国が無理して米韓同盟を維持しようとするとは考えられませんし、米韓同盟が崩壊すれば、日韓関係も無事ではいられないでしょう。
リスクは軍事クーデター
私は、日韓関係を巡っては、基本的に「放置と管理」が鉄則だと考えています。少なくとも現在の民主主義に基づく韓国政府には、対外的な約束すら満足に守れませんし、放っておけば米韓同盟も破棄され、国家運営にすら窮してしまうことは間違いないからです。その意味で、今後、日本政府が日韓慰安婦合意のような「日本人の名誉を売り渡す合意」をすることがないようにしてほしいと、強く願います。
一つのリスク・シナリオがあるとすれば、韓国で軍部が蜂起し、憲政を停止して権力を握ることです。この場合、当然、韓国軍に対して国際的な非難は生じるでしょう。ただ、「民主主義国の政府は民度を超えることができない」といわれますが、軍事独裁政権が成立すれば、低くない確率で米韓同盟が維持されるでしょう。
いずれにせよ、これからの日韓関係については、まだ当面、目が離せない展開が続きそうです。