今回の日露首脳会談は日本にとって大成功

15日から2日間の日露首脳会談は、少なくとも日本から見て「現状で考える限り完璧な成果を上げた」と考えて良いでしょう。というのも、領土問題、経済協力問題、対中牽制のすべてにおいて、私が考える「最善の結果」となったからです。本日は、私がこのように考える理由について説明したいと思います。

本日の要約

ロシアのウラジミル・プーチン大統領は、12月15日(木)・16日(金)の日程で訪日し、初日は安倍晋三総理大臣の地元である山口県長門市の温泉で会談。翌日は東京に移動し、首相官邸などで協議を続けました。

結論的には、北方領土の二島返還には合意せず、また、注目されていた経済協力についても、安倍総理が今年9月時点で示していた「8項目の経済協力」や、先日明らかになった「JBICなどを通じた経済協力基金の創設」などと比べて、それほど踏み込んだ成果が出たとは言い辛い状況です。

ただ、私自身が先日、『「プーチン訪日」、進展なくても問題なし』の中でも議論したとおり、もともと現段階で領土問題を解決するにはかなりの無理がありましたし、また、現段階で無理に「領土問題の解決」を図る必要もありません。さらに、必ずしも「法治」が期待できる国とはいえない以上、ロシアがビジネスパートナーとして最適とも言い難いのが実情です。

したがって、「安倍総理とプーチン大統領が一緒に酒でも酌み交わして仲良くなり、領土問題や平和条約問題は中長期的課題としつつ、形の上で中国を牽制することができるくらいの経済協力合意ができれば十分だ」と申し上げたのですが、現実には、私が考えていた「理想的な内容」に、ほぼ近い形で決着したといえます。

※15:30追記

自分自身で読み返してみて、補足が必要かと思い、一部追記します。

本日の記事は、「安倍政権のことを無批判に肯定する」という目的の記事ではありません。私は、安倍政権が主に外交分野を中心に、歴代政権と比べても顕著な成果を上げていると考えていますが、それと同時に昨年冬の「日韓慰安婦合意」など、私個人としては到底、受け入れられないようなことも行っています。ただ、今回の「プーチン訪日」については、私なりに考察した結果、「日本から見て大成功だったと言って良い」、ということです。

以上、「追記」でした。

プーチン訪日の概要

「プーチン訪日」について議論する前に、まずは、日本の主要なメディアが「プーチン訪日」をどう報じたかについて、朝日、毎日、読売の三紙をサンプルに、簡単に振り返っておきましょう。

相変わらずピントがずれまくっている左翼メディアの社説

「従軍慰安婦問題を捏造した新聞」である「朝日新聞」や、政権に批判的なスタンスで知られる「毎日新聞」は、今回の日露会談について極めて批判的です。一方、比較的「政権寄り」(?)とされる読売新聞は、「領土解決への重要な発射台」などと論じています。

日ロ、共同経済活動協議入りへ 署名なしの「共同文書」(2016年12月16日13時19分付 朝日新聞デジタルより)
「領土、議論余地ない」 プーチン氏の真意読み違えた?(2016年12月16日07時26分付 朝日新聞デジタルより)
日露首脳会談 領土解決ほど遠く(2016年12月17日付 毎日新聞デジタルより)
社説 日露首脳会談 「領土」解決へ重要な発射台だ(2016年12月17日 06時11分付 読売新聞より)

朝日新聞や毎日新聞の報道は、「プーチン訪日で領土問題などの目立った成果がなかった」と強く印象付けるタイトルですが、読売新聞は「今回の会談が領土問題解決への発射台として重要だ」と主張しています。

この中でみれば、特に毎日新聞の「領土解決ほど遠く」などという記事は、全く実態の分析をしていないと言わざるを得ず、やはりこの新聞が極めて低レベルであるとの疑いを抱くのに十分です。また、朝日新聞も、「安倍総理の失態」を演じようとして必死になっているように見受けられます。一方、比較的、首相官邸の意図を正確に報じているのは読売新聞です。ただ、私に言わせれば、読売新聞も「領土問題」にかなりの力点を置いており、若干ピント外れの感も否めません。

これらのメディアの報道を見ていると、今回の「プーチン訪日」の「目的」に関する既存メディアの認識が、最初からズレているのではないかとも思えます。というのも、別に今回の「プーチン訪日」は、日露双方ともに、「北方領土問題の解決」を主目的としたものではないからです。

というわけで、今回のプーチン訪日に「成果」があったのかどうかを検討するうえでは、マス・メディアのバイアスの係った「ニュース」ではなく、「一次ソース」をその出発点にした方がよさそうです。

首相官邸ウェブサイトより「一次ソース」

首相官邸ウェブサイトには、12月16日に行われた安倍総理とプーチン大統領の「共同記者会見」の模様が、昨日までにアップロードされています。

平成28年12月16日 日露共同記者会見(首相官邸ウェブサイトより)

リンク先には「政府インターネットテレビ」の映像・音声に加え、安倍総理の冒頭発言については文字での書き起こしが掲載されています。ただし、プーチン大統領の発言については記載されていないので、内容を確認するためには、やはり音声(同時通訳)を確認する必要がありますので、視聴される方はこの点にご注意ください。

ところで、安倍総理の発言は、長い割にそれほど耳目を引く点はありません。しかし、プーチン大統領は、いくつか非常に重要なことに言及しています。ここで、共同記者会見の内容に関して、私の文責で要点を抽出しておきましょう。

安倍総理側の冒頭発言
  • 「北方四島で共同経済活動を行うための『特別な制度』について交渉を開始することで合意」
  • 「8項目の経済協力プランに関連し、たくさんの日露協力プロジェクトが合意された」
  • 「戦後71年を経て依然として平和条約が存在しない異常な状態に、私たちの手で終止符を打つという強い決意を確認した」
プーチン大統領側の冒頭発言
  • 「日本との貿易・投資関係全般について引き続き協議を続けたい」
  • 「日露関係を真のパートナーシップにまで高めるためにはまだまだやることがたくさんある」
  • 「経済面では日露貿易高が落ち込んでいるが、これには為替相場だけでなく、対ロシア制裁の影響も感じられる」
  • 「日本からJBICなどの支援により、10億ドル規模の基金が作られ、さらにエネルギー、産業、農業、医療、保険、インフラ投資、中小企業支援、人道交流などに及ぶ大規模な共同作業計画が策定されたが、特に戦略的協力基盤を作るのはエネルギー分野であろう」
  • 「両国民にとっても、また両国の戦略面でも受け入れができるよう、日露関係を全面的に拡大し、相互理解を拡大すべき」
  • 「南クリルでの共同開発という安倍総理の考えを支持する」

四島どころか二島すら返らないのだが…?

私はこの会見の様子を視聴して、第一印象として、「安倍総理のプーチン大統領に対する一方的な求愛(?)が空回りした」、と感じました。共同記者会見では、安倍総理がしきりに「ウラジーミル」と親しげに呼びかけていたのに、プーチン氏は安倍総理を「シンゾー」などと呼ばずに「総理大臣閣下」と呼びかけていたからです。

これだけを見ると、安倍総理がプーチン大統領を「ファーストネーム」で呼ぶほど仲良くなろうと努力している割に、プーチン氏はそこまで安倍総理と親しくしようとはしていないようにも思えます。つまり、安倍総理がプーチン大統領に対して、一種の「片想い」のような状況になっているのです。

また、事前に「日本側から期待されていた二島返還」については合意すらされず、よくわからない経済協力で「お茶を濁した」ような印象すら受けます。つまり、表面上は、冒頭に紹介した「毎日新聞」の主張する「領土問題解決にほど遠い」という状況にあるようにも見えてしまうのです。

つまり、

  • 日本側が熱望していた北方領土返還については、四島どころか二島返還すら実現しなかった
  • 経済協力については、ロシア側が熱望していた経済制裁解除は実現せず、JBICの1000億ドル基金を除けば、抽象的・曖昧な「経済協力」のメニューがやたらと列挙されただけに過ぎない

というもので、結局、今回の訪日は、安倍氏とプーチン氏が「一緒に温泉で酒を飲んだだけ」で終わった格好だと言われても仕方がありません。

では、今回の「プーチン訪日」は失敗だったのでしょうか?言い換えれば、安倍総理は「外交で大失態を演じた」のでしょうか?

今回のプーチン訪日、百点満点だ

結論から申し上げます。今回の「プーチン訪日」は、ほぼ文句の付け所がない「大成功」だったと言って良いと思います。なぜなら、性急な「北方領土二島返還と引き換えの巨額な経済協力」という、私が一番恐れていた結論にはならなかったからです。

結論的には「現状で満点の成果」

古今東西、外交の目的は、次の二つしかありません。

  • 軍事的安全
  • 経済的利益

プーチン氏はロシアの、安倍氏は日本の、それぞれ「軍事的安全」と「経済的利益」を追求する立場にあります。「石油・天然ガス輸出」という「モノカルチャー経済」であるロシアにとっての死活問題は、ウクライナ問題を巡る経済制裁の解除です。一方、日本にとっての重要な問題は、南シナ海や東シナ海で横暴にふるまう中国リスクの封じ込めです。

プーチン氏が訪日する直前に執筆した『「プーチン訪日」、進展なくても問題なし』の中で、私は『北方領土を「目的」にするな!』と申し上げましたが、これは、「北方領土返還のために無限のコストを払うようなことをするな」と主張したものです。そして、北方領土問題や平和条約締結問題は「とりあえず棚上げ」としつつ、限定的であったとしても、経済協力を実現させることを優先すべきだ、と主張しました。

手前味噌ですが、今回の日露首脳会談では、私が主張した内容とほとんど変わらない結論となりました。ひとまずは安心です。

北方領土問題は棚上げが大事

繰り返しですが、外交の目的は「軍事的安全」「経済的利益」の二つです。

「宗主国」と「属国」の関係ならいざ知らず、対等な国同士が外交交渉で一致できるとしたら、「相互に利益をもたらす点」だけです。この点、北方領土はロシアから見て、貴重な「不凍港」という「戦略的要衝」です。これを日本に引き渡すとなれば、それと引き換えによっぽどの利益が得られなければなりません。

つまり、口を開けば「北方領土」と言い募る日本側に対し、ロシア側もいい加減、ウンザリしているのが実情です。

そして、ロシアにとっても、別に日本に北方領土を返す必要などありません。なぜなら、日本は「日本国憲法」第9条第2項において、「外国相手の交戦権」を禁止しているからであり、ロシアが北方領土を返さなかったからといって日本からロシアに攻め込まれるという心配をする必要はないからです。つまり、現時点ではロシアにとって日本が軍事的な脅威ではない、ということです。

もちろん、ロシアにとっては、日本からの経済協力が欲しいという事情もあります。しかし、現在のロシアが西側諸国から経済制裁を受けているとはいえ、「虎の子」の領土を渡さなければならないというほど、苦しい状況ではありません。さらに、来年1月にアメリカのオバマ大統領が退任し、トランプ大統領が就任すれば、経済制裁も解除されるかもしれないという期待感もあります。このため、現段階ではなおさら、ロシアから日本に「譲歩」する必要などなかったのです。

その意味で、「経済協力と引き換えに北方領土返還を実現する」という構想には、最初から無理があったのです。

しかし、中・長期的に見ると、話は変わって来ます。なぜなら、現在のロシアはプーチン大統領という有能で「強面の」指導者が君臨していますが、プーチン大統領もいずれ退任します。さらに、ロシアは資源輸出に依存した、典型的な「モノカルチャー経済」ですが、人口減少も続いており、将来的にも「経済大国」になるとは考え辛いからです。

一方の日本は、圧倒的な資本・技術の蓄積があり、しかも「アベノミクス」により、少しずつ経済も成長軌道に乗っています。さらに、近い将来、憲法9条第2項の撤廃に成功すれば、「世界最強クラスの日本軍」を復活させることができるでしょう(私は少なくとも、そう信じています)。そして、経済的にも軍事的にも「強国」となった将来の日本が、人口減少と経済的苦境に悩む将来のロシアと、再び北方領土問題で協議の場に着けば、少なくとも日本にとって、現時点よりもかなり有利な結論が得られるに違いありません。

したがって、北方領土問題(や平和条約問題)については無理な解決を急がず、棚上げ・先送りを目指すべきでした。そして、今回の首脳会談では、少なくとも「莫大な経済協力と引き換えに北方領土の二島返還で決着」という、日本にとって非常に不利な結論に終わらず、「人道上の理由で北方四島における共同経済活動」という、「実質的な棚上げ」で終わりました。私は、この結論を歓迎したいと思います。

プーチン氏から「エネルギー」発言引き出した安倍氏の手腕

一方で、経済協力についても、めぼしい成果といえば、一見すると「1000億円規模の基金」くらいなものです。もちろん、「北方四島での共同経済活動」や「極東地域のインフラ・農業・医療などの協力」など、ある意味で「象徴的な」プロジェクトでの合意は行われましたが、実質的には「1000億円基金」構想を除けば、目に見える成果はほぼゼロです。

ただし、プーチン氏が記者会見でも「日露両国はエネルギー分野で協力できる」と発言したことは、高く評価して良いでしょう。なぜなら、日露エネルギー協力が進めば、日本のエネルギーの中東依存度合を低下させることができる可能性があるからです。その意味で、プーチン氏の側から「エネルギー協力」の発言を引き出したことは、非常に大きな成果であるといえるでしょう。

私も、このプーチン氏の発言には深く共感します。というのも、シベリアにおける資源開発は、日本にとってエネルギー安保と対中牽制という「二つの目的」にも合致しているからです。そして、プーチン氏の口からそれを言わせた安倍氏の外交手腕は、非常に優れているといえるでしょう。

隠れた最大の目的・「対中牽制」は?

さて、『日本の軍事的安全・経済的発展を脅かす国』の中でも述べましたが、今回の「プーチン訪日」の、日本側からの「隠れた最大の目的」とは、「中国に対する牽制」にありました。これについては、実際のところ、どうだったのでしょうか?

手っ取り早くそれを検証するためには、中国の「新華網」(新華社が運営するウェブサイト)の報道を見るのが良いでしょう。そこで、次の二つの記事を紹介します。

日本の「ロシアを丸め込んで、中国を包囲する」画策は必然的に失敗に終わる(2016-12-16 16:35:01付 新華網日本語版より)
ロシアとの結束強調=安倍外交に批判も-中国(2016/12/16-17:43 時事通信より)

このうち新華網の記事については、タイトルだけで中国政府が焦りを感じていることがよくわかる記事です。

記事が公表された時刻は「共同記者会見」の最中ですが、おそらく翻訳の都合で、「プーチン訪日」前に執筆された記事でしょう。「新華網」は土曜日の時点で、この記事を目立つよう、ウェブサイトのトップに大々的に掲載していました。

また、時事通信の記事では、同じ新華社通信が日露会談後に、

「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」

「(安倍氏の)私益だけを求めた自分勝手な外交思考は、日本が隣国からの信頼を得ることを間違いなく困難にする。ただの一方的な妄想だ」

と批判したと述べています。

新華社は中国の国営メディアであり、いわば「中国共産党のマウスピース」です。これを読めば、中国共産党が、安倍・プーチン会談を相当に「警戒していた」ことがわかります。また、会談後の論評でも、「中露関係の土台を揺るがそうとした安倍・プーチン会談は失敗に終わった」と強調。図らずも、中国共産党が「何を警戒していた」かについて、自分でばらしてしまっている格好です。

中国が「安倍・プーチンの関係好転」を取り上げ、強く批判したという事実をもって、今回の「プーチン訪日」は「対中牽制」という意味からも大成功だったと見て良さそうです。というよりも、プーチン氏が訪日したという事実をもって、中国人民から見ても、日露関係の改善が明らかだからです。

その意味で、今回の日露首脳会談には、領土問題・経済協力問題などで目立った成果がほとんどなかった割には、中国を強く牽制するという「隠れた目的」についても、ほぼ完璧に達成することができたと言って良いでしょう。

これからが大事

私は、今回の「プーチン訪日」について、

  • 領土問題・平和条約問題の実質的棚上げで合意できた
  • 経済協力問題では中途半端であるとはいえ、日露双方が国内外に「成果を上げた」かに見えるだけの合意は形成できた
  • 対中牽制という意味では最大限の成果を上げることができた

という意味で、ほぼ満点だったと見ています。つまり、今回の日露首脳会談は、少なくとも日本にとっては現状で考えられる「最善の成果」を出したと考えて良いと思います。

ただ、本当に大切なのは「これからの行動」です。

安倍政権は日本の憲政史上でも例を見ないほどの「長期政権」となることが期待されます。一方、プーチン大統領も、まだ当面、ロシアの大統領として在任するでしょう。短期的に成果を上げることに汲々とするよりも、長期的な視座に立ち、どうやって日本の国益を最大化していくかについて考えていくことが重要です。

月並みな話ですが、安倍総理がこれから取り組まなければならないことは、第一に日米関係の強化と憲法第9条第2項の撤廃です。それと並行して国内の経済政策として、どこまで財務省を抑え込めるかが重要です。

「金融緩和一本足打法」には限界があります。黒田東彦総裁率いる日本銀行は、十分すぎるほどの金融緩和の成果を上げましたが、これからは財政政策が必要です。

日本がさらに経済発展し、自力国防を達成することにより、ロシアや中国を相手とする交渉力も格段に増えてきます。本当に重要なのは、これからの行動なのです。

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