<用語集>外貨準備と通貨スワップの関係
目次
外貨準備とは?
定義
外貨準備とは、中央政府や中央銀行が保有する、流動性(換金性)の高い外貨建資産のこと。
外貨準備の構成通貨
外貨準備の状況については、各国が国際通貨基金(IMF)に対して提出しているデータをもとに、IMFが「公式外貨準備統計(COFER)」の中で通貨別内訳を開示している(図表)。
図表 IMFのCOFER
通貨/区分 | 金額 | Aに対する比率 |
---|---|---|
米ドル | 4兆7598億ドル | 63.39% |
ユーロ | 1兆5150億ドル | 20.18% |
英ポンド | 3521億ドル | 4.69% |
日本円 | 3406億ドル | 4.54% |
加ドル | 1490億ドル | 1.98% |
豪ドル | 1430億ドル | 1.90% |
スイス・フラン | 215億ドル | 0.29% |
その他の通貨 | 2281億ドル | 3.04% |
小計(A) | 7兆5091億ドル | 100.00% |
内訳不明分 | 3兆4841億ドル | ― |
合計 | 10兆9931億ドル | ― |
【出所】「世界公式外貨準備構成」(World Currency Compositions of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)の2016年第Ⅱ四半期末の数値
このうち米ドルが占める比率が60%を超えており、この事実をもって「米ドルは世界の基軸通貨だ」と呼ばれることもあるが、他にもユーロ、英ポンド、日本円などが準備通貨として好まれている。また、政情が安定していることで知られるスイスの通貨「スイス・フラン」については、スイス自体のGDPの小ささなどもあり、わずか0.29%に留まる一方、加ドルや「資源国通貨」としても知られる豪ドルがそれぞれ2%近くに達している。なお、「その他の通貨」の内訳は不明。
外貨準備の要件
IMFが公表する「国際的準備金・外貨流動性データテンプレート・ガイドライン(INTERNATIONAL RESERVES AND FOREIGN CURRENCY LIQUIDITY GUIDELINES FOR A DATA TEMPLATE」P14には、各国がIMFに報告すべき資産の内訳が示されているが、「外貨準備」はこのI.A.部分に含まれる。
項目 | 原文 | 仮訳 |
---|---|---|
I.A. | official reserve assets | 公式準備資産 |
(1) Foreign currency reserves (a) Securities (b) Total currency and deposits | (1)外貨準備 (a) 有価証券 (b) 現金・預金合計 | |
(2) IMF reserve positions | (2)IMF準備資産 | |
(3) SDRs | (3)特別引出権 | |
(4) Gold | (4)金 | |
(5) Other reserve assets | (5)その他の準備資産 | |
I.B. | Other foreign currency assets | その他の外貨資産 |
II.~IV. | (略) |
このうち(1)(a)「有価証券」に含まれるものとしては、「上場株式・上場債券」などのうち、「高い流動性を持つもの」であって、「外国の主体が発行した外貨建ての証券」とされている。
79. Securities should include highly liquid, marketable equity and debt securities; liquid, marketable, long-term securities (such as 30-year U.S. Treasury bonds) are included. Securities not listed for public trading are, in principle, excluded unless such securities are deemed liquid enough to qualify as reserve assets.第79項 証券には高い流動性と換金可能性がある株式や債務証券が含まれなければならない;流動性があり、換金可能な長期債(例えば米国30年債)はこれに含まれる。上場されていない証券は原則としてここから除かれるが、準備資産として適格であるとみなされるほど流動性がある場合にはこの限りではない。
80. Only foreign currency securities issued by nonresident entities should be included in this item of the Reserves Data Template. (…以下略)
第80項 非居住者である主体が発行した外貨建証券のみがこの「準備資産データテンプレート」に含まれる。(…以下略)
「非上場」であっても「高い流動性がある」とみなされる例としては、日本国債(JGB)がその典型例であろう(著者私見)。また、「レポ」により調達した債券も、外貨準備に含まれる。さらに、IMFリザーブ・ポジションやSDRなども外貨準備に含まれる。
SDRについて
特別引出権(Special Drawing Right, SDR)とは、IMFが1969年に創設した準備通貨の仕組みの一つ。詳しくは当ウェブサイトの過去記事「SDRとは?」を参照されたい。
通貨スワップ協定とは?
国家間の通貨スワップ協定とは、国際協定の一種であり、主に通貨危機などが発生した際に、自国通貨を差し出すことで、外貨の融通を受けるもの。スワップ協定には「二国間スワップ協定」と「多国間スワップ協定」がある。
二国間スワップ協定(BSA)
二国間スワップ協定(BSA)とは、当事国同士で完結するスワップ協定をいう。BSAの種類としては、次の2つがある。
- 自国通貨同士の交換
- 自国通貨と国際的に通用する通貨(例えば米ドル)との交換
先進国同士のBSA
代表的なものとしては、米欧日英加にスイスを加えた6つの中央銀行が締結しているものがある。
- 米連邦準備制度(Federal Reserve, Fed)
- カナダ銀行(Bank of Canada, BOC)
- イングランド銀行(Bank of England, BOE)
- 日本銀行(Bank of Japan, BOJ)
- 欧州中央銀行(European Central Bank, ECB)
- スイス国立銀行(Swiss National Bank, SNB)
これら6つの中央銀行は、自国通貨を担保に相手国通貨を借り入れることができる。つまり、自国通貨を「刷る」ことで、事実上、必要とする通貨を入手することが可能である。
現在、先進国同士のスワップ協定は「常設」とされており、これらの中央銀行が自らの判断でいずれの通貨によっても流動性を供給することを可能にするものである。ちなみにこの6つのうち、4つはIMFのSDRを構成する「自由利用可能通貨」である。
なお、実際の「ドルとのスワップ」の残高はニューヨーク連銀(NY Fed)のウェブサイト “Federal Reserve Foreign Exchange Swap Agreements” などで確認できるが、当記事執筆時点において最も多額のドルを借りている銀行は欧州中央銀行(ECB)である。
先進国と発展途上国のBSA
一方、先進国が発展途上国と締結するBSAは、一方的に発展途上国を「支援する」という側面が強い。
当記事執筆時点において、日本はインド、インドネシア、フィリピン、シンガポールの四カ国とスワップを締結しているが、このうちインドネシアについては「日本からの一方的支援」である。
相手国 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
日本⇔インド | 500億ドル | 自国通貨と米ドルの交換 |
インド⇒日本 | ||
日本⇒インドネシア | 227.6億ドル | 自国通貨と米ドルの交換 |
日本⇒フィリピン | 120億ドル | 自国通貨と米ドルの交換 |
フィリピン⇒日本 | 5億ドル | |
日本⇒シンガポール | 30億ドル | 自国通貨と米ドルの交換 |
シンガポール⇒日本 | 10億ドル |
(【出所】財務省ウェブサイト「アジア諸国との二国間通貨スワップ取極」及び「日印スワップ」)
発展途上国同士のBSA
発展途上国同士、あるいは「ソフト・カレンシー国」同士がBSAを締結することもあるが、たとえば韓国の場合、次の5カ国とスワップを契約している。
当事国 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
中国⇔韓国 | 3600億元/64兆ウォン | 自国通貨同士の交換 |
インドネシア⇔韓国 | 115兆インドネシアルピア/10兆7000億ウォン | 自国通貨同士の交換 |
豪州⇔韓国 | 50億豪ドル/5兆ウォン | 自国通貨同士の交換 |
UAE⇔韓国 | 200億ディルハム/5兆8000億ウォン | 自国通貨同士の交換 |
マレーシア⇔韓国 | 150億リンギット/5兆ウォン | 自国通貨同士の交換 |
しかし、韓国がスワップ契約を締結している相手は、豪州を除けばいずれも「ソフト・カレンシー国」ばかりであり、通貨危機時の通貨防衛に使える実効性のあるスワップではない。
多国間スワップ協定(MSA)
多国間スワップ協定(MSA)とは、多国間のスワップ協定であり、その代表的なものは「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化協定」(CMIM)がある。
参加国 | 拠出額 | 引出可能額 |
---|---|---|
日本 | 768億ドル | 384億ドル |
中国(※香港含む) | 768億ドル | 405億ドル |
韓国 | 384億ドル | 384億ドル |
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン | 各91.04億ドル | 各227.6億ドル |
ベトナム | 20億ドル | 100億ドル |
カンボジア | 2.4億ドル | 12億ドル |
ミャンマー | 1.2億ドル | 6億ドル |
ブルネイ、ラオス | 各0.6億ドル | 各3億ドル |
(【出所】財務省・2014年7月17日付「別添2」)
これは、各国が応分の金額を拠出する代わりに、危機時にCMIM参加国から米ドルを引き出す権利を得る、という仕組みである。ただし、原則として、引出可能額の30%を超えて資金を引き出すと、IMFが介入してくる(いわゆるIMFデリンク・ルール)。
外貨準備と通貨スワップの関係
外貨準備とは、ダイレクトにその国が利用可能な外貨であり、たとえば自国通貨が売り浴びせられた時に、「通貨防衛」として市場から自国通貨を買い入れる際に外貨売り介入を行う原資となる。また、通貨スワップとは、通貨危機が発生し、外貨準備が足りなくなった場合などに備えて、自国通貨を担保に外貨を借り入れる契約である。その意味で、外貨準備も通貨スワップも、「通貨危機に備えて準備するもの」という性質があるという共通点がある。
ただし、通貨スワップについては、米国や日本、英国などのようなハード・カレンシー国(かつ双方向での通貨スワップ契約を締結している国)にとっては協調的な市場調節機能として使われるが、発展途上国・新興市場諸国のように外貨ポジションが脆弱な国の場合、一方的な金融支援としての側面が強くなる点には注意が必要であろう。
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本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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またしても、韓国の外貨準備高が増えているという
Wonderなことが発表されているのですが、一体
どういうことなんでしょうか?
ここ2年ばかり、マクロ経済の勉教のため
韓国経済を追ってきましたが、理解不能なことばかりです。
1ヶ月前には現代の車が最高の車に選出と報道されたのに、
昨日は、現代、大宇、経営危機
お手間でしょうが、解説をお願いできませんでしょうか?
韓国の外貨準備高は、ドル安になると増えるようです。
これは、ドル以外(ユーロ、円、?)の金融資産が多い事を示しているように思われます。
日本は圧倒的にドル資産が多い点と比較すると、かなり異常ですね。
ブログ主がコメントされているように、換金性がないドル以外の金融資産を多数保有しているのかもしれません(不良債権?)。