予定では本日(27日)、麻生太郎副総理兼財相が訪韓し、日韓財相会談を行います。これについて、おもに韓国側のメディアが、「日韓通貨スワップ協定の再開」に期待を寄せていますが、本日はこれについて考察しておきたいと思います。私自身は日韓通貨スワップの再開の可能性は高くなく、やるとしても朴槿恵(ぼく・きんけい)政権の任期が切れる2018年2月頃までの期間限定にすべきだと考えています。ただ、日韓関係全般にいえることは、安倍政権が国民に対する説明責任を果たしていないという点です。本日は、これについて、私自身の考えをまとめてみました。
目次
通貨スワップとは「通貨の交換」
本論に入る前に、議論の前提です。「通貨スワップ協定」とは何でしょうか?
民間金融機関の間では、「通貨スワップ」(Cross Currency Swaps)とは、カウンターパーティ間で一定期間、相互に通貨を交換することを契約するもので、デリバティブの一種です。たとえば「5年間のドル円(USD-JPY)直先フラット型ベーシス・スワップ」の場合、カウンターパーティAとカウンターパーティBが、本日のスポットレート(2営業日後受渡の為替相場)でドルと円を交換し、5年後に同一レートで反対売買を行うことをあらかじめ契約してしまうものです。通常、スワップ契約期間中は、ドルを借りている方が相手方に「3か月ドルLibor金利」を支払い、相手方から「3か月円Libor金利」を受け取る、というもので、現在は「ドルの調達ニーズが強すぎる」ためでしょうか、「ドル・円ベーシス」がかつてないほど開いているのが実情です。
ただ、この話は本日の「国家間・中央銀行間のスワップ契約」とは直接の官憲はありませんので、省略します(ただしベーシスが開いているということは、世界的にドル供給が逼迫しているという間接的な証拠ですが…)。
国家間(あるいは中央銀行間)の通貨スワップは、多くの場合、「EM通貨」(EM=Emerging Markets、すなわち「新興市場」諸国)と「ハード・カレンシー」の交換です。そして、その目的は、そのEM通貨の「信用補完」にあります。
もちろん、「ハード・カレンシー国」の中央銀行同士でもスワップは存在しています。たとえば日本銀行を含めた世界の主要中央銀行(米FRB、ECB、スイスのSNB、英BOE、カナダBOCなど)は、リーマン・ショックの直後には、世界的なドル需要の高まりに備え、相互に無制限で通貨を供給し合う契約を締結しました。しかし、基本的に「ハード・カレンシー」同士の場合、通貨スワップ協定はあくまでも「国際的な市場の安定」にありますから、日米欧英加などの先進国同士のスワップは、日本とEM諸国とのスワップと、目的が全く異なると考えて良いでしょう。
喉から手が出るほど外貨が欲しい
前置きが長くなりましたが、日韓通貨スワップ協定とは、韓国にとっては「外貨準備」と並び、対外的な資本流出が発生したときの備えとして機能します。経済の対中傾斜を強め過ぎた韓国が、中国経済の成長鈍化の影響を、日本よりも遥かに強く受けていることは想像に難くありません。しかし、それだけではありません。韓国の通貨「ウォン」(KRW)は、国際的な商取引には不向きな通貨(つまりソフト・カレンシー)です。
もし外資系企業・投資ファンド等が韓国への証券投資等の投資資金を売却した場合、これらの企業・ファンド勢は株式や債券を韓国の証券市場で売却し、ウォンを外貨に交換して国外に引き揚げてしまいます。したがって、「トリプル安」(株安、債券安=金利上昇、通貨安)が同時に発生することでも知られており、「トリプル安」となれば外国人が「韓国への投資を引き揚げている証拠」となります。
得てして、これらの資金は「投機性」を持っていますから、流動性の高い株式や債券への外国人投資残高が高ければ高いほど、その国の資本構造は脆弱です。韓国の場合、自国通貨の「ハード・カレンシー化」の努力を怠ってきたっため、ここに来て外貨不足におびえる状況でもあるのでしょう。
日韓通貨スワップの政治的意味
もちろん、日本としては、近隣諸国と友好関係を結ぶに越したことはありません。そして、韓国は隣国であり、万が一、アジア通貨危機やリーマン・ショックのような危機が再来したとして、韓国が投機筋の攻撃を受けたならば、韓国と貿易をしている企業にも韓国向けの売掛債権が回収不能になるなどの被害が生じます。さらに、日本の資本市場で債券を調達する韓国の銀行や企業も多いのが実情です。その意味で、韓国に金融危機が発生したら、少なからぬ日本の企業や銀行に貸倒損失や債券の減損などの被害が発生します。実は、韓国政府が「日韓通貨スワップは日本にもメリットがある」と主張する論拠は、ここにあるのです。
ただ、日本は自由主義国ですから、韓国企業の債券を購入しようが、韓国企業と商取引を行おうが、それはそれぞれの日本企業が「韓国というカントリー・リスク」を取っているに過ぎません。韓国と通貨スワップ協定を締結していたとして、韓国ウォンと引き換えに提供される日本円や米ドルが結果的に返ってこなかったとすれば、それは最終的に日本国民の損失となります。この理屈だと、いわば「韓国に投資している日本企業を国費で救済している」のと同じです。したがって、韓国政府側の「日韓通貨スワップ協定は日本にもメリットがある」とする主張には、私としては全く同意できません。
それよりもむしろ、仮に日本が韓国との間で通貨スワップ協定を締結してやるとすれば、第一義的にそれは韓国を救済するためです。言い換えれば、日韓通貨スワップとは「日本国民の負担で韓国を救済してやる」という代物です。このことをまずしっかりと理解しておくことが重要です。
通常の国であれば、その国の政府も国民も、「わが国が危ない時に日本が通貨スワップで助けてくれた」と「感謝」してくれます。そして、国際社会で日本のことを「日本のおかげで助かった」と宣伝してくれます。究極的には、軍事的にも経済的にも、日本の味方になってくれるかもしれません。日本国民の税金を使う以上、タダで他国を救済するのではなく、「何らかのメリット」がなければならないのは当然のことでしょう。しかし、韓国は通常の国と異なり、国際社会で反日行為に明け暮れています。「虚偽の慰安婦像」を世界各地で建立し続けているのがその一例です。
「日韓通貨スワップ協定を締結することで韓国が金融危機を免れ、経済的に生きながらえた韓国が、日本を貶める「慰安婦像」を建立し続ける。これによって日本の名誉が世界中で傷つけられる。」
こんなことになってしまったら、元も子もありません。
安倍政権は「日本国民に」説明せよ
もちろん、昨年冬の「従軍慰安婦合意」のように、安倍政権が「高度な政治的判断として」韓国に譲歩する形で何らかの合意を締結することは、ある意味で仕方がありません。
日韓通貨スワップの場合、たとえば朴槿恵(ぼく・きんけい)政権が任期満了を迎える2018年2月頃までの期間限定で締結してやれば、結果的に朴政権だけでなく、次期政権の反日を防ぐなどの効果が期待できます。なぜなら、「前任の朴政権が残した日韓合意を反故にするならば、通貨スワップ協定を撤回する」と脅すことができるからです。
ただ、こうした行為は「政治的・外交的には有効」かもしれないにせよ、やはり私は、日韓通貨スワップ協定の再開は基本的に、「日本国民に対する背任行為」だと考えます。もちろん、どこの国と通貨スワップ協定を締結するかを含めた「政治的な判断」を行う権限は安倍政権にありますが、だからといって日本国民を不安にさせるような行為を行うべきではありません。
もちろん、一般論で言えば、日韓関係も「悪い」よりは「良い」ほうが望ましいに違いありません。しかし、だからといって、日韓友好は「日本国民の一方的な忍耐」を前提としたものであって良いはずはないのです。
日韓関係に限定して言うならば、他にも島根県竹島を韓国が不法占拠している問題、日本大使館前の慰安婦像が撤去すらされていない状況で韓国に「事実上の損害賠償金」である10億円を支払った問題、そもそも朝日新聞社と植村隆の捏造だと判明している慰安婦問題を正面から否定していない問題など、日韓関係を巡っては、安倍政権は日本国民に対する説明責任を一切果たしていません。
私個人的には、昨年の「慰安婦合意」についても、安倍政権が敢えて竹島問題を放置している点についても、「安倍総理なりのご判断があるに違いない」と(敢えて肯定的に)見るようにしているのですが、圧倒的多数の国民の目には、安倍政権が対韓融和的であるようにしか見えないのです。いずれにせよ、安倍総理は昨年12月の「慰安婦日韓合意」の真意について、いまだに日本国民に対し、ご自身の口で説明をしていません。日韓スワップラインの再開を政治決断するということであれば、まずはその前に、日韓合意の意味を、きちんと国民に説明する責任が、安倍政権にあるのです。
2016/10/14追記:もっと読みたい方は…
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