国際収支のトリレンマとは?
自国のインフレ率や失業率などにあわせて独立の金融政策を採用することが本来ならば望ましい。しかし、周辺の国が低金利なのに、自分の国だけ高金利にしてしまうと、自分の国に投機資金が殺到してしまい、自国通貨の為替相場が切り上がり、輸出競争力が落ちてしまう。係る状況で為替相場が切り上がることを防ぐためには、資本移動の自由に制限を掛けることが必要である。しかし、どの国にとっても、外国からの投資は歓迎されるし、資本が国境を越えて自由に行き来できる状況の方が経済的に発展することは間違いない。そこで、為替相場の安定を確保したまま資本移動の自由を認めるためには、自分の国だけ高金利になるという状況を防がねばならず、自国の実情に応じた独立の金融政策を断念するしかない。
つまり、「資本移動の自由」「金融政策の独立」「為替相場の安定」という三つの政策目標は、三つ同時に達成することができない。これを「国際収支のトリレンマ」と呼ぶ。
達成する目標 | 放棄する目標 | 説明 |
---|---|---|
パターン① 資本移動の自由 金融政策の独立 | 為替相場の安定 | 独自の金融政策を採用し、資本移動が自由であれば、為替相場を安定させることはできない |
パターン② 資本移動の自由 為替相場の安定 | 金融政策の独立 | 固定相場制のもとで資本移動の自由を認める場合、金融政策の独立を放棄しなければならない |
パターン③ 金融政策の独立 為替相場の安定 | 資本移動の自由 | 固定相場制のもとで金融政策の独立を達成したければ、資本移動に制限を加えることが必要 |
各国の実情
- 【パターン①】日本、米国、英国などは、先進国であるとともに経済大国でもあるため、資本移動の自由と金融政策の独立を重視し、その代わりに為替相場の安定を放棄している。
- 【パターン②】ドイツ、フランス、イタリアなどの欧州各国は、ユーロという共通通貨を導入し、ユーロ圏の域内で資本移動の自由を認めつつ、為替変動が生じることを排除する代わりに、各国が独自の金融政策を採用することを断念している。
- 【パターン②】デンマーク、香港、シンガポールなどは、先進国であるものの小国であり、自由な資本移動と為替相場の安定を確保する観点から、自らの独立の金融政策を放棄せざるを得なくなっている。
- 【パターン③】中国をはじめとする主な新興市場(EM)諸国は資本移動の自由に厳しい制限を掛けており、これにより金融政策の独立と為替相場の安定を確保している。
- 【例外】スイスの場合、もともとは資本移動の自由と金融政策の安定を重視していたが、ユーロという「巨人」に直面し、為替相場の安定、金融政策の独立が同時に損なわれてしまっている。
なお、「国際的なハード・カレンシー」として認められるためには、少なくとも資本移動の自由は認められていなければならない。その意味で、国際通貨基金(IMF)が特別引出権(SDR)の構成通貨として人民元(RMB/CNY/CNH)を含めてしまったことは、IMFとしての致命的なミスであると言わざるを得ない。
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