米財務省、中国を為替操作国に認定
最近、「速報」ばかりですが、本日も非常に重要なニュースがあります。米財務省は現地時間の5日、中国を正式に「為替操作国」に認定しました。米財務省は現時点で中国に対する具体的な制裁措置を発表しているわけではありませんが、IMFと協力して中国に為替操作状態の是正を求めるなどとしています。このような文脈から考えていくと、今回の措置を契機に、そもそも同じ通貨なのにオンショア/オフショアの2つの市場を分断されたまま放置しているような通貨をSDRに組み入れ続けるべきなのか、といった議論が巻き起こることも期待したいところです。
中国は明らかに為替操作国
当ウェブサイトでは、開設したときからの一貫した持論として、「中国は実質的に為替操作国だ」と申し上げて来ました。
また、2015年に施行された米国の「貿易促進・強制法」(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)に基づく為替監視レポートの話題などについても、随時取り上げて来ました(たとえば『「日本が為替監視対象国」報道の真相』などをご参照ください)。
実際、為替相場を眺めてみると、人民元は明らかに2005年まで1ドル≒8.3元で固定(ペッグ)されていましたし、その後は「管理フロート制」に移行し、ある程度マーケットメカニズムに委ねるとしながらも、実質的には中国人民銀行による恣意的な運用が続いて来ました。
もちろん、中国当局の言い分としては、「市場の急変を避けつつも、市場実勢を見ながら為替レートを決めているので、わが国は為替操作国ではない」、といったものでしょうが、中国の変動相場制は、私たち先進国がイメージする「変動相場制」とは似ても似つかぬものであることは間違いありません。
ただ、米国としてはこれまで、中国を公然と「為替操作国」と認定することを避けてきたフシがあります。たとえば2016年10月の『為替監視レポート』を読んでも、中国経済については、次の問題点が指摘されていました。
- 中国は米国との間で巨額の貿易黒字を抱えている
- 中国経済にはより一層の改革や家計消費の促進が必要だ
- 必要に応じて内需喚起政策が必要だ
しかし、このレポートの記載は非常に回りくどくて、ハッキリ言えば「何を言っているのかわからない」という酷い代物です。やはり、バラク・オバマ政権下の米国は、中国に対して物申すことができなかった、というのが実情ではないかと思います。
米財務省、中国を「為替操作国」認定
ところが、「明らかな為替操作国であるにもかかわらず、中国を為替操作国認定しない」という米国の曖昧な政策は、突如としてピリオドを打たれました。米財務省は現地時間の5日、中国を為替操作国に認定したからです。
Treasury Designates China as a Currency Manipulator
The Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988 requires the Secretary of the Treasury to analyze the exchange rate policies of other countries. Under Section 3004 of the Act, the Secretary must “consider whether countries manipulate the rate of exchange between their currency and the United States dollar for purposes of preventing effective balance of payments adjustments or gaining unfair competitive advantage in international trade.” Secretary Mnuchin, under the auspices of President Trump, has today determined that China is a Currency Manipulator.(以下略)
本文中の “the Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988” とは、「1988年包括通商競争力法」のことで、財務省に対し、「諸外国が収支均衡や国際貿易の不正競争を目的とした為替操作を行っているかどうか」を調査することなどを義務付けた法律です。
ムニューシン米財務長官はこの法律の第3004条に基づき、8月5日付で中国を為替操作国に認定しました。プレスリリースの続きを読んでみましょう(カッコ内は意訳です)。
- As a result of this determination, Secretary Mnuchin will engage with the International Monetary Fund to eliminate the unfair competitive advantage created by China’s latest actions.(この決定に基づき、ムニューシン長官は国際通貨基金に対し、中国が作り出した不公正な競争上の優位性を排除することを申し立てる。)
- As noted in the most recent Report to Congress on the Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States (“FX Report”), China has a long history of facilitating an undervalued currency through protracted, large-scale intervention in the foreign exchange market.(これまでの為替操作監視レポートでも指摘してきたとおり、中国は長期にわたり、外為市場における大規模な介入により自国通貨の過小評価を促進して来た。)
- In recent days, China has taken concrete steps to devalue its currency, while maintaining substantial foreign exchange reserves despite active use of such tools in the past. (ここ数日、中国は明らかに自国通貨を安くする操作を行う一方、過去と異なり外貨準備については使用を控えている。)
- The context of these actions and the implausibility of China’s market stability rationale confirm that the purpose of China’s currency devaluation is to gain an unfair competitive advantage in international trade.(財務省としては、これら一連の行動の背景と中国の市場安定性の根拠から、中国の通貨切り下げの目的が国際貿易において不公平な競争上の優位性を獲得することであると考える。)
- The Chinese authorities have acknowledged that they have ample control over the RMB exchange rate.(中国当局はすでに、人民元の為替相場に対する十分な統制を行っている事実を認めている。)
- In a statement today, the People’s Bank of China (PBOC) noted that it “has accumulated rich experience and policy tools, and will continue to innovate and enrich the control toolbox, and take necessary and targeted measures against the positive feedback behavior that may occur in the foreign exchange market.”(中国人民銀行は本日付の声明で、「我々は豊富な経験と政策上の手段を蓄積し、引き続き統制するための手段を洗練させ、必要かつ目的を絞った政策により、外為市場に対しての行動を促す」と述べている。)
- This is an open acknowledgement by the PBOC that it has extensive experience manipulating its currency and remains prepared to do so on an ongoing basis.(このことは中国人民銀行による為替操作実績に関するおおやけの証拠であり、また、現在進行形でこれが行われていることを意味する。)
- This pattern of actions is also a violation of China’s G20 commitments to refrain from competitive devaluation.(こうした実際の中国の行動パターンは、「競争的な目的で自国通貨安に誘導することをしない」というG20コミットメントにも反している。)
- As highlighted in the FX Report, Treasury places significant importance on China adhering to its G-20 commitments to refrain from engaging in competitive devaluation and to not target China’s exchange rate for competitive purposes.(為替監視レポートでも強調したとおり、米財務省としては中国にG20コミットメントを守るように促すとともに、競争的な目的での為替介入を控えるように求める。)
- Treasury continues to urge China to enhance the transparency of China’s exchange rate and reserve management operations and goals.(財務省は引き続き中国に対し、為替相場や外貨準備管理、目標などについての透明性を強化することを促す。)
…。
非常に強い言い方ですが、要するに、中国がさまざまな手段で為替介入を行っている、と認定したのです。
いったい何があるのか?
今回のプレス・リリースでは「IMFとともに対処する」などと述べていますが、その具体的な内容については明らかにしていません。
おそらく、今回の認定の背景には、人民元の急落などもあるのでしょう(『【速報】中韓台通貨などが急落』参照)。
ただ、「IMF」という単語を聞くと、個人的には、今から約3年前の2016年10月に人民元がIMFの特別引出権(SDR)に組み込まれたという事件を思い出してしまいます。
以前、『人民元「主要通貨」報道のウソ』や『SDRと人民元と「国際通貨」』で詳しく触れたとおり、SDR自体は単なる象徴的なものであり、人民元がSDRに組み込まれたからといって人民元決済が広がる、というものではありません(SDRの仕組みの詳細はこれらの記事をご参照ください)。
さらに、そもそも人民元をSDRに組み込んだこと自体、明らかにIMFの決定の誤りではないかと思います。そもそもある通貨をSDRに組み込むための条件は、IMFが「自由利用可能通貨(Freely usable currencies)」としての次の2つを満たしていると判断したときに限られます。
- 国際取引での支払いに広く使われていること
- 主要な取引市場で広く取引されていること
しかし、現実に人民元建ての金融取引は活発に行われているとは言い難く、自由に取引されているのはオフショア(香港など)で流通している人民元(CNH)に限られており、外国人投資家が中国本土の人民元(CNY)に自由に投資できる、という状況にはありません。
人民元がSDRに組み込まれてすでに3年近くが経過するにも関わらず、本土のCNY市場とオフショアのCNHの市場は、いまだに分断された状態が続いていますが、このような不透明な通貨をSDRに組み込んだまま放置すること自体、IMFの信頼性を毀損するのではないでしょうか。
いずれにせよ、今回、米国が公然と中国を「為替操作国」と呼んだことで、今後はIMFが人民元をSDRから除外するという措置も生じ得るかもしれませんし、今年9月から欧州中央銀行(ECB)総裁に就任する予定のクリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事の責任も追及されるべきでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
https://ameblo.jp/yukibakda/entrylist.html
日本と韓国の確執が強まるにつれて、米国は支援する気がない、又は出来ない
https://ameblo.jp/yukibakda/entry-12502047691.html
日本と韓国の混乱が激化するにつれて、米国は支援することを躊躇している。
または不可能であるように思われる
スタンフォード大学で東アジア研究の講師を務める
ダニエル・C・スニダーは、次のように述べています。
「そして、彼らは韓国の軍艦が日本の軍艦に発砲するかもしれないと
心配しなければなりません。」
トランプ政権当局者は、米国が軍事協力の重要な要素である
2016年に日本と韓国が合意した情報共有協定を
ソウルが終了する可能性について特に懸念していると述べている。
トランプ政権の高官は先週、
日本と韓国の両方に電話をかけて、双方が敵対関係を凍結するよう勧告した。
韓国当局はこの提案を検討することを約束したが、
日本はその知識を否定した。
ポンペオ氏は金曜日に河野氏とカン氏と一対一の会議を開く予定でした。
しかし、両方の会議はキャンセルされました。
日本が韓国の産業に不可欠な材料の輸出を減速させると脅迫したとき、
長く続いている紛争は完全な外交的危機に突入
トランプ政権は亀裂の修復に関与することに消極的です。
日本の外務大臣である河野太郎は顔をゆがめ、
韓国のカン・ギョンファは背を向けて石をかぶった。
https://static01.nyt.com/images/2019/08/05/world/05skorea-japan2/merlin_158765745_c5a955ce-c46e-4d8b-a823-033d3338f35a-superJumbo.jpg?quality=90&auto=webp
韓国や他の地域の慰安婦と呼ばれ、兵士の性奴隷として働いています。
元米国の貿易交渉担当者であるWendyCutlerは述べました。
2つの経済大国間の貿易闘争が
世界中の脆弱な経済関係を混乱させる可能性があると語った。
結局、日本政府による輸出規制は、
日本企業にとって他の市場を危険にさらす可能性があります。
モトコリッチ氏は東京から、
エドワードウォン氏はワシントンから、
チョ・サンフン氏はソウルから報じた。
マイケルクローリーはワシントンからの報告に貢献し、
井上真紀子と山光栄美は東京からの研究に貢献しました。
中国もいつかは操作国に指定されるんだろうくらいには思っていましたが、今朝だったんですね。
個人的には中国締め上げは結構なことと思いますが、米国の指定理由はヒドイように読めてしまいました。
昨日8/5は市場の自由取引の結果、リスク回避で元安となったと思っていました。
それに対して、通常なら人民元が安くなると資本流出が加速する、という理由で元買いドル売り介入をしていたところ、昨日は中国は介入を手控えて、元安を放置したらしいんです。
その結果、為替操作国指定なんです。ちょっと無理がないか?(笑)
ブログに引用の財務省プレスリリースによると、元安そのものも中国の操作だと示唆していますが、そこはちょっと、よくわかりませんが。
>(これまでの為替操作監視レポートでも指摘してきたとおり、中国は長期にわたり、外為市場における大規模な介入により自国通貨の過小評価を促進して来た。)
>(ここ数日、中国は明らかに自国通貨を安くする操作を行う一方、過去と異なり外貨準備については使用を控えている。)
—
元安容認で米に対抗か=資本流出の恐れも-中国(時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019080501015
中国は「管理変動相場制」を採用しており、市場介入などを通じて相場の急変動を抑えている。5日は意図的に介入を手控えたとみられる。
—
相変わらずのトランプさんですね。
まあ、遅かれ早かれこうなっていたのでしょうか……。
最近はアジア情勢が大きく揺らいでいるような気がします。
とはいえ、それは突然起こったものではなく、これまで散々蒔かれていた種が萌芽しただけのように思います。
何にせよ、これまで有耶無耶になっていた種々の問題に、決着を着けるときが近づいているのかもしれません。
中国の都合で恣意的に介入するかどうかを決めるってのが為替操作国指定の根幹ってことじゃないですか。
中国は介入自体は認めた上で、国際市場安定のために相場を一定に保つべく介入する、って言う建前を言ってたわけなので、市場が荒れてる状況で元安だから介入しないって態度はその建前に反してるわけですよ。
要するに介入の言い訳が嘘っぱちだったのが公然と明らかになったのでそんな嘘つきは為替操作国に指定します。って論理ですね。
市場安定を大義名分にしていた以上、中国は損を覚悟で元安を止めなきゃ筋が通らなかったわけです。
本日「中国人民銀行が、対ドル中心レートを7元よりも高めに設定した。」
米の掌の上で踊っていますね。笑
嫌でも元を買い支えなければならない、外貨準備つまり手持ちのドルを無くす作戦かな。米は本気モードですね。
為替操作国の指定はアメリカが行うもんですから、 IMFのSDR取り消し云々には直接繋がらないと思います
為替操作国指定後は中国は元の切り上げを要求される訳ですが、当然受け入れる訳もないですね
アメリカとしては関税での対策になりますが、今までやってきた関税引き上げの正当化と、更なる関税引き上げの根拠になると思います
いずれにせよ、市場環境の悪化は避けられませんね