外貨準備高に関する韓国銀行の説明は正しいのか?
当ウェブサイトではかなり以前から、韓国銀行が発表する外貨準備高について、同国の資金循環統計や米国政府が公表しているデータなどと比較して、どうも資産性が疑わしい部分があるのではないか、という仮説を抱いています。こうしたなか、昨日、韓国銀行が発表した同国の外貨準備高は4091.7億ドルで、前月比4.8億ドルの微減となりましたが、これに関する韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の記事を読んでいて、ハッと思いついたのですが、外貨準備高の増減について韓国銀行は明らかに正しい説明をしていないのではないでしょうか。
韓国の外貨準備高は微減
昨日、韓国の中央銀行にあたる「韓国銀行」が外貨準備高を公表しました。これによると、外貨準備高は4091.7億ドルで、前月比4.8億ドルの減少となりました(減少率は0.12%)。
では、なぜ先月は外貨準備高が減少したのでしょうか。
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)によると、「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」、という韓国銀行による説明が記載されています。
韓国の外貨準備高 6カ月ぶりに減少
「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」
―――2020/03/04 06:00付 聯合ニュース日本語版より
…。
さて、当ウェブサイトではこれまで、同国の外貨準備高を巡って、次の点において疑念が解消していない、と申し上げて来ました。
- ①韓国銀行が作成する資金循環統計を確認しても、外貨準備は「その他の外国債権債務」という不透明な項目にぶち込まれていて、内訳はよくわからない
- ②国際通貨基金(IMF)が公表する全世界の外貨準備統計から類推するに、少なくとも韓国は外貨準備で保有する有価証券のうち6~7割は米ドル建ての有価証券に投資しているはずである
- ③しかし、米国財務省が公表するTICレポート上、韓国が国を挙げて保有している有価証券の残高を確認すると、少なく見積もって1000億ドル、下手をすると2000億ドル規模の行方不明額が存在している
このうち①については昨年7月の『史上初?韓国の資金循環統計を解説してみた』で説明しており、また、②③の推論については今年の初めに『韓国の外貨準備における不整合と「本質的な問題点」』で実施していますので、ご興味がある方はそれぞれ該当記事をご確認ください。
過去15ヵ月分の報道発表を確認してみた
さて、昨日の聯合ニュースの記事を眺めていて、ひとつ、ひらめいた点があります。
それは、韓国銀行が外貨準備高について公表する際、前月比で増えていた場合と、減っていた場合で、それぞれどういう理屈をつけているのか、過去の報道発表を追いかけてみると面白いのではないか、という点です。
さっそくですが、韓国銀行のデータから外貨準備高の増減を、WSJのデータから米ドルに対する為替相場を、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)から過去15ヵ月分の外貨準備高に関する報道を抽出し、確認してみました。
ここで、算出に当たっての条件は次のとおりです。
- 韓国の外貨準備高の通貨別構成は次のとおりとする。
- 米ドル…62.00%
- ユーロ…20.00%
- 日本円…5.00%
- ポンド…4.50%
- 豪ドル…2.00%
- 人民元…1.80%
- 加ドル…1.70%
- 韓国の外貨準備高のデータは韓国銀行から取得することとし、便宜上、外貨準備高については内訳に分けず、上記の通貨構成そのままと仮定する。
検証結果
以上の前提に基づく検証結果が、次のとおりです。
2020年2月の外貨準備高…4091.7億ドル(前月比▲4.8億ドル、▲0.12%、うち為替要因▲0.32%)
→「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」(2020/03/04 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高 6カ月ぶりに減少』より)
2020年1月の外貨準備高…4096.5億ドル(前月比+8.4億ドル、+0.20%、うち為替要因▲0.35%)
→「ドル高によりユーロ、円など外貨建て資産のドル換算額が減少したが、外貨建て資産の運用益は増加した」(2020/02/05 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4097億ドル 4カ月連続で過去最高更新』より)
2019年12月の外貨準備高…4088.2億ドル(前月比+13.6億ドル、+0.33%、うち為替要因+0.64%)
→「米ドル安でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えた」(2020/01/06 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高 3カ月連続で最高更新』より)
2019年11月の外貨準備高…4074.6億ドル(前月比+11.4億ドル、+0.28%、うち為替要因▲0.37%)
→「外貨資産の運用収益が増加したため」(2019/12/04 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4075億ドル 過去最高を再び更新』より)
2019年10月の外貨準備高…4063.2億ドル(前月比+30.億ドル、+0.74%、うち為替要因+0.78%)
→「米ドル安でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたことに加え、外貨資産の運用収益が増加したため」(2019/11/05 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4063億ドル 過去最高を更新』より)
2019年9月の外貨準備高…4033.2億ドル(前月比+18.4億ドル、+0.46%、うち為替要因▲0.18%)
→「外貨資産の運用収益が増加したため」(2019/10/04 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高 4033億ドルに増加』より)
2019年8月の外貨準備高…4014.8億ドル(前月比▲16.3億ドル、▲0.40%、うち為替要因▲0.16%)
→「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」(2020/09/04 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4015億ドル 1年ぶり低水準』より)
2019年7月の外貨準備高…4031.1億ドル(前月比+0.4億ドル、+0.01%、うち為替要因▲0.82%)
→「外貨資産の運用収益拡大が外貨準備高増加の主要要因になった」(2019/08/05 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高 前月比微増し4031億ドルに』より)
2019年6月の外貨準備高…4030.7億ドル(前月比+11.0億ドル、+0.27%、うち為替要因+0.49%)
→「米ドル安でユーロや円などドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたため」(2019/07/03 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4031億ドル 3カ月ぶり増加』より)
2019年5月の外貨準備高…4019.7億ドル(前月比▲20.6億ドル、▲0.51%、うち為替要因▲0.18%)
→「ドル高の影響で、ドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」(2019/06/05 06:00付 聯合ニュース日本語版『5月の外貨準備高 2カ月連続で減少=韓国』より)
2019年4月の外貨準備高…4040.3億ドル(前月比▲12.2億ドル、▲0.30%、うち為替要因▲0.06%)
→「ドル高により有価証券など外貨建て資産のドル換算額が目減りした」(2019/05/07 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4040億ドル ドル高で減少』より)
2019年3月の外貨準備高…4052.5億ドル(前月比+5.8億ドル、+0.14%、うち為替要因▲0.35%)
→「外貨資産の運用益が伸び、外貨準備高が増加した」(2019/04/03 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4053億ドル 2カ月ぶり増加』より)
2019年2月の外貨準備高…4046.7億ドル(前月比▲8.4億ドル、▲0.21%、うち為替要因▲0.25%)
→「米国の景気指標の内容が改善したことでドル高が進み、ドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りしたため」(2019/03/06 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4047億ドル 4カ月ぶり減少』より)
2019年1月の外貨準備高…4055.1億ドル(前月比+18.2億ドル、+0.45%、うち為替要因+0.29%)
→「米ドル安でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたため」(2020/02/08 06:00付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4055億ドル また過去最高更新』より)
2018年12月の外貨準備高…4036.9億ドル(前月比+7.1億ドル、+0.18%、うち為替要因+0.34%)
→「米ドル安でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたため」(2019/01/04 08:16付 聯合ニュース日本語版『韓国の外貨準備高4037億ドル 過去最高を更新』より)
パターンは大きく3つ
いかがでしょうか。
韓国の外貨準備高については、増減するパターンは大きく3つであることがわかります。
- ①ドル高によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額が減ったため
- ②ドル安によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたため
- ③外貨建て資産の運用収益が増加したため
(なお、③の変形として、「ドル高によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額は減ったが、資産の運用収益が得られたため」、「ドル安によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたことに加え、資産の運用収益が得られたため」、というパターンもあります。)
ちなみに、これをまとめると、次のとおりです。
パターン①(ドル高によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額が減ったため)
- 2020年2月
- 2019年8月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年2月
パターン②(ドル安によりドル以外の外貨建て資産のドル換算額が増えたため)
- 2019年12月
- 2019年6月
- 2019年1月
- 2018年12月
パターン③(資産運用収益が得られたため)
- 2020年1月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年7月
- 2019年3月
つまり、韓国の外貨準備高については、この3つのパターンしか存在しないのです。
本当は通貨防衛をやっているはずでは?
以上については、外部データで検証する限り、いちおう、韓国銀行の説明は市場の動きと矛盾していません。つまり、たとえば前月比でドル安になっているにもかかわらず、「ドル高のため外貨建て資産のドル換算額が減った」、などと矛盾する記述は見られない、ということです。
ただし、これは「うまく説明している」というだけの話なのかもしれません。
こうしたなか、韓国銀行はかつて、為替介入実績を公表していませんでしたが、米国やIMFの圧力を受けて、「為替介入実績」を2018年下半期(7~12月分)から公表し始めました(詳しくは2018年5月17日付・日経電子版『韓国、為替介入実績を公表へ』あたりをご参照ください)。
これを受け、2019年上半期(つまり1-6月期)において、韓国銀行はソウル外為市場で38億ドルの外貨を売り越したと発表しています(『「行方不明の外貨準備」、やっぱり為替介入だった』参照)。
また、それ以降も、韓国ウォンが急落した2019年8月や2020年2月などの局面において、韓国銀行がかなりの為替介入(通貨防衛)をやっているのではないかと疑われる動きが散見されます。
これについては『現状で韓国ウォン暴落は生じていないが、リスクは残る』などでも説明したとおり、韓国にとっての「ハビタブルゾーン」はおそらく1ドル=1100~1200ウォン前後と非常に狭く、韓国銀行は1ドル=1200ウォンを超えたウォン安に際しては、ウォンを買い戻す介入を行っている可能性が濃厚です。
しかし、上記の報道発表文を読んでもわかるとおり、韓国銀行の説明からは「通貨防衛」という文言は、一切確認できません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
これについては、「ドル安が進んだにも関わらず、外貨準備高が減少した」というパターンが発生するのがいちばんわかりやすいのですが、韓国銀行にとっては非常に幸い(?)なことに、過去15ヵ月分の報道発表を見ていても、こうしたパターンは見つかりませんでした。
もっとも、『なぜ韓国は外貨準備や通貨スワップを強調するのか』でも報告したとおり、同国が「4000億ドルを超える外貨準備」だ、「1000億ドルを超える通貨スワップ」だ、などとやたらと強調したがるのは不自然極まりない気がします。
いずれにせよ、韓国の外貨準備統計が正確なのかどうかについては、実際に韓国が通貨危機に直面した際に明らかになるのかもしれませんが…。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
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為替変動と韓国政府発表の分析、ありがとうございます。
矛盾がないというのに、ちょっと驚きました。
私が気になるのは「金保有は2013年2月から変動がなく、47億9000万ドル」の部分です。
田中貴金属工業の資料 の資料からもわかるように、金 (Gold) の価格って、結構変動するんですよね。
「何トン保有」なら変動しなくても理解できるのですが、他はドルで時価換算するのに何故 Gold はそうではないのか? 何故「2013年2月から」変動がないのか。
【読者投稿】韓国はダヤニ一族への賠償問題を解決せよ を書いた頃から、ず〜っと疑念を持っています。
「胸ポケットにふくらむ夢で」とは似て非なる想像をしてしまうのは私だけ ?
韓国銀行が発表する外貨準備高は、保有金(ゴールド)の評価替えが行われていないことからも、運用対象となってる債券や株式が「取得価格のままで残高計上されてる」ことが推測できます。
これって、月末残高公表のためのドル換算以外には、評価替えが全く実施されていないってことなのでは?(つまり、値上がりによる未実現利益を評価しない反面で、値下がりに基づく未実現損失も評価していないってこと)
とくに株式での運用割合がそこそこに高いにもかかわらず、運用益(実現利益)のみしか計上されていないのであれば、必然的に保有外貨資産のかなりの割合が「換金のためには損切りを伴う塩漬け状態」である可能性も否めないのだと思います。
*もちろん諸般の事情(外貨準備高を大きく公表せざるを得ない)で、健全な判断を期すための「低価法による評価損の計上か、もしくは洗替法による全般評価の見直し」が許されない状況であるのかもしれないんですけどね・・。
まあ韓国政府が、事実を発表する事は、全てに置いて無いと考えていれば、間違い有りません。
参考に今年の、現代ビジネスから。
韓国が今こんなにも「ウォン安→資本流出」に怯えている理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69679
韓国ウォンが、脆弱な通貨である事は、疑いの余地は有りません。
アメリカの株高志向の影響が、韓国にはプラスに働いていると思います。
だんな 様
ヒュンダイビジネスさんの記事の最後のページでは、
「外貨準備がドルの現金で持たれているわけではなく、アメリカ国債など主にドル建て債券で持たれている」
と、流動性が十分高い資産であるかのように印象づけながら、その後では
「大部分の外貨準備は流動性の低い資産」
と記しており、ちぐはぐな感じがします。
三日前に「韓国の企業銀行 三菱UFJ・みずほと外貨融通枠拡大」という記事がネットに出ましたが、これに対する反応、コメントを当サイトではまだ見かけません。 たいした影響力はないということでしょうか?
奥野様
3月3日に「たった200億円の増額に狂喜乱舞するのはなぜ?」でコメントされてます。
心が浄化される記事でした。
ぷうすけ様
ご教示ありがとうございます。
奥野励
【中央時評】なぜ伝染を防げなかったのだろうか=韓国
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200305-00000021-cnippou-kr
韓国が、何度も同じ目に会う原因は、事実を正しく認識しない(出来ない)為です。
ますは、IMF危機についてです。
主にタイと外国人投資家のせいにしており、韓国の外貨保有高について、政府が公表していた額が、嘘だった事も書かれていません。
危機から脱出したのは、韓国自身のおかげという事で、事実の改竄が行われています。
今回のコロナウイルス騒ぎも、国内の政争の具となるだけで、解決出来ない、感染を拡大してしまう民族性を、露呈しています。
次の経済危機は、過去に危機に助けてくれた、日米が助けてくれないでしょう。韓国の実力が試される事になりますので、楽しみです。