環境破壊議論するなら真っ先に問題視すべきは新聞紙だ

なぜ日本の新聞は部数が急減しているのか――。それには単純に、紙媒体の新聞は情報が古く、使い勝手が悪く、保存も検索も難しいという不便さだけによるものではありません。新聞社の「感覚」が、私たち国民の関心事とは、かなりズレているからではないでしょうか。こうしたなか、とある雑誌のウェブ版に、新聞記者の皆さんが環境について語り合う座談会が掲載されていたようです。環境について語るなら、真っ先に問題視すべきは環境にやさしくない紙媒体の新聞ではないでしょうか?

各種データで見る、新聞部数の急減

新聞の部数が急減しています。

新聞朝刊の寿命は13.98年?』や『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』などでも触れたとおり、このままだとあと10年前後のうちに、主要な新聞は絶滅する可能性が濃厚です。一般社団法人日本新聞協会が公表している新聞部数のデータに基づけば、ここ数年、新聞部数の減少ペースが加速しているからです。

ちなみに、新聞業界の苦戦を示す数値は、日本新聞協会の部数に関するものだけではありません。

たとえば『朝日朝刊3ヵ月で7万部減なのに「有料会員数」横ばい』や『全国5紙の部数の「残存年数」にバラツキある理由とは』などでも取り上げたとおり、個別新聞の部数に関して、その減少速度から「残存年数」を逆算すると、新聞により多少のバラツキはあるにせよ、やはり7~15年、という数値が出てきます。

ただ、新聞によっては10年といわず、15年から20年は継続できるものもあるのではないか、などと疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで忘れてはならないのは、「どんな事業でも固定費を賄えなくなると継続できなくなる」という鉄則です。

「固定費すら賄えなくなる売上高」のことを、会計上は「損益分岐点売上高」、あるいは英語の “Break Even Point” を略して「BEP」などと呼ぶことが一般的ですが、逆に言えば、どんな企業でも売上高がBEPを割り込んだ瞬間、事業継続を断念せざるを得なくなるのです。

経営難のなかでの値上げ

この点、自社の経営状態を公表しているのは株式会社朝日新聞社などごく一部の会社に限られており、大部分の会社は経営状態をほとんど公表していません。

ただ、それでも漏れ伝わる情報によれば、多くの新聞社経営は苦境に陥っていることは間違いありません。たとえば減資により現在は「税務上の中小企業」となった某新聞社の場合だと、決算公告から確認する限り、繰延税金資産の額が純資産の部の額を上回っているなど、実質債務超過の可能性が濃厚です。

その一方、もちろん、新聞社によっては不動産経営がうまくいっているケースもありますし、優良不動産物件を持っていない社であっても宗教法人の機関紙の印刷請負や中国共産党の宣伝などでカネを稼いでいたりするケースがある(らしい)ため、新聞社がただちに連鎖破綻するというものかどうかは微妙でしょう。

ただ、『今度は毎日が値上げ…新聞業界のカギ握るのは日経新聞』でも指摘したとおり、新聞業界は値上げラッシュが続いています。

一般的な経営学の世界では、売上高が減っている局面で販売単価を引き上げると、ますます売上高を減らす効果をもたらすおそれが懸念されます。いずれにせよ、現時点においていくつかの新聞社は、ハンドリングを間違えたら即、資金繰りが詰まり、無秩序な経営破綻状態に陥る可能性を孕んでいると考えられるのです。

新聞苦境の理由は「スマホの普及」ではない!

こうしたなかで、なぜ新聞の部数がここまで急落しているのかについて尋ねられると、通常はこんな答えが返ってくるかもしれません。

スマホが普及したから」。

これは、一見するとそのとおりではありますが、新聞部数の急落を説明する理由としては不十分です。

たしかに紙媒体だと「情報が遅い」、「物理的な印刷・輸送コストがかかる」、「記事の保存・検索が難しい」など、さまざまなデメリットがあります。スマートフォンやPCから閲覧可能な電子版だと、これらのデメリットがすべて解消しますので、新聞社としては紙媒体から電子媒体に乗り換えるよう、読者に促すのが合理的です。

実際、外国ではウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)やフィナンシャルタイムズ(FT)のように、インターネット時代に合わせてウェブ媒体でかなり高額の購読料を徴収するのに成功した新聞社も存在しています(ちなみにFTは日本経済新聞社の子会社です)。

しかし、日本の新聞社は、こうした電子化戦略に出遅れているようです。

いや、「出遅れている」のではなく、「電子版の読者の獲得に失敗している」、とみるべきでしょうか。

当たり前の話ですが、そもそも電子化したところで、読者を維持し得るほど魅力的な記事を配信できていなければ、読者を維持することはできません。

紙媒体の時代だと、「その新聞しか読まない」という読者も多かったでしょうが、インターネットの時代になると、読者は無料版を含め他の新聞、あるいは新聞社以外のさまざまなプラットフォームが運営するニューズサイト、怪しげな自称会計士のウェブ評論サイトなどの記事を読み比べるようになります。

そうなると、無限の選択肢のなかから、自分がいままで読んでいた新聞「だけ」にカネを払うのがバカらしくなるのは当たり前のことかもしれません。

環境保全語るなら、まずは紙媒体の新聞を問題視すべき

こうしたなかで、なぜ日本の新聞社が苦境に陥っているのかを端的に説明しているような記事がありました。

朝日、読売、毎日…新聞5社が語った「多くの人に読まれる記事」の傾向

―――2023.05.19付 現代ビジネスより【FRaU配信】

記事を配信したのは講談社が刊行する『FRaU』のウェブ版だそうです。

記事タイトル「多くの人に読まれる記事」とありますが、要するに、今話題の「SDGs」とやらをテーマに、気候変動問題、環境問題などを中心に、「読者に読まれる記事を配信する工夫」を語る、という趣向の対談記事です。

正直、「SDGs」や「気候変動」の正体が見えてくる気がします。

もし「環境保全」を本気で議論するならば、真っ先に検討しなければならないのは、現在進行形で森林を切り倒し、地球温暖化ガスをまき散らしながら全国各地に毎日のように紙媒体を配達し、その紙が全国で読み捨てられているという現状ではないでしょうか?

当たり前ですが、新聞は生産され、消費される過程で、大変に多くの地球温暖化ガスを排出させるなど、地球環境を悪化させる代物です。新聞記者の皆さまが環境保護を叫ぶのは結構ですが、真っ先に見直すべきは他人ではなく自社のビジネスモデルではないかと思います。

国民が「知りたい」のはそこですか?

それに、当たり前の話ですが、私たち一般人は最近、高騰する物価に苦慮していますし、とくに電気代の値上げは私たちにとっても非常に気になる話題です。

日本は旧民主党政権時代に再生可能エネルギー賦課金制度を導入し、主要原発の操業を止めて太陽光発電などの「再生可能エネルギー」を推進してきましたが、その結果が、近年頻発する電力不足・電力供給の不安定化です(『「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働が必要』等参照)。

一部の新聞社や左派政党などが煽ったこれらの運動が、日本経済に大きな禍根を残している格好ですが、これを「日本国民の多数が興味・関心をもって読むに違いない」と思っていること自体、新聞社の「中の人たち」の意識がいかに一般社会と乖離しているかという証拠でしょう。

もちろん、原発再稼働にはリスクを伴いますし、一見すると耳に聞こえが良い「環境保全」だの、「再生可能エネルギー」だのを推進する方が、地球環境にとって何か良いことをしているという錯覚を感じることができ、気分は良いのでしょう。

しかし、「事故のリスクがあるから原発を止める」というのは、「墜落するリスクがあるから飛行機に乗らない」というのと同じようなものでもあります。新聞社の「中の人たち」の意識が、おそらくは圧倒的多数の国民からは、かなりズレている可能性は濃厚です。

いずれにせよ、新聞社の「中の人たち」の考え方が正しいかどうかを判断するひとつの手がかりが、今後の新聞の部数であり、有料契約の件数、新聞社ウェブサイトのページビュー(PV)でしょう。

今後、新聞社が生き延びていくためには、(1)不動産事業など「儲かっているビジネス」を本業に据え、新聞事業という「不採算部門」を早期に縮小して戦略的撤退を急ぐか、(2)ウェブ媒体に特化するか、(3)宗教団体や中国共産党などの下請け機関になるか、でしょうか。

こうした見立てが正しいかどうかについては、意外と早いうちにわかるのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    電子化メディア・電子ジャーナリズムがうまく行っているかというと、アメリカでは今般たいがいなことになっているそうです。日本でも名を知られていたバスフィード、ハフポストは閉鎖となり、親会社のバイスメディアは破産に至りました。
    読み続けてもらえる情報源、金が集まるメディアカンパニー経営とはどんなものかが問われているのでしょう。

  2. すふちゃん より:

    新聞についての論考で、少し気になる点は地方紙についての検討が多くないことです。

    以前地方紙の減少率が低いとか書いていましたけど、それだけです。

    私も三大都市圏以外の住人ですが、その県に関するニュースは地方紙に分があります。

    その県紙のニュースにはその県のことが詳しく掲載されており、この辺は全国紙は叶わない世界です。

    キー局系の地方局の取材網は手薄ですし、NHKの地方局も手薄です。

    仕事でも話題になることが多いので、地方紙の減少率が低いと思います。

    その辺を深掘りすると、より良い論考になると思います。

    1. 引きこもり中年 より:

      すふちゃん様
      どうしても必要な情報が新聞紙にしかなければ、新聞をとるし、それによる利益(?)が大きければ、新聞代が高くても問題にならない、ということでしょうか。

      1. すふちゃん より:

        全国紙とかキー局のニュースが三大都市圏以外に激弱で、地域のテレビ局やNHKローカル局の体制も弱いので、県レベルの細かな情報が載っているのはどうしても地方紙ということになるのです。

        例えば「今日の山日(山梨日日新聞)にこんな記事が載っていたよ」とか「信毎(信濃毎日新聞)にうちの商品のことを記事にしてもらった」とか、こういうやりとりは意外と馬鹿にできないものなのです。

        マスコミ用語使って恐縮ですけど「特落ち」になるのは避けたいものですよ。

        特にビジネスの場では。

    2. 匿名 より:

      地方紙、タウン誌、業界紙、は未だ暫く寿命があるのでは無いでしょうか?
      それぞれ、独自のニーズと編集方法がありますから。
      TV局もローカル局はニーズがあります。
      地方は、中央と違って情報が少ないので、中央の感覚では分からない所があります。

  3. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせて頂きます。
    (というより、自分でも独断や偏見だと思いたいので)
    日本の新聞というのは、新聞業界村のなかでしか通用しないルールに違反しないように記事を書いているので、村民でない新宿会計士さまには、理解できないのではないでしょうか。(我々も、新聞業界でなければ飯が食えなくなれば、新聞業界村のルールにしがみつくのではないでしょうか)
    駄文にて失礼しました。

  4. わんわん より:

     「紙」媒体が好きなのでサイト主様の主張には賛同できかねます

     環境保全・SDGs・気候変動・脱炭素等すべて政治的利権争いにすぎない

     心配は方向性を間違えないこと
    レジ袋の有料化等
    参考
    「うちは紙ストローは作りません」岡山の日本一のストロー会社が「脱プラ運動」に真っ向から対抗した結果 ストローだけが使い捨ての代名詞になるのはおかしい | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://search.yahoo.co.jp/amp/s/president.jp/articles/amp/69447%3Fpage%3D1%26usqp%3Dmq331AQGsAEggAID

    1. KN より:

      社長の主張する論点は興味深いです。ストローだけでなく、レジ袋にも同じようなことがいえます。

      https://president.jp/articles/photo/69447?pn=6

      悪いのはプラスチックそのものではなく、ちゃんと回収して燃やせば済む話。
      ストローが刺さったウミガメの動画も恣意的で、うさんくささを感じます。

      世界の海洋プラスチック廃棄物の9割は、わずか10の河川から流れ込んでいるという報告もあります。もちろんの日本の川ではありません。

      https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/910.php

  5. KN より:

    >電気代の値上げ
    原発が再稼働している関西と九州以外は発狂しそうです。

    https://news.yahoo.co.jp/articles/2b3cd74c44b43dc85aa317ab2b1bef3b51066396/images/000

    この状況でEV車を増やせというのは頭おかしいですね。
    まあ「環境保全」だの、「再生可能エネルギー」だのを推進する方が、利権を創出できていんでしょう。

  6. はにわファクトリー より:

    日本経済新聞社に至っては GX グリーントランスフォーメーションを喧伝標榜していますが、ありがたいご高説を日本企業の経営者層に訴える前に、まずは日本経済新聞社自らが実践して有効性優位性証明してみせることが必須のはず。口だけは許されません。

  7. 匿名 より:

    毎日の記事の更新ありがとうございます。いつも今日は、どんな記事かな?と楽しみです。
    感心するのは、「見出し」の付け方と、それに相応しいイラストが必ずついている事です。このイラストは、誰が描いているのかな?と思っています。会計士さんが毎回自ら描いておられるのか?とも。
    さて、今日のこの記事は、珍しく記事本文と見出しが微妙にずれているな、と感じました。
    と言いますか、元ネタが、FRaUの記事であれば、この元ネタから3本のテーマで深掘り出来るのでは?と思いましたし、深掘りして欲しいと思いました。
    環境破壊問題と新聞紙、新聞の電子化戦略、読まれる記事とは何か、特に、電子化と読まれる記事との相関はかなり密接ではないか、とも思います。
    ただし、余りきちんと書くと、新聞社にコンサルするようなものですが。
    毎日、3本もの更新は大変だと思いますが、一つのテーマを何回かに分けて書いて頂くのも、読む方は一つのテーマに理解が深まるかな、と思います。

  8. sqsq より:

    廃刊になった新聞をWikipediaで調べると新聞というビジネスが結構しぶといことがわかる。
    コロナで最近廃刊になった「米沢新聞」は発行部数14000、朝刊のみ、4~8ページ、1部70円、月ぎめ1890円と出ていた。社屋の写真が出ていたがコンビニに2階がついている程度の大きさ。廃刊時の従業員は21名。4ページの新聞とは新聞紙1枚ということだが、このスペースではあまり書けることないように思うが。1879年創刊というから驚く。
    こういう新聞を地方紙よりもさらに小さい「地域紙」と呼ぶようだが、町議会、村議会の動向をカバーしているらしい。

  9. 匿名 より:

    誰もツッコまないけど 「FRaU」 って、もともとは女性向けのファッション誌ですよね。
    それが、こんな記事を載せているところに、紙媒体の苦境と迷走が表れているように思います。

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