MSCI先進国入り目指す韓国だが…ウォン不安は続く

韓国の市場が「先進国」指数入りするのが難しい、とする主張が、また出てきたそうです。先日は韓国国債のWGBI組入が見送られた、とする話題を取り上げたばかりですが、今度はMSCI先進国指数に関する話題が出てきました。あわせて今月、韓国企業が配当金の支払いを行う影響で、韓国の外為市場が不安定となる状況は当面続きそうだ、とする観測もあるようです。

韓国のMSCI先進国入りが難しい理由

韓国は「先進国」という単語には敏感に反応するらしく、たとえばつい先日も、「韓国国債のWGBI組入見送り」という話題があったほどです(『韓国国債の組入見送り:WGBI・パッシブとは何か?』等参照)が、それだけではありません。

少し古い話題ですが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に先週、こんな記事が出ていました。

米メディア「韓国政府が市場に干渉…MSCI先進国指数編入は困難」

―――2023.04.07 08:35付 中央日報日本語版より

「MSCI先進国指数」とは、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が算出・公表する株価指数のうち、先進国(Developed Markets, DM)に関するもので、「MSCI-DM」と略されることもあります。

MSCI-DMの対象国
  • 北米(カナダ、米国)
  • 欧州(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国)
  • 太平洋(豪州、香港、日本、ニュージーランド、シンガポール)

(【出所】 Morgan Stanley Capital International, Inc., “MSCI Developed Markets Indexes” を参考に著者作成)

中央日報によると、このMSCI-DMへの韓国の追加を巡り、ブルームバーグのコラムニストのシュリー・レン氏が5日、「韓国政府は中国のように市場干渉を我慢できないようだ」としたうえで、「韓国は様々な措置にも、依然MSCI先進国指数編入の準備ができていない」と指摘したのだそうです。

韓国政府は準備を進めているのだが…

これに関し中央日報は、韓国政府が先月、外為市場の取引時間延長などを盛り込んだ先進化対策を打ち出し、国内証券市場のMSCI先進国指数編入を積極的に推進してきたと指摘。あわせて「海外投資家登録制」を年内に廃止し、外為市場の取引時間を午前2時までに伸ばす計画、などとしています。

この記述、逆に驚きます。

日本を含めた通常の先進国の場合だと、「海外投資家登録制度」など存在しませんし、外為法や金融商品取引法などの関連法規をきちんと遵守さえしていれば、北朝鮮などの制裁対象国でもない限り、どこの国の誰であっても株式、債券、為替などを自由に売買することが可能です。

それなのに、韓国ではいまだに外国の業者が韓国国内の外為市場に参加することを認められておらず、外為市場(※現物市場)の取引時間も韓国時間午前9時から午後3時30分までに限られています。

韓国ウォンでは「NDF」市場が発達していますが、この「NDF」とは「ノンデリバラブル・フォワード」、すなわち(韓国ウォンの現物決済ではなく)米ドルなどを使って差金決済をするという仕組みです。こうした仕組みが発達している通貨は、裏を返せば、通貨市場が先進的でないという証拠でもあります。

しかも、中央日報によると、ブルームバーグのレン氏は韓国政府の先進化対策を巡り、「市場親和的とは言えない」と指摘。「政府の介入がなければ実を結ぶことができない」と主張した、ということです。意訳すれば、「制度を整えても政府介入が常態化している市場に透明性はない」、ということです。

外為市場改革はどうでるのか

レン氏によると、韓国の銀行株のパフォーマンスが海外主要銀行のそれと比較して悪いことに関連し、資産運用会社が株主還元政策導入などを促したところ、2月13日に尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領が「銀行の高金利のため国民の苦痛が大きい」と発言するなど、これに介入したという事例を取り上げ、こう述べたそうです。

尹大統領が銀行は公共財的システムだと言って議論になった。大統領が干渉せざるを得ないならば、韓国市場は(MSCIのDM指数編入への)道のりはまだまだ遠いという意味」。

正直、このあたりは若干、言いがかり的な部分もあるのですが(程度の差こそあれ、行政が銀行経営に口を挟むのは日本や米国でも同じだからです)、それでも「韓国では政府が民間金融市場に介入している」という点については、たしかに金融業界ウケは良くないでしょう。

こうしたなか、遅ればせながらも韓国政府が金融市場改革を進めていることについては、韓国ウォンの国際化に資する動きではあります。しかし、『建国来70年ぶり外為改革、失敗なら通貨危機も=韓国』でも指摘したとおり、外為市場の開放が韓国の金融市場にいかなる影響を与えるかについては、未知数でもあります。

外為市場が対外開放されていれば、徐々にさまざまな金融商品が発達し、その通貨でヘッジ取引を行うことも容易になる反面、資本移動が完全に自由になってしまえば、通貨の暴騰・暴落も発生しやすくなります。

4月はウォン安傾向が続くのか

こうしたなか、中央日報に今朝掲載された記事を読むと、韓国では為替レートの変動に極端に弱いという状況が続いている様子もよくわかります。

ドル高の勢い鈍化しても、ウォン相場なぜふらつくのか

―――2023.04.11 07:44付 中央日報日本語版より

中央日報によると、主要国通貨が米ドルに対し上昇する傾向にあるにも関わらず、ウォンに関しては「経済危機のバロメーター」とされる1ドル=1300ウォンの大台を突破しており、10日のソウル外為市場でもウォンは前営業日比小幅ウォン安の1ドル=1319.70ウォンだった、などとしています。

対外経済環境に敏感な韓国経済の特性上、ウォン相場1300ウォンは「経済危機」のバロメーターと呼ばれる。過去ウォン相場が1300ウォン台まで落ちたのは昨年を除くと、1997年の通貨危機、2001年のカード大乱、2008年の米国発金融危機直後の2009年程度だ」。

ウォンだけが劣勢を見せるのは輸出製造業中心の韓国経済の特性のためという分析が多い。それだけ世界経済の浮沈に簡単に影響を受けるという意味だ」。

このあたり、正直、韓国が外需依存国家でありながら外為市場・金融市場の改革を先送りしてきたことの弊害が出てきたのかもしれません。

ちなみに中央日報によると、今月は主要企業の配当金の支払いが集中しているため、外国人投資家に対する配当金送金でウォン安が当分続く可能性が大きいとしており、また、韓国銀行が家計負債と不動産PFの問題で追加利上げし辛い状況も「ウォン安を煽る」、などとしています。

いずれにせよ、韓国の外為市場の状況は小康状態にあるとはいえ、韓国金融不安はいつ再燃しても不思議ではない状況であることは間違いなさそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    1300じゃまだまだでしょう
    ケンチャナヨ

    1. 匿名 より:

      ちょっと前に1450まで下がったときもあるので、もはや1500も近いのでは?

  2. 匿名 より:

    ウォンの国際化の為に日韓通貨スワップしてほしいって事ですか。
    日本の産業がどうなっても良いという事ですね。

  3. 元一般市民 より:

    【A.T. カーニー調査】 2023年 海外直接投資信頼度ランキング
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000046861.html

    1位 米国
    2位 カナダ
    3位 日本
    ・・・
    14位 ポルトガル
    15位 ニュージーランド
    16位 インド
    17位 スウェーデン
    18位 UAE
    19位 韓国

    あれぇ、G8じゃなかったっけ???

  4. oinko より:

    韓国人の異常に高い自己評価や、身の程知らずな要求は
    メンタルの根源にあるのが「他者を見下す事」だったりするので
    なんかイライラするんですよね。
    今回の件も経済的な理由もあるかもしれませんが
    むしろ他の国を見下したいという動機の方を強く感じます

  5. カズ より:

    >ウォンに対して強さを見せているのと違い主要通貨に対するドルの価値は連日下落中だ。(中央日報の記事より)

    米ドル独歩高の軟化局面にかかわらずのウォン安は、真に『ウォンの独歩安』。

  6. sqsq より:

    4月は配当金の支払いでウォンの海外流出が大きいはず。
    4月の経常収支はどうなるか? 貿易赤字、旅行収支赤字、配当金の流出。

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