安倍総理の国葬に関連し「プーチン出席問題」が急浮上

安倍総理の国葬が9月27日に決まりましたが、こうしたなかで浮上したのが「プーチン出席問題」です。というのも、産経などのメディアが週末、日本政府関係者の発言として、かりにプーチン氏が安倍総理の国葬に参加する意思を示したとしても、それを「拒否する方針」だと報じたからです。ただ、磯崎官房副長官は、プーチン氏の参加について「決まったことは何もない」と述べたのだとか。

国葬儀でだれを呼ぶか

9月27日に開催が予定されている安倍総理の国葬(国葬儀)をめぐって、さっそく、誰を呼ぶかに関する観測報道が広まってきました。

いちおう、日本政府としては先週金曜日の閣議決定を受け、「わが国が外交関係を有する国など」に対し、日時や場所といった安倍総理の国葬にかかる情報の通報を行う予定だと、林芳正外相が記者会見で明らかにしています。

林外務大臣会見記録(令和4年7月22日(金曜日)10時52分 於:本省会見室)

―――2022/07/22付 外務省ウェブサイトより

林外相は具体的にどの国に声がけをするのか、何ヵ国・何人くらいの規模を想定しているのかを尋ねる朝日新聞の野平記者の質問には直接は答えなかったものの、次のとおり、「極めて多数の国々」という表現を使っています。

参列の希望ですが、既に各国から、極めて多数の、様々な弔意メッセージが寄せられておりまして、安倍元総理が外交において残された大きな足跡を改めて感じております」。

このあたり、林外相自身が7月15日の会見で明らかにした、「14日時点で260の国・地域・機関から合計1700件以上の弔意メッセージが寄せられている」という発言を思い出しますが、おそらくは非常に多くの国からさまざまな立場の人が世界中からやってくるのでしょう。

「台湾は国ではないが通報はする」=林外相

こうしたなか、読売新聞の阿部記者が「通報する相手国には台湾も含まれるのか」と尋ねたところ、林外相は「国以外」について、「台湾、香港、マカオ、パレスチナ」に加えて安倍総理に弔意メッセージを寄せた国際機関等に通報を行う、と明言しました。

さすがに日本政府は台湾を公式には「国」と認めてはいませんが、これをわざわざ「国以外」とまで言ってのけてしまうのは、個人的にはいかがなものかと思いますが、この点はとりあえず脇に置きましょう。

台湾は安倍総理が力を入れた相手国のひとつであることは間違いなく、事実、外交青書でも台湾は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」(令和4年版外交青書P43)と位置付けられています。

当然のことながら、台湾からは「それなりの立場」の人物が参列することが予想され、これに対して中国が何らかのイチャモンをつけてくる可能性は濃厚でしょう。

しかし、日本政府自身が台湾を「基本的価値を共有」し、「極めて重要なパートナーであり、大切な友人」であると位置付けている以上、そうでない国と比べて軽視するようなことがあってはならないと思う次第です。

林外相「ロシアとの関係をこれまでどおりにはできない」

もっとも、世間の関心は、台湾よりもむしろロシアかもしれません。

林外相の会見では、こんなやりとりもありました(※英語)。

G20について伺います。火曜日に大臣は、サウジアラビアの外相と会談されましたが、日本とサウジアラビアは両国ともG20の加盟国であるということもあり、G20の今後について話し合われたでしょうか。一部の政治家は、G20を解体すべしとか、ロシアを除外すべきである、といった発言をしていますが、このことに関する日本の立場をお聞かせください」。

発言者は『パンオリエントニュース』アズハリ記者ですが、これに対して林外相はこう答えています。

国際社会は、ロシアのウクライナ侵略によって、ロシアとの関係を、これまでどおりにすることは、もはやできないと考えております」。

この回答は、基本的にはロシアをG20から除外するかどうか、といった文脈だと考えられますが、当然のことながら、安倍総理の国葬にロシアのウラジミル・プーチンを招くのかどうか、といった論点にもつながるでしょう。

産経「プーチン氏の国葬出席認めず」

こうしたなか、産経ニュースは先週金曜日、「独自」と称してこんな記事を配信しました。

<独自>プーチン氏の国葬出席、政府認めず 事実上の入国禁止対象

―――2022/7/22 19:22付 産経ニュースより

産経は政府がプーチン大統領の国葬への出席を「認めない方向で検討に入った」と報じたのです(なお、読売新聞も23日付の『プーチン氏が希望しても…安倍氏国葬への出席拒否へ』で似たような報道を行っているようです)。

産経はプーチン氏が「北方領土交渉を通じ安倍氏と密接な関係を築いた」ものの、「現在はウクライナ侵攻に伴う制裁として事実上の入国禁止の対象となっている」と指摘。「仮に参列を希望しても拒否する見通し」であることを「複数の政府関係者」が22日に明らかにした、としています。

産経はまた、外務省が「外交関係のあるロシアにも通知は出す」としつつも、プーチン氏の「入国を認めればウクライナ侵攻を容認したとの誤ったメッセージを国際社会に発信しかねない」などと指摘。実際、外務省幹部も「来ることは想定していない」と述べた、などとしているのです。

これに関しては、SNSでは、どうもおおむね批判一色となっているようです。

たとえば山田宏・自民党参議院議員は「村八分も葬式と火事は例外」としつつ、「」希望するすべての国や地域の代表の訪問をあまねく受け入れるべきだ」と批判。

また、保守派の論客として知られる人物なども、「日本らしくない」、「国葬の場を起点にウクライナ戦争停戦へ向かえば安倍さんも本望ではないか」、といった主張をしているようです(※当ウェブサイトとしてその主張に全面的に賛同するものではありませんが…)。

官房副長官は「現時点で何ら決まっていない」

ただ、こうしたなかで磯崎仁彦官房副長官は25日の会見で、プーチン氏の参列については「海外要人の参列者は現時点で何ら決まっていない」、「日本の立場を踏まえて個別具体的に調整する」と述べるにとどめたのだそうです。

プーチン氏参列拒否、言及避ける 安倍氏国葬めぐり―官房副長官

―――2022年07月25日12時41分漬け 時事通信より

まだプーチン氏が参加するかどうかの意思表明すらしていない状態で、メディアは少々、多少先走りのし過ぎといえるかもしれません(※もっとも、もしかすると政府としては、プーチン氏を招くかどうかの判断に悩み、「観測気球」を打ち上げて世論の空気を読もうとしているのかもしれませんが…)。

この点、安倍総理がプーチン大統領と密接な関係を築いたことは事実ですが、それと同時に、安倍総理の「大いなる遺産」である「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)にはロシアが含まれていないという点についても、抑えておく必要はあるでしょう。

いずれにせよ、もしもプーチン氏が安倍総理の国葬への参列を希望し、それを日本政府が認めない場合には、それはそれで批判が生じるでしょうし、日本政府が認めるなら認めるで、プーチン氏の入国禁止措置について例外的な取扱いが必要となります。

正直、政府としても、「プーチン氏が日本に来ない」と決断することを期待しているのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 農家の三男坊 より:

    >林外相は「国以外」について・・・

    林さんの頭の中には、中共以外は無いようですね。10年前ならいざ知らず、やはり外務大臣としても未熟の感じがします。

    プーチン来日についても、やはり岸田政権・外務省には外交は無理かな。

    プーチン来日に関しては水面下で日本側の条件を出し、それを実行したら来日を許すというのが有りそうなシナリオですが(来ないなら来ないで良し)、頭から否定してはリアリズム外交は口先だけで、誰かの敷いたレールを後からついてゆくので精一杯。

    G7各国もロシア・中共も笑っているでしょう。

    1. 門外漢 より:

      プーチンの参列は、弔問なのだから断れば日本の狭量さ(建前として)が嗤われますし、来れば水面下で話す内容があります(外交として)から、断ると言う選択肢は無かったと思っています。
      断るにしても、ギリギリまで引っ張って、最も良いタイミングで断るとか、交換条件のカードに使うとか、いろんな使い方があった筈なんですが、早々と拒否表明などは稚拙と言うほかはありません。
      安倍氏ご存命なら・・・と思われてなりません。

      安倍氏ご存命なら関係ないですね・・・

      1. ジン より:

        プーチンさんを招くかどうかの問題も
        ありますが、参列希望なら断るのは
        どうだろうとなりますよね。
        火事と葬式は別とは言うても、生命と
        財産を守ることと、伝染病予防の目的
        が一番かと思われます。

        1. 匿名 より:

          日本国民の生命と財産を
          守ってください。

        2. 匿名 より:

          村八分の時の葬式というのは、もしプーチン氏が亡くなったら、その葬式には出てやろう、という意味であって、他の人の葬式に、プーチン氏も呼んでやろう、という意味ではないのではなかったですか。
          プーチン氏の弔問を拒否することは、村八分のやり方に矛盾しない、と思います。
          間違ったメッセージを国際社会に送り出すことをおそれるべきでしょう。

          1. 匿名 より:

            そうそう。
            村八分でも葬式をは別、
            の話は伝染病予防のため
            きちんと管理、処理する
            ものだったと思われます。
            プーチン氏のを弔問拒否
            することと村八分は矛盾
            しないと思います。
            しかし、もしプーチン氏が
            「行く!」となった場合
            どうなるでしょう?

          2. 門外漢 より:

            村八分の時の葬式

            葬式と言うのは当該の家だけではなかなか出来ない(墓穴を掘るのも大変)もので、村中総出で手伝ってやろうと言うことです。
            そういう村のイベントですから、逆に村八分の家からだって弔問に行きたいと言えば断る手は無いのです。故人の人徳に傷をつけることにもなるし。
            勿論、枕頭まで入れて焼香させるか、敷居の外から拝ませるかの差は付けても良いでしょうけどね。

            昔聞いた話では、(その村では)棺を担いだり墓穴を掘るのは月番の仕事なのだそうですが、村八分や普段から嫌われていた人物の墓穴は浅く掘る(面倒だし)のだそうです。
            すると、ちょっとした雨でも土が流されて、棺が表れ、手足がにゅー―・・・と、悲惨なことになる(様にする)。
            だから、普段の付き合いが大事だよ、と言う事でした。

  2. 元ジェネラリスト より:

    この件が浮上したときは「難しい」と思いました。正解はないと思います。
    ネットも意見が割れている雰囲気を感じます。

    プーチンの現在の行為が”公認の非人道的行為”なので、人道界の葬儀に呼ぶのは筋が合わないと思うんですよね。筋論的には。
    ですが、政治的意義を考慮するなら、ウクライナやその他同盟国から「葬儀は例外」の認識を持たれるならその限りでもないとは思います。
    ただ、他国の認識やプーチンがこれをどう利用してくるか(こないか)が読めないので、吉と出るか凶と出るかはわかりません。

    ロシアから政府に打診があったのかどうかわかりませんが、今の段階では政府が言ったとおり、建前論を述べておけばいいのではないでしょうか。

    まあすでに、「揺さぶられている感」が出てしまってますが・・・

    1. 世相マンボウ_ より:

      KGBスパイ上がりの
      猜疑心強いプーチンが
      もし仮に招待しても 
      のこのこ日本にやってくるとは思えず
      考えるだけ時間の無駄かと私は思いました。

      単に、どぶサヨさんや偏向メディアが
      安倍さんとプーチンを必要以上に
      無理筋で結びつけたい印象操作では
      ないかと推察します

  3. 古いほうの愛読者 より:

    日本は要人警備が甘いので、この情勢下でプーチン氏本人が来日を希望するとは考えにくいです。

    1. 攻撃型原潜#$%&〇X より:

      そう、元首相の暗殺を許してしまうほどの日本のお寒い要人警護の現状では、プーチン氏ならずとも他国の要人も二の足を踏むのでは。覚悟がいりますね。

  4. 匿名 より:

    「村八分も葬式と火事は例外」とか「日本らしくない」とか言うのは自由ですが、プーチン氏が来日中に暗殺されたらどうなるか、という観点が見られないのが怖いですね。
    核保有国の権威主義国家で侵略戦争実行中の元首が他国で暗殺される、という事です。最悪核報復もあり得ますが、政治家や評論家の方々はそれを考慮して発言しているのかどうか正直疑問です。

    「国葬の場を起点にウクライナ戦争停戦へ向かえば安倍さんも本望ではないか」というのも、ロシアが戦争完遂の意思がみられることを考慮すると、かなり無理がある論調です。むしろこれをプロパガンダとして利用するのがロシアという国家だと思います。

    そもそも暗殺を徹底的に警戒しているプーチン氏が、要人の護衛に失敗したばかりの警備のザルな国を訪問したがるとは思えませんが。

    1. 門外漢 より:

      >プーチン氏が来日中に暗殺されたらどうなるか

      勿論、ざる警備の日本警察になんか頼りません。
      これはロシア以外の要人だって同じでしょう。
      トランプ閣下来日時にも、移動用の車まで持ち込みでした。
      当然皆さん自国のSPを引き連れて来られますわね。
      それを断って何かあれば日本の責任です。責任逃れが得意な日本官僚は絶対に断ったりしません。
      かくして日本警察の無能が世界中に拡散されると言う訳です。

  5. 匿名2 より:

    セキュリティーのことをおっしゃってる方もいるように、招待してもまあ来ないでしょうが、招待状は出すべきでしょうね。日本が被った損失をアメリカが穴埋めしてくれるわけではないし、日本は主権国家なのだから。プーチンに不必要な悪感情を抱かさせても何の得にもならない。

  6. 七味 より:

    あたしは、弔問目的ならプーチン大統領も迎え入れるべきだと思うけど、いろんな考えがあって難しい問題だとも思うのです♪

    ただ、
    >外務省が「外交関係のあるロシアにも通知は出す」としつつも、・・・・
    >外務省幹部も「来ることは想定していない」と述べた
    というのは、ちょっと変だと思うのです♪

    外務省らしいといえば、外務省らしいとも思うけど・・・・
    (´Д`)ハァ…

  7. 同業者 より:

    交渉の場をセッティングできるだけの政治家が、はたして今の日本にいるでしょうか
    まさかのゼレンスキー登場にプーチンあんぐりとか
    葬儀なのですから、蔡英文総統にも堂々と参列していただきましょう

  8. きたのほうから より:

    プーチンさんがもし来たら、21世紀の大津事件が…。

  9. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    プーチン参加を断るのは西側の一員としての立ち居地としては当たり前だが
    当の西側から誰も参加しない展開も、あり得ないわけではないのだが

  10. asimov より:

    今回はプーチンさんの方から「出席しない」と明言したみたいですね。

    プーチン氏、安倍元首相の国葬に出席せず=大統領報道官
    https://jp.reuters.com/article/idJPKBN2P00Q1

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