最新版の鈴置論考で読む「他山の石としての韓国経済」
日本経済が税社保の減免を必要としている、という点については、これまでに何度となく指摘してきた論点ですが、それと同時に日本は税社保を減免しても決して財政破綻しない、強い経済でもあります。また、輸出依存度は主要国中で比べても低く、内需に依存した国家でもあります。そんな日本から見て、少子化など一見すると共通の課題を抱えているのが韓国ですが、じつは日韓の経済構造は全く異なります。隣国を見れば日本が見えるというのはよくいったものですが、こうしたなかで昨日は鈴置高史氏の最新論考も出て来ています。
目次
減税反対論者の支離滅裂な言い分
当ウェブサイトではずいぶん長い間、「税や社保の減免が必要だ」と訴え続けてきた気がします。
ただ、このような主張をすると、たいていの場合、こんな趣旨の反論が来ます。
減税反対派などの言い分の例
- ①国の借金はGDPの2倍で財政再建が必要
- ②日本は毎年度財政赤字で減税の余裕はない
- ③基礎控除引上げには複雑な制度変更が必要
- ④国の借金はいつか全額税金での返済が必要
- ⑤国の借金を国民1人に換算すると一千万円
- ⑥多くの著名財政学者が減税に反対している
- ⑦一度下げたら再び上げるのが政治的に困難
©新宿会計士の政治経済評論
これらについてはあまりにもレベルが低すぎる⑥や⑦を除けば、いずれもちゃんと反論のテンプレートがあり、『国家財政を赤字家計に例えること自体が理論的に間違い』などにも掲載していますので、興味がある方はご確認くださいますと幸いです。
日本円はハード・カレンシー
ただ、当ウェブサイトでもっと強くお伝えしたいのは、税、社保を取り過ぎることで国力を疲弊させるのではなく、むしろ税負担を軽減することで、日本経済は非常に強く伸びる、ということです。これには国債発行が最も手っ取り早く、また、資金循環構造に照らし、日本は国債をさらに増発する余力があります。
しかも、日本円という通貨自体が(「このままだと日本円は国際的信認を失う」とする財務省の説明に反して)世界的にも非常に信頼されているという事実についても指摘しておく必要があります。
たとえば、以前の『外貨準備での日本円の地位の高さ』でも説明しましたが、国際通貨基金(IMF)が四半期に1度公表している『COFER』と呼ばれる統計データによれば、日本円の外貨準備組入比率は5.82%で世界第3位です(図表1)。
図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2024年12月時点)
通貨 | 金額 | 割合 |
内訳判明分 | 11兆4719億ドル | |
うち米ドル | 6兆6313億ドル | 57.80% |
うちユーロ | 2兆2750億ドル | 19.83% |
うち日本円 | 6671億ドル | 5.82% |
うち英ポンド | 5424億ドル | 4.73% |
うち加ドル | 3179億ドル | 2.77% |
うち人民元 | 2497億ドル | 2.18% |
うち豪ドル | 2359億ドル | 2.06% |
うちスイスフラン | 198億ドル | 0.17% |
その他通貨 | 5328億ドル | 4.64% |
内訳不明分 | 8922億ドル | |
合計 | 12兆3641億ドル |
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。なお、「割合」は「内訳判明分」に対するその通貨のシェアを示している)
ちなみにその6671億ドルを24年12月末レートでざっくり円換算したら104.7兆円程度ですが、日本円の外貨準備保有割合が10%、20%などと上昇していけば、国債発行残高不足はむしろこれから深刻化するといえます。
ちなみに「減税否定論者」には、次のような特徴があるのかもしれません(あくまでも著者の主観です)。
- ①国家財政を家計と同一視している
- ②資金循環構造のデータを無視する
- ③IMF外準組入データを無視する
- ④複式簿記と金融と経済を知らない
- ⑤減税主張に対し感情的に攻撃する
- ⑥論破できない相手をブロックする
よくこれで減税を否定できるものだな、と思ってしまいますが、いずれにせよ、こうした資金循環構造や通貨論を一切無視し、家計と同じ感覚で「国の借金が~」、などと真顔で主張されても困惑します。
余談ですが、選挙では正しく投票したいものです。
川上産業に強い日本:輸出依存度はG7で米国に次いで低い
ただ、上記はおもに金融面から「日本経済は強く復活できる」とするお話ですが、産業面から見ても、日本経済には大きな強みがあります。
失われた30年の円高・低金利状況などを通じて日本からは製造業、とくに「最終製品」、「川下工程」が失われていったのですが、その反面、素材、装備、部品といった「モノを作るためのモノ」、「川上工程」などは、現在の日本にもしっかりと残っているからです。
考えてみれば当然かもしれません。
川上工程を握っていれば、円高でも、十分な強みを発揮できるからです。
そして、日本経済のもうひとつの特徴は、その内需主導型にあります。
世界銀行のデータ “Exports of goods and services (% of GDP)” などによれば、日本の輸出依存度(輸出のGDPに対する割合)は2023年時点で21.81%と、かつてと比べて上昇しているとはいえ、G7諸国などで比較すると米国に次いで低いのが実情です(図表2)。
図表2 輸出依存度
(【出所】グラフに表記)
潤沢な家計資産などを裏付けとした巨額の円資金、外為市場でいつでもどんな通貨とでも交換できるハード・カレンシーという強み、川上産業をしっかり握っているという産業面での強さ、内需依存型で世界的な経済混乱の影響から距離を置ける点などを勘案すれば、日本経済の先行きは明るいといえます。
加速する少子高齢化、高騰するエネルギー価格などの課題はありますが、とりわけ労働力不足などに関しては、日本の技術力などである程度カバーすることが可能です。
余談ですが、税社保の取り過ぎ問題にせよ、原発再稼働問題にせよ、日本経済を衰退させているのは結局、全体最適を無視した官僚の独走、政治が決断を下さないことなどであって、基本的には「人災」であると考えて良いでしょう。
韓国から見える日本:一見すると似ている?
ただ、これも日本だから未来に希望が持てるのであって、前提条件が異なると、必ずしもそうとはいえません。
こうしたなか、本稿でもうひとつ取り上げておきたいのが、こんな記事です。
トランプショックを待たずに「暗いトンネル」突入の韓国経済 第1四半期マイナス成長が示す「縮む」時代の幕開け
―――2025年04月24日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
執筆したのは韓国観察者として知られる鈴置高史氏です。
ただ、記事のタイトルだけを読むと、「少子化しているという意味では日本だって同じじゃない?」、「衰退するのは日本もまったく同じでは?」などと勘違いしてしまうかもしれませんが、残念ながらそうではありません。
鈴置氏によると、韓国銀行が24日に発表した2025年第1四半期の実質GDP成長率がマイナス0.2%だったそうですが、これについては直接の引き金は政局不安による消費の減退であるとしつつ、いつもの調子でこれでもかというほどに「数値」が出てきます。
というのも、鈴置氏は同国の実質GDP成長率は、ここ4四半期連続してプラス0.1%以下の小幅な成長(またはマイナス成長)が続いていると指摘するからです。
韓国の問題点は、それだけではありません。
生産年齢人口が日本に遅れること24年、2019年にピークに達したのです。
鈴置氏によると日本の生産年齢人口がピークに達したのは1995年のことですが(※逆に、そこから30年経っていまだにこのレベルの経済を維持している日本という国は凄いといえるかもしれません)、韓国は後発国でありながら現在、世界最悪レベルの少子化に直面しているのです。
輸出依存度が高い韓国と「トランプ関税」
これに加えていわゆる「トランプ関税」の影響も深刻です。
先ほど指摘したとおり、日本の輸出以前度は(かつてと比べて上昇しているとはいえ)20%少々ですが、鈴置氏によると、韓国の輸出依存度は「50%弱」といいます。実際、先ほどの世銀データで調べてみると、2022年の韓国の輸出依存度は48.27%です(※ただし2023年には44.00%に低下しています)。
これについて鈴置氏はこう指摘します。
「逆に言えば、韓国経済は輸出の好調さえ続けば、生産年齢人口の減少という弱点をある程度カバーできてきた。人口減少による経済の縮みをさほど警戒してこなかった理由も、ここにあるのでしょう」。
このあたりは、円高で輸出依存度を上げるわけにはいかなかった日本経済との大きな違いでしょう。
くどいようですが、少子化は日本だって生じていますし、政治に対する不安という意味でも(程度の差こそあれ)状況は似たようなものかもしれません。
しかし、▼輸出依存度が高すぎる、▼川上産業・基幹産業の蓄積が乏しい、▼通貨がハード・カレンシーでない、▼川下産業に特化しすぎている―――などの事情を考慮すれば、やはり、韓国経済が置かれた環境は日本経済のそれと比べ遥かに厳しい状況にあると断じざるを得ないのでしょう。
いずれにせよ、普段から当ウェブサイトにて報告している通り、鈴置氏は「韓国観察者」と名乗っていながらにして、じつは「日本観察者」なのかもしれません。鈴置論考を読むと、日本とは類似しているけれども根本的なところで異なっている韓国経済の姿が見えてくるからです。
正直、韓国は私たち日本にとっては「外国」であり、「他人」です。韓国が発展すれば隣国としては喜ばしいと思う反面、韓国が経済破綻したとしても、手を差し伸べるいわれはありません。
大事なことは「他山の石」にすることができるかどうかだと思うのですが、いかがでしょうか?
※なお、本稿では前半で「日本は減税や社保減免が必要だ」などと申し上げましたが、これらは鈴置氏の記事の主張とはまったく関係ありませんのでご留意ください。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
![]() | 日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
韓国経済が暗いトンネルに突入とか、それは困った大変だ。
トンネルなら普通出口があるはずで、二度と明るいところに出てきてほしくない私にとってはとても憂鬱なお話です。
どうかそのまま地下深くまで沈んでくれないものだろうか。(いつもなら中国か米国でフラフラして景気の良い方にするよるんだろうけど、それが出来ないこの絶望的状況だけは笑える)。
経済的に強くなければ、アメリカも守ってくれない。在韓米軍撤退という日がくるかもしれません。その時日本は騒がないように。アーメン。韓国なんて中国にくれてやれ。
次期韓国大統領の有力候補は「ベーシックインカム導入」が持論だそうだ。
是非ともやってほしい。
人類史上初になるはずでどのようにコケるか見てみたい。
そもそもそれやる金あるの?
ただでさえ経済的に今まで以上にヤバくなると言われているのに、
韓国の次の大統領はあの盧武鉉や文在寅すらをもしのぐ”逸材”と噂されていますからね。
他人事ならただの見世物として楽しめるのですが、残念ながら日本への影響を
ゼロには出来ないし、石破内閣がどんな対応をするか心配です……
みんなに聞きたいが私はハングルを学ぶべきなのだろかこの国の民主主義がどうなるのか興味がつきない。
暗いトンネル >
そういえば・・・「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」というフレーズで始まる、有名な小説がありましたなぁ~。
世の中は春色真っ盛りなのに雪国へと一直線の韓国さん!
ひゅるり~♪ ひゅるりららぁ~♪ なんて思わず口ずさんでしました。
なんちゃって。
「密室で協議しない」
「経過をオープンに保つ」
という原理原則を守れば、心配することはないと思いますね。
先例としては世耕経産大臣の時に、
「説明会」
と大書してカメラマンからみて背後の壁に貼った上で韓国側との打合せに望んだあたりの交渉スタイル(あしらい方)でしょうかね。
あちらは、なんとしてでも密室協議に持ち込もう持ち込もうとします。
大臣1人に賄賂して赤字でも、協議自体を不公平に締結できればお釣りが来ますからね。
でも、実績的にそういう相手とお付き合いして、長期的に相互に発展してきた実例なんか存在しないと思いますよ。
自分だけは上手く立ち回ったつもりでも、一世代二世代でケツの毛までむしられて消えて居なくなる印象です。
伊能忠敬の伝記でも読んでみたらよいのに。
特アに甘い外相がいるから 油断できません。
自称先進国、この1つで先進国と言えないのが「結核高蔓延国」のレッテル。
OECD加盟国の中で26年連続1位だそうだ。
10万人当たりの結核発症者が2013年の89.6人から2022年39.8人に減ったと主張しているが、目標が40人だったのを見るとアヤシイ。
結核というのはそんなにすぐ減るものではない。日本は地道な努力で数年前にやっと低蔓延国になれた。
あの民族の最も苦手なのが「地道な努力」というのを考えるとしばらくは首位の座を明け渡さないだろう。
折れ線グラフでは色分けの他にドット線などを使って似たような色の識別をお願いします。
人口を維持することの他にも、経済が潤滑に回るためには政情や社会の安定が不可欠です。大統領の罷免を巡り保革が国を真っ二つに割ってドロ沼の政争を繰り広げたりする国情の下で、経済だけが順調に発展するとは思えません。
例えるならば、両親が毎日子供の前でガミガミと陰湿なケンカを続ける家庭において、子供だけは優秀で出来よく育つことはあまり期待できないのと同じと思います。
ライダイハンを認め、謝罪と賠償を行い、
帰国帰化事業を推し進めれば人口減少を鈍化させることが出来ます。
イギリスのポンドってハードカレンシーですよね?
何度か債務危機を経験していますが、日本との違いは何でしょう?