「北朝鮮特使団、雰囲気悪くない」。韓国さん、正気ですか?

韓国政府が、よりにもよってこのタイミングで、北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)に大統領特使を派遣したようです。ただ、韓国政府の米国に対する「裏切り」は今に始まったものではなく、この報道に接しても驚かなくなっている自分が逆に怖いという気もします。本稿では、現時点で判明している事実関係を簡単に振り返るとともに、トランプ氏がどう出るのか、中国が朝鮮半島にどう関わるのかについても考察を加えておきたいと思います。

正気とは思えない韓国政府の行動

韓国が特使団を平壌に派遣

韓国メディアの報道によると、韓国政府は昨日(9月5日)、北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)に特使団を派遣。特使団は夜遅くに韓国に戻ってきたのだとか。これに関して韓国メディア『中央日報』(日本語版)に報道が出ています。

青瓦台「特使団、予定になかった夕食会まで…雰囲気悪くないようだ」(2018年09月06日08時23分付 中央日報日本語版より)

まことに失礼ながら、リンク先の中央日報の記事からは、現在韓国が置かれている危機的状況に対する認識、切迫感などが、まったく感じられません。

中央日報によると、今回、北朝鮮を訪問したのは次のメンバーです。

  • 鄭義溶(てい・ぎよう)韓国大統領府国家安保室長(※今回の特使)
  • 徐薫(じょ・くん)国家情報院長
  • 千海成(せん・かいせい)統一部次官
  • 金相均(きん・そうきん)国家情報院第二次長
  • 尹建永(いん・けんえい)韓国大統領府国政状況室長

中央日報は、彼らが「午前7時40分にソウル空港から空軍機で平壌に向けて飛び立った」、といった具合に、その動向がやたらと詳しく紹介されているのですが、正直申し上げて、こうした情報にはまったく価値はありません。

重要なのはむしろ「このタイミングで韓国政府が特使を平壌に派遣した意味」です。

米国の2つの重要な動き

簡単におさらいしておきましょう。私が考える重要な客観的事実は2つあります。

1つ目は、米国政府が国務省のウェブサイトに、北朝鮮に対する経済制裁の詳しい説明資料を、「わざわざ韓国語で」掲載している、という点です(『米国への提案:制裁破り続ける韓国を捨て、台湾との同盟を!』参照)。

米国への提案:制裁破り続ける韓国を捨て、台湾との同盟を!

おりしも8月には、事実上の韓国の国有企業でもある韓国電力公社のグループ会社が、北朝鮮産の石炭を産地偽装したうえで購入していた事件も発覚しましたが(※これについては次のようなリンクもご参照ください)、米国がいまや韓国を、「北朝鮮制裁を公然と破る国」とみなしていることは間違いありません。

2つ目は、米国がマイク・ポンペオ国務長官の4度目の北朝鮮訪問をキャンセルしたことです(『経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ』参照)。これは、6月12日の米朝共同声明の内容を、いつまで経っても履行しない北朝鮮に対し、米国が業を煮やした措置だと理解できます。

経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ

米国はおそらく、不誠実な北朝鮮に対し、かなりのフラストレーションを感じているのではないかと思います。そこで、いったん北朝鮮との交渉を棚上げし、米国は中国との貿易戦争に注力する、という戦略に転じたのだ、という見方もできるでしょう。

自ら同盟の危機を招く韓国

以上を整理すると、今回の韓国政府の行動は、あきらかに米韓同盟自体を愚弄する行動です。

韓国は、一応、「自由主義」「民主主義」「法治主義」などを掲げる国家です(その実態はともかくとして)。そして、米国との間では軍事同盟を保持しており、米国の同盟国として、米国の国益の最大化に協力する義務を負っている国でもあります。

それなのに、米国が北朝鮮の非核化のために、北朝鮮に対し、圧力を維持しようと努力しているのを無視して、韓国が北朝鮮に対し「敵に塩を送る行為」を続けているのは、大きな問題です。

先ほども引用した『経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ』でも紹介しているとおり、8月だけでも、北朝鮮産の石炭を産地偽装したうえで輸入していた事件が発覚したほか、北朝鮮・開城(かいじょう)の南北連絡事務所設置を名目にして、石油を北朝鮮に贈与しています。

それだけではありません。同盟国である米国が、北朝鮮との対話を棚上げにしようとしているにも関わらず、韓国は今月に予定されている文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の平壌訪問と、独裁者・金正恩(きん・しょうおん)との首脳会談を強行する構えを見せています。

トランプ氏はどう出るのか?

相手から言質を取る「トランプ流」

さて、ドナルド・J・トランプ米大統領は、なかなか面白い人物です。

そもそも2016年の大統領選で、圧倒的な不利という大方の事前予測を覆し、ヒラリー・クリントン候補を打ち負かして大統領に当選したこと自体が「大番狂わせ」でしたが、その後は大統領選の選挙公約を1つずつ、着実に履行しています。

「アメリカ・ファースト」の重視、TPP(環太平洋パートナーシップ)からの離脱、イスラエル大使館のエルサレムへの移転、パリ協定からの離脱など、その「型破り」な行動は、少なくとも注視に値するといえるでしょう。やはり、海千山千のニューヨークで不動産王として財を成すだけのことはあります。

こうした文脈から考えてみると、トランプ大統領が6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談に応じたのも、私は、おそらく彼なりの「ケンカの仕方」ではないかと考えています。そして、「絶対に約束を守らない相手に、とにかく一回、文書に署名させる」、という点に意義があったのだと考えると、すっきり理解できます。

あらためて、シンガポールでの米朝共同宣言に盛り込まれた合意事項である4点を振り返っておきましょう(カッコ内は私自身の意訳です)。

The United States and the DPRK commit to establish new U.S.–DPRK relations in accordance with the desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity.(米朝両国は両国の人民の平和と繁栄に対する熱望に従い、新たな両国間関係を構築する。)

The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.(米朝両国は朝鮮半島において、恒久的かつ安定的な平和体制を確立するために協力する。)

Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言に従い、北朝鮮は朝鮮半島の非核化を完了するよう努力することを再確認する。)

The United States and the DPRK commit to recovering POW/MIA remains, including the immediate repatriation of those already identified.(米朝両国は朝鮮戦争における捕虜・行方不明者の遺骨収集と、特定されたものの米国への送付で合意した。)

この4項目については、いずれも具体的な期限(デッド・ライン)が設けられていません。しかし、重要な点は、「具体的な義務」を負っているのが一方的に北朝鮮の側である、という点ではないかと思います。

もちろん、米国も1番目と2番目で「新たな両国関係を構築する義務」、「朝鮮半島における恒久的な平和体制確立のために協力する義務」を負っていますが、これはあくまでも「抽象的な義務」に過ぎず、かつ、「北朝鮮と共同で負っている義務」です。

これに対し、北朝鮮は3番目と4番目で、朝鮮半島の非核化に向けて努力する義務と、遺骨収集・送還の義務を負っています。このうち3番目が、米国にとっては「決定的に重要な言質を取ったもの」である、と言えなくはありません。

なぜCVIDではなかったのか?

ところで、シンガポール会談以前にさかんに唱えられていたのが、「CVID」です。

これは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のことであり、核兵器やミサイル、生物・化学兵器なども含めて、大量破壊兵器を広範囲に特定し、完全に武装解除することを意味します。

しかし、米朝共同宣言には「CVID」のCの字も含まれていません。これをもって、米朝合意はじつに中途半端なものに終わったとする意見が、主に米国側のメディアから流れて来ているのですが、「トランプ流」だと、別に「大失敗だった」とまでは言えないのかもしれません。

その理由は、トランプ氏が最初から、北朝鮮が約束を破ることを前提にしていると見抜いていた可能性がある、という点でしょう。要するに、どうせ北朝鮮が約束を破るのならば、うんと曖昧な条項にしておき、国際社会に対して「そら見たことか!北朝鮮が約束を破ったぞ!!」と喧伝する、という戦略です。

もちろん、トランプ氏がそこまでの思慮を持っていたのかどうかはよくわかりませんが、米朝首脳会談から3ヵ月近くが経過し、結果的には米国内で再び北朝鮮攻撃論が高まりはじめるきっかけとなりかねません。

中国を「うまく使う」のがトランプ流?

さらに深読みをすると、トランプ氏は中国をうまく使う腹づもりなのかもしれません。

わが国の総務省統計局が発表する『世界の統計2018』(図表9-6『主要相手国別輸出入額』、P170~)によると、中国の米国に対する2016年における輸出額は、米国側の統計で4817億ドルに達しています。これに対し米国からの中国の輸入額は1158億ドルに過ぎません。

米中貿易額(2016年、金額単位:百万ドル)
  • 【米国側の統計】
    • 中国→米国 481,718…①
    • 米国→中国 115,775…②
    • 米国の貿易赤字 365,943…③=①-②
  • 【中国側の統計】
    • 中国→米国 385,678…④
    • 米国→中国 135,120…⑤
    • 中国の貿易黒字 250,558…⑥=④-⑤

現在、米国が中国に対して仕掛けている米中貿易戦争は、一方的に中国に対して不利なものです。というのも、中国としては米国に対し巨額の貿易黒字を計上している(つまり大幅な輸出超過である)がために、対抗措置も限定されてしまうのです。

トランプ氏が中国の「降参宣言」を引き出した暁には、米中共同で北朝鮮を「処理」する、という談合が行われても不思議ではないのです。

南北揃って「処分」されるのか?

以前から当ウェブサイトでは何度も強調しているとおり、私は、韓国政府が米国の意向に逆らうようなことを続けたとしても、米国が今すぐ米韓同盟を破棄するとは考えていません。むしろ、米国は米韓同盟を破棄する前に、韓国に金融・経済制裁を加えることで文在寅政権を揺さぶるのではないかと思います。

また、在韓米軍が撤収するにしても、「北朝鮮の非核化に中国が協力すること」と引き換えとするのではないかとの見方をする人もいますが(たとえば日本経済新聞社元編集委員の鈴置高史氏)、こうした可能性にも、非常に説得力があるといえるでしょう。

早い話が、南北揃って「処分」される、というシナリオです。具体的には、朝鮮半島は北部が中国の傀儡政権(または中露で分割占領)状態となり、南部が「中立国」、あるいは中華属国化して米軍が撤収してしまう、という可能性です。

こうしたシナリオは、日本にとって望ましくない側面と、望ましい側面の両方があります。たしかに、朝鮮半島全体が中国のコントロール下に入ることは困りものですが、中国の指導下で史上最悪の独裁者・金正恩が北朝鮮から排除され、非核化と日本人拉致問題解決が達成されれば、結果的にハッピーです。

そういえば、最近当ウェブサイトでは、「朝鮮半島の将来シナリオ」に関する論考を執筆していませんが、久しぶりにこれについて考えてみても良いかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 朝鮮半島はどこか大国の「ケツもち」が無いと、持たない国だと思います。日本も一時押さえてましたが、あまり日本には役に立たず(と言うか膨大な持ち出し)、離れて良かったと思います。今は北が米国とチキンゲームをやっているが、さて何処まで持つやら。北は南朝鮮については、文政権に限り、ほぼ手中にした感があります。韓国の対北へのへりくだった態度は、「正常とは思えない」に尽きますね。米国に対しても「何時でも経済報復してくれ」って踏ん反り返ってるように見えます。

    < このタイミングで鄭国家安保室長を始め「訪朝団」を送り込むとは、ケタ外れの悪手です。文の親書を金に渡す、晩餐会までやるとは、正直、未だ停戦の相手と行なうものではありません。

    < 私は、突き詰めると南北の統一は当面(30~50年単位で)できないと思います。最初に言った大国の寄生虫だからです。あの韓国人が大好きな、「日本は見習え」とすぐ言うドイツでさえ、30年経ってもうまく行きません。東西所得の差、貧富の差、中東アジア難民受入れによるドイツ国民の不満、メルケル東独出身首相への失望も大きいです。

    < いわんや『朝鮮半島』。樹を切り倒して禿山にし、洪水、河川反乱、田畑荒れ放題をほったらかしの北朝鮮。農業も工業も圧倒的に遅れた北朝鮮を、韓国は救えません。日本?CVIDやるなら協力しよう。文が統一首相になろうが、新しい人材がなろうが、民族として他人のせいにする、自分さえ良ければいい、従兄弟が成功すると腹痛起こすという、魔性の民族に明るい未来などありません。必ずや分裂、主権争い等で再分裂するでしょう。日本はできるだけ関知しない方が良い。触れればロクな事が無いのは歴史が証明しています。

    < それこそ北は中国が金正恩を除去して非核化をする。その取引として在韓米軍の撤収と、南朝鮮は中国の属国になっても今よりマシです。事あればシナに『躾をせよ!』と言えばいいのですから。それでも半島が挑発するなら実力行使で(笑)。

    1. りょうちん より:

      >朝鮮半島はどこか大国の「ケツもち」が無いと、持たない国だと思います。

      日本語には、便利な「事大主義」という言葉がありまっせ。
      ただ、朝鮮民族には「夜郎自大」という性格も併せ持っているので、日本語では混乱を招きますね。

  2. 宇宙戦士バルディオス より:

    >こうしたシナリオは、日本にとって望ましくない側面と、望ましい側面の両方があります。たしかに、朝鮮半島全体が中国のコントロール下に入ることは困りものですが、中国の指導下で史上最悪の独裁者・金正恩が北朝鮮から排除され、非核化と日本人拉致問題解決が達成されれば、結果的にハッピーです。

     もう一つ。同盟が成立するには、共通の敵が必要です。それも、弱くてはいけない。適当に強くあることが必要です。歴史的には宿敵の間柄であった英仏が手を結べたのは、ドイツという共通の敵があったから。そして、NATOにおいて宿敵同士だった独仏が味方同士になったのもソ連という共通の敵があったからです。
     日米同盟がより長く続き、日米関係が強固であるためには、中国が適度な強さで共通の敵になってくれることが必要です。その一環として朝鮮半島を併呑するのであれば、我が国にとって日米同盟を維持強化するには、有難いことになるでしょう。強くなり過ぎては困りますが。
     どの道、韓国・北朝鮮がどのような選択をするかは、我が国には手出しの出来かねることですので、その動きを見て戦略を組み立てるしかありません。

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