韓国の外貨準備「行方不明の10億ドル」
韓国銀行が2019年8月の外貨準備高を公表したそうですが、これに関する韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)は「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」という韓国銀行の説明を報じています。はて、本当でしょうか?為替相場と通貨別構成から判断する限り、この説明自体、どうも納得ができません。
またしても外貨準備です
先ほどの『日韓関係の復元が難しい理由』で「当ウェブサイトは韓国専門サイトではない」とお断りしたはずなのですが、またしてもあの国の話題です。
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に1つ、明らかに不自然な記事を発見したからです。
韓国の外貨準備高4015億ドル 1年ぶり低水準(2019.09.04 06:00付 聯合ニュース日本語版より)
韓国銀行は本日、韓国の8月の外貨準備高を4104.8億ドルと公表しました。
前月比では16.3億ドルの減少で、聯合ニュースはこれについて「昨年8月(4011.3億ドル)以来の低水準」だと報じています。
もちろん、外貨準備は変動するのが常ですし、増えることもあれば減ることもあります。ただ、聯合ニュースはこれについて、次のように述べています。
「韓国銀行は、ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りしたと説明した。」
はたして、これは本当でしょうか?
通貨別構成
韓国は外貨準備高の通貨別構成を明らかにしていませんが、韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に今年5月に掲載された記事によれば、「外貨準備高に占める有価証券の割合は92.6%で、うちドル建て以外の資産は約32%を占める」とされています。
韓国の外貨準備高、1カ月で12億ドル減(2019/05/08 08:32付 朝鮮日報日本語版より)
言い換えれば、外貨準備高のうち少なくともドル建て有価証券の比率は約63%ということであり、これを直近の数字に当てはめたら、韓国の外貨準備には米ドル建ての有価証券が2500億ドル少々含まれていなければおかしい計算です。
ただ、米国財務省の統計を見る限り、韓国の中央銀行がそこまで多額のドル建て有価証券を保有しているとは考えられませんが、この点については先月の『矛盾が解消しない、韓国の外貨準備統計』あたりで詳述していますので、本稿では割愛します。
それよりも、本稿で検証したいのは、「ドル高の影響でドル以外の外貨建て資産のドル換算額が目減りした」という、この韓国銀行の説明です。
IMFのCOFERと呼ばれる統計によれば、全世界の外貨準備高に占める割合は、2019年3月末において、だいたい次のとおりです。
- 米ドル…62.00%
- ユーロ…20.00%
- 日本円…5.00%
- ポンド…4.50%
- 豪ドル…2.00%
- 人民元…1.80%
- 加ドル…1.70%
世界の外貨準備高には、これら以外の通貨もあるため、足しても100%にはなりませんが、この構成割合は先ほどの『朝鮮日報』の記事の記載とさほど大きく矛盾していませんので、ざっくりとした分析をするうえでは、この通貨別構成が参考になるでしょう。
具体的検証:10億ドルが行方不明
それでは、実際に8月末の外貨準備高と前月比増減率をチェックしてみましょう(図表1)。
図表1 韓国の外貨準備高(2019年8月末、金額単位:千ドル)
項目 | 2019年8月末 | 増減率 |
---|---|---|
金 | 4,794,758 | 0% |
SDR | 3,377,221 | -0.34% |
IMFポジション | 2,663,708 | -0.26% |
その他 | 390,647,791 | -0.41% |
合計 | 401,483,478 | -0.40% |
(【出所】韓国銀行)
トータルで見ると4014.8億ドル、前月比で0.4%落ち込んでいますが、この程度であれば為替変動で落ち込むのかな、という気もします。では、本当にそうなのでしょうか?
ここで、先ほどの通貨別構成割合と実際の為替相場をぶつけてみます(図表2)。
図表2 通貨別構成と為替変動の影響
通貨 | 構成割合(A) | 為替変動(B) | (A)×(B) |
---|---|---|---|
米ドル | 62.00% | 0% | 0% |
ユーロ | 20.00% | -0.79% | -0.16% |
日本円 | 5.00% | 2.30% | 0.11% |
英ポンド | 4.50% | 0% | 0% |
豪ドル | 2.00% | -1.65% | -0.03% |
人民元 | 1.80% | -3.65% | -0.07% |
加ドル | 1.70% | -0.90% | -0.02% |
合計 | 97.00% | ― | -0.16% |
(【出所】為替変動はWSJを参考に著者作成)
いかがでしょうか?
韓国の外貨準備に占める通貨別構成割合が正しいかどうかはわかりませんが、これで検証する限り、為替相場の変動による外貨準備の減少は0.16%です。
2019年8月の外貨準備高については、2019年7月の韓国の外貨準備高(403,112,528千ドル)に対して、
- 為替相場変動による減少額…-629,452千ドル
- それ以外の要因による減少額…999,598千ドル
と計算できます。
つまり、ざっくり10億ドルが行方不明、というわけです。
外貨準備の運用益もありますからねぇ…
さて、2019年8月の「行方不明の10億ドル」ですが、「通貨防衛に使われた」、あるいは「債券の償還に使われた」、など、さまざまな可能性が考えられます。
さらに、通常、外貨準備には運用益(債券利息など)が入るため、「4000億ドル」と韓国が自称する外貨準備高の年利回りが2%だったとすれば、年間80億ドルの運用収益が入るはずであり、単純に月割りにすれば、8月に7億ドル弱の利益が得られていたはずです。
このように考えると、先ほどの10億ドルだけでなく、外貨準備の運用益(7億ドル)を足した17億ドルが、「韓国が通貨防衛で溶かした額」、ということもできるのかもしれません。
(※ただし、先ほども申しあげたとおり、「韓国の外貨準備高4000億ドル」には実在性が疑わしい部分もありますので、運用益がそんなに多額なのかという疑問もありますが…。)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
以上の計算は非常に粗っぽい、雑なものです。また、単月で検証するのではなく、本来であれば連続したデータで検証すべきものではありますので、本稿の検証結果が正しいという保証はありません。
ただ、韓国の外貨準備については検証すればするほどさまざまな矛盾点や異常点が検出されるため、ある意味では「研究対象」としてはツッコミどころが満載でもあるため、「知的好奇心を探求する対象」としてはその資格は十分といえるのではないでしょうか。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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更新ありがとうございます。
今1$1,110〜1,120ウォンぐらいで動いてますねー。会計士さんによると、「先ほどの10億ドルだけでなく、外貨準備の運用益(7億ドル)を足した17億ドルが、韓国が通貨防衛で溶かした額」(笑)。という事はざっと1,900億円か〜。
ドサクサに紛れて数字を誤魔化そうとしたが、会計士さんには逆に目に付いた、と(笑)。『雉も鳴かずば撃たれまい』(爆笑)。久しぶりのフレーズです!
めがねのおやじさん
USD/KRWのチャートを見ていますが、
8月頃から1$1205~1220の間で動いていると思います。
波が荒くて見てて面白いですw
ご参考までに
すまない様
間違えてました。ご指摘ありがとうございます。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
素朴な疑問ですが、韓国の外貨準備高減少は、文大統領には、どのよう
に説明されているのでしょうか。(そもそも、大統領周辺に、外貨準備高
制度の基礎知識を、持っている人がいるのでしょうか)
駄文にて失礼しました。
基礎知識がない上でのコメントお許しください。
最近の急激なウォン下落に伴い、これ以上下落が進むと大変なので、当局が買い支えているのではといったことも聞くところですが。
ウォンの為替相場も不自然な動きをしていると・・。
小数点以下の桁数ですが、
科学系の学問では、初学者に骨から叩き込まれる
「有効数字」という概念がありましてですね。
最初の表で
米ドル…62.00%
と記されるものは、小数点以下2桁目に誤差があると考える表記です。
つまり、61.95~62.05までの範囲だ、という表記になります。
ですので、この表の場合には、62.0%というように、
有効数字を尊重して作表していただければと思います。
ぁ 様
コメント大変ありがとうございます。
有効数字の件、参考になります。ですが、当ウェブサイトの場合はエクセルなどを使って図表を作成することが多く、残念ながらそこまでの配慮をすることができない場合がありますので、ご容赦ください。
引き続き当ウェブサイトのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
自然科学と社会科学じゃ数字の持つ意味がかなり違うから有効数字についてはそこまで注意しなくていいのではないでしょうか。社会科学の統計は自然科学に比べるとたいてい圧倒的に誤差が大きいので。本来は誤差がほとんどないはずの統計(とある国の失業率とか)も政治的な圧力で「誤差」が生じてしまっているのはまた別の問題ですけど。
Empty pockets never held anyone back. Only empty heads and empty hearts can do that.
ドル高で保有外貨が目減りとは苦しい言い訳だと思います。逆に言えばドル以外の外貨が多いということになります。円は上昇傾向ですから考えられるとすれば人民元とユーロですかね。特に人民元は直接決済ができますから大量に保有しててもおかしくはないかも知れません。
しかし、ユーロは英国の行く末に左右され、人民元は米中貿易戦争の行く末に左右されます。どちらも不確定要素が大きく、不安で仕方が無いと言うのが本音ではないかと思います。
そう言えば韓国は2016年から人民元との直接取引が可能になりました。「海外でウォンで直接取引ができるからウォンの国際化だ」みたいなことを言ってました。その後、ウォンの地位が上昇したとか聞いたことがありません。
駄文にて失礼します
> 韓国銀行は本日、韓国の8月の外貨準備高を4104.8億ドルと公表しました。
「4104.8億ドル」→「4014.8億ドル」ですか?
> 外貨準備の運用益(7億ドル)を足した17億ドルが、「韓国が通貨防衛で溶かした額」
予想してたよりずっと為替介入の規模が小さいようです。
8月の韓国株の外国人売り越しが17億ドル程度なのと,
韓国人が外貨預金をそれほど増やしていないのが原因でしょうか。