徴用工訴訟:あれ?結局差押えはしないのですか?
昨日・12月26日といえば、日韓関係を破壊しかねない重要な日付だったはずです。というのも、自称元徴用工らの代理人が、新日鐵住金に対する在韓資産に強制執行をかけるとしたら、昨日がその最初のチャンスだったからです。ところが、現時点では「原告側が資産差し押さえに踏み切った」という報道は見られません。いったいどうなってしまったのでしょうか?そして、本当にこのまま無事に(?)越年するのでしょうか?
「運命の日」の12月26日を過ぎましたね
事前の報道だと、10月30日に韓国の大法院(最高裁に相当)が下した、いわゆる「徴用工判決」を受けて、原告側の弁護士らは12月24日以降、新日鐵住金の在韓資産の差し押さえに踏み切るはずでした(『12月24日が、「日韓関係終了の日」になってしまうのか?』参照)。
といっても、12月25日が韓国のクリスマス休暇にあたるため、資産差し押さえに踏み切るとしたら、現実的には12月26日以降とならざるを得ないという事情もありました(『日米両国にケンカを売る韓国、次の決行日は12月26日か?』)
その意味で、12月26日が日韓関係を根底から破壊する「運命の日」となりかねない、というのが、綿§ゐ自身の見立てだったのです。しかし、本日はすでに12月27日であり、現時点までに、韓国側で新日鐵住金の在韓資産に対する差し押さえ手続の申し立てが行われたとする報道は見当たりません。
いったいどうなってしまったのでしょうか?
そもそも徴用工判決とは?
そもそも論ですが、この徴用工判決は、韓国側で元戦時徴用工だったと自称する原告やその遺族らが、日本企業である新日鐵(現・新日鐵住金)を相手取って未払い賃金などの支払を求めたものです。
しかし、1965年の日韓請求権協定には、韓国側は政府、法人、個人を問わず、日本の政府、法人、個人に対する一切の請求権を行使できないことが明記されています。少々読み辛いのですが、日韓請求権協定の原文を確認しておきましょう。
日韓請求権協定第2条第1項(PDFファイルの8ページ目)
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、一九五一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
日韓請求権協定第2条第3項(PDFファイルの9ページ目)
「2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」
(※「2の規定」とは:1945年8月15日から日韓請求権協定締結時点における日韓両国の請求権等。これは終戦と関係がないので、「完全かつ最終的に解決され、いかなる主張もできない」という項目から除外されているものです。)
つまり、今回、韓国の裁判で日本企業が敗訴したことは、この日韓請求権協定の「完全かつ最終的に解決され、いかなる主張もできない」という条約に、正面から反する行為なのです。
言い換えれば、今回の徴用工判決は、韓国による日本に対する挑発という次元に留まらず、もはや「国際秩序そのものに対する挑戦」という言い方をしても差し支えないでしょう。
なぜ日本政府が制裁に踏み切らないのか理解できない
ただし、本件については日本政府にも至らぬ点が多々あります。
菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官や河野太郎外相らは、確かに「韓国側が国際法違反の状態を是正しなければならない」などと牽制していて、この点については従来の日本政府にありがちな「事なかれ主義」的対応から脱却したものであり、評価に値します。
しかし、それと同時に現在のところ、日本政府は静観を決め込んでいることも事実です。実際、河野外相は12月24日の臨時記者会見(モロッコ)で、次のように述べています。
「韓国側は李洛淵総理を中心に対応策を検討していただいております。これは韓国側の中でも難しい問題というふうに理解をしておりますので、日本としては日本企業に不当な不利益が生じない限り静観をしたいというふうに思っております。」(※下線部は引用者による加工)
言い換えれば、たとえば新日鐵住金の在韓資産の凍結などといった「実害」が生じない限りは、日本政府としては事態を放置する、ということです(これがいわゆる「戦略的放置」というものでしょうか?)。
私自身、この対応は非常に甘いと考えています。
日本政府には韓国政府に対し、期限を切って「この時点までに適切な解決策を示せ」と迫るべきだと思いますし、その指定した時点までに韓国政府が適切な解決策を示さなかった場合には、ヒト、モノ、カネの遮断などの措置を講じるのが正解でしょう。
実際、日本は韓国に対する制裁手段を豊富に持っています。
その具体的なパターンと可能性、それらについて踏み切った場合のインパクトについては、『韓国に対する経済制裁、考えられる5つパターンとその可能性』『日本が本気で経済制裁すれば、数字の上では韓国経済崩壊か?』などで述べたとおりなので、ここでは繰り返しません。
おそらく現時点で見る限り、徴用工判決を巡る日韓対立は、膠着状態のままで越年しそうな雰囲気です。
「ナナメウエの展開」も?
ただし、日韓関係を巡っては、ここ数ヵ月、「旭日旗騒動」や「慰安婦財団解散」、「レーダー照射事件」など、想像も付かない展開が相次いでいることも事実です。
今回の徴用工訴訟を巡っても、原告側は「韓国内の新日鐵住金の在韓資産に対する差し押さえ執行手続きに入る」と言いながらも、その執行日時については「韓日当局者間の協議が進行中であるため、外交的な交渉状況も考慮し、執行日時を決める」と逃げました(下記記事参照)。
新日鉄住金の韓国内資産差し押さえ手続きへ 徴用被害者弁護団(2018.12.24 19:30付 聯合ニュース日本語版より)
そもそも新日鐵住金案件については、「大法院として初の日本企業敗訴判決」だったのですが、新日鐵住金案件の原告がこうやって逃げたことで、「日本企業に対する初の強制執行」という「名声」(?)を逃す可能性が出てきたという言い方もできます。
逆に言えば、ほかの原告(とくに大法院の確定判決を得ている三菱重工案件の原告など)にとっては、「初めての強制執行」という「名声」を手に入れる、絶好のチャンスだという言い方もできるでしょう。
さらに、新日鐵住金や三菱重工の場合はめぼしい在韓資産がないという話もありますが、ほかの訴訟案件では、韓国に工場や支店、子会社などを持つ日本企業が被告になっているケースもあると聞きます。
誰かが「日本企業の在韓資産差し押さえ第1号になれば注目されますよ」と原告団らに焚き付ければ、それによって日本企業の資産が差し押さえられ、河野外相のいう「日本企業に不当な不利益が生じる事態」が発生するかもしれません。
年内にそういった展開があるのかどうかにも、注目してみたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
更新ありがとうございます。
でも、会計士様の投稿が多過ぎて、こちら対応出来ません(笑)。四苦八苦(大笑)。
しかし、事の顛末はすべて韓国側がイチャモン付けたり、無理筋の訴訟を最高裁で逆転敗訴させたり、とんでもない人非人行為です。
スポーツで言えば『永久追放処分』、刑事訴訟で言えば『死刑』、企業で言えば『懲戒免職』『民事訴訟』+『同業他社への報告(採用するな)』『その他関連会社への報告』に値する。
新日鉄住金さん、三菱重工業さん、貴社は特亜の3流企業とは違います。我々も3流国民とは違います。過去の戦時中も、日本人朝鮮人台湾人に隔てなく給料なりを支払っていると存じます。日本国民も政府も貴社を護ります。
今頃ひょこっと来る可能性は低いですが、もし乱入したら、日本は同じだけ、被害を与えます。
更新お疲れ様です
誰も”差し押さえ”のファーストペンギンに成りたくないんでしょうね
いずれ、ホンモノのペンギンと同じく後ろから突き落とされるんでしょう
クリスマスプレゼントだと思ったんですがお年玉になるかも
節分かイースターまで待つのかも
過ぎ越しを過ぎ越して、灌仏会までは待ちたくないな
甘茶でお祝いも悪くないけど
「完全かつ最終的に解決」の基本条約につけ込まれ出したのは、徴用工ではなく、慰安婦からだと思いますね。
そもそも日本政府に何らかの請求をするような権利の皆無な元慰安婦が、ウソの証言を繰り返し、我が国を糾弾し、我が国は数次にわたる謝罪をし金銭を与えたことが、基本条約でさえ反故にできると、ゆすりたかり思考の強い彼らに熱意を持たせてしまったことは間違いありません。
よって、時代背景的に厳しくなってきたとはいえ、慰安婦についても、少なくとも民間では、先祖の名誉を守るための意識は必須でしょう。
>現在のところ、日本政府は静観を決め込んでいることも事実
これについては、全く理解できません。戦略的放置?の可能性も考えられなくはないですが、いつもの如くお茶を濁した日本外交の遺憾砲だけであれば、残念以外の言葉が見当たりません。
何をいつまでに、誰がするか、安倍首相にはそろそろ決断、前に進む日本を魅せて欲しいと願うばかりです。
弁護士が成功報酬目当てに外交などお構いなしに差し押さえに走る可能性もあるかと。
影響の大きさにビビるって、韓国人のイメージと合わないんですが。自分が追い詰められたらすぐにヘタレても、他人に影響が及ぶ事などあまり気にしない気質かと思います。
この後に続く巨大マーケットをどう料理するのが得か、知恵を絞ってるんでしょうね。
この問題については、本当に落としどころが見えてきませんね。韓国政府は、おそらくこのまま放置プレイを続けて、年が明けてしばらく経った頃に、どういう枠組みになるのかはわかりませんが、財団の設立を日本政府にもちかけてくるという可能性が高いと思います。そこで日本政府がどう対応するのかが、自分のような素人には予測できません。もちろん、日本政府が財団に資金を提供するなんていうことはないと思いますが、だからといって、これまでの経緯を見る限りでは、経済制裁などの強硬な報復措置を取るとも思えません。なので、いっそのこと新宿会計士さんも指摘しているように、韓国の方から資産の差し押さえに走ってくれれば、日本にとっても好都合なのかなという気がします。あとは、アメリカがどう考えているかだと思います。日米同盟と米韓同盟という関係がある限り、日本と韓国という二国間の関係だけで処理できる問題ではないというのが、なんとも厄介です。
何もしないうちに、気づかないうちに外堀が埋められる
それが今の日本政府です、つける薬なし。
何もかも理想通りにはいかないのが現実ですよ。
しかし安倍政権で無ければ、今でも日韓スワップがあって、片務的な漁業協定は結ばれていて、今回の照射事件も防衛省が徹底抗戦なんかしないで有耶無耶にされていたでしょう。
どもども
多分多角的に、特に経済に影響なきように軟着陸出来る場所を探してるのはわかります。
でももう少し政府も国民を安心させるような情報なら
多少なりとも漏らしてくれても良いと思うんですが。
暴走中国漁船の事もそうですし、拿捕も逮捕もしなけりゃ
シラ切り通されても仕方がない事のように思います。
まぁあれだけ堂々とシラ切られると
それすらも韓の日中離間工作に見えてきますが(笑)
結局何もしない日本政府。予想通りです。
韓国の司法が植民地自体が違法でありその間に行われた日本の行為については全て日本や日本企業に賠償責任がある可能性があると判断した事実だけが残りました。
その為これからは徴用工に限らず、植民地時代の出来事で様々な訴訟が繰り広げられ司法が違法だと判断するでしょう。
その都度、韓国政府が動くか否かを見極めて日本政府が都度それに対応するという馬鹿げた手順書フォーマットが出来上がった訳です。
差し押さえの時点で制裁を加えるのではなく、判決が出た時点もしくは迅速に韓国政府が対応しなかった時点で強力な対抗策を執らなかった時点で失敗です。
更には「日本は殴られても何もしない国」という印象も世界に発信しているのと同じです。ロシアや中国が強硬な態度を執るのも当然です。
「あれ?結局差押えはしないのですか?」
バカですか?