民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」

著者自身、とある理由で民事執行法について調べてきたのですが、やはり知的財産権の強制執行というものは、かなり時間もコストもかかるため、現実的ではない、というのが暫定的な結論です。本稿では著者自身の実体験も踏まえつつ、民事執行法の規定などをもとに、不動産、金銭債権、動産、その他資産(とくに知的財産権)についての強制執行(売却命令)について概観しておきたいと思います。

2022/08/19 12:07追記

一部の端末で本文が表示されないというエラーがあったようでしたので、とりあえず記事の一部のリンクを削除して対応しております。

民事訴訟と民事執行手続

債権者が裁判所の手続を使い、債務者から強制的に金銭を取り立てる方法としては、いったい何があるのか――。

以前の『個人的実体験に基づく「自称元徴用工訴訟の不自然さ」』でも議論したとおり、著者自身はかつて、とある「事件」で裁判を起こし、事実上の勝利を得たという経験があります(「事実上の」、と申し上げるのは、最終的には「判決」ではなく「和解」に至ったからです)。

このときの個人的な実体験を含めて申し上げるならば、一般に裁判(民事訴訟)の手続を使うのは、「法律の力を借りて、おカネを払おうとしない相手からおカネを取り立てるとき」であり、もしも裁判で勝ったとしても、相手におカネがなければ、それを取り立てることはできません。

悪質なケースだと、訴えられた瞬間に自分名義の預金口座にある資金をこっそりと他人(配偶者、子供、自分が設立した会社など)の口座に移し替えるなどして資産を隠匿したり、自分名義の不動産の所有権を部分的に譲渡することで不動産の差し押さえを逃れたりすることもあります。

不動産と預金(債権)を差し押さえたことが勝利の秘訣だった

著者自身のケースだと、非常に幸いなことに、訴えた相手がそれほど賢くなかったため、訴えを起こすのとほぼ同じタイミングで、預金口座とともに、商業用不動産(※第三者に賃貸中)についても仮差押えを行うとともに、その賃料債権についても差押えを行うことができました。

そうすることによって、著者自身が訴えている相手(=被告)は自分の財産(預金)が差し押さえられるとともに、不動産の賃料収入が凍結(供託)されてしまったため、こちらの裁判に応じざるを得なくなり、こちら側としては裁判所に対し、思う存分に相手の不法行為を列挙し、その言い分を認めさせることができました。

(※ただし、審理の途中で裁判官が異動し、経験年数が浅く、正直、あまり出来が良くない裁判官に交代してしまったため、結局は判決ではなく半ば強引に和解を勧められてしまったという経緯もありますが…。)

いずれにせよ、こうした実体験で得た教訓としては、裁判で差し押さえるならば、次のようなものが理想的でしょう。

  • 不動産(とくに第三者に賃貸中の物件)→オーナーチェンジの形で換金が容易である
  • 預貯金→裁判が終わったら直ちに分配できる
  • 金銭債権(賃料債権・売掛債権等)→供託されることが一般的。裁判が終わったら直ちに分配できる

民事執行法とは?

こうしたなか、日本国内で裁判を通じて債務者から強制的におカネを取り立てる方法を包括的に規定した法律が『民事執行法』ですが、裁判所のウェブサイトによれば、民事執行手続のうち強制執行手続については、「不動産」、「債権」の規定が用いられることが多いのだそうですが、「その他」の3つに大別されています。

民事執行法上の強制執行手続
  • 不動産執行手続【競売、強制管理】
  • 債権執行手続
  • その他【動産、船舶、その他の財産権】

(【出所】裁判所ウェブサイト『民事執行手続』および民事執行法を参考に著者作成)

ちなみに「強制執行手続」とは、「勝訴判決を得たり、裁判上の和解が成立したりしたにもかかわらず、相手方がおカネを支払ってくれないなどの場合に、『債務名義』(判決文などの公の文書)を得た人の申立てに基づき、相手方に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続」のことです。

そのうえで、これらの財産権の換金については、形態としては「譲渡命令」(裁判所が定めた価格で相手に引き渡さなければならないという命令)と、「売却命令」(競売など裁判所が定める方法で売却させる命令)という手段がありますが(同第161条第1項)、本稿では「売却命令」のみを取り上げます。

(※なお、民事執行手続としては、他にも「担保権の実行手続」などの規定もありますが、本稿に関してはそれは関係ありませんので割愛します。)

不動産の場合

不動産の場合は、債務名義を持つ強制執行を申し立てたら、裁判所はその申し立てが適法であると認めた場合、「不動産執行を開始する」などの宣言を行い、管轄の法務局に対し不動産の登記簿に「差押」の登記をするよう嘱託。

そのうえで事前準備として不動産の評価人などに調査を命じ、その調査結果に基づいて売却基準価額を決定したうえ、入札はその基準価額の80%(=買受可能価額)以上でしなければならない、というルールがあります。

たとえば売却基準価格が5000万円なら、買受可能価額はその80%の4000万円と決定され、『不動産競売物件情報サイトBIT』を通じて売却物件に関する情報を記載した「三点セット」(現況調査報告書、評価書、物件明細書)のダウンロードが可能となります(※本当に簡単にダウンロードできます)。

ただし、不動産を競り落としたとしても、「引き続いて居住する権利を主張できる人が住んでいる場合には,すぐに引き渡してもらうことはできない」とされているようですが、このあたりについてはまた別の論点があるようですので、ご注意ください(詳しくは裁判所ウェブサイトなどをご参照ください)。

金銭債権の場合

一方で、債権執行手続は、もう少し簡単です。

金銭債権(さいけん)とは、ある人が他人に対しておカネを払うように請求する権利のことです(この場合、おカネを払わなければならない義務を負っている人のことを債務者、おカネを払ってもらう権利を持っている人のことを債権者と呼びます)。

たとえばA社がB社から代金後払い契約で製品を購入した場合、B社はA社に対し、その製品の代金を払ってほしいと請求することができます(つまりA社が債務者、B社が債権者)。

しかし、Cさんという人物がB社を訴え、B社に対し、「Cさんにカネを払え」と命じる裁判所の判決が確定した場合、CさんはB社のA社に対する金銭債権を差し押さえることができます(この場合のA社のことを、法律用語では「第三債務者」と呼びます)。

つまり、本来の商取引では、A社はB社から購入した製品の代金をB社に支払うのが筋ですが、Cさんとしては、B社が損害賠償金を支払わない場合、第三債務者であるA社に対して直接、金銭を支払うように請求することができるのです(第三債務者に対する取立権)。

また、A社はCさんに直接カネを払うのではなく、供託をすることもできるのですが、この場合は供託されたカネを裁判所がCさんに対して支払います。つまり、債権の執行が行われた場合は、不動産の場合と比べ、より迅速に現金化ができる、というわけです。

動産の場合

さて、ここで問題となるのは、不動産でも債権でもない財産の強制執行でしょう。

いちおう、民事執行法には「動産」、「船舶」、「その他」という規定が設けられていますが、「船舶」に関しては本稿では取り上げません。

このうち「動産」に関しては、テレビドラマやマンガなどでよく見る、「執行官が自宅にやってきて、『差し押さえ』の紙をペタペタと貼る」というシーンを想像していただくのがわかりやすいと思います。

ただ、この場合も、差し押さえるのは現金や有価証券、宝飾品、高価な家具・調度品・機器などであるとされますが、債務者の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、1ヵ月の生活に必要な食料・燃料、2カ月分の生計費などについては差し押さえができません(民事執行法第131条各号)。

それに、「動産執行」の手段を講じるときというのは、たいていの場合、債務者に換金できる財産がほとんどないときでしょうから、正直、動産執行をしてもほとんどカネを回収することはできないのではないかと思います(著者私見)。

知的財産権の場合

そのうえで、「その他の財産権の強制執行」についても考えておきましょう。

民事執行法第167条第1項によれば、「その他の財産権」は「不動産、船舶、動産、債権以外の財産権」と定義されており、その強制執行については「特別の定めがあるもの」以外については、基本的に債権執行の例によることとされています。

(※なお、同第2項によれば、「その他の財産権」のうち「権利の移転について登記等を要するもの」に関しては、強制執行の管轄はその登記の地にあるものとされています。)

ただ、いろいろと事例を調べてみたのですが、やはり民事執行手続において「その他の財産権」を強制執行しているという事例は、あまり見当たりません。

いちおう、理屈のうえでは株券不発行の場合の株式(株式会社の社員としての権利)や知的財産権(商標権、特許権、実用新案権、意匠権、著作権など)についても差押えできなくはなさそうですが、やはり異例でしょう。

このうち知的財産権についての民事執行法の規定を読んでいくと、特許権や商標権、意匠権や著作権などについては、いちおう譲渡することが可能ですので、理屈の上では差押、強制執行などの手続をとることができるはずです。

その際、特許権や商標権などについては登記が必要であるため、差押の効力についてはその登記がなされた時点で発生します(民事執行法第167条第4号)。

そのうえで、裁判所がこれらの知的財産権についての売却命令を下す場合は、民事執行法上は不動産の売却と同様の形式で売却が行われると考えられます(著者私見)。つまり、裁判所が評価人を選任してその財産権の価額を決定するのでしょう。

この点、特許権に関しては、第三者からの収入が得られるなどの事情があれば、そのキャッシュ・フローをもとに価額を決定することができるかもしれません。しかし、商標権に関しては、正直、その価値をどうやって算出するのかについては、極めて難しいのが実情ではないかと思います。

知的財産権については会計上は無形固定資産に計上されることが多く、帳簿価額は取得原価によることが一般的ですが、その理由もおそらくはそれらの知的財産権がもたらすキャッシュ・フローを正確に見積もることが困難だ、という理由もあるのでしょう(※著者私見)。

なお、例外として、商標権に関する「使用差し止め」を要求する、というニーズが発生するケースも考えられます。

たとえば某著名レストランや某社のように、兄弟が別々の会社を設立し、それぞれ同じ商標を使ってトラブルになり、「本家争い」をしているようなケースにおいては、相手に対して「その商標を使うな」と請求することが考えられるでしょう。

ただ、こうした例外を除けば、知的財産権などを差し押さえるというのは極めて異例であるとともに、その売却の前提となる財産権の評価についても、そもそも高い専門性を持つ評価人がカネと時間をかけて実施せざるを得ないため、大変いにコストがかかることは間違いありません。

さらには、そうした知的財産権を「買う人」が出現するかどうか、といった問題もあり得ます(商標権の場合は、特にそうでしょう)。

いずれにせよ、民事執行の「やりやすさ」でいえば、やはり伝統的な財産権である不動産や金銭債権を差し押さえるというのが基本形と考えておいて良いのでしょう。

読者コメント一覧

  1. TDa より:

    おはようございます。

    記事を拝見したのですが、これ、原稿すべてでしょうか?
    中途半端な下書き状態なのかな?という印象ですけど。

    いつもの記事ならこの後色々展開がありそうなので、書き込ませていただきました。

  2. sqsq より:

    以前から感じていることだけど、どうでもいいような資産を差し押さえて、換金「するする」と言ってフェイントをかけながら日本の出方を見ている。
    おそらく日本が少しでも妥協的な態度を示せばそれに乗じてまた別のモノを差し押さえるのだろう。絶対に応じてはいけない。

    1. sqsq より:

      例えば三菱重工が韓国内にオフィスを持っていれば、オフィスの保証金などは簡単に差し押さえられる。なぜ商標権、特許権なのか。
      売掛債権を一時差し押さえていたようだが、これはあきらめたようだ。三菱重工側では代金の回収ができないのであれば今後製品は送らない。これをやられると韓国企業が困るということでやめたのだろう。

  3. sqsq より:

    例えばアサヒビールの「スーパードライ」は登録商標だが、この商標権を差し押さえて売却することができるとすると、買った人間はアサヒビールに対して商標の使用料を請求できるのか。
    であれば、商標権は大きな価値を持つことになる。
    三菱重工は韓国でどれだけの特許権を登録しているのか。三菱重工の持っている特許権を一括で差し押さえたのか、それとも個別の特許権を差し押さえたのだろうか。
    商標権や特許権に詳しくないのだが、差し押さえというのは具体的にどのような手続きなのだろう。不動産であれば甲欄、所有権、乙欄、抵当権その他を登記することになっているが、商標権や特許権にそのようなことを登記するところはあるのだろうか。

    1. 一索 より:

      知らなかったので調べてみました。
      特許権は特許法72条1項1号により、商標権は商標法35条(これは、特許法の同条文を準用する規定です)により、いずれも差押えを登録することで差押えの効力が生ずる、とのことです。なので、不動産と同様に、執行裁判所の差押え嘱託手続により差押え登録がされるのでしょう(この部分は曖昧です)。

  4. inko より:

    一見 購入しても価値がなさそうにみえる商標権ですが、
    これを買って、韓国と日本が経済戦争でもしてくれれば
    それぞれ競合する分野の中国企業から見たら
    5000万でも1億でも安い買い物だという見方も出来ます

    1. 農家の三男坊 より:

      商標権、特許権共に例の大法院がコントロールできるのはその国内だけです。
      小さな、”条約・合意を守らない、嘘つき、コソ泥推奨” 国 の市場での価値がそんなにある商標権、特許権は何でしょう。思いつきません。

      そもそも、そんな国で裁判が行われているというのはひどいジョークですね。

  5. 元一般市民 より:

    新宿会計士様
    本文がほとんど見当たりません。何らかの設定ミスではありませんか?

  6. 新宿会計士 より:

    コメント主の皆さま

    本文が中途半端なところで終わっている問題については、どうも原因がよくわかりませんでしたが、記事のなかのリンクを削除したらとりあえず表示されたのではないかと思います。もし万が一、本文が読めないという方がいらっしゃれば、ご教示ください。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。