【読者投稿】日本ではなぜか「自発的に」収束する流行

データは流行を抑制する「パラメーターS」の存在を示唆?

武漢肺炎の感染者などのデータで見ると、日本ではなぜか直線的に増大し、直線的に減少している…。こんな現象の存在を指摘する意見が出てきました。当ウェブサイトにすでに過去17回も優れた読者投稿を寄せてくださっている「伊江太」様という読者の方が、昨年11月以来、武漢肺炎に関する大変に興味深い論考を送付してくださいました。

読者投稿

当ウェブサイトは「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に運営する独立系ウェブ評論サイトですが、それと同時に数年前に開始した試みが、読者投稿です。

「自分も文章を書いてみたい」という方からの読者投稿につきましては、常時受け付けており、『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』などでもお知らせしている投稿要領をご確認のうえ、専用の投稿窓口( post@shinjukuacc.com )までお寄せ下さると幸いです。

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さて、過去の読者投稿のなかでも、「伊江太」様というハンドルネームの読者様からは武漢肺炎に関連し、過去に17本、非常に優れた投稿をいただき、当ウェブサイトに掲載させていただきました(その投稿記事の一覧については本稿末尾に再掲しておきます)。

こうしたなか、今回は第18回目となる、非常に興味深い論考を寄せていただきました。投稿原文には『日本は武漢肺炎ウイルスの墓場~侵入するや直ちに歩み始める衰亡への道』というタイトル案が付されています。いったいどういう内容が書かれているのでしょうか。

さっそく紹介しましょう(※なお、記事タイトルは当ウェブサイト側にて付したものであり、また、掲載に当たっては原文の意味を損なわない範囲で表現を変更している箇所などもありますのでご了承ください)。

ここから先が投稿文です。

日本は武漢肺炎ウイルスの墓場~侵入するや直ちに歩み始める衰亡への道

日本における武漢肺炎の特徴:再考

パンデミックの様相を示して以来2年を過ぎ、武漢肺炎による世界の死者数は6百万人を超えるに至っています。

世界の3大感染症――結核、マラリア、エイズ――の一昨年の年間死亡者数がそれぞれ140万人、63万人、68万人と報告されていますから、武漢肺炎は現時点でにおいて、それらをもしのぐ最凶の感染症と言って間違いないでしょう。

そのなかにあって、世界人口の60分の1を占める日本人のこの疾患による死亡数は、全体の200分の1足らず。武漢肺炎に関し、日本の治療成績や救命率が諸外国と比べ格段に優れるというはなしも聞きませんから、この死亡数が少ない理由は、このウイルスが日本では極めて拡がりにくいことに求めるべきでしょう。

先進国、途上国を問わず、人口の密集する大都市圏で猖獗(しょうけつ)を極め、死亡の大多数は高齢者という武漢肺炎。

人口の大都市集中が進み、高齢化率では世界最高レベル、加えて都市ロックダウンのような過激な感染抑制策を一度も採ったことがないこの国で、流行がこれまで低いレベルに保たれてきたのは、驚異的とも言えるのではないでしょうか(※国民の大半はそうは思っていないようですが…)。

わたしは流行規模が小さい理由として、次のような生活習俗、高い衛生意識、社会的インフラなどの普及も、大きく与っていると考えています。

  • 近しい相手同士でも素肌の接触を好まない生活習俗
  • 流行の収束期にも、真夏の暑さの中でも、外出時にはマスクを着け、人の大勢で入りする場所には必ず置かれている薬液で手指を消毒する、といった高い衛生意識
  • 蛇口に触れる必要がない自動水洗、ノブを回さずとも出入りができる自動ドアといった社会的インフラの普及

…。

科学畑の議論では不思議に、こうした社会文化的側面に触れられることがあまりないように見受けます。

数量化が困難な事柄に首を突っ込むのを避けたいのもあると思うのですが、勘ぐれば、はなしをそうした方向に進めると「民度」などというなにやら怪しげな観念に結び付きかねない。そういうポリコレ的配慮がはたらいているのではないかという気もします。

べつに武漢肺炎の広がりにくい社会というのが、民族的優秀性の証などというものでもないでしょうが…。

かわりに、免疫やウイルス増殖の抑制に関わる因子など、日本人の遺伝的・身体的特性が武漢肺炎ウイルスへの抵抗性に関係しているといった説が、折に触れ提起されてきます。

重要な問題について、科学的、客観的検証が可能な物質的要因が指摘された場合、それが正鵠を射たものであれば、次々にサポートする知見が現われ、最初はラフなデッサン程度であったものが、さほど間を置かずに細密画レベルにしあげられていくのが通例です。

どうもそういう様子が見られないことから推して、大方は外れなんじゃないかと思ってはいるのですが、無論わたしにそれと断定する資格はありません。

文化的な要因をメインと見るか、身体的素因を重視するかはともかく、ウイルスに感染し、またそれを散布する恐れのあるリスク集団のサイズが十分小さいことが、日本社会で武漢肺炎流行の規模が限定的な理由と考える点では、どちらの立場も同じです。

しかしどうもそれだけで、日本で観察される流行の様子を説明するのは難しいのではないかと、最近考えるようになってきました。

数ヵ月ごとに繰り返されてきた6次にわたる流行の波。回を追うごとにその規模が大きくなる傾向が見られます。

感染の大部分は大都市圏で発生していますが、北は札幌から西は福岡まで、感染増加は大体同時期に始まり、ピークアウトし急速に収束に向かうのもまたほぼ同時です。流行性のウイルス感染症一般の常識からすると、この武漢肺炎の流行像はまことに奇妙です。

インフルエンザを例に取ると、新型あるいは従来のものと大きく抗原性が異なる変異ウイルスが現われると、指定医療機関の報告数だけでも全国の感染者が数百万に達するほどの大流行が起きますが、その流行は必ずしも冬とは限りません。

しかし次の流行では規模は大幅に縮小し、時期も冬季限定の季節性のパターンに戻ります。インフルエンザのシーズンは通常11月末から翌年3月くらいまでですが、流行の中心は時と所を変えて列島中を移動し、全国で一様に流行するわけではありません。

武漢肺炎の特異な流行形態を考えているうち、こんな考えに立ち至りました。

日本に侵入した武漢肺炎ウイルスが最初にもっていた強い病原性、増殖・伝播能力は、ほどなく遺伝的な劣化によって失われていく。それが後戻りすることなく全国で一律に進む結果が、この国で感染が大きく拡がることなく、またその特異な流行像が生まれる一因となっているのではないか」…。

本稿では、そんな考えに立ち至った経緯を書いてみたいと思います。

ワクチンによって重症化・死亡リスクはどれくらい軽減されたのか?

「ワクチンの普及を前に、さしもの猛威を振るったデルタ変異株も急速にその勢いを失っていった」。

欧米諸国では昨年初めに、日本では9月になって観察された武漢肺炎の流行収束は、一般にそのように捉えられています。しかし、データと付合わせてみると、こうした見方はどうも少し物事を単純化しすぎているように思えます。

図表1は、日米伊とイスラエル4国について、その様子を死亡数のデータによって表したものです。

図表1 ワクチン普及以後の武漢肺炎流行の様相

(【出所】日本経済新聞社『新型コロナウィルス感染世界マップ』から取得したデータに基づき投稿者作成。ワクチンの普及時に観察された武漢肺炎流行の急激な収束、およびそれ以後の推移を、日本(赤折れ線)、米国(青)、イタリア(緑)、イスラエル(グレー)、4国の死亡数によって示す。グラフ横軸(時間軸)の数値は、デルタ株感染の急減が始まった時点、すなわちイスラエルは2021/1/26、米国は2021/1/27、イタリアは2021/4/14、日本は2021/9/14からの経過日数。死亡数は各国のデータの7日間移動平均値を元に、起算日(ゼロ日)の値=流行の極大値、すなわち米国は3348.7、イタリアは469.4、日本は65.6、イスラエルは64.9との比でグラフに表している。死亡数変動に現われるピークの位置には感染に関わった武漢肺炎ウイルス変異株(デルタ株/オミクロン株)の種類を、国ごとに色分けして示している。)

図表1はデルタ株流行による死者数が極大に達した日を起算日(0日)として、以後の経過日数をグラフの横軸にとっています。

このため、日本と米国・イスラエルとでは、実際の日付と8ヵ月近くの差があります。またイタリアでは昨年初めより3度流行のピークを経た後に本格的な収束が始まったため、図での起算日は米国、イスラエルより3ヵ月近く後の日付に対応しています。

死亡数を表す縦軸の値は、起算日の数値を1として相対値で表示するようにしています。グラフ上の1.0の位置に相当するのは、実際の数(7日間移動平均値)でいえば、日本では約66、米国3,350、イタリア470、イスラエル65くらいですから、折れ線の高さからは実際の流行の大きさは読み取れません。

絶対値で言えばずいぶん大きさが違う各国ですが、その流行パターンをひとつの図にまとめて比較してみようということで、こういう表示方法にしてあります。

米国のペースに若干の遅れがあるものの、これら4ヵ国では起算日以降直線的に死亡数が急落した様子が図から見て取れます。これらの国々では、起算日を挟む数ヵ月の間にワクチン接種が急速に進んでおり、この現象にワクチンが関わったのは自明とも見えるのですが、事実はそうとも言い切れないのです。

ウイルスに感染してから死亡するまで1ヵ月程度のタイムラグあるとして、オックスフォード大が提供している『Our World in Data』によって起算日より1ヵ月前の各国のワクチン接種状況を調べてみましょう。

mRNAタイプのワクチンを使用した国としては世界で一番早く接種を進めたのがイスラエルですが、その時点のカバー率は、1回接種ですら人口の10%に届くか届かないかといった程度です。米国ではまだ1%台。2回接種完了率はどちらもほぼゼロ。イタリアでは1回接種で8%、2回接種完了率なら3.5%といったところです。

他方、日本のワクチン接種率は、起算日の1ヵ月前、昨年8月半ばの時点で、1回接種が人口の50%を超え、2回接種完了率でも40%に達しています。日本ではそこでやっと死亡数の減少が始まっています。

死亡の大半を占める高齢者の接種が優先されていたのはどの国も同じで、日本だけが「有効な対象者を絞らずにワクチンの無駄打ちをやった」、などということはないはずです。

日本以外の国では、外出、移動、店舗営業の制限などの社会的規制の影響の方が、死亡数の減少により重要な役割を果たしたということなのでしょうか?

たしかに日本でも起算日のかなり以前から、緊急事態宣言や蔓延防止措置に伴う諸種の規制はおこなわれていたのですが、その強度、行政的強制力の点ではかなり緩やかなものであったのは事実でしょう。

しかし、イスラエルや多くの欧米諸国と比較して、イタリアで3ヵ月も流行収束が遅れた理由が、社会的規制措置の開始が遅れたとか、緩すぎたということは、報道で知る限りはどうもなさそうに思えます。

ワクチンの普及度にしろ、社会的規制の強度にしろ、国ごとの違いが大きい中で、デルタ変異株の流行が収束していくペースが、図表1に見るように4ヵ国の間で顕著な差がないという事実は、これらの要因は感染数の減少に決定的な役割を果たしていない可能性を、むしろ示しているように思えます。

欧米諸国、イスラエルでは、デルタ株の流行が一旦収束した後も、デルタ株によるリバウンド感染の増加、更にはオミクロン株という新しい変異株の出現と、結局武漢肺炎の流行が終息に至ることはありませんでした。

しかし、以前にも増して大きな流行の波に襲われながらも、都市ロックダウンのような厳しい措置は、この期間もはや採用されなくなっています。

社会・経済的ダメージが大きい割に、その効果が不分明ということに気が付いたということでしょうが、結果、感染抑制策はワクチンの普及一本槍になっていきます。この期間の観察でえられる知識は、ワクチン普及の効果を知る上で。うってつけの材料を提供してくれると言えそうです。

死亡数がピーク時の1割以下にまで減少していた欧米諸国およびイスラエルで、デルタ株再流行により死亡数が増加したのは昨年の8月から9月にかけての時期でした。

これらの国々では8月初めにはワクチンの2回接種完了率は軒並み総人口の50%を超えていたのですが、このリバウンドを抑止することはできなかったのです。

血中抗体価の経時的低下を理由に、ワクチンの有効期間が予測されていたより短かったことがリバウンド発生の理由とされ、急遽ワクチンの追加接種が進められて行くことになるのですが、わたしはこの賞味期限切れ説には疑問を持っています。

米国、イスラエルを見れば、確かにリバウンド時の死者数はデルタ株流行の際のピーク値の半数を超えるほどの規模になっているのですが、イタリアを含む西欧諸国で観察された増加は、この基準で見たとき、それぞれのピーク値のせいぜい20%程度に留まります。

なにがこの差を生んだのか。

ワクチン効果の持続の限界というより、それまでのワクチン投与でどれだけ有効な免疫を付与することができたかの国ごとの違い、つまりワクチンの取り扱いや接種方法など技術的巧拙の問題ではないかという考えを、昨年11月1日付の投稿(※)で論じています。

(※2021/11/1付『【読者投稿】ワクチン接種国「リバウンド」の謎を追う』。なお、投稿者の付した原題は『現行のワクチンは、本当のところ、武漢肺炎退治にどれくらいの有効性があるんだろう」?』)

日本ではデルタ株のリバウンド流行に相当する事象は観察されていません。起きるものなら起きたであろう時期よりはるかに早く、別の変異ウイルス、オミクロン株の流行が来てしまったためです。

死者数で評価したその規模は、デルタ株による流行の4倍近くにもなりました。米伊イスラエルでも、やはりオミクロン株の流行は起きているのですが、死者数での比較で見れば、その規模はデルタ株流行の際よりもずっと小さくなっています。

日本人、あるいは日本社会がオミクロン株に特別脆弱だという証拠でも出ない限りは、両者の違いをワクチン追加接種の普及度の反映と考えるのが妥当でしょう。

死者数がピークに達する1ヵ月前の時点で、総人口に対するその普及率はイスラエルで50%、イタリア45%。米国25%程度です。一方で日本では5%、やっと追加接種が進み始めたばかりでした。

古典的武漢肺炎ウイルスを対象に開発された現行のワクチンは、デルタ株までの諸種の変異株に対しては、2回の接種で確かな有効性を発揮したわけですが、抗原性が大幅に変異したオミクロン株感染による重症化/死亡を防ぐには、それでは不十分。直近の追加接種で何とか抑制ができるということのようです。

リスク集団に限れば、流行の拡がり方は日本も他国と大した違いはない

図表2は、オミクロン株流行に伴う死者数の増加が顕著になった時点から今日までの推移を示しています。

図表2 日本、イタリア、イスラエルにおける武漢肺炎ウイルスオミクロン株の流行動態

(【出所】日本経済新聞社『新型コロナウィルス感染世界マップ』から取得したデータに基づき投稿者作成。グラフ横軸(時間軸)の数値は、オミクロン株感染の急増が始まった時点、すなわちイタリア:2022/1/2、イスラエル:2022/1/24、日本:2022/1/24からの経過日数。死亡数は7日間移動平均値で示す)

図表1と異なり、グラフの縦軸、死亡数の大きさは実際の数(7日間移動平均値)で表示しています。米国のデータは他の3国より一ケタ値が大きく、同じグラフに収めると他国の分が過度に小さく表示されるため、この図表では省いています。

日伊イスラエル3国で死亡増加は直線的に進行しており、そのペースもほぼ同じ、+8人/日程度というのは、興味深い点です。

国土面積や人口規模がこれだけ異なる3国で流行の拡大速度が変わらないというのは、この武漢肺炎という感染症の特異な伝播様式が関わっていると思っているのですが、今はその点には深入りしません。

もうひとつの、.増加が直線的であるという点。これについては、本稿で提示したい仮説に直接関わりますので、あとで改めて議論します。

日本で流行したオミクロン株による死亡数が、人口930万人のイスラエルと、日本の約半分6000万人のイタリアの中間に来るというのは、どう考えればいいでしょうか。

わたしはこれを、「リスク集団のサイズ」、つまり潜在的に感染者となる可能性がある人口が、イタリア>日本>イスラエル、の順であることを意味すると考えます。

イタリアにしてもイスラエルにしても、感染を避けるべく意識的に慎重に行動する人の数は決して少なくないでしょうし、さらには人口の50%近くがワクチンの追加接種によってオミクロン株への抵抗性を獲得していると推量されます。

そうしたことを考慮すれば、ワクチン追加接種の普及が図られる以前の段階での、日本でオミクロン株感染への潜在的なリスクを有する集団のサイズと言ったら、数百万人のオーダー、多くて1千万人台止まりと想像するのですが、どうでしょうか。

リスク集団のサイズの問題はともかく、オミクロン株の流行は2月のピークを過ぎたあとも、現在まで相当のレベルを保って続いているのですから、死亡数が一転して減少に転じたタイミングを、リスク集団中に未感染にまま止まる人が尽きはじめた結果とするわけにはいかないでしょう。

これからも感染が広がる十分な余地を残した状態で、流行は「自発的に」収束方向に転じているのです。そこに働いている要因とは何か。

それをこれから考えていきたいのですが、図表2に表したグラフから読み取れるのは、その仮想上の要因が、日本ではイスラエルにおけるより速やかに死亡数の減少をもたらし、またイタリアのように腰折れすることなく継続的にはたらいていると想定されることです。

ワクチンだけで武漢肺炎の根絶を図るのは多分無理

図表1、図表2に掲げたデータを通して見えたワクチンの効果は、以下のようにまとめられそうです。

  1. ワクチンの普及は確実に流行規模の縮小をもたらす。
  2. にもかかわらず、ワクチンの普及が、流行の発生時期を遅らせたり、その拡大のペースを鈍化させたりすることはない。
  3. また、ワクチンの普及が、流行が収束に向かう時期を早めたり、減少のペースを速めたりすることもない。

上記のうち2.と3.は、ワクチンの普及努力に水を差すように聞こえるかも知れませんが、私は決してワクチン懐疑論者ではありません。適切な対照を置き、十分な被験者を動員しておこなわれたワクチンの科学的治験において、高い有効性が報告されていることは、そのままに受け取るべきだと考えています。

わたしが問題にしている「ワクチンの効果」というのは、無視できない割合の人口がワクチンを忌避しており、また接種を受けたとしても、身体的、または技術的理由で有効な免疫が成立しなかった層も存在する、そんな一般社会にワクチンが適用された際の「実用的な」効果のことです。

「多くの人が感染を避けるために必要な生活習慣を遵守しており、さらにワクチン接種によって免疫力を持った成員の割合も確実に増えている、そんな社会にあっても、それ自体はリスク集団に止まったままの人の感染頻度を低下させることには結びつかない」――。

武漢肺炎の感染を免れたければ、それは個々人の責任であって、「フリーライドは許されない」ということです。この疾患の場合、ワクチンはあくまで個人防衛のツールであって、社会防衛的役割までは期待できないように思えます。

流行の収束をもたらす要因とは

感染症流行の様式として定説とも言える考えが、「実効再生産指数、つまりひとりの感染者が平均何人の新たな感染者を生むかという値が求められれば、その先しばらくの流行規模を予測することができる」というものです。

具体的には、実効再生産指数が1を超えた場合、感染数はねずみ算式に増え、拡大のペースは時間が経つほどに加速度的に大きくなっていく、ということになるのですが、先述のように、流行時に実際に観察される死亡数の増加は直線的で、決して指数的な増加ではありません。

死者数だけのはなしなら、流行が進むにつれ、感染者が若年層中心になっていくとか、他の理由も考えられるのですが、感染者数(検査陽性者数)にしても、過去の流行も含めて、その増加の様子は、とても指数的とは言えず、むしろ直線的に進捗しています。

感染の拡大を抑える何らかの要因を考えざるをえないと思うのです。

それを模式的に描いたのが図表3です。

図表3 武漢肺炎の流行拡大を抑制する圧力の存在を示す概念図

(【出所】投稿者作成)

理屈のうえでは、感染者が増えるのに応じて増加速度はより大きくなろうとするはず(T)。これを現実の直線的増加(R)に止めるためには、時間経過と共に増大する抑制力Sが作用する必要があることを示しています。

じつはSの本当の大きさを求めたければ、この図で示した通りのやり方は不正確で、時間が経っても図で示したほどSが急激に大きくなっていく必要はないのですが、正確を期さんが為に積分記号の入ったような数式を使って説明するのも場違いでしょうし、それをうまく図示するのも難しいということで、この図でお茶を濁しています。

直線的増加が実現するには、「持続的で、かつ時間と共に強力となっていく下押し圧力」が必要だという論点については、ある程度これで了解いただけると思うのですが。

最近はさすがに聞かなくなりましたが、以前は折に触れ、「現在の状況が続けば1週間後の感染者数はン千人、1ヵ月後にはン万人」といった「専門家」の予測が、報道を賑わせたものです。

それらがことごとく「外れ」だったのは今や周知のことですが、そうなった理由は、この「下押し圧力」が「常に」はたらいていることを勘定に入れなかったことにあると思います。

下押し圧力が時間経過と共に大きくなっていくなら、やがては流行の拡大を止め、さらに減少方向に向かわせるかも知れない。それが、私が今抱いている自発的とも見える流行収束の想定です。

それではその「圧力」の実体とは何か?

初めの方で書いたように、わたしはそれがウイルスの遺伝的劣化の進行であると考えています。

日本においては、その影響がことのほか大きい」――。

それが、この国で感染が大きく広がらない主要原因のひとつという仮説を提示したいために、この稿を書いているのですが、これまでのところは、実は本論を導くための前振りにあたります。

もっと短く済ませるはずだったのが、書き始めてみるとずいぶんな分量になってしまいましたので、一旦ここで締めることにします。後続の部分は改めて近日中に【読者投稿】の投稿する所存です(再度の掲載をお許しいただけたら、のはなしですが)。<了>

読後感

…。

今回も専門的な内容でありながらも、あっという間に読めたという方が多いのではないでしょうか。抑制の効いた筆致ながら、武漢肺炎が日本でどのような流行状況なのかという客観的なデータから、その背景に斬り込もうとする姿勢は、まさに「知的好奇心の探求」のあらわれそのものです。

また、最後の記述、大変気になります。

この点、本来ならば、当ウェブサイトでは最初から「1回で完結しない議論」を前提とした原稿に関してはお受けしていないのですが、伊江太様のこれまでの投稿実績に加え、本稿の秀逸な議論展開を踏まえて掲載させていただいた次第です。

このあたり、大変厚かましい話ではありますが、「是非とも続きが読みたい」と強く感じている次第です。

なお、伊江太様からの過去の17回分については、下記リンクにまとめております。

伊江太様から:「データで読み解く武漢肺炎」シリーズ・全17稿

読者コメント一覧

  1. たか より:

    >武漢肺炎は現時点でにおいて、それらをもしのぐ最凶の感染症と言って間違いないでしょう。

    個人的な感想なのですが、まったくそのような危機感を(皮膚感覚で)感じないのはどうしてでしょうか?
    感染力が強く、分母(感染者数)が結核、マラリア、エイズに比べてけた違いに多いためか、死因の特定法に問題があるから(感染者の死因はすべて武漢肺炎にしている?)でしょうか?

    1. たか より:

      訂正:「危機感」というよりも「恐怖心」といったほうがより適切です。

    2. 伊江太 より:

      たか様

      この恐怖心。感染した人の年齢にも依ると思います。

      マラリア、エイズ。これは年齢を問わずと言うか、むしろ若い年齢層に多くの死者が出ます。結核にしても、戦前の日本では若年死亡の原因のトップの座を長く保っていました。それに対して、武漢肺炎による死亡は、圧倒的に老齢層に偏ります。

      たか様のお歳は分かりませんが、若年~壮年くらいなら、まあさほど死を意識しなくても済むでしょう。後遺障害の問題はも無視はできないのですが。しかし、仕事をリタイアしたあと、まだまだからだの方は壮健。残りの人生を楽しみたい、なんて思っている人にとっては、その恐怖心たるや、相当なものなんだろうと思います。自粛が呼びかけられているだけで、別に禁止されたわけでもないのに、これだけ旅行需要が落ち込んでいるのですから。

  2. カズ より:

    伊江太様

    専門的でありながらも、非常に解りやすい解説をありがとうございます。

    「時間経過と共に増大する抑制力S」については、迅速な感染情報の共有と他人を思いやる国民気質によるところも大きいと思っています。
    マスクの着用・手先の消毒の徹底やワクチンの接種については、自衛の手段であるとともに周りの人に感染させないための配慮でもあるんですものね。

    *私事ですが、”涼しい顔して”お帰りの際にのみ消毒されるお客様が無きにしも非ずなのが残念です。(◞‸◟)

  3. sqsq より:

    コロナの初期テレビに出てきて「マスクなんか何の役にも立たない!」とまくしたてている感染症の専門家がいた。私はそれを見ていて「この男、たぶんウィルスの大きさとマスクの目の粗さを比べてるんだろうな」と思った。その後すぐにスーパーコンピューターによるシュミレーションが発表されマスクは、うつす方、うつされる方の両方にかなりの効果があることが判明した。
    感染症の専門家などこの程度なのだ。今回は日本人の「感染症にはマスク、手洗い」という常識のほうが専門家より勝っていたことになる。
    さらに、マスクのおかげで風邪、インフルエンザが激減、2020年の超過死亡がマイナスになり日本人の平均寿命が延びるという事が起こった。そういえば2020―2021、2021―2022の風邪のシーズン、毎年テレビでおなじみの風邪薬のコマーシャルを見なくなった。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      超計算機疑似実験はいつもいつも御大層な宣伝しているが
      偉い人が最初に常数や変数を入力するから
      偉い人の先入観の範囲内の結果しか出ないことが多いよ
      マスクの話だと、「飛沫核は普通のマスクではほとんど防げないが、飛沫は普通のマスクでもかなり防げる」というのは
      昔からの医学の常識だったはず

  4. ねこよん より:

    確か2020年の年末位のツイートで、医療従事者と思われる方がコロナとインフルの違いをこう説明されていました。

    最も大きい違いはベッド占有率だと。重症化してもインフルは平均3日で回復するのに対し、コロナは平均2週間位、回復に時間がかかると。
    (用語や日数はうろ覚え)

    これは特効薬の有無と自然治癒力で回復の差らしくてコロナ患者は長いと1か月以上もベッドを占有してしまうそう。
    例えると飲食店の回転率みたいなもので、同じ面積、同じ客層に客単価が2軒並んでいたとして、一方は回転率がいいのでサクサク客をさばけるのに対して、もう一方は居心地がいいので店の前に大行列ができてしまう。
    あるいは低速と超高速で落ちるテトリスかぷよぷよでしょうか。
    病院へ入ろうと自動ドアが開いたらぶよぶよがだらけで、ばいーんて跳ね返されるイメージw

    だから病院は対応が難しかったみたいですよ。

  5. ちょっと待って より:

    コロナでの死亡率だけ見てみると東京都は優秀だと思う。
    5月1日現在で対感染者数死亡率が東京都が都道府県別で26位0.30%です。(全国平均0.37%)
    あんなに人口が多いのに。自分は北海道住みなのだがワーストの0.68%。
    ただ人口10万あたり累系死亡者数だと一番高いのは大阪で56.18人2位兵庫40.33人,3位北海道38.48人、東京は30.93人で全国平均の23.59人よりは高くなります。

    1. sqsq より:

      大阪府は結核患者数でもワースト1位。
      何か関連があるのかな?

      1. ちょっと待って より:

        大阪のことはよくわからないが北海道の人は東京の人と比べて車での生活が多くちょっとポッチャリな気がする。
        後、保守系より左翼系野党の支持率が高く(今はそうでもないが)お国の言う事に従わない人が多いのかなぁ。
        いわゆる民度とか言われると自信ない・・・

        1. 匿名 より:

          あと寒さがヤバ過ぎて冬の換気が大変とかかな?

      2. だいごろう より:

        大阪人は声がでかいうえによく喋りますからね。
        「何でだよ」より「何でやねん」の方が感染力が高そうでしょう?

  6. 元ジェネラリスト より:

    いつもグラフの縦軸と横軸の設定に思わず唸ってしまいます。
    次回がとても楽しみです。
    下手な考えなりに、あれこれ考えてお待ちしています。

    遺伝的劣化の進行というと、遺伝子の多様性の低下と関係あるんでしょうかね。
    日本では別の場所で変化したウィルス同士が交わる機会が少ない、とか。

    1. 元ジェネラリスト より:

      あ、そうそう、書き忘れたことが。

      陰謀論者はこの記事は読まないでしょうね。(笑)

  7. クロワッサン より:

    別ネタですみませんw

    >世界の3大感染症――結核、マラリア、エイズ――〜

    韓国の3大感染症は「戦犯国、旭日旗、太閤秀吉」あたり?w

    1. クロワッサン より:

      閑話休題

      次回の投稿が待ち遠しいです♪( ´ω`)

  8. 門外漢 より:

    >近しい相手同士でも素肌の接触を好まない生活習俗

    納得です。
    私も家内とは素肌を接したことがありません。
    子供は三人、孫は五人です。

  9. こんとん より:

    統計学は専門外ですが、特に予測に関するシミュレーションに関しては、変数設定を人間が行う以上はその設定次第で「予測不可能な程に」結果がズレるのでは無いかと推測します
    ましてやその予測変数に人間集団の行動とか人出とかの母集団の気分次第で大きく変化する要素を盛り込んでしまえば乖離するのは仕方ないかもと思います
    下押し圧力については良い意味での同調圧力という要素も日本では大きいのではないでしょうか
    ノーマスクで喋ってると後ろ指さされる。居酒屋でワイワイやってると・手洗いしないと・その他集団がマトモなら突出する行動は、感染拡大期には一気に非難され収束に向かう気がします

    この件に関してだけは殊更に大げさに叩くオールドメディア報道の功績もあったかもしれません

  10. 某エンジニア より:

    細かい話ですが、抑制力Sが時間とともに強力となっていく、については違和感ありますね。
    抑制されていればTは加速度的に増加しないので、RからTへ増加しようとする圧力=Tの微分値も一定になるように思います(どの時間で切り取っても、RとTの交点がRの直線上を移動するだけで、不定積分でいうCが変わるイメージ)
    なので、Sはほぼ一定ではないかと。
    時間経過とともに抑止力が増大するような要因はイメージしにくいですが、各個人や政策として一定の感染対策が継続されている、と考える方が実態に合うような気がします。

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