「4ヵ国の入国制限先行解除」は産業構造の変革好機に

いわゆる「入国制限措置」は、大きく①日本人に対する渡航中止勧告、②日本人が外国に渡航した際の相手国からの入国拒否、③外国から日本にやってきた人に対する入国拒否・行動制限など、の3つからなります。これを解除するためには、①日本で感染が収束すること、②相手国が安全だと判断できること、③日本と相手国が同時に制限を解除すること、などが必要であり、一筋縄ではいかない論点でもあります。こうしたなか、昨日は読売新聞が「4ヵ国に対する制限解除」という方向性を報じましたが、これについてどう考えるべきでしょうか。

入国制限措置を正しく理解するために

先月の『時事「政府、中国などへのビジネス渡航解禁」記事の怪』などでも取り上げてきたとおり、コロナ防疫措置に関連し、日本を含めた各国が講じている入国制限措置などを巡って、その解除の時期や方法に関する議論に関心が集まっているようです。

時事「政府、中国などへのビジネス渡航解禁」記事の怪

あらためて振り返っておくと、「入国制限・行動制限」とされるものを巡っては、パターンとしては次の3つがあります。

入国制限・行動制限に関する3つの措置
  • ①日本人に対する特定国・地域への渡航中止勧告など
  • ②外国から日本人に対する入国拒否・行動制限など
  • ③特定国・地域からやってきた人に対する入国拒否・行動制限など

このうち①については外務省『海外安全情報』で確認することができますが、現在、日本政府は日本国民に対し、欧州、米国、中国などの主要国に対しては「レベル3:渡航中止勧告」を出しており、それ以外の全世界に対しても「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」を維持しています。

参考:渡航中止勧告等

(【出所】外務省『海外安全ホームページ』画像キャプチャ)

といっても、この「レベル1~レベル4」は、いずれも「勧告」に過ぎず、「禁止」などの強制力がある措置ではありません。その気になれば、うまく航空便を見つけて外国に渡航すること自体は可能です。

しかし、ついうっかり外国に渡航したとしても、相手国にすんなり入国できるかどうかはわかりませんし、国によっては「日本からやってきた」というだけの理由で、2週間の強制隔離などの行動制限を受けることもあります。これが②の問題であり、相手国が決めている以上、日本政府にはどうしようもできない論点です。

なお、外務省の『新型コロナウイルス(日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国後の行動制限)』によると、現時点において日本人などに対する入国制限、入国後の行動制限を講じている国・地域は、次のとおりです。

  • 日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっている国・地域…182ヵ国・地域
  • 日本からの渡航者や日本人に対して入国後に行動制限措置をとっている国・地域…72ヵ国・地域

そして、外国人が日本にやってきたとしても入国できないこともありますし、また、日本人がうまく相手国に渡航できたとしても、帰国した際には隔離などの措置を受けてしまいます(厚生労働省『水際対策の抜本的強化に関するQ&A』等参照)。

茂木外相の「3つの条件」

つまり、入国制限・行動制限などの措置については、日本だけでなく諸外国も同様に適用しているものであること、その目的はあくまでも防疫にあることなどが大きなポイントであり、入国制限・行動制限を解除するためには武漢コロナ蔓延問題が収束していることに加え、相手国との協力も必要なのです。

いちばん手っ取り早いのは、武漢コロナSARS-CoV-2に対するワクチンが開発されることなのだと思いますが、いくつかのメディア記事によれば、ワクチンの開発には最短でも1年弱、下手をすると数年を要するのではないか、といった話も目にします(たとえば次の『日経バイオテク』記事など)。

Bill Gates氏、「新型コロナのワクチンは最短9カ月、最長2年で開発できる」

Bill Gates氏は、2020年4月30日のブログで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンは、人類史上最速で開発されるだろうとの考えを示した。同氏が特に期待しているのはRNAワクチンだという。<<…続きを読む>>
―――2020.05.07付 日経バイオテクより

このように考えるならば、やはりワクチンが開発されるまでは、日本と相手国のそれぞれについて感染拡大が収束していることに加え、日本から相手国への渡航、相手国から日本への渡航が安全かどうかについて日本と相手国が相互に確認し、制限解除を同時に行うことなどが求められるでしょう。

もちろん、ビジネス界を中心に、「いつまでも渡航制限、移動制限を続けないでほしい」といった批判があるのは当然なのですが、それと同時にそれと同時に防疫と経済のどちらを優先するかについてはいわば永遠のテーマでもありますので、なかなかシンプルな答えはありません。

実際、この入国制限の解除について、茂木敏充外相は5月15日時点の記者会見で、次の3つの条件を示しました。

制限を解除するための3つの条件
  • ①まずは日本での感染拡大が収束していること
  • ②海外への渡航が安全かどうかについてしっかりと見極めること
  • ③日本と相手国で制限解除がほぼ同時に行われること

茂木外相の①~③の発言は、上記『入国制限・行動制限に関する3つの措置』と対応しています。そして、茂木外相はこれらの条件を満たした場合に、ビジネス上の必要な人や専門家など「重要な渡航」から順番に渡航制限・移動制限の解除が行われるべき、との見方を示しています。妥当な考え方でしょう。

読売オンライン「タイ、ベトナム、豪、NZの4ヵ国、夏以降制限緩和へ」

こうしたなか、読売新聞(オンライン)に昨晩、こんな記事が掲載されていました。

入国制限緩和4か国で検討…タイ・ベトナム・豪・NZ、夏以降実施へ(2020/05/31 18:21付 読売新聞オンラインより)

読売は「複数の政府関係者が明らかにした」話として、全世界を対象とした入国制限の期限が到来する6月末以降、現在実施中の入国制限措置についてはタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国を第1弾とする方向で検討に入った、と報じました。

といっても、入国制限措置が解除される具体的な国名が挙がるのは、初めてではありません。実際、当ウェブサイトでも『ビジネス客の入国制限解除はTPP加盟国から順番に?』などで「TPP加盟国などを中心に制限が解除されるのではないか」との見方を紹介したことがあります。

ビジネス客の入国制限解除はTPP加盟国から順番に?

読売の報道によれば、この4ヵ国の具体名が挙がったことについて、

▼4ヵ国ともに感染は落ち着きを見せていること、▼企業関係者からの往来再開を望む声が高まっていること、▼タイを除く3ヵ国はいずれもTPPイレブン参加国であること、▼タイには多くの日本企業が進出していること」――

などの理由を列挙しており、また、具体的な手続としては、ビジネスマンなどを対象に、「相手国の出国前にPCR検査で陰性証明書を取得し、日本到着後に再度検査を受けて陰性であれば入国を認める」などの仕組みを想定しているとしています。

なぜ中韓の入国を認めないのか

さて、「読売の報道が正しいという」前提で考えてみたいのは、なぜ、日本政府は上記4ヵ国に限って入国を認める方針なのか、という疑問です。

というのも、「多くの日本企業が進出している」という意味では、素直に考えて、この4ヵ国よりもむしろ、中国や韓国、台湾や香港などの方が、ビジネス上の往来の需要が大きいように思えるからです。

これについて読売は、中国については米中対立を背景に、日本が中国との往来再開を急げば米国の反発を招く可能性があること、韓国については外出制限緩和後に集団感染が発生している事実を日本政府が不安視していることなどを挙げているようですが、それだけではないように思えてなりません。

この点、政府関係者に確認したわけではありませんが、中国については武漢肺炎を発生させた「加害国」であるという事情もさることながら、防疫上の重要な情報を外国に対して隠している(と日本政府が疑っている)という可能性がありそうです。

また、韓国については『韓国が求める輸出規制撤廃のカギは対日入国制限の継続』でも少し提示したとおり、どうも彼ら自身が入国制限解除を他の問題と絡めてくるという可能性が出て来ているのではないかと疑ってしまいます。

いずれにせよ、コロナ問題を巡っては、中韓との人的・物的交流に影響を与えることを通じて、日本のサプライチェーンという「産業構造の在り方」そのものを抜本的に変えてしまう可能性があるという観点から、注目に値するのではないでしょうか。

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    このままでは日本だけがぶっちぎりの収束国になってしまいそうな気がします。周りは感染国ばかり・・。
    ちょうど1月半ば過ぎの情勢に逆戻り?歴史は繰り返す?(以下 再掲示です)
    中韓で始めていて日本も誘われているファーストトラック制度(商用客にPCR検査を出発前と到着後にやって陰性なら2週間待機を免除して歩き回れる制度らしい)をアベ政権が取り入れはしまいかと悩みの種が増えました。こうゆうことには前のめりになりそうなイメージが付きまといますね。しかし到着時不調で検査しても結果が出るまで待機しないで沖縄に行けちゃう日本のいまの体制よりいいかもしれない・・・。本来搭乗前に陰性証明してから飛行機に乗って来るのが当たりまえですからね。到着したらもう遅い。昔黄熱病とかの予防接種証明書(イエローカード)のように事前にチェックインの時に検査するのが常識なのに今はチェックインでなにも確認せず乗せちゃうんですかね?同じ便に乗り合わせた乗客は文字通り一蓮托生に?いやたぶんそのままス通りですよね。保健所の案内カード配るだけ?でも先に入国した人にはどうするの?実態はどうなんですか?こんなユルユルで 水際対策とはとても恥ずかしくて言えない。「いや 誤解だ きちんとやっています」って情報有りませんか?

  2. 匿名 より:

    今のうちに生産拠点と消費拠点を移転しなさいという国からのメッセージでしょう。政治リスクが大きくなってきたからリスクヘッジしなさいと。これが分からない企業は海外進出などするべきではないですね。

  3. 七味 より:

    制限を解除するための3つの条件のなかの、
    >③日本と相手国で制限解除がほぼ同時に行われること
    は、あんまし拘らなくてもいいと思うのです。
    相手国からの入国者が日本で新しい感染者を増やさないようなら、一方的に入国制限の緩和をしても良いように思うのです♪ 

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