韓国通貨当局が再び国民年金と「為替スワップ」を締結

韓国の通貨当局が再び国民年金と「為替スワップ」を締結したそうで、金額は100億ドルから350億ドルに拡大する、などとしています。これについて韓国メディアは、年間300億ドルほど外貨建て投資をしている国民年金がウォン安を加速させているとの批判に対応したもの、などとしていますが、たかだか年間300億ドルで動揺する韓国の外為市場もずいぶんと脆弱です。

通貨スワップと為替スワップ

当ウェブサイトでは『「発売記念」あらためてスワップについてまとめてみる』などでも説明してきたとおり、一般に国際金融協力の世界における通貨スワップや為替スワップは、国際間の形を変えた金融支援である、という言い方ができます。

このうち通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Agreement)は、通貨当局同士が通貨を交換する取り決めであり、主に先進国と発展途上国の間で締結されるものです。ある国が外貨不足に悩んでいるときに、その国に対して何らかの形で外貨を融通する、といった使用方法が想定されます。

これに対して為替スワップ(Bilateral Foreign Exchange Swap Agreement)は、相手国の中央銀行を通じて相手国の金融市場に直接、自国通貨を供給するという、一種の「流動性供給」ファシリティです。

日本の事例でいえば、通貨スワップについてはインド、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、フィリピンの6ヵ国と締結しており、直接の契約当事者は財務省で、基本的には相手国の求めに応じ、相手国通貨を担保に米ドルを貸し付けるというものです(一部の国は米ドルだけでなく日本円の選択も可能)。

これに対し、為替スワップはお互いの国の市中金融機関に対して直接、短期資金を融通するという協定です。

日本の場合は契約当事者は財務省ではなく日本銀行で、米FRB、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)、カナダ銀行(BOC)、スイス国民銀行(SNB)の各中銀と無制限の協定を締結しているほか、中国、豪州、シンガポール、タイの各国とも締結しています。

通貨スワップとは

通貨当局同士が通貨を交換する取り決め。日本の場合はインド、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、フィリピンの各国と締結している。相手国は自国通貨を担保に差し出すことで、日本の財務省から米ドルを借りることが可能(一部の国は日本円で借りることも可能)

為替スワップとは

通貨当局が相手国の市中金融機関に対し、直接、自国の通貨を貸し付けることを可能とする取り決め。日本の場合は米FRB、ECB、BOE、BOC、SNBの5中銀と金額無制限の協定を締結しているほか、中国、豪州、シンガポール、タイの各国とも締結している

中華スワップの実態

こうしたなか、このスワップ外交を活発化させている国のひとつが、中国です。

昨年の『【総論】中国・人民元スワップ一覧(22年8月時点)』でもまとめたとおり、中国が現時点で世界各国と締結しているスワップ(通貨スワップと為替スワップ)は昨年8月時点で少なくとも4兆元(6000億ドル弱)、締結相手国は33ヵ国以上に及んでいると考えられます。

この点、これをもって「中国による金融覇権が拡大している」、などとみる人もいるのですが、当ウェブサイトとしては、こうした見方には同意しません。

そもそも人民元自体が国際的に大した通用力を持っていないことを思い出しておくならば、そのような通貨を相手に貸し付けたところで、借り入れた人民元は中国との貿易決済くらいにしか使えないからです。

実際、中国とのスワップを引き出した国としては、トルコアルゼンチンの事例がありますが、いずれの国もその後、金融危機状況から脱却できている様子が見られないのも、結局、人民元などを引き出したところで通貨防衛などには使えないという間接的な証拠のようなものでしょう。

4000億ドル超の外貨準備誇る韓国が「スワップ」に拘泥する理由

さて、「4000億ドルを超える外貨準備」とやらを誇っているわりに、やたらと「スワップ」「スワップ」と唱えている国があるとしたら、そのひとつは、韓国でしょう。

実際、昨日の『7年ぶりの日韓財相対話で通貨スワップ待望論=韓国紙』でも、日韓財相対話が7年ぶりに開催されるとの韓国政府発表に対し、韓国紙が「韓日通貨スワップ再開」に言及した、とする話題を取り上げたばかりです。

ただ、これも大変奇妙な話です。

韓国が本当に4000億ドル超の外貨準備を保有しているのだとしたら、少々ウォン安・ドル高が進んだくらいであわてる必要など何もないはずです。

国際決済銀行(BIS)統計上、韓国の企業・居住者などが外国から借りているおカネはせいぜい4000億ドル弱で、そのなかでも外貨建てに限定すると、外国からの借金の額はさらに少なくなります。計算上、外貨建債務については、外貨準備で全額カバーできる計算です。

そんな韓国が、なぜ「スワップ」「スワップ」と騒ぎ立てるのか、理解に苦しむ点ではあります(※最も、韓国の外貨準備に含まれる資産自体、換金可能性が非常に低いものが多く含まれているのではないか、といった仮説はあるのですが…)。

韓国銀行が国民年金と為替スワップ

こうしたなかで、数日前に発見していながら、当ウェブサイトで紹介するのを失念していた論点がひとつあります。

[報道参考資料]外国為替当局、国民年金との350億ドルの外国為替スワップ取引実施合意【※韓国語】

―――2023.04.13付 韓国銀行HPより

韓国銀行によると、「外国為替当局」、すなわち韓国銀行と韓国政府・企画財政部は先週、国民年金公団と2023年末までの期間、上限350億ドルの「外国為替スワップ(FX swap)」取引を実施することに合意した、というのです。

じつは、この「国民年金」との為替スワップ、前例があります。

韓国銀行が国民年金と為替スワップで合意=韓国通信社』でも取り上げたとおり、通貨当局と国民年金は昨年10月にも、為替スワップを締結しているからです。ちなみに当時の上限額は100億ドルでした。

その際のロジックは、国民年金側が外貨建投資を行う際に、韓国銀行が保有している外貨準備を一部、国民年金側に貸し付ける、というものです。

すなわち、国民年金が自国通貨・ウォンを外為市場で売却して米ドルなどを購入すれば、それだけで外為市場が動いてしまうため、韓国銀行としてはウォン売り・外貨買い取引を「市場外で」やらせる意味がある、ということです。

(※余談ですが、「韓国の外為市場はたかだか数十億ドルで為替レートが大きく動いてしまうほど流動性がない」、という点に、個人的には強い関心を持ってしまいます。)。

韓国銀行の発表によると、昨年の為替スワップ取引が外為市場のボラティリティ抑制に効果があったという点を認めたため、今回は上限を350億ドルに拡大して再度、その取引を実施するのだとか。

こうした発表を眺めていると、やはり韓国の外為市場に内在する大きな問題点とは、「市場の流動性のなさ」ではないかと思わざるを得ません。

たかだか300億ドルで動揺する市場

ちなみに昨年の為替スワップに関しては、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に昨年9月23日付で掲載された『国民年金と韓国銀行 14年ぶり為替スワップ再開へ』という記事によると、こんな趣旨のことが書かれています。

国民年金と韓国銀行は2005年に為替スワップを締結したが、08年に世界金融危機による韓国銀行の外貨不足を理由に契約を解除していた」。

国民年金は毎年約300億ドルを海外に投資しており、これがウォン安をあおっているとの指摘が出ていた」。

正直、外為の大口投資家がちょっとドルを買っただけでウォン安が進行するというのは、それだけ韓国の外為市場の流動性が低く、市場が閉鎖的だという証拠でもあります。

そういえば、韓国が建国以来続けてきた外為市場の閉鎖性という問題を解消すべく、外為市場改革を開始した、などとする話題は、『建国来70年ぶり外為改革、失敗なら通貨危機も=韓国』などでも取り上げたとおりです。

韓国国債の組入見送り:WGBI・パッシブとは何か?』や『MSCI先進国入り目指す韓国だが…ウォン不安は続く』などでも取り上げたとおり、韓国政府は自国の株式・債券市場が「先進国」に含められていないことに強い不満を持っているようです。

しかし、正直申し上げるならば、韓国政府はまずは通貨当局による為替介入が常態化している外為市場を改革し、外国との通貨スワップなどが存在しなくても通貨制度を安定運用できるようにする方が先ではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    国民年金って、何国の年金ですか?
    韓国、まさか日本?

    1. 団塊 より:

       ドル不足、年中ドル不足の国のお話しですよ。

  2. 匿名 より:

    ただでさえ、韓国は年金受給額が8万円とかなのに…😭

  3. カズ より:

    これは国民年金に米ドルを融通するためのスワップですね。
    潜在的には、通貨当局の保持する流動性を下げるものです。
    ・・・・・
    >韓国の外貨準備に含まれる資産自体、換金可能性が非常に低いものが多く含まれているのではないか

    韓国ファンド「KIC」8月まで40兆損失、収益率-14% 2022.10.21 朝鮮日報
    https://www.chosun.com/economy/stock-finance/2022/10/20/XT6QFVYXPZH6HDTQQVZIDBH43E/
    >ジン・スンホKIC社長は19日、国会企画財政委員会の国政監査で「今年8月末現在、284億ドル(約40兆4000億ウォン)の投資損失が発生した」と明らかにした。昨年末、2050億ドル(約293兆ウォン)だった運用資金規模が、8月末には1766億ドル(約252兆ウォン)に減った。

    ↑ちょっと古い記事ですが、韓国銀行などからの委託を受け2000億ドル規模の外貨運用をしている韓国投資公社の運用資金規模が284億ドルの損失となっていたんですよね。

    *取得価格基準を採用してる韓国銀行的には、そのまんま”含み損”だったりするんでしょうね。

  4. G より:

    国民年金が市場で買うドルを外貨準備から出してあげるということで、事実上外貨準備から同額の介入をするのと同じ効果になりますね。

    本来、国民年金が外貨運用をするのに、為替ヘッジをしっかりしているとすれば、スポットでドルを買って、先渡でドルを売るわけで、トータルの為替ポジションは変わらないはずです。
    ただ、韓国の場合先渡のヘッジマーケットがほぼないので、最初にヘッジなしでドルを買って、投資が償還された時にスポットでドル売るという流れにせざるを得ず、現物為替相場を乱してしまうんですね。

    まあ、もし国民年金がヘッジ付き外貨投資をしたいのであれば、今まで市場が未熟で出来なかったヘッジを国が引き受けてくれるわけで渡りに船ということになります。ただ、ヘッジ付き外貨投資にも弱点があります。ヘッジすれば為替の差損はなくなりますが当然差益もない、さらには内外金利差部分をヘッジコストとして調整させられるので、どんな高利回り国の債券を買っても韓国国内債投資と同等の利回りしか得られません。

    国民年金としてはヘッジあり投資もヘッジなし投資もしたい。そもそもヘッジ不可能な外国株式への投資もあるでしょう。国とのスワップ取引はヘッジあり取引の受け皿としてありがたく使わせてもらうものの、ヘッジ無し投資もやめるわけにはいかず、結局は為替市場でドル買いするのは止まらないでしょう。

    結局のところ、為替市場を落ち着かせたければ、利上げして国内債投資の利回りを上げるしかないんです。そうすれば国民年金は国内債投資とヘッジあり外債投資でリスクなく十分な投資利益をあげることが出来ます。

    何も通貨の価値を下げようとするのは外国勢による資金流出だけじゃないんですね。

    1. G より:

      大切な観点忘れてた。

      このスワップは外貨準備を使います。韓国にとってはスワップと言っても逆サイドなんですよね。帳簿上の外貨準備は減るはずです。手元にドル現金はないわけで、現金、預金ではなくなってしまう。外貨準備はスワップ分だけ減るはず。

      あっ訂正。スワップは事実上預金をお互いにし合うという取引ともみなせるので、スワップ契約分を「国民年金にドルを預金している」と扱って現金・預金の欄で計上してしまうかもしれない。あり得ますよね(新宿会計士さまの御見解も伺いたい)

  5. KA より:

    韓国は人民元とスワップしてるんですね。
    スワップしてくれるなら何でもいいみたいですね。

  6. sqsq より:

    こういうのをね、「貧すれば貪する」って言うの。

  7. 団塊 戯れ言 より:

     スワップとか言っているが何も変わらない。市場でのドル/ウォン売買か市場外売買かの違いだけ。売り手も買い手も同じでしょうよ。

     大韓民国議員が国会で
    『NYのどこの銀行に行ってもウォンをドルに交換して貰えなかった。どうなってるんだ』
    と喚いた大韓民国新聞記事!←昔の記憶

     ウォンはドルとしか売買できないという。
     そんな紙屑ウォンを年間とはいへ基軸通貨ドルそれも300億ドルもと交換しっぱなしにしてくれるお人好しの超大金持ち白人など市場に存在しません。
     大韓民国銀行だけでしょうよ、市場で紙屑ウォンを買い300億ドルを国民年金に渡していたのは。
     これを表でやってドル高/ウォン安を誘うか、市場外でやってドル/ウォン相場こら切り離しか!それだけの違い。

    1. 団塊 文字変換ミス 訂正します より:

      訂正です

      × 市場外でやってドル/ウォン相場こら切り離しか!それだけの違い。

      ○ 市場外でやってドル/ウォン相場【か】ら切り離【す】か!それだけの違い。

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