【読者投稿】オミクロン株の病原性は低下しているのか

武漢肺炎を巡り、じつはオミクロン株の感染は、非常に恐ろしいのではないかとする論考を、読者の方からいただきました。ご執筆いただいたのは当ウェブサイトにすでに過去20回ほど読者投稿をいただいた「伊江太」様という読者で、今回の論考も豊富なデータと説得力のある推論で構成された力作です。はたしてどのようなことが書かれているのでしょうか。

読者投稿の募集につきまして

当ウェブサイトでは、「客観的事実と主観的意見を分ける」、「自身の意見には自分が正しいと判断するだけの根拠を付記する」、といった態度であれば、べつにマスコミ業界の人でなくても、誰でも論考を気軽に執筆し、世に問うことができると考えています。

こうしたなか、『読者投稿の募集と過去の読者投稿一覧』でもお知らせしている通り、当ウェブサイトでは読者投稿を受け付けております。これは、読者コメント欄だけでなく、当ウェブサイトの本文でもオピニオンや論考を発表する機会を、当ウェブサイトの読者の皆さまにも共有していただくための試みです。

ちなみに当ウェブサイトに読者投稿を寄稿していただく際の注意点について、簡単にポイントをまとめると、次の通りです(詳細については上記記事でも明示しています)。

  • ①最低限の条件は、「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激する記事であること」
  • ②政治、経済系の話題であれば望ましいものの、基本的にジャンルは問わない
  • ③筋が通っていれば、当ウェブサイトの主張と真っ向から反する内容であっても構わない
  • ④多少のスラングや専門用語があっても良いが、できるだけ読みやすい文体で執筆してほしい
  • ⑤コピーではなくオリジナルの文章であり、著作権等を侵害していないことが必要
  • ⑥個人情報などを特定される内容が含まれていないこと

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、過去に当ウェブサイトに優れた投稿の数々を寄せてくださっている「伊江太」様というコメント主の方から、武漢肺炎に関する21本目の読者投稿をいただきました。武漢肺炎以外のテーマを含めれば22本目です(過去論考については本稿末尾にまとめておきます)。

今回のご寄稿は、前回の『【読者投稿】「感染力強烈」?オミクロンの実態に迫る』の「続報」です。ウェブ主「新宿会計士」を含め、続編を楽しみにしていたという人物は多いと思いますが、さっそく内容を確認していきましょう。

(※たたし、今回の論考では、NHKのスクリーンキャプチャと思しき図表が含まれていました。これに関しては当ウェブサイトに掲載できませんので、図表そのものを削除しています。よって、論考の一部に肝心の図表がないという箇所が出てきますが、ご容赦ください。)

従来のウイルスに比べてオミクロン株の病原性が低下しているって、それどういう意味?

オミクロン株感染による死亡数をどう見れば良いのか

オミクロン株による3波の流行(第6~8波)で生じた昨年の者数は約3万9千人。これは前の2年間の死者を合わせた数の2倍を超えます。それでいて、オミクロン株は従来ウイルスに比べて病原性が低下しているという説が。専門家と称する人たちからも含め、一時盛んに流布されました。

これはいったいどういうことでしょうか?

理由の第一として考えられるのは、第1~5波と第6波以降の感染者数の圧倒的な違いでしょう。

検査陽性者数で見た2020年、2021年の感染数は173万件であり、これに対して2022年の感染数は2748万件と、おおよそ16倍にも膨張しています。つまり、感染数が多くなれば、ウイルス自体の病原性は低くとも、死亡数が増えるのも仕方がないという見方です。

これに反駁するのは簡単です。これだけワクチン接種が進んだ日本の現状を、普及以前のデータと比較するのは、そもそもナンセンスというべきでしょう。

前稿『【読者投稿】「感染力強烈」?オミクロンの実態に迫る』で考察したように、オミクロン株の流行局面では、感染した人のうち入院する割合が、ワクチン普及前の流行に比べて5分の1から10分の1に減少している事実をワクチンの効果と見なして良いのなら、ワクチン普及の前後で死亡率が8分の1になっている理由は、すべてそれで説明が付いてしまうからです。

二番目に考えられる理由、実はこれはより慎重に検討する必要があると思っています。それは、「感染報告で死亡者とされている数は、本当に武漢肺炎死のものとして良いのか?」という疑問に深く関係します。

図表1は前稿に使用した表をそのまま再掲したものですが、この稿でとくに問題にしたいのは、オミクロン株の流行以降、重症者数と死亡数の対入院者比が全く逆に動いている点です。

図表1 武漢肺炎のこれまでの流行で報告された全国の感染者、入院者、重症者、死者数の比較

(【注記】(A)各欄の数値は厚生労働省発表の報告値の7日間移動平均値から、流行期間中最大となった値を採択し表示している。すべての欄の数値は有効数字3桁の概数で示している。)

重症者/入院者比は第6波の流行以降一貫して低下しています。

これは、入院を要するほどの容態に陥っても、人口呼吸器の助けが必要になるまでに呼吸機能が低下することは、かつてに比べまれになり、かつその傾向は、ときとともに増す方向に向かっているということを意味します。

オミクロン株低病原性化説にとっては好ましい材料かもしれないし、ワクチンの効果の一側面という見方も可能でしょうが、一方で、入院に至ったのち死亡する割合は、オミクロン株の流行では以前に比べて顕著に増加しており、しかも第6波から第8波に掛けて、だんだんと上昇しているようにもみえます。

こうした矛盾しているかに見える現象は、当然医療の現場でも認識されています。(NHK NEWS WEB『コロナ第7波 “死亡者の多くは肺炎以外 容体の傾向が変化”

図表2は、同ウェブページにあった図をそのまま転載したものですが、かつて武漢肺炎死の典型的経過だった肺炎の進行から呼吸不全症状の悪化というケースが、流行の第6波では死亡例全体の13%、第7波ではわずか5%にまで減少しているというのです。

図表2 コロナ第7波 “死亡者の多くは肺炎以外 容体の傾向が変化”

(※新宿会計士注:オリジナルの論考では該当図表が添付されていましたが、当ウェブサイトでは原則として、ニューズサイト等に掲載された図表を転載することはしません。ご了承ください。)

(【出所】NHK NEWS WEBより転載)

直近の第8波では、その割合はおそらくさらに低下していると思います。

PCRや抗原検査で感染陽性とされた後、要観察対象から外れないうちに死亡した場合は、全例武漢肺炎による死亡とカウントされます。これについては以前から疑問を呈する向きもあったのですが、これほど呼吸不全による死亡の割合が低下してくると、その疑問は一層大きくなってくるでしょう。

オミクロン株の流行で大きく増えた、重度の呼吸不全を伴わない死亡とされるケースに、ウイルスが本当に死因として関わっているのか、まずそこから考えてみたいと思います。

本当はものすごく恐ろしいオミクロン株の感染

日本の年間総死亡数は武漢肺炎流行前の2019年の時点で約140万人。一日当たりにすれば3千8百人強です。

2022年の感染死とされる3万9千という人数は、通常時の死亡の10日分にも相当するのですから、大変な数と言うべきですが、もしこのうち、8、9日分はすでに死期の迫っている人にウイルス感染が後押ししただけというのが実情であれば、その意味は全く違ってくるでしょう。

武漢肺炎感染者の死亡の圧倒的大部分は高齢者ですから、以下70歳以上の人口集団に絞って話を進めます。図表3には、毎日の検査陽性者に加えて年齢階層別内訳まで公開している6自治体のデータを掲げています。

図表3 高齢者層の武漢肺炎死亡

(【注記】70歳以上人口のデータは総務省統計局e-Stat提供のファイル(政府統計コード00200241)に依拠。感染者数(新規検査陽性者数)と死亡数の原データは厚生労働省『データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-』より取得)

昨年9月27日までは対応する全国のデータも公表されていたのですが、現在は停止しているため、全国から得られるはずのデータに比べ、規模は3分の1、必ずしも無作為抽出とは言えないデータを使った統計ですが、まあこれで我慢するしかありません。

死亡数については、これら6自治体でも年齢層別のまとめは公開されていませんので、単純に全死亡数の9割が70歳以上のものとして、表に掲げています。この推計で大きく過不足が生じるということはないはずです。

算出された死亡率は自治体によって多少のバラツキがあり、とくに北海道の値が高いのが気になるのですが、これについては後で採り上げます。ここでは6自治体を合わせた70歳以上の人口集団から得られた死亡率1.6%が、オミクロン株感染による高齢者死亡率として議論を進めます。

厚生労働省が発表する人口動態統計によれば、武漢肺炎流行前の2019年の70歳以上の年間死亡数は、対象人口の4.3%に相当します。この死亡率を以て、

高齢のオミクロン株感染者の死亡率1.6%というのは、もともと流行がなくとも、年間に100人につき4人以上が亡くなっている集団で得られた値である。呼吸不全が死因でないケースには、そうした『通常の』死が相当数含まれているだろうし、ひょっとするとほとんどがそれに当たるかも知れない

といった議論が出てくる余地はありそうに見えます。

「オミクロン株の病原性はインフルエンザ並み」などの巷説は、この類いのものと言えるでしょう。まったくの詭弁なんですが、どこが間違っているかお分かりでしょうか。

武漢肺炎に感染してから退院、療養解除の判定が為されるまでに平均10日間を要するのは、以前から変わりはありません。

高齢者は回復が遅れるのを見越してこの期間を2週間とみておくと、大抵のケースはこれに当てはまるはずです。死亡にしても、大阪府の例によれば、第6波の感染では症例の80%以上がこの期間内に起きています。

感染者として過ごす時間というのは一年の26分の1。つまり、非流行時の年間死亡率と対比させるには、武漢肺炎の死亡率も年間通しての値に換算して、1.6×26=41.6%という、とんでもない値にしなければ、おかしいという理屈になるはずです。

もう少し意味を明瞭に(?)するために描いたのが図表4です。

図表4 高齢者がオミクロン株に感染すると、死亡リスクはどれくらい高くなるのか?

(【出所】投稿者作成)

無作為に選んだ非感染の国民100人が1年間過ごす時間の総和はもちろん100年間で、それを表したのが上の矩形です。

1年経つと4.3人が欠け、矩形は95.7年相当の長さに短縮し、また翌年に4.3人欠けて、94.4年分まで短くなり、・・・、と、23年経てば、長さはゼロ。「そして誰もいなくなった」ということになります。

ふつう欠けていく順番は年長者からということになるでしょうから、最後までこの矩形内に残るのは、初めは70歳だった人たち。彼らが93歳を迎えたところで終わりになるわけですが、厚生労働省の令和3年簡易生命表によると、70歳男性の平均余命が16年。女性が20年です。

こんなラフなシミュレーションでも、それほど見当外れでない結果が得られるということです。

下の矩形は感染者の生活時間に対応するのですが、100人分を合わせても200週、3年10ヶ月にしかなりません。この間に1.6人が亡くなっていくのです。

通年で求められた非感染者の生活時間に合わせるなら、感染者の方は2,600人分としなければ、比較になりません。そうすると、年間死亡数は40人を超える。これが先に述べた死亡率41.6%の意味です。

武漢肺炎による死とされた数字の中に、通常の要因に帰すべき数が相当に紛れ込んでいるという可能性が、棄却されるべきことは明らかでしょう。

ただし、これを感染者100人と非感染者100人の比較だと言ったら、それこそ詭弁の最たるものになりす。下の矩形を100年分に引き延ばした長さは、100名の感染集団が、2週間ごとに感染を繰り返し、結果としての死亡率も変わらないという、おおよそあり得ない状況に対応させていることになるからです。

こんなことが仮に起きれば、この100人の集団は二年半後には消滅してしまいます。

日常的な感覚で言えば、100人感染者が出れば、その60分の1の確率で出る貧乏くじを引いた人以外は、2週間の隔離期間の後には無事シャバに復帰できる(相当数の後遺障害を抱えて出てくるならば、無罪放免とはいかないかも知れませんが)。

それは間違いありません。

しかし、確率だの期待値だのと言った、数学的な思考の世界では、この隔離期間というのは、皆が残りの人生の長さが一気に10分の1に短縮されるほどのリスクを背負っている期間と表現できるのです。

もちろん現実には、リスクの高い人から低い人まで、みな均しくというはずはないでしょうが、隔離期間が明けるまで、自分は大丈夫と確言できる人はいないはずです。わたしを含め、高齢者でこんなロシアンルーレットみたいなゲームで運試しをしたい人はいないでしょう。

前稿に書いたように、わたしはこのウイルスに感染するのは決して不可抗力ではないと考えています。高齢者にとって、武漢肺炎は絶対に罹患してはならない疾患と言わねばならないと思います。

オミクロン株出現以前の武漢肺炎が、世界と日本に与えた影響

図表5は、科学誌ネイチャーに掲載された論文『Schöley, J et al.. “Life expectancy changes since COVID-19”』(オンライン版 2022/10/17)から転載したものですが、説明の都合上体裁はかなり変えてあります(データそのものに関わる図形要素は無論いじっていません)。

図表5 オミクロン株出現以前の武漢肺炎流行が欧米各国の平均寿命に与えた影響

(【注記】Nature誌掲載のJonas Schöleyらによる論文『Covid-19以降の平均寿命の変化』から、本文の趣旨に適うように一部体裁を改変して図を転用。国名等を日本語表記に変えたほか、平均寿命の変化パターンに応じた、原図にないグループ分けを加えており、国の並べ順も一部変えている。またイラスト化された変化の大きさを実際の数値で示している欄は割愛している。)

論文は、主に欧米諸国で2020~2021年の間の武漢肺炎の流行で、平均寿命、平均余命がどう変化したか、性別、年代別、またワクチンの影響について分析しているのですが、原図は論文の導入部に出てくるそれぞれの国全体の平均寿命の変動を示したものです。

これを見ると、武漢肺炎の流行が生命に与えた相対的な影響は、国によってずいぶん違っていることが分かります。

東欧圏の平均寿命短縮が2年間を通して激しいのは、ある程度ワクチン施主率の低さで説明できるでしょう。ブルガリアの2回接種完了率は2021年末に至っても30%程度に留まります。

しかし、ワクチン接種率では西欧諸国とさして遜色のない米国で(『Our World in Data―Coronavirus (COVID-19) Vaccinations』参照)、2年間で平均寿命が2歳半も短縮したのは、異様に見えます

西欧諸国ではワクチン普及前の2020年に生じた平均寿命の大幅な短縮が、翌年には部分的に、あるいはほぼ解消しています。一方、2020年においてさえ、そうした短縮が起きなかった国が北欧諸国に存在するのは興味深い点です。

この研究に日本の分析は含まれていませんが、厚生労働省が公表する令和2年及び3年の簡易生命表によれば、2020、21年の平均寿命は、前年に比べて、それぞれ約3ヶ月の伸び、約2ヶ月の短縮となっています。図表5にこの結果を当てはめれば、日本は明らかに「影響を受けなかった国」の範疇に入ります。

ちょっと脇道に逸れますが、昨年末にこの見解と真っ向からぶつかる趣旨のネット評論記事が出ていて、お読みになった方もいらっしゃると思います(2022/12/10付 東洋経済オンライン『日本人は「超過死亡増加」の深刻さをわかってない』参照)。

筆者は武漢肺炎流行の初期の時分、欧米や韓国に比べて、PCR検査数が圧倒的に少ないことを論拠に、日本の被害の実態が公表されているよりはるかに深刻なはずだと、マスコミを通じて盛んに喧伝されていた御仁ですから、国際的医学雑誌「ランセット」の一論文中に、日本の人口動態に現われた超過死亡数が武漢肺炎死亡の公表値よりはるかに多いという記載を見つけて、大いに意を強くして執筆に及んだのでしょう。

この論文(※)は、世界74カ国・地域の2020~21年の超過死亡数/武漢肺炎死亡数比を網羅的に求めているのですが、確かに日本に関する数字、6.02(111000 / 18400)は。欧米各国の比が概ね1~2の間であることを考えれば、図抜けて高いことになります。

(※ COVID-19 Excess Mortality Collaborators ”Estimating excess mortality due to the COVID-19 pandemic: a systematic analysis of COVID-19-related mortality”, 2020–21. Lancet 2022; 399: 1513–36)

しかし、日本の超過死亡がこの2年間で11万人超などというのはまずあり得ない数字です。

図表6は、2000年から2021年までの公表死亡数の推移です。

図表6 近年の日本の死亡数増加

(【注記】死亡数データは、厚生労働省『令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』より取得。点線は2000年の死亡数が35.9年で倍加するペースで指数的に増加すると想定したとき、予測される値を示す)

人口の高齢化とともに、死亡数は36年ごとに2倍になる指数関数の値をなぞるように増加しています。現在の増加ペースは2万6千人/年といったところです。

東日本大震災(2011)の地震・津波被害および震災関連死のような突発的できごとでもない限り、この傾向はわれわれ団塊の世代の大方が墓の下に入るまで続くと思われます。

グラフから読み取れるのは、超過死亡どころか、武漢肺炎による死亡数を優に吸収するほどの自然増の鈍化が2020~21年の間に起きたということです。

途方もない数の超過死亡をどこから絞り出したのか、説明する一義的責任は無論原著者にありますが、なんとなく想像が出来なくはありません。

論文中の表で、日本に関する記載は高所得アジア太平洋諸国の欄にあるのですが、同じカテゴリーに掲載されたとある国の、2年間の武漢肺炎による死亡数が5,620に対して、算出された超過死亡数は4,630、その比が0.82。

世界に冠たるナンチャラ防疫とかで舞い上がっていたところに、冷や水をかけるような、例を見ないほどの超過死亡の発生が明らかになり…、なんて国があったのを覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。

そう、アノ国。両国の超過死亡数をウッカリ取り違えていたとすると、話の辻褄は合うのです。

ちなみに、ランセット論文と同じ狙いで、超過死亡数との関係で国別の武漢肺炎の「真の」影響を見ようとした研究が、少し遅れてネイチャー氏に発表されているのですが(※)、こちらでは感染判定の完全性により武漢肺炎死と超過死亡数の乖離が見られない国として、オーストラリア、ニュージーランドとならんで、日本が挙げられています。

(※Msembur, W. et al., “The WHO estimates of excess mortality associated with the COVID-19 pandemic.” Nature Online, 14 Des. 2022)

武漢肺炎制圧のためにはワクチンより重要なものが

閑話休題。

図表5は、武漢肺炎流行に対する、言わば社会の抵抗力が、国によって大きく異なることを示しているように思えます。米国のデータなどは、この抵抗力が低ければ、ワクチン普及の効果など台無しにしてしまう(やっていなければさらにひどいことになったでしょうが)ことを意味するのでしょう。

世界中に拡がった感染症の日本人の寿命に与えた影響が、人口希薄な北欧の国々と大差なかったというのは驚くべきことですが、何が日本社会の抵抗力を構築しているのか?

1つや2つの単純な要因で説明できるものではないでしょうが、わたしはあのカタールW杯で話題になった日本人サポーターの清掃活動にもその一端が見える、「穢れを遠ざけ、清浄さを求める」という、連綿と日本の社会に引き継がれている、自然神道的な心性が根っこにあるのではないかと考えています。

その正体はともあれ、感染症に対する抵抗性が、武漢肺炎の出現とともに日本の社会で一段と増したのは、図表6の2020~21年の死亡数に見られるように、確かかと思われます。

残念ながら、このような社会的抵抗力の強化はその2年間だけに留まったのかも知れません。

令和4年(2022)の人口動態統計の確定値が公表されるには今年の9月まで待たなければなりませんが、最近の月報の速報値で見る限り、オミクロン株流行で生じた約4万人の死亡は年間の自然増2.6万人にそっくり上乗せされる形で、統計に現われてくる気配です。

そうなると昨年の平均寿命は前年より半年近くも短縮するほどの結果をもたらしているのかも知れません。

北海道の流行はオミクロン株以後のウイルスの変貌を暗示しているのか?

オミクロン株の出現以後、北海道の流行パターンには明らかな変調が見られます。図表7は、検査陽性判定数、入院者数、重症者数、死亡数について、昨年初めからの北海道の状況を全国のデータと並べて示したものです。

図表7 北海道のオミクロン株流行の様相:全国動向との比較

(【注記】検査陽性数、重症者数、死亡数は7日間移動平均値。北海道、全国の値とも、原データは厚生労働省『データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-』より取得。入院数の動向は、厚生労働省『療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査について』による。上図、淡紅色のシャドーを施した期間に、北海道だけの感染増加が生じている。

グラフの左軸には全国の、右軸には北海道の数値を表示していますが、それぞれの尺度の比率30:1は、おおよその人口比1億2600万人:530万人に対応させたものです。

北海道では、検査陽性数で見ると、第6波と第7波の間の時期と、第8波より明らかに先立った時期に、その他の地域では見られない感染増加が認められます。不思議なことに、これらの時期、人口比で見る限りは、入院者数はそれ以外の地域と大差はありません。

この北海道独自と言える流行の前段では、重症、死亡の顕著な増加は見られません。しかし、後段の時期には重症者の増加も然ることながら、死亡者数がかつてない数に達しています。

第6、7、8の各波流行時の検査陽性数、入院数、死亡数については、北海道の流行規模はそれ以外の地域のものと変わりません。しかし、重症者数だけは、その数が極端に少ない。別の言い方をすれば、呼吸不全を伴わない死の割合が非常に高いのです。

北海道とそれ以外の地域の流行像の違いを説明するには、武漢肺炎ウイルスに、それらがもたらす病状が異なる少なくとも3つのタイプが混在することを想定しなければならないと考えます。すなわち、

①病状が進展すれば肺炎症状の増悪から呼吸不全、更には死に至る、従来のイメージ通りのウイルス。

②肺への毒性は低く、むしろ他の臓器を侵すことでさまざまな病状を呈し、進行すると全身症状の悪化から死を招くウイルス。

③増殖部位が上気道、咽頭などの粘膜に止まり、入院が必要となるまでには至らないウイルス。

北海道の流行に関わるウイルスは①のタイプの割合が少なく、②と③が多くなっていると言えるでしょう。それいがいの地域では観察されなかった流行の前段には③のタイプ、後段には②と③のウイルスが動じに関わったとするなら、図表7の奇妙な流行パターンの説明にはなります。

どうして北海道でこうした現象が起きるのかについて、わたしなりの考えはあるのですが、仮説の上に仮説を重ねるような説明は、ここでは書きません。

問題にしたいのは、北海道のウイルスに起きた変化が、第6。7、8波と流行を重ねるたびに、それ以外の地域のウイルスでも顕著になりつつあるように見えることです。であれば、北海道の流行はこれから北海道以外の地域で起きることの先駆けになっているとみることができそうです。

こうした病原性が異なるウイルスが混在するのは武漢肺炎ウイルスに本来備わっている性質かも知れません。オミクロン株の出現以降、それが目立つようになったのは、やはりワクチン接種が進んだ影響ではないかと思います。

とくに肺に親和性をもつウイルスが、ワクチンで誘導される抗体によって排除されやすいのであれば、それから免れる能力のより高い多臓器指向性のウイルスが次第に存在感を増していくというのは、考えられるシナリオではないでしょうか。

仮にこの傾向が今後さらに進むことを想像すると、どうもいやな予感がするのです。

ひどい肺炎症状は伴わずに、からだのあちこちの臓器に(多分血管の損傷ではないかと思うのですが)ウイルスが悪さをする。元々の素因も手伝って、脳卒中、心血管障害、腎不全、糖尿病性の組織障害などによって、多くの高齢者が命を落とす――。

もはやそれは、武漢肺炎というより「武漢ウイルス症候群」とでも名付けるべき疾患と化しているのですが、始めに単なる持病の悪化と思ってしまえば、病巣に含まれるウイルスRNAの検出でも後から試みない限り、実はそれが感染症であったことすら、治療に当たった医師も気付けない。

正確な拡がり具合を把握するのも困難な中、疾患は社会に深く浸透していく…。前稿でわたしがこのオミクロン株に「陰湿な」印象を抱くと書いたのは、そうした理由によるのです。<了>

読後感

…。

なんだか最後にいや~な予感で終わってしまいましたが、はて、真相はどうなのでしょうか。

気になるところです。

いずれにせよ、伊江太様からの継続的なレポーティングには期待したいところです。続編のご投稿がいただけるのであれば、是非ともお願いしたいと思います。なお、参考までにこれまでいただいた寄稿を紹介しておきます。

伊江太様から:「データで読み解く武漢肺炎」シリーズ・全20稿
伊江太様から:番外編

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本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. ケツ より:

    ん~、私はここのサイトの管理人、住人は知的レベルが高いと思うのですが

    https://twitter.com/Awakend_Citizen/status/1629622164520566786

    まず、この客観的な「数字」からコロナなど恐れるにないことがわかるはず。

    確かに海外では多くの死者、重症者をだした。
    だが日本では強毒株の武漢株、デルタ株でも基礎疾患者、高年齢者が影響を受けただけ。

    それは日本人には「ファクターX」という要因があったため。
    これは日本のBCGや和食、生活習慣によるものとされ世界中がうらやむものだった。

    まず、このコロナに関しては日本人は恐れる必要はない。
    普段の生活で免疫、抵抗力を維持するよう心がければ十分なのです。

    https://twitter.com/You3_JP/status/1629478125221593089

    https://twitter.com/You3_JP/status/1629822556030275584

    今では大ボスのファウチがワクチンに効果がなかったと述べている。
    米国フロリダ議員はワクチンを「生物兵器」とした。

    https://twitter.com/1A48wvlkQc6mVdR/status/1629374978604019712

    今まで反ワクの陰謀論とされてきたものが次々と事実であったと明らかになっている。
    陰謀とされていたワクチンの機序が事実だったら日本は取り返しのつかないことになるぞ?

    ワクチン―コオロギ―LGBTと同根でつながっている。

    https://twitter.com/6yzND8OZJhVCV3V/status/1521220871587000320

    民族浄化や過度に貶めるつもりはないが、現在の日本人はこうであると言わざるを得ない。

    1. 匿名 より:

      反ワクのロシアフレンズ。なんかまた分かりやすいのが涌いてるな〜。香ばしすぎる。

      ここは君みたいな陰謀論者がくる場所じゃないから巣におかえり。

      1. CRUSH より:

        一般のブログならば、ROMの人たちが誤解してもいかんので、
        「なんでそう思うの?」
        と反論コメントしたくなるし、前回は実際にコメントしましたし。

        でもアシストコメントや今回のイエタさんの文を読みながらよくよく考えてみれば、新宿さんところの読者はきちんと読解できる人が多いので、そこまで心配せんでもエエのかなぁ、というのが僕の今の心境ですわ。

        むしろ絶滅危惧種の降臨ですから、怖がらせたら逃げてしまいます。
        ボケ役は場の活性化に有用ですから、優しくツッコミしましょうよ。

  2. 引っ掛かったオタク より:

    武漢コロナ株由来以外でも、日和見的に全身どこぞで悪さする未覚知のウイルスが実は既に複数居りそう…

  3. じゃん🐈 より:

    伊江太様
    力作をいつもありがとうございます。

    >仮にこの傾向が今後さらに進むことを想像すると、どうもいやな予感がするのです。

    これなんです。最近漠然と感じていたことは。
    このウイルスによる、所謂「後遺症」の多岐にわたる症状は、正に伊江太様の仮説(血管関連)だと合点がいきます。
    恐らく、多くの専門家の方もそれを感じ、研究をしているのが現状だと思います。

    真相が明らかになるには、もう少し時間が必要でしょう。
    しかし、このウイルスは、人間の研究速度を考慮してくれないところもヤバいです。

  4. namuny より:

    伊江太様

    いつもありがとうございます。
    ただ、図4について
    比較すべきなのはコロナにかかっている期間と、普通の老人が一年間の内に通常の何らかの疾患にかかっている期間なので、健康な期間を含めて40倍と主張するのは行き過ぎと思います。

  5. 古いほうの愛読者 より:

    日本でも抗S抗体の保持率が98%,抗N抗体の保持率が3割くらいになって,欧米と大体同じ数値になりました。日本の累計感染者(検査で判明した人)は3,100万人らしいですが,保険が出なくなってから,鼻風邪程度以下の症状の感染者は病院で診察も受けていない人の割合が多いことを考えると,少なく見積もっても国民の6~7割以上は新型コロナのいずれかの株に感染した経験がある,と考えたほうがいいと思います,抗N抗体もしばらくすれば消えますから。
    過疎地や,高齢者が隔離された施設を除けば,基本的には集団免疫が形成された状態になっているので,それほど心配する必用はないでしょう。重い基礎疾患のある高齢者は,コロナでなくても,どんな感染症でも,命の危険はあります。ある意味天命かと。
    確定申告の書類書き(e-Tax)で休日が3日潰れてしまったので,このスレも久しぶりに確認しました。税理士さんに頼んでないのですいません。

  6. すみません、匿名です より:

    伊江太様
    いつもありがとうございます。

    解読するのに必死ですが、使っていない頭が鍛えられます。

    >能力のより高い多臓器指向性のウイルスが次第に存在感を増していく
    北海道でのウイルスの変化を考えると、これからも油断大敵ですね。
    ウィズコロナといいつつ、感染後の後遺症も怖いし、家族と同居であれば感染リスクを下げる行動はこれからも必須であると思います。
    NYも、元の生活に戻ってない。在宅・出社のハイブリット勤務が主流になりそうですね。
    https://jp.reuters.com/article/companies-survey-idJPKBN2QH02A

    「世界インフレの謎」という本を読んでいるのですが、コロナは消費者・労働者・企業に「同期」で行動変容起こさせ、社会にもコロナの後遺症が発生しているとのこと。

    これからも油断せずに用心した生活を送らないと後悔することになりそうですね。

  7. CRUSH より:

    関連する公的なデータをご紹介しておきます。

    1)日本での超過死亡
    https://exdeaths-japan.org/graph/weekly/

    新型コロナが世界で流行し始めた2020年は、日本での超過死亡は意外にもマイナスなのですね。
    翌2021年はその反動なのか微増。
    翌2022年はかなりのプラスで推移中。

    2)東京都での年代別の新型コロナ死亡者
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/info/shibou.files/shibourei.pdf

    これは流行しはじめの2020年6月末でのデータですし、N=325しかありませんが、その後のリピート検証でも似た傾向のデータになっています。

    老人(それもかなりの高齢者)しか死んでいません。
    死亡者の平均年齢が79.3才なのですから、日本の平均寿命とさして変わらん。
    若年層は無視してよいレベル。

    3)トロッコ問題みたいな?
     コロナ対策で1人助けると、経済困窮で2人が死ぬような状況だったなら、さて貴方はコロナ対策をして2人を殺すのか?なにもせず1人を見殺しにするのか?

    本質はそういう部分かナ、と僕は思っているのですけどねぇ。

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