【読者投稿】流行開始時点で「感染拡大を抑える要因」

武漢肺炎に関する、待望の第19稿目です。前回、武漢肺炎を巡って「日本ではなぜか直線的に増大・現象を繰り返している」、「データは流行を抑制するパラメーター『S』が存在するのではないか」という部分で終わった伊江太様の武漢肺炎論考の後編を頂きました。いったいどんなことが書かれているのか、大変に楽しみです。

読者投稿

当ウェブサイトは「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に運営する独立系ウェブ評論サイトですが、それと同時に数年前に開始した試みが、読者投稿です。

「自分も文章を書いてみたい」という方からの読者投稿につきましては、常時受け付けており、『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』などでもお知らせしている投稿要領をご確認のうえ、専用の投稿窓口( post@shinjukuacc.com )までお寄せ下さると幸いです。

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さて、過去の読者投稿のなかでも、「伊江太」様というハンドルネームの読者様からは武漢肺炎に関連し、過去に18本、非常に優れた投稿をいただき、当ウェブサイトに掲載させていただきました(その投稿記事の一覧については本稿末尾に再掲しておきます)。

今回の議論は、前回の『【読者投稿】日本ではなぜか「自発的に」収束する流行』の「答え合わせ」のようなものです。まだの方は是非、前回の議論もご一読くださると、より一層理解が深まるのではないでしょうか。

ここから先が投稿文です(※なお、掲載に当たっては原文の意味を損なわない範囲で表現を変更している箇所などがありますのでご了承ください)。

日本は武漢肺炎ウイルスの墓場~侵入するや直ちに歩み始める衰亡への道(後編)

「ウイルスを周囲にバラ撒く感染者の数が増えれば、その分多くの感染者も発生するはずで、流行時の感染者数の増え方は時間経過と共に加速度的に大きくなっていっておかしくない」。

「しかし、武漢肺炎の流行では。その増え方は1日あたり何人ずつというようなほぼ一定のペース。そこには、感染拡大を抑える要因が、常時、時間経過と共に大きさを増しながら働いていなければならない」。

そんな趣旨の内容を、前回の投稿『【読者投稿】日本ではなぜか「自発的に」収束する流行』に書きました。

流行の開始時点からすでに「感染拡大を抑える要因」がはたらいているというアイデアは、実は上のような理屈で考えた結果出てきたものではないのです。思いついた順序にしたがって記述するなら、真っ先に書くべきは本稿の内容です。

激しく変動する重症化率と致命率

図表1は、一昨年7月以降の国内武漢肺炎流行の推移を、感染者数、入院者数、重症者数、死亡者数の4つの指標を用いて示したものです。

図表1 日本の武漢肺炎流行規模の推移(第2波以降)

(【出所および注記】厚生労働省『新型コロナウイルス感染症について~国内の感染状況について』、『療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査について』より投稿者作成。「感染者数」は【検査陽性者数の累計】-【退院・療養解除数の累計】-【死亡数の累計】の式を計算し、求めている。すべての値は7日間移動平均値を計算し、これをグラフに表示している。)

グラフ表示の人数はすべて7日間移動平均値。感染者数とは、それまでにPCR等の検査で陽性と判定され、まだ退院/療養解除がされておらず、また死亡してもいないというカテゴリーに入る人の総数です。

指標ごとの大きさは7桁近くもの差があるので、ひとつのグラフにまとめて表示するため、値の対数を縦軸方向の高さに対応させています。

図表1に表示した範囲は、武漢肺炎の流行第2波から現今の第6波の期間を含むのですが、この図で見る限り、4つの値が連動して上下しているのは一目瞭然のように見えます。

ただ、図を横軸(時間軸)方向に、1日単位で見分けられるほどまで引き延ばしてみると、それぞれの波の極大値と極小値が対応する日付には、少しずつズレがあります。

この位相のズレがどれだけの日数に当たるのか、全期間の値をセットとして、対応させる日付を変えながら差の総和が最も小さくなるずらし方を「最小二乗法」で求めてみると、▼重症者数が描く曲線を11日分、▼死者数が描く曲線を18日分、それぞれ左方(日付の早い方向)にずらすと、曲線の上がり下がりのタイミングが、入院者数のそれと最もよく一致することがわかります。

個別の感染の臨床経過は決して一様なものではないのですが、この図表に示すような、すべてをひとまとめにした捉え方をした場合、①それぞれの日に入院した人のある割合は、その11日後に重症患者となっており(重症化率)、また、②18日後にはその一部が死亡している(致命率)というふうに、武漢肺炎感染の一般的な経過が説明されることになります。

重症化率、致命率をこのように定義した上で、その推移を示したのが図表2です。

図表2 武漢肺炎の流行期間中に起きた重症化率と致命率の変動

(【出所および注記】原データはすべて、図表1の計算に用いたものと同じ。重症化率は入院者数を11日後の日付の重症者数と、また致命率は18日後の日付の死亡数と、それぞれ対比させ、比率を求めている。グラフ化された値は、いずれの7日間移動平均値。)

グラフ横軸の日付は入院日に対応させており、入院者数に対比させる重症者数、死亡数のデータの実際の日付は、それぞれその11日、18日後の値ということになります。

グラフ上で2つの比率を表す値は、激しく頻繁に上下します。それはなぜか、またどんな意味があるのでしょうか?

次から次へと海外から入ってくるウイルス変異株が重症者患者数を押し上げた

まず、重症化率の方から考えてみます。

周期が2~3ヵ月くらいの短期間の変動をひとまず措いて、流行の第2~5波に相当する期間、重症化率の折れ線には顕著な右肩上がりの傾向が認められます。それが流行の第6波が観察された時期になると、今度は一転右下がりに変わります。

こういう傾向が現われる理由について、2つ考えてみました。

ひとつは入院させるかどうかの判断基準にバイアスがかかっている可能性。臨床経過への理解が進むにつれて、重症化の恐れの少ない患者は次第に入院させなくなったとする考えです。

実際、入院数に対する宿泊・自宅療養数の比は、後になるほど高くなっていく傾向があります。しかしこれだと、第6波期間の下がりの説明が難しい。病院経営上の理由で不必要な患者まで入院させたなんてことは、多分ないでしょうから。

図表3は、武漢肺炎患者のために確保されている病床および重症者専用病床の利用状況の推移を見たものです。

図表3 重症化率の増減と流行の拡大/収束との関係

(【出所および注記】新型コロナウイルス感染者用の確保病床、および重症者専用病床の使用率は、厚生労働省『療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査について』記載のデータから算出。図表2に掲載した重症化率変動のグラフを重ねて表示している。重症化率の極大値の上方に、流行の波との関係を表す数字(+アルファベット文字)を付してあるが、その対応付けは、図表4に示したウイルス変異株の消長の情況を参考にしておこなっている。)

この2年間にコロナ病床、重症病床数はどちらも2倍強増えており、流行のたびに感染規模が大きくなっても、病床占有率は60%以内に止まっています。

もちろんこれは全国平均での話で、局所的には、昨年4月の大阪府、5月/9月の沖縄県、9月の東京都/神奈川県などのように、重症病床の占有率が一時的に90%を超え、極めてやりくりに困難が生じたケースもあるのですが、いずれもピークを過ぎれば状況は間を置かず改善されています。

入院患者の隣接県への移送とか、野戦病院式施設の設営とか、逼迫時に出されたアイデアも、喉元を過ぎればで、すぐに雲散霧消したことなどを見ても、入院の選択基準を厳格化したため重症化率の上昇が起きたという説明は、ちょっと苦しいと思います。

もうひとつ考えられる理由。

私はこちらが本命だと思うのですが、入院から退院までに要する期間と、重症化した場合に重症病床に収容される期間が大きく異なることによるというものです。

2021年5月17日付『【読者投稿】流行状況の把握を歪める「多数の偽陽性」』では、「入院から退院までに要する期間は平均10日程度」という推定を書きました。重症患者が専用病床に収容される長さがそれを上回るのなら、流行が続いている間は重症者数と入院数の比は次第に上昇していくことになるはずです。

重症患者の滞留は流行が収束してしばらくすれば解消するでしょうが、その前に次の流行が来てしまえば、前の流行開始時よりさらに高い値から重症化率が上昇し始めることになります。

流行第2波以降第5波まで、入院者数あたりの重症患者数の割合に増加傾向が出ているといっても、そう考えれば、必ずしもウイルスがより危険なものになっていったという意味にはならないでしょう。逆に第6波のウイルス流行株は従来のものより重症化率が低いということにも、またならないでしょう。

第2波から第5波まではほぼ4ヶ月の間隔で繰り返されたのが、第6波の流行が起きるまでには6ヵ月の間があります。この間に重症病症の滞留がかなり解消されたと考えるなら、重症化率の長期的変動に見られる、継続的上昇から一転しての下降へという、やや奇異に見える現象も、説明が可能になると思います。

初めの頃ほど危険な新しい流行株

重症化率は短期的に見ても激しく上下しているのですが、それに何か意味があるのでしょうか?

図表3には、病床占有率の動向と合わせて重症化率の変動も記載していますが、これを見ると、流行の波の上昇に先行するように、重症化率の増大が観察されます。

もし高い重症化率というのが、ウイルスの強い増殖力と感染・伝播能力と結びついているのであれば、重症化率の上昇が流行の兆しとなるのは当然ということになります。

重症化率の上昇が実際にウイルスの変化に対応していることを示しているのが、図表4です。

図表4 武漢肺炎の流行期間中に観察されたウイルス変異株の交代

(【出所および注記】国内で流行した武漢肺炎ウイルス変異株の検出割合を百分率で示した図を、厚生労働省『新型コロナウイルス ゲノムサーベイランスによる系統別検出状況(国立感染症研究所)』のページより転載。図表には、対応する期間の重症化率の変動(白折れ線)も重ねて示している)

日本にはこれまでに、海外から数々の「毛色の変わった」ウイルス株が侵入しており、そのうちのいくつかが6波の流行を引き起こしてきたのですが、国内で分離されたウイルス株の変遷に重症化率の変動を重ねてみると、後にメジャーな流行株となるウイルスが現われるタイミングに合わせて、重症率の上昇が起きています。

同時に流行しているいくつかのウイルス株の中で、この新参者が幅をきかせてゆく過程は、流行の拡大とも一致するのですが、他を押しのけて完全に優先株となったときには、すでに重症化率は低下しており、落ち目となる日が近づいています。

重症化率はその後も低下の一途をたどり、次にまた活力に富んだウイルスが登場するまでは、流行は収束方向です。先ほど定義した重症化率という概念とその変動は、そうして繰り返されてきた武漢肺炎流行のエピソードとよく合致するのですから、単なる計算上のアヤとして片付けてしまうことはできないと思います。

なお、図表1や図表3に見る流行第3波の様子は、2020年11月下旬に一旦拡大が緩やかになったあと、年末から再び勢いを増しています。図表4でこの期間を見ると、これの2段上昇は2つのウイルス株の流行が重複した結果と言えそうです。

すなわち、前半の主役であったB.1.1系統の株が衰える以前にR.1という新たに侵入したウイルス株が広がったことで、流行拡大が加速されたと考えられるのです。

また、オミクロン株の流行による第6波でも、BR.1からBR.2へとウイルス株の交代が起きており、これに対応した重症化率の一時的上昇も観察できるのですが、新たな第7波と言えるほどの感染増加には結びつかず、このまま収束に向かいそうな気配です。

ちょっと妙なのが、第5波と第6波の中間、流行が収束していた時期に重症化率の急上昇が観察されることです(図表3、図表5)。

図表4で、これに対応すると事象を探せば、第5波の主役AY.29の亜型AY.29.2の出現ということになりそうですが、この変異株は検出割合では確かに一時的に増えてはいるものの、その絶対数は流行を左右するほどのものではありませんでした。

時期的に見て、ワクチン普及がこのウイルスによるあらたな流行を阻止したということかも知れません。いずれにしても、重症化率の上昇が新たな流行の拡大につながるというわけでは、必ずしも無いようです。

年寄りにとくに危険な変異ウイルスがある

次に致命率の方です。普通に考えれば、ウイルスの重症化率が上昇すれば、それだけ致命率も高くなるはずですが、図表2でそれぞれの値の動きを見る限り、互いの関係はそう単純ではありません。重症化率の時と同様に、病床使用率のグラフに合わせて、致命率の動きを表示したのが図表5です。

図表5 致命率の増減と流行の拡大/収束との関係

(【出所および注記】確保病床、および重症者専用病床の使用率のグラフは図表3と同じ。致命率の変動も、図表2掲載のグラフをそのまま用いている)

入院、とくに重症の患者数と死亡発生数との関係は、流行ごとに大きな差があり、やや複雑に見えますが、ここでも流行拡大に先立って致命率の上昇が見られるのは、重症化率のケースと同じです。

武漢肺炎死亡の圧倒的大部分が高齢者という事実は、致命率の変動を考える際、無視することができません。流行中に感染者中の高齢者の割合が増減すれば、それだけで致命率の数値が変動するはずですから。

重症化率、致命率とも、入院者を母数に算出した数値ですから、本当は日々の入院者の年齢構成を知りたいのですが、そうした統計は見つかりません。多数の病院の情況をリアルタイムで把握するのは難しいからでしょう。

次善の策として、年代別の新規検査陽性者数を公表している6都道府県(東京、大阪、愛知、兵庫、福岡、北海道)のデータを使用し、70歳以上の高齢者が占める割合を求めました。

この6自治体分だけで、全国の報告数の検査陽性数では50%、死亡数では56%に当たりますから、全国のデータを元に算出した致命率と、かなりの程度対応が付けられると思います。明らかな病状を呈しているのが入院者ですから、高齢者の割合はその中ではもう少し高いかも知れません。

図表6に、高齢感染(検査陽性)者の実数と全体に占める割合を、致命率の変動と合わせて掲げました。

図表6 感染者に占める高齢者の割合と致命率との関係

(【出所および注記】グラフ表示期間中に、東京都、大阪府、愛知県、兵庫県、福岡県、北海道の6自治体で公表されているPCR等新型コロナウイルス検査の陽性判定数のうち、70歳以上の高齢者分について、その数(面グラフ)と全体に占める比率(オレンジ折れ線)を示している。データソースは次のとおり。

図表には、致命率の変動を重ね合わせ、そのピーク位置には、該当するウイルス変異株の名称も、併せて表示している)

流行するウイルス株の種類によって致命率に大きな差があることは、図表5で見るより一層明らかです。

高齢感染者を死に至らしめる頻度で言えば、第2波の主要ウイルスB.1.1.284とその後に現われたR.1(第3波)、AY.29.1(第5波)は大体同じ程度といえそうです。

それらに比べ、B1.1.214(第3波)、B.1.1.7アルファ株(第4波)、AY29デルタ株(第5波)、BA.1(多分BA.2も)オミクロン株が高齢者の感染した場合の死亡リスクは、それより数倍高い。

致命率の高いウイルスの流行で、高齢者の感染割合が高まるという傾向はなさそうですから、この差は高齢者に感染しやすいかどうかではなく、感染後ウイルスが高齢者の体内でどう振る舞うかの問題なのでしょう。

AY29デルタ株の致命率がそれほどにも高く、またこのウイルスが引き起こした第5波の規模は過去のものより大きかったのですが、意外にも発生した死者数は比較的に少なかった。感染者に占める高齢者の割合が極めて少なかったのが、その理由でしょう。

第5波の流行が始まった昨年7月には、65歳以上の高齢者のワクチン接種率は、1回接種で70%、2回接種完了率でも40%を超えています。ワクチンの効果が如実に現われた証左と言えそうです。

現在も継続中の流行第6波を引き起こしたオミクロン株BR.1/BR.2の評価は、なかなか難しい。流行の当初、このウイルスは感染力こそ強いものの、無症候あるいは軽症症例が圧倒的に多く、病原性は強くないという評価が一般的でした。

図表2の重症化率の変動で見ても、確かにオミクロン株流行による上げ幅は、従来のウイルス株に比べ大きくはありません。

一方でこのウイルス株の致命率は、これまでに例がないほど高い値に跳ね上がっています。

実際、これまでで最も致命率の高かったアルファ株による第4波流行期間中(2021年4~6月)の死者数が約5,600だったのに対して、第6波の死者数は、増加し始めた今年3月以降、すでに約11,000。おおよそ2倍にもなっています。

きちんと記録を取ってはいないのですが、東京都や大阪府など、死亡者の年代を公表している自治体の報告を見ると、80歳代、90歳代が極めて多い印象を受けます。後期高齢者とよばれる年齢にいたって、オミクロン株への抵抗力が特別に低下する、何らかの加齢要因がありそうな気がします。

「当初から持続し、時間とともに増していく下押し圧力」の正体

ウイルス株ごとに病原性に違いはあっても、どのウイルス株も重症化率、致命率という物差しで計った場合、その強さは出現直後に最も高く、以後速やかに低下していくという点で、どうやら共通しているようです。

病原性の強さは体内での増殖力と相関しているでしょうから、病原性が強い、つまり増殖力が強いうちは、ウイルスは周囲に拡がって流行を拡大し、衰えると流行は収束していくと考えるのに無理はないように思えます。

前稿(5月2日付『【読者投稿】日本ではなぜか「自発的に」収束する流行』)で、武漢肺炎の流行を収束に向かわせる要因として、「当初から持続し、時間とともに増していく下押し圧力」が存在するに違いない、ということを書きました。

「圧力」というと外部から加わる感じになりますが、本稿での議論を踏まえるなら、その正体はウイルスの内部で進む事象。「力」というより「脆さ」と言った方が適切かも知れません。

ウイルスの遺伝物質の複製は、生物に比べてはるかにエラーが起きる頻度が高い。とくにDNAではなく、RNAを遺伝物質とするウイルスの場合(武漢肺炎ウイルスもそれです)、さほど代を重ねなくても、多数の複製エラー=突然変異が遺伝物質に蓄積していきます。

こうしたエラーが、結果的にウイルスにとって利益になるケースも中にはあるかも知れませんが、不利益をもたらす方がはるかに多いでしょう。

不利益な突然変異の蓄積の末に、ウイルスは増殖力を失って消えてゆく。ウイルスにこんな片道切符しかないのなら、早晩この世から消えてしまうはずですが、そうならないのは、逆行する過程があるからに違いありません。

考えやすいのは、不具合を起こした突然変異の箇所が再度の突然変異で元に戻ることです(復帰変異)。短期間にこれが複数箇所で起きれば、時計の針を大きく巻き戻すことになるでしょう(多重復帰変異)。

もっと根本的なリニューアル法もあるかも知れません。ひとつひとつはガタが来ていた部品ばかりだったのが、組み合わせの妙で、突如新品並みに動き始める、新機軸の発生とでも言うべき突然変異で、起死回生変異とでもしておきます(この場限りの造語です)。

「そんなうまい話があるのか?」と言われそうですが、逆に、そういう類いのものでも無ければ、ウイルスの長期存続は無理だろうと思うのです。

多重復帰変異にせよ、起死回生変異にせよ、その頻度は極めてまれでしょう。しかし、圧倒的大部分の突然変異がウイルスに遺伝的劣化につながる中で、偶々そうした変異が起きれば、増殖力を回復したウイルスがあっという間に増殖し、失地回復を果たす。

そんなイメージを絵にしたのが図表7です。

図表7 不安定な遺伝子複製能力の下で、ウイルスが存続し続ける理由(想像図)

(【出所】投稿者作成。ウイルスの増殖能力を損なう突然変異の蓄積を、砂時計をこぼれ落ちる砂に例えている。上槽に残る砂が尽きればウイルスは消滅するが、砂時計の上下を転倒させるようなイベント(突然変異)が発生すれば、ウイルスは活力を取り戻し、その増殖力で再び数を回復する)

「一将功なりて万骨枯る」の風情ですが、万骨の試行錯誤なくしては、ひとりたりとも将は生まれない、それは確かだと思います。

「一発逆転」が起きる国、起きない国

日本では、ひとつながりの系統のウイルスが存続できる期間は、長くて1年足らずです(図表4)。しかも、流行の主役として派手に振る舞える期間と言ったら、侵入直後からの2~3ヵ月程度であり、あとは静かにフェードアウトしていくだけ。

図表7に描いた一発逆転的イベントは日本ではまず起きないと言ってのではないでしょうか(B.1.1.284→B.1.1.214の置き換わりは、ひょっとしたら国内で起きた突然変異かも知れませんが)。

前からいたウイルスが衰える一方で、後から後から海外から侵入してくる新参者がそのあとを襲う。日本で流行が絶えない理由はそれだと思うのです。

パンデミック開始以来、増減こそあれ、つねに流行規模が日本より大きく、またある程度の水準以下にはならない国が数多く見られます(米国、欧州諸国、ロシア、ブラジル、インド、イラン、トルコ等々)。

ウイルスの遺伝的劣化の進行をひっくり返してしまうような突然変異が起きる頻度が、天文学的とも言えるほどの数のウイルスのコピーがあって初めて実現するのなら、日本の流行の様子がそれらの国々と異なる理由は、「一発逆転的突然変異が起きるほどまでに、ウイルスコピー数が増えない」としてもいいかも知れません。

しかしこれだと、

  • 日本では、遺伝的劣化を覆してしまう突然変異が起こらないから、流行の規模が一定の範囲に止まる。
  • 日本では、流行の規模が一定の範囲に止まるから、遺伝的劣化を覆してしまう突然変異が起こらない。

という、循環論法的な説明に陥ってしまいます。このような入れ子構造的な流行の特徴は、やはり「日本では、武漢肺炎への感染リスクをもつ人口が絶対的に少ない」ことが、根本理由なのだと思います。

マスク着用の勧奨をいつ止める? 冗談じゃない!

大陸国家に比べて、水際での阻止が容易な分だけ島嶼国家のウイルス侵入のリスクは低いはずですが、台湾、ニュージーランド、アイスランドといった国々も、これまでに何度も中小の武漢肺炎の流行を経験しています。

ただそれらの国の流行に共通しているのは、一旦ピークに達したあとは一気に収束に向かい、ほぼ制圧という状態がその後かなりの期間続くことです。

流行が完全に沈静化する前に新たなウイルス株が侵入し、次の流行が勃発という現象が繰り返されるのは、どうも日本だけのように思えます。空港、港湾の検疫で、入国者に一定期間の隔離と検査が義務づけられるのはどの国も同じで、日本の水際対策が特別緩いなどということはないはずなのですが。

図表8は、日本と米国でこれまでに起こった武漢肺炎の流行を、死者数の増減で見たものです。

図表8 米国の後を追って発生する日本の武漢肺炎の流行

(【出所および注記】武漢肺炎による死亡数の推移を、日本と米国について表示している。日本に関するデータは図表1の脚注に示したサイト、米国のデータは日本経済新聞社『新型コロナウイルス感染世界マップ』から取得している)

日本の第4波の流行に対応するピークが米国のパターンには見られないものの、その他の流行については、1~2ヵ月の遅れで日本が米国の後を追っているのに気付かれると思います。

最近、象徴的なできごとがありました。

欧米のオミクロン株の爆発的流行を受けて、日本では鎖国と揶揄されるほどの徹底的な入国制限をおこなったのですが、結局このウイルスの侵入を阻止することはできませんでした。真っ先に国内で流行が起きたのが、在沖米軍、岩国基地を抱える自治体でした。

そこに日本の防疫体制の大きな穴が、厳に存在するのではないでしょうか。

当面米国でこの疾患が駆除される可能性はほとんどないと思っています。図表8にはまだ現れていませんが、米国では5月に入り検査陽性者数に増加傾向が現われています。今後新たな流行の様相を呈することになれば、遅れて日本でも流行の第7波に見舞われる恐れが強いと言えるでしょう。

そうしたなか、最近気になるのが、マスク着用の勧奨をいつ止めるか云々の議論が、しばしば聞こえてくることです。マスクさえしていれば大丈夫というつもりはありませんが、最強の武器を捨て、素手でこの厄介な疾患に立ち向かえてでも言うのでしょうか。

「武漢ウイルスの墓場」などという不名誉な称号は返上して、欧米並みの「フツウの」国を目指したいというのなら、それもひとつの選択ではあるでしょうが。<了>

読後感

いかがでしょうか。

主要国のデータ、日本各地のデータなどから「ウイルスそのものの脆弱性」に仮説を導く着目点は、なかなか得られるものではありません。世の中でここまでのレベルの議論ができる人は、そうそうはいないのではないかと思います。

また、大変厚かましいお願いではありますが、折に触れ、武漢肺炎その他に関するテーマでのご投稿をお願い申し上げたいと思う次第です。

なお、伊江太様からの過去の18回分については、下記リンクにまとめております。

伊江太様から:「データで読み解く武漢肺炎」シリーズ・全18稿

読者コメント一覧

  1. namuny より:

    投稿ありがとうございます。
    (マスクのおかげで)流行が小さく収まるので減衰が早い、というのは納得できるところです。

    ところで、
    https://note.com/hiroyukimorita/n/nb8167213232a
    厚労省が公式データ修正→「ワクチン有効」は嘘でした…の衝撃。

    というものが昨日出ました。

    まあ、ワクチンは初期のみ感染性を抑制するもののしばらくしたら効果が無い、というのを
    公式に認めたところのようです。
    重症化の抑制についての効果はまた別のようですが。

  2. トシ より:

    本記事の趣旨からは外れるが、日本のコロナ関連の最大に闇がこれ。

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA143WV0U2A410C2000000/

    コロナ予備費12兆円のうち9割11兆円が使途不明であること(最近では16兆円とも)

    ところがこれが全然話題にならない。

    これは安部首相、菅首相の案件で本来格好の批判の対象なはず。

    コロナ空床補償年1兆1400億円で慢性赤字病院が黒字化。
    与党はこれで医師会に恩を売り医療関係者に与党に投票させる。

    ここで今MKSでやったような大批判をすれば多くの国民は同調するだろう。
    そして参院選前の与党に大ダメージを与えられるはず。

    だが左派メディアも野党もそれをやろうとしない。
    ATMゲンダイ、辻元蓮舫と妙におとなしい。

    使途不明金が解明されるとまずいことでもあるのか?
    左派メディアや野党に形を変えて流れているのか?
    メディアによる執拗なコロナ煽りと何か関連があるのか?

    この闇を誰か知っているのなら教えてほしい。

    1. とくめい より:

      A.あまりに稚拙過ぎる見出し詐欺な記事なので、流石にこんなのに引っかかる奴なんてごく一部だけだから

      1. namuny より:

        この使途不明金は、一見無駄なお金に見えるかもしれませんが
        これを埋蔵金なんかと勘違いする人=民主党政権ですね
        (単純に、追跡調査ができるような仕組みになっていないというだけでおおよそは正当に使われているはずです。これをきちんと追跡できるようにするための手間暇お金を考えれば、ロスしている金額はそんなに多くないんじゃないでしょうか。特に時間。)

        今は学習したので少なくなったと思いますが
        当時民主党政権ができたころは、ごく一部とは言えない程度の数がいたということだと思います。

        1. トシ より:

          コメントありがとうございます。

          ・東京オリンピック
          ・コロナ関連費用

          自分の主観では相当デタラメな使用があるとみています。

          ただコロナは世界的な異常事態でした。
          無理な使用もやむを得ないもので厳しく追及するのは野暮かもしれません。

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