金融市場でロシア企業にも波及する「デフォルト懸念」

デフォルトが懸念されているのは、ロシア政府だけではありません。経済制裁を喰らっているオリガルヒに関連する企業なども、やはり利払が滞るとの懸念が、国際的な金融市場では高まっているようです。このあたり、ロシアが本気で西側諸国の外貨建て債務の踏み倒しに出るかどうかは微妙ですが、注目に値する論点のひとつとはいえるでしょう。

ロシアからハード・カレンシーを奪った金融制裁

ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際社会からの制裁は、多岐にわたっていますが、なかでも影響が大きい項目は、▼ロシアが保有する外貨準備の凍結、▼ロシアの主要銀行のSWIFTNetからの排除、▼ロシアの政府・企業等に対する起債の禁止――等でしょう。

端的にいえば、これらはいずれもロシアから「ハード・カレンシー」を奪う措置だからです。

もちろん、ロシアは基本的に、石油や穀物などに関しては自給できる国であるため、その気になれば、本当に「内に籠る」ことはできますので、西側諸国の経済・金融制裁が長引いたとしても、ロシア経済自体を破綻に追い込むのは難しいかもしれません。

ただ、おカネがなければ、基本的に戦争を遂行する能力は大きく制限されます。その意味では、まずはロシアに戦争遂行能力を削ぐという意味でも、各種物資の輸出規制に加え、これらの金融制裁が適用されることは、大変に意義があるものです。

デフォルト懸念は続く

こうしたなか、ロシアが外国で発行した米ドル建てなどのユーロ債を巡っては、その利払が滞るのではないか、との懸念も、金融市場では出てきています。

この点、今月中旬の利払に関してはいったん送金手続がなされたようですが(『ロシアはいったんデフォルト回避』参照)、複数のメディアの報道によると、ロシア政府は15本、合計約400億ドル分の外貨建て債券を発行しており、これからも続々と利払期日が到来します。

具体的には▼28日に1.0億ドル、▼31日に4.5億ドル――の利払のほか、4月4日には21億ドルを超える利払も控えているそうであり、これに加えて西側諸国の金融制裁が長期化すれば、元本償還を迎える債券も出てくるはずです。

これに加え、もうひとつ気になるのが、外貨建て債券を発行している主体がロシア政府だけではない、という事実です。なかには、直接制裁を受けているわけではないにもかかわらず、利払が滞っている事例も出始めているのだとか。

ロイター「オリガルヒ関連企業でデフォルト懸念」

これに関連し、ロイターには日本時間の今朝、こんな記事が出ていました。

Russian sanctions-linked firms run into hurdles with debt payments

―――2022/03/23 05:13付 ロイターより

これは、ロシアに対する経済・金融制裁が「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの富裕層などにも及んでいることから、オリガルヒ関連企業なども外貨建て債券の利払不履行に追い込まれるのではないか、といった懸念が市場参加者の間で共有されている、とする記事です。

ロイターによると、たとえばロシアの製鉄業者であるエブラズ・グループの最大株主であるロマン・アブラモヴィッチ氏が経済制裁を受けていると指摘。同社は火曜日、3月21日に支払期日を迎える外貨建て債券のクーポンの支払が、西側のコルレス銀行から一時的に拒絶されたと明らかにしたのだとか。

また、肥料会社であるユーロケムに関しても、ブルームバーグが先週、3月14日に利払が行われるはずだったクーポンの支払に「支障を来している」と報じているのだとか。

こうした事例についてロイターは、「西側の金融機関は規制に違反しないように慎重になっている」と指摘。「対ロシア制裁に伴う西側諸国の経済制裁が受けている影響が非常に広範囲にわたっている」、などと述べています。

これに加え、JPモルガンはロシアの企業(とくに石油、ガスを中心とする準ソブリンや国営企業)が発行している外貨建て債券の総額が1000億ドル近くに達するとしており、これはロシアのソブリン債(400億ドル)と比べて倍以上の規模です。

このように考えていくと、経済制裁に伴う「ロシア債務危機」は、まだまだ始まったばかりといえるかもしれません。

ロシアは本気で対外債務の「踏み倒し」を実行するのか?

ただし、以前からの繰り返しで恐縮ですが、ロシアの対外債務は外貨準備の範囲内にほぼ収まっているという点についても、また留意する必要があります。

ロシアの対外債務を正確に把握することは困難ですが、報道等によれば、ロシアの政府・企業が発行している外貨建て債券は1400億ドル前後(うちロシア政府が400億ドル、残り1000億ドルは民間企業であり、大半が石油関連企業)と考えられます。

また、これとは異なる統計ですが、『共同通信、国際決済銀行の統計資料をかなり遅れて報道』などでも紹介したとおり、国際決済銀行(BIS)の国際与信統計(CBS)上、おもに西側諸国の金融機関がロシアに対して有している与信は、最終リスクベースで1047億ドルです。

このように考えていくと、ロシアの「外貨建てでの対外債務」についてはトータルで2000億ドルにも達しないと見るのが適切であり、また、ロシア自身が「自由に使える」はずの外貨準備(最大で3000億ドル前後)の範囲内に、辛うじて収まっていると見て良いでしょう。

この点、ロシアは「非友好国」に対する外貨建て債務をルーブルで支払うと宣言していますが(事実上の「踏み倒し」宣言、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』等参照)、短期的に見れば、ロシアが本気で「踏み倒し」を実行するかどうかに関しては、やや疑問ではあります。

ただし、個別企業のなかには、ごく近いうちに、資金ショートを起こして経営破綻するという事例も出て来る可能性もあります。そうしたときに、ロシアの政府・中央銀行が個別企業を救済するかどうかに関しては、ひとつの注目点といえるかもしれません。

読者コメント一覧

  1. Yo より:

    > ロシアは基本的に、石油や穀物など
    > に関しては自給できる国

    ソ連とロシアの差は先端技術製品の自給だと思います。先端半導体は作れないし、工場の維持に必要な資材も、西側から買うしかありません。
    ロシアは資源「しか」無いので、やはり制裁で破綻するのでは無いでしょうか? 可能でしたら、その辺りを貿易統計から示して頂けたら嬉しいのですが。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      ソ連時代も先端技術があったとは思えないが

    2. 迷王星 より:

      COCOMなどの非常に厳しい輸出規制によって完全に西側諸国の先進工業技術の導入を徹底的に抑止されていたソ連時代に比べれば,ロシアになり西側からの企業進出や資本参加が可能になってからのほうが,むしろ半導体関連などの電子技術製品の内製化が多少は可能になってますよ.

      だからこそロシア時代になってから開発された戦闘機の射撃管制システムやレーダーの中には,NATO諸国や日本にとってソ連時代のようには甘く見てはいけない高い性能の代物も出現して来ている訳で.(ただ西側にとって幸いと言うべきは,未だロシアの軍需産業(特に軍用のセンサーやデジタル装備)が全ての面で西側にキャッチアップ出来ているとは言えないという事実)

      ソ連時代は文字通り資源と軽工業そして製鉄や造船などの古典的重工業と航空や兵器(それも高度な電子機器を使わない)軍需産業しかなかった.

      1. Yo より:

        当時のソ連と西側(特にアメリカ)を比較した場合、今ほどの差は無かった様に思います。人工衛星は先を越されたし、月着陸だって当初はデットヒートでしたから。

        はい。現在、変に西側と混じってしまった為に、工業生産を自分たちで「閉じる」事が出来なくなったと思っていますが、その点はどうお考えでしょうか? (= だから中長期的に制裁が有効と言う立場)

  2. sqsq より:

    北朝鮮が外貨欲しさに石炭の「瀬取り」をやってたことあるけど。
    ロシアと国境接してる中国、カザフスタン、モンゴルあたりはロシアの足元みて高値で半導体とか売りつけるのでは?もちろん米ドルの現ナマで。

  3. より:

    EU諸国は現時点でもロシアから天然ガスを輸入し続けており、その輸入代金は一日当たり約10億ユーロに上るという情報があります。ズベルバンクとガスプロムバンクは、まさにこの支払のためにSWIFTnetから排除されていないので、代金支払いにも支障はないはずです。
    上記が事実であるとすると、ロシアは毎月300億ユーロ前後、約330億ドル程度の外貨収入があることになります。そうなれば、個別企業レベルでは何とも言えませんが、国債を含め、案外大型デフォルトは発生しないのかもしれません。

  4. だいごろう より:

    ロシアへの経済制裁が今後の中国の対外政策に与える影響が気になります。

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM04CLX0U2A300C2000000/

    日経記事によると、東側諸国の中銀資産はこの10年でドル依存率を減らしており、今回のロシア中銀への海外資産凍結制裁の甚大な影響を受けてそれが更に加速しているようです。

    専門外ながらこれまで新宿会計士様の論説を読んできた私の物凄くざっくりとした理解は、「外貨としてソフトカレンシーを保有していても意味が無い」と言うものです。
    幸いにしてハードカレンシーは西側諸国のみで占められており、新宿会計士様曰く人民元は「国際収支のトリレンマ」理論により今のままではハードカレンシーたり得ないので、中銀の海外資産凍結の威力を目の当たりにした中国が台湾に軍事侵攻するリスクは一旦後退したのではないでしょうか。

    以上を踏まえ、習近平が中国夢を実現するためにこの後取りうる(既に取っている?)方法は二つあると思います。

    一つは「制裁に耐えうる中国経済圏の確立」です。
    西側諸国のハードカレンシーが凍結されようとも、中国経済圏だけで経済を回せれば少なくとも同圏内ではハードカレンシー国として振る舞うことができます。
    これにより制裁の影響を緩和できるので、安心して台湾に攻め入ることが出来ます。
    もちろん、東側諸国の面々を見ると中国経済圏がまともに機能するかは心許ないのですが、だからこそアジア・中東・東欧・南米などの日和見国への多数派工作が今後さらに激化する可能性もあります。
    (対露制裁で日和ったインドも油断できないですね。ロシアとの国境問題を解決した実績のある中国からすれば、インドとの国境問題を解決することで同国を対中包囲網から引き剥がすことは戦略的に十分検討の価値があります)
    また、ウクライナ侵攻後のロシアが東側に残ってしまった場合、地下資源を安く買い叩ける中国経済圏の籠城耐久力に大きなプラスとなります。

    もう一つは、制裁されない形での台湾支配です。
    国際法上イギリスから正式に返還された香港と完全に同じには行かないでしょうが、台湾の政界・財界・司法・論壇に大陸寄りの人間を送り込んで(あるいは籠絡して)台湾を少しずつ赤く染めることで「民主的に」支配すれば、制裁を課されるリスクはほぼ無いでしょう。
    (余談ですが、『サイレント・インベージョン ~オーストラリアにおける中国の影響~』によると中国は豪州で民主的支配の実戦経験を大いに積んでいるようです。最終的にはFOIPという形で失敗していますが)
    その過程で、香港のように人権を無視した拘束や言論統制は当然発生するでしょうが、香港の時に制裁を受けなかったことが中国にとって大きな自信となっているはずです。
    少なくとも地政学的に影響の小さい欧州は経済的繋がりを優先させるでしょうし、ウイグル・チベット・香港を指をくわえて見ている日米も制裁には踏み切れないでしょう。
    ある意味ウクライナ同様に台湾の方々がどこまで抵抗できるか(中国の非人道的な実態を国際世論に晒せるか)にかかってきそうです。
    香港の雨傘運動があれだけ頑張って国際的な注目を集めても結局駄目だった現実を見るにつけ、悲観的にならざるを得ませんが。

    今後は、これら二つの方法のいずれか、あるいは両方を駆使した台湾支配を追求する中国の動向が注目点になるのではないでしょうか。

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