ロシアはいったんデフォルト回避

戦争継続と西側諸国の制裁長期化ならロシア経済は着実に疲弊

ロシア国債のデフォルトは、とりあえず回避されたようです。WSJによると、複数の投資家やトレーダーが、多少の遅れはあったにせよ、ロシア政府から利息の支払いを受けたと述べたのだとか。もっとも、実際のところ、本当にロシアがデフォルトに陥るのかどうか、客観的に判明している数値をもとに整理しておくことも重要ではないかと思います。

外貨準備の凍結がロシア経済に与える影響

ロシアのウクライナ侵攻に伴う西側諸国による経済・金融制裁のなかで、もっとも影響が大きい項目のひとつが、外貨準備の凍結でしょう。

ロシア財相「外貨準備の半分凍結:利払はルーブルで」』などでも紹介したとおり、ロシアが保有しているとされる6000億ドル少々の外貨準備のうち、ロシア政府の公式見解だと3000億ドル分(※当ウェブサイトの試算だと4000億ドル分)が、使えなくなってしまっているからです。

これに加えて、ロシア側は台湾やスイスを含めた「非友好国リスト」を作成し、これらの「非友好国」に対しては、外貨建ての債務を自国通貨・ルーブルで支払っても良いとする大統領令を、一方的に公表しています(『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』等参照)。

こうした状況から、3月15日に利払を迎える、ロシア政府が発行したドル建ての2本のユーロ債を巡っても、利払がなされずにデフォルトに陥るのではないか、といった観測もありました。

【参考】ロシア中央銀行

とりあえずデフォルトは回避したが…

こうしたなか、これに「続報」がありました。

米メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)によると、ロシア政府が外国人の債券所有者に対し、利払を実施したことを、「投資家やトレーダーが明らかにした」のだそうです。

Russia Averts Default After Investors Receive Foreign-Debt Payments

―――2022/03/17 15:40 ET付 WSJより

この点、現在、ロシアの主要銀行はSWIFTNetから除外されていますが、最大手のロシア貯蓄銀行(スベルバンク)などについては、この措置からは除外されています(『見えてきた対ロシア制裁議論:航空便ではすでに影響も』等参照)

これに加えてロシア当局が外貨準備の大半を凍結されてしまったことは間違いないにせよ、依然として人民元建ての外貨準備などについては自由に使用できるはずであり(※著者私見)、1億ドル少々の利払であれば、問題なく実施することができた、というのが実情に近いのかもしれません。

この点、複数のメディアの報道によると、ロシアは15本、合計約400億ドル分の外貨建て債券を発行しており、これからも続々と利払期日が到来します。

具体的には▼21日に0.7億ドル、▼28日に1.0億ドル、▼31日に4.5億ドル――の利払のほか、4月4日には21億ドルを超える利払も控えているそうであり、これに加えて西側諸国の金融制裁が長期化すれば、元本償還を迎える債券も出てくるはずです。

また、西側諸国による経済制裁の対象はロシア政府だけでなく、ウラジミル・プーチン政権と近いとされるオリガルヒ、企業などにも及んでいます。このため、西側諸国の金融制裁が長期化すれば、もしかすると、どこかのタイミングでロシアのソブリン債、あるいは準ソブリン債などのデフォルトが発生するかもしれません。

もしそうなれば、ロシアの対外デフォルトは1998年以来、ということになりそうです。

ロシアの対外債務と債務償還力

もっとも、ここでもうひとつ留意しておかねばならないのは、ロシアの対外債務と債務償還力の関係です。

共同通信、国際決済銀行の統計資料をかなり遅れて報道』などでも紹介したとおり、国際決済銀行(BIS)の国際与信統計(CBS)上、おもに西側諸国の金融機関がロシアに対して有している与信は、最終リスクベースで1047億ドルです。

この点、この「1047億ドル」が、ロシアが外国から借り入れている資金の全額、というわけではなく、これら以外にも対外債務は存在するものと考えられるものの、いずれにせよ、ロシアが「自由に使える」はずの外貨準備3000億ドルの範囲内にあると考えて良いでしょう。

(※ただし、ロシアが持っている外貨準備を全額使い、これらの債務を着実に履行する、という保証はありませんが…。)

この点、当ウェブサイトでは『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』のなかで、「ロシアに対する経済・金融制裁により、ルーブルが『紙屑化』するとまで断言するのは少し尚早であろう」と申し上げましたが、やはりルーブル、あるいはロシア経済は、「意外としぶとい」のでしょう。

戦争長期化なら、ロシア経済の疲弊は間違いない

ただし、経済・金融制裁だけではロシアの戦争遂行能力を完全に奪うことは難しいのは間違いないのですが、それと同時に、戦争の長期化は間違いなくロシア経済を疲弊させます。

『Consultancy.eu』が3月2日に公表した “Research: ‘Ukraine war costs Russian military €20 billion per day’” というレポートによれば、ロシアの1日の戦費負担は200億ユーロ(1ユーロ=130円換算で約2.6兆円)に達するとの試算が示されています。

これに西側諸国の起債制限、マクド社を含めた西側企業のロシア・ボイコット、金融システムからのロシアの除外などの措置、さらには西側諸国によるジャベリンなどのウクライナに対する追加供与などが加われば、ロシアをさらに経済的に追い詰めることにつながります。

このあたり、資源国・穀倉地帯などが戦争に巻き込まれることで、世界経済にも甚大な影響があることを踏まえれば、単純に戦争が長期化することは決して良くないことですが、それと同時に、ロシアにとっても、「自分自身を追い込む」という効果が生じていることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    利払いは滞ると思っていましたので、ちょっとしたサプライズでした。
    補助線が少なすぎて意図がよくわかりません。

    音を上げる兆候と思いたいですけどね。

  2. ウクライナ応援団 より:

    1日当たりの戦費が2兆円超えと言うのは間違いだと高橋洋一さんはYouTubeで話してました。イラク戦争のときの米軍の1ヶ月当たりの戦費が5000億円。今回のウクライナ侵攻で1日で2兆円越えるわけないと話してました。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      やはり、2兆円は桁が間違っているのかな?

  3. sqsq より:

    2兆円の戦費ってどういう計算なんだろう?

    すでに準備してあるミサイルを撃っても追加で金が出ていくわけではないと思うけど。

  4. 匿名ですみません より:

     今朝、マイナンバー様も書かれていましたがbillionを間違えている。
    と高橋洋一さんも仰ってました。高橋さんが仰っていたのはこの事だと
    思います。

    https://english.evidus.com/magazine/ibunka/155.html

  5. 元ジェネラリスト より:

    ウクライナ側でロシアとの交渉にもあたっている、大統領顧問のインタビュー記事が興味深いです。

    戦争を終わらせる方法。ロシアとの交渉に関するウクライナ大統領の顧問
    https://wiadomosci.wp.pl/tylko-w-wp-jak-zakonczyc-wojne-doradca-prezydenta-ukrainy-o-negocjacjach-z-rosja-6748218330987264a

    ウクライナ側からの発信であることに注意して読むべきと前置きした上で、
    ロシア代表団との会話が成立していて、以前よりもロシア側の態度が軟化しているとのことです。本人曰く、ウクライナ側の抵抗が激しいから。
    交渉では、停戦に加えて、今後ロシアの撤退とウクライナを再侵略しないための実効性ある多国間の枠組み構築に言及があります。NATOとは別でロシアも加わる形のようです。
    数週間以内に、ゼレンスキー・プーチン会談があるだろうという見通しを語っています。
    紛争当事国が交渉が進展していると発表する場合は、決裂したときに相手のせいにするフラグですので割り引く必要はあると思います。

    新枠組の参加国に言及はありませんが、米英仏独中土の国名を出しているメディアもあるようです。

    以下、一部抜粋します。

    ▼ロシア軍の即時撤退は、和平合意の重要な側面の1つです。しかし、交渉はロシアとウクライナだけでなく、大規模なプロセスです。とりわけポーランドが参加しています。私たちは契約を結ぶだけではありません。将来的にセキュリティを保証する特定のメカニズムを開発したいと考えています。
    ▼私たちはロシア軍を撤退させる具体的な計画を策定し、和平協定に盛り込みたいと考えています。法的な観点から確実に検証する必要があります。他の国々は、将来、協定の遵守とウクライナの安全を保証するでしょう。これは、ロシアによる侵略の場合に従うべき手順を詳述した文書になります。
    ▼ロシアが再び誰かを攻撃したい場合にロシアを阻止するのに十分強力な新しい同盟を構築することによって、この戦争を終わらせたいのです。
    ▼ウクライナへの別の攻撃が発生した場合に作動するメカニズムについて、段階的に説明します。二度と戦場に残されないようにしたいと思います。ロシア自体を含め、保証人として行動する国は、特定の義務を負います。将来的には、この文書を拡張することができ、それに基づいて、完全に新しい同盟が作成され、ヨーロッパ全体のセキュリティが確保されます。
    ▼契約の作業が完了次第、(ゼレンスキーとプーチンの)会議の開催を開始します。それは今後数週間で起こります。ただし、場所は重要ではありません。ロシアを除いて、どのようなものでもかまいません。
    ▼最近、ロシアの代表団は大幅に減少したと言えます。現在、彼らは周囲の世界をより客観的に判断し、非常に正しく行動しています。ロシア当局に固有の無礼も無礼もありません。

    航空万能論さんの解説記事もあります。敬意を表して。
    https://grandfleet.info/european-region/ukraine-delegation-russia-realizes-that-they-are-in-trouble/

  6. 愛読者 より:

    戦費1にち2兆円は怪しいですね。ウクライナ側ではなく,ロシア軍の受けた被害のマスコミ報道は少ないので,ネットで拾ってみました。それぞれの情報の信頼性は,それほど高くないかもしれませんが,全体を繋いでみると,ある程度正しそうな状況がわかります。
    まず,ロシア軍の戦死者ですが,ロシアの公式発表は数百人ですが,実際には1万人近い戦死者がでていて,サイトによっては,投入兵力の1割近くが死亡した,と述べているものもあります。ウクライナの兵士・市民の死者数よりかなり多いようです。末端の兵士だけでなく,ロシアに20人しかいない上級将校のうち4人が戦死した,として個人名も発表されています。ウクライナには西側から相当量の最先端兵器が供給されているようで,例えば,MANPADSのような地対空ミサイルでロシア軍機を撃墜とか,ドローンを飛ばしてロシアの戦車や装甲車を発見し連動した対戦車ミサイルでピンポイント攻撃して破壊する,という防戦も活発に行なわれているようです。それを目撃しているロシア軍の戦意は低いようで,こっそり自分達の戦車を壊して前進できないようにする(戦場に行かなくて済むようにする),という話も伝わっています。一説には,死亡したロシア兵士家族に支給される補償金が11,000ルーブル(12,000円)なのに対し,ウクライナは投降・降伏したロシア兵には500万ルーブル支払う,と宣伝しているそうです。
    もう一つの原因として,独裁的に指示を出しているプーチン氏が,意外とIT音痴・科学音痴なのではないか,と考えています。まず,ロシア軍内での通信が簡単に傍受されて,軍事機密が簡単にウクライナ側に伝わってしまっている,というのは定説になっているようです。これにはアメリカもかなり協力・貢献しているようで,情報収集はアメリカが主役とも思われます。あと兵站がダメで,ロシア軍は前線への食料供給も難しいようです。第2次世界大戦での日本軍も,餓死者が多かったそうですね。次に,使っている兵器の科学技術レベルがウクライナ軍のほうが上で,最近のドローン戦にプーチン氏が詳しくなかった,ということもあるのではないでしょうか。それで慌てて,プーチン氏は中国に最新のドローン兵器を供給するように要請した,という情報も流れていました。最近,核兵器使用の話を何度もプーチン氏がしているのは,通常兵器ではウクライナに勝てない,と考え始めたのかもしれません。地上戦も制空権もダメとなるとロシア内からのミサイル攻撃しかないですが,アメリカがウクライナからロシアを攻撃できるミサイルの供与をほのめかしているので,モスクワ等への報復攻撃の口実を与えるような戦術は難しいでしょう。
    情報戦では,ロシアは完全に負けていますが,ロシア国内に限定して言うと,日本より情報弱者の割合が高いことが幸いして,ネットを通じて正しい情報を得ている人は少数で,高齢者を中心にロシアのテレビの公式発表をそのまま信じて,プーチン氏を指示しているようです。ロシアを指示している中国国内も,似たような状況ではないかと思います。でも,最終的にプーチン氏が失脚し,クリミアもベラルーシも手放すことになったとき,中国はどうするのでしょうか。
    なお,外貨獲得ルートとしては,中国以外にインドもロシアのエネルギー購入に同意したようで,ある程度のドルは確保できているようです。QUADはいま一つですね。
    未来の話ですが,今回の戦争で軍事専門家の一部は「過去の大型戦艦同様に,戦車は役に立たない兵器になった」とか,今後の戦争の姿の変化を,いろいろ予想しています。やはり,情報戦とドローンがポイントで,その意味で中国のドローン技術は要警戒です。制空権を取ったつもりでも,大量の地対空ミサイルのおかげで,軍用機を飛ばすのも非常に危険になりました。

    P.S. 北朝鮮のミサイル開発にロシア人が協力していたことを,アメリカは前から知っていたようで,今回のウクライナ侵攻をきっかけに制裁を発表しました。アメリカが北朝鮮ミサイルの構造について詳細な情報を持っていたことに,改めて驚かされました。ただ,下手に日本に教えると中国に漏れる,と思っているのでしょうか。日本のサイバー防衛隊は540人で中国は17万人ですから。でも,GAFAには勝てないでしょう。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      >>中国のドローン技術は要警戒
      日本が中国に質で勝てているのは旧来の兵器の分野だけだから
      ドローン技術やサイバーで中国に完敗している日本は中国には勝ち目ゼロということにならないか?

      1. 愛読者 より:

        もしかすると,次の戦争では,戦闘機も艦艇も戦車も役にたたなくてびっくりするかもしれません。無人機とドローンを大量保有しないとダメでしょうね。あと,情報戦は単独では中国に完敗ですが,アメリカが助けてくれると,中国に勝てるでしょう。ドローンはアメリカより中国のほうが上かもしれません。日本は問題外。飛行規制など,技術開発を妨害するのに熱心な法学部出身者が沢山います。中国への情報漏洩を止めるのも,IT能力の低い文系出身者で固められたデジタル庁を見れば,難しいことが分かります。指令が精神論に近いです。

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