韓国紙で今朝、「韓国ウォンはIMFのSDRに指定される資格がある」とする報告書に関する話題が取り上げられています。ただ、いろいろ勘違いしている人も多いのですが、「SDR指定されたら国際通貨になる」わけではありません。話は逆で、通貨そのものが国際的に広く取引されるためには、その通貨そのものの使い勝手が改善しなければなりません。
目次
「人民元は基軸通貨となるのか」
進まぬ人民元の国際化
先月発売された『月刊Hanada2022年3月号』に寄稿した『デジタル人民元脅威論者たちの罠』と題する拙稿では、中国の通貨当局が強力に推進している「デジタル人民元」を巡って、次のような仮説を提示しています。
- 「デジタル人民元」が米ドル基軸通貨体制を揺るがしかねない脅威である、とする俗説は誤り。
- 米ドル、あるいは世界の主要通貨と異なり、人民元自体、国際的な市場で自由に取引される通貨ではないし、債券市場、デリバティブ市場などが未成熟であるうえ、資本規制もあるため、機関投資家の目から見て魅力的な通貨ではない
- ただし、中国が人民元ブロック経済圏を作ろうとしているフシがある、という点については要注意だろう
…。
【参考】『月刊Hanada2022年3月号』
(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)
じつは、この「人民元が限定的に国際通貨化することはあるかもしれないが、米ドルなどに代替する『基軸通貨』となるかどうかについては、非常に疑問である」、とする議論については、当ウェブサイトではかなり以前からしばしば取り上げているものでもあります。
『月刊Hanada』でも報告したとおり、通貨というものは、私たち個人にとっての「使い勝手」と、企業や機関投資家など大口の資金をやり取りする市場にとっての「使い勝手」は、まったくの別物です。
ただし、その人民元が2016年10月、国際通貨基金(IMF)の「特別引出権(SDR)」の構成通貨に組み入れられた、という事実については、きちんと考察しておく必要はあるでしょう。
現在、IMFは米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの4通貨に加え、人民元をSDRの構成通貨に指定しています。このため、金融に疎い人は、この5つの通貨を「世界の基軸通貨・準基軸通貨である」、などと称したりします。
しかし、人民元は、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドという4通貨とはまったく性質が異なっています。
SWIFTが公表している統計や、後述する国際決済銀行(BIS)が公表する債務証券に関する統計などを眺めていると、確かに人民元は小口決済などにおいて、着実に国際化が進んでいることは間違いありませんが、資本市場における大口の需要にはほとんど対応できていません。
SDR組入れ側の論理
では、いったいなぜ、国際社会は人民元をSDRに組み入れたのでしょうか。
これについては以前の『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』でも議論したとおり、どうも当時の国際社会にとっては、「人民元をSDRに組み入れることで、中国が自主的に資本市場を改革する」ということへの期待があったようなのです。
本稿は、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』を開設する動機のひとつでもある、「中国の通貨・人民元の本質」について、改めて振り返っておこうという企画です。今から3年少々前に、当ウェブサイトでは『人民元のハード・カレンシー化という誤解』という記事を皮切りに、人民元をテーマにした記事をいくつか執筆しました。その際に提示した疑問点が、「なぜ人民元のように自由利用可能とはいえない通貨をIMFはSDRの構成通貨に指定したのか」という点なのですが、これについて現時点で最も納得がいく論考を発見しました... いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか - 新宿会計士の政治経済評論 |
すなわち、「人民元をSDRに組み込んであげれば、中国も自国の資本市場を世界に向かって開放するなど、通貨の使い勝手を改善するだろう」、という、まことに勝手な期待、というわけですね。
(※余談ですが、SDR自体が現在、国際的な取引などの決済手段としてはほとんど利用されておらず、これに人民元を組み込んだところで実害はない、などとIMFが判断した、という事情もあったのかもしれませんが…。)
しかし、こうしたIMF・国際社会の判断が、完全に間違っていた証拠のひとつが、現実の人民元の使い勝手に関する統計です。『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』でも詳述したとおり、人民元(とくに債券市場)の国際化の動きは、2015年を境に、ピタリと止まっているのです。
本稿は、昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟はあるのか』では取り上げ切れなかった統計データをまとめて収録しようというものです。昨日の議論に関連し、これまで当ウェブサイトで解説してきた内容を一気に紹介しています。まだの方は是非、昨日の議論を確認したうえでご一読くださると幸いです。結論的には「人民元国際化の動きは2015年前後でいったん止まったが、油断はできない」、というものです。人民元決済・データ編本稿の位置づけは「統計データのまとめ」昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟は... 数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
とくに法制度面などで人民元の使い勝手が悪いことを考慮するならば、「人民元が米ドルを抑えて世界の基軸通貨に発展していく」という可能性はほとんどなく、今後も人民元は「ローカル通貨」、あるいはせいぜい「有力なローカル通貨」の地位に留まる、というのが著者自身の現在の見立てです。
オフショア債券市場では米ドルが圧倒的規模
こうしたなか、「ある通貨が国境を越えて取引されているかどうか」を把握するうえで、最も手っ取り早いのが、「オフショア債券市場」、すなわち「その通貨の発行国・地域を越えて、その通貨で債券がいくら発行されているか」に関する統計を眺めることです。
BISが公表している『債務証券統計』(Debt Securities Statisitcs)の最新版によれば、世界のオフショア債券市場では、米ドルの存在感が圧倒的に大きく、世界シェアは46.71%にも達しており、これにユーロ、英ポンド、日本円などが続いていることがわかります(図表)。
図表 オフショア債券市場の規模と世界シェア(2021年9月末)
通貨 | 金額 | 世界シェア |
---|---|---|
米ドル | 12兆9117億ドル | 46.71% |
ユーロ | 10兆7250億ドル | 38.80% |
英ポンド | 2兆1667億ドル | 7.84% |
日本円 | 4101億ドル | 1.48% |
豪ドル | 2613億ドル | 0.95% |
スイスフラン | 1929億ドル | 0.70% |
加ドル | 1425億ドル | 0.52% |
スウェーデンクローナ | 1414億ドル | 0.51% |
中国人民元 | 1201億ドル | 0.43% |
香港ドル | 1155億ドル | 0.42% |
その他の通貨 | 4576億ドル | 1.66% |
合計 | 27兆6448億ドル | 100.00% |
(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securites Statsitcs より著者作成)
人民元の地位については、「上がったり、下がったり」を続けていますが、基本的には9位や10位を行き来するという状況であり、SDRの構成通貨ではないはずの豪ドル、スイスフラン、加ドル、さらには北欧通貨であるスウェーデンクローナなどと比べても、非常に低いのです。
いずれにせよ、ある通貨が「国際的に通用する」ためには、その国の経済力があるだけでなく、その国の資本市場(とくに債券市場やスワップ・デリバティブ市場)が洗練されていること、その国の通貨政策が透明であること(不透明な為替介入をしたりしていないこと)、などが必要です。
こうした点で、通貨当局が常態的に為替介入をしていることが「公然の秘密」となっている人民元が、国際的に通用する通貨となり得るとも考えられないのです。
韓国ウォンの国際化というパワーワード
「韓国ウォンは基軸通貨の資格十分」=韓国紙
さて、「その国の経済力」と、「その国の通貨が国際的に通用するかどうか」というのは、それぞれがまったく別の論点である、という点については、議論の余地はありません。
こうしたなか、「自国通貨の国際化」という視点では、もうひとつ、大変に興味深い記事を発見しました。韓国メディア『中央日報』(日本語版)などに今朝、こんな記事が掲載されていたのです。
韓国全経連「ウォン、基軸通貨の資格十分…編入時には113兆ウォンの経済効果」
―――2022.02.14 06:54付 中央日報日本語版より
(※なお、同じ話題の記事は、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)にも掲載されていましたが、ここでは中央日報のものを取り上げます。)
中央日報によると、韓国の「全国経済人連合会」が13日、「韓国ウォンはSDRの構成通貨となる資格を備えている」とする趣旨の報告書を公表したのだそうです。ちなみにウォンが基軸通貨となれば、長短経済効果は日本円換算で約11兆円に達し、89万人の雇用も創出できるのだとか。
これについて、どう見るべきでしょうか。
そもそも因果関係が逆
中央日報が述べる「基軸通貨」がどういう意味なのかはよくわかりませんが、「国際的に広く通用する通貨」という意味でそのような言葉を使っているのであれば、「SDRに指定されたら基軸通貨になる」、という主張は間違いです。
そもそも論ですが、SDRは「自由利用可能通貨」(a freely-usable currency)である必要があります(IMFウェブサイト『特別引出権』等参照)。SDRに指定されたら「自由利用可能通貨」となるのではありません。因果関係が逆です。
特別引出権(SDR)は、加盟国の準備資産を補完する手段として、国際通貨基金(IMF)が1969年に創設した国際準備資産です。現在までに6,607億SDR(約9,430億ドルに相当)が配分されています。この額のうち、4,560億SDRが2021年8月2日に承認された史上最大の配分によるものです。この配分は2021年8月23日に発効することになっています。この最も新しい配分は準備資産の長期的かつ世界的なニーズに対処することを目的としており、コロナ禍の影響に各国が対応できるよう支援することが狙いです。SDRの価値は、5つの通貨(米ドル、ユーロ、... 特別引出権 (SDR) - IMF |
それに、実際に人民元も5年前にSDRに組み入れられましたが、現実に同通貨は国際的な資本市場ではほとんど通用していない、という事実についても、きちんと考えておく必要はあるでしょう。
こうした点もさることながら、中央日報の記述によると、「ウォンのSDR組入れ」という主張が出てきた理由としては、「▼韓国の経済的地位、▼IMF設立目的と合致、▼世界5大輸出大国、▼ウォンの国際取引の割合上昇、▼韓国政府のウォン国際化に向けた努力」などが挙げられているのだそうです。
では、ウォンという通貨自体がどこまで取引されているのでしょうか。
SWIFTデータでは韓国ウォンの名前自体出て来ない
ここで、SWIFTが公表している『RMBトラッカー』というページでは、「顧客を送金人とする決済額および銀行間決済額(SWIFT上で交換されたメッセージ)」の上位20通貨の順位と割合が毎月公表されているのですが、残念ながら韓国ウォンは少なくとも過去7年分のデータ上、上位20位に入ったことはありません。
また、先ほども引用したBISの債務証券統計でも、韓国ウォン建てのオフショア債券の発行残高は2021年9月末時点で24億ドルで、これは世界で31番目、世界シェアは0.01%であり、発行額は人民元の50分の1、日本円の169分の1に過ぎません。
なにより、韓国ウォンがSDRに指定されることで、世界経済にはどういうメリットがあるのか、この記事からはまったく見えてきません。
中央日報は「韓国の経済発展はIMFが追求する国際通貨協力と為替相場安定、経済成長という指向とも合致する」、などとしていますが、韓国が米財務省から「為替介入を常態化させている」と批判されている事実を忘れてはなりません(『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』等参照)。
米財務省が先日公表した為替監視レポートを読んでいると、韓国が2020年下期にかなり多額の為替介入を行ったと読める記述があります。これは、当ウェブサイトでかなり以前から提唱してきた「韓国の資産バブルFRB主犯説」ともかなり整合している話題であり、また、韓国が公然と為替介入を行っている証拠でもあります(※もっとも、米国は韓国について「不透明」という表現は使っていませんが…)。韓国の資産バブル韓国の資産バブルFRB主犯説当ウェブサイトではかねてより、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う米FRBなどの金融緩... 米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める - 新宿会計士の政治経済評論 |
透明な通貨政策が必要
いずれにせよ、万が一にでも韓国ウォンが国際通貨化を目指すならば、その前提として、「通貨当局が陰に陽に為替介入を行っている」という不透明な為替政策をやめるとともに、域外為替市場の創設も許可する必要があります。
韓国ウォンのSDR組入れという可能性は非常に低いというのが実情と考えて良いでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
なお、当ウェブサイトで昨年掲載した「中国の金融覇権」に関する一連の論考としては、次のようなものがありますので、ぜひともご参照ください。
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またいつものウリナラ自慢。
どういう種類の笑いを提供しようとしているのか意味不明
庶民にもわかるように、もう少しわかりやすくボケてほしい。
真面目に正当なツッコミをなされるブログ主様は心が広い
読者欄にもカキコしましたが、『蛇足です』が、此方にも。
『夜郎自大』
蛇足です。
南国ではおホメの言葉です。
タナカ珈琲さま
『誇大妄想』。
だんな様。
ワタシのツタナイ駄文に返信ありがとうございます。
『誇大妄想』は南国では褒め言葉です…(キッパリ)
蛇足です。
まだいつもの珈琲屋さんです。
はよ帰って昼風呂に入ろっと。
(朝風呂ではありません。ツッコミができない…。)
タナカ珈琲さま
昼風呂は、だんなを卒業して、御隠居になってからにします。
だんな様。
昼風呂終了です。
45度、15分に設定です。
蛇足です。
早く年金生活者の世界に来てください。
(辞表を書くだけです。簡単です。
こちらは平穏な世界です。
(多分ですが、)ノーストレスです。
「韓国は長い間、中国・日本という二つの強大国の陰に隠れているうちにいつしか劣等感が生まれ、そのせいで(ショートトラックの)判定を中国びいきで韓国をバカにした不公正なものだと考えている」と主張した。(環球時報の国際評論関連のSNS)
よく見てるね。こんなこと日本のメディアが言ったら大騒ぎ。でも中国には文句言えない。
劣等感の裏返しで
世界XX大大国、XXは世界首位圏、世界が注目するKナントカ。
日本が注目を集めるようなものは癪に障るらしく
世界遺産でイチャモン
XXXは韓国が起源(例えばさくら、錦鯉、すし 挙げればきりがない)
今度はSDRで、世界6大通貨の仲間入りですか。
やってること、言ってること ミエミエなんだよ
通貨強国(笑)
北と南に民族が分断されている小国で
将来、国として存在しているかどうかも危うい国の通貨を
持ちたいという人はいないと思います。
>韓国ウォンがSDRに指定されることで、世界経済にはどういうメリットがあるのか、この記事からはまったく見えてきません。
SDRに指定されれば、通貨危機を防げるとでも思って、「韓国にはメリット有るニダ」でしょう。
「ワクチンスワップ」が、話に出て来たときと似てますが、現実性の観点から見れば、続報無しになるのではと思います。
見ていて痛々しい立派な「痛貨」ですねぇ~、
ウォンは立派な鬼畜通貨ニダ。
こうした鼻で笑われるような
主張をしてしまっているのが
「全国経済人連合会」なのだ
そうですから、
およそモロモロ韓流というものの
気質と特異性を晒してもらって
いるだけなのにと感じます。